アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

30 / 35
30 西部戦+アイル

 

 

 いよいよ決戦の時が来た。

 全国高校アメフト選手権・東京大会セミファイナル。

 関東大会への切符を賭けた、超攻撃型チーム同士の壮絶な殴り合い。

 

 

『──東京最強・西部ワイルドガンマンズVS東京最凶・泥門デビルバァッツ!!』

 

 

 フィールドに入場する両雄。

 張り詰めた空気の中、いくつもの視線が火花を散らす。

 

 セナと陸。

 ヒル魔とキッド。

 モン太の視線を受けながらも、東京最強レシーバー・鉄馬の視線は揺るがない。

 

 コイントスの結果、西部の先攻。

 泥門のキックから、西部の攻撃が始まる。

 

 キッカーはもちろん【60ヤードマグナム】のムサシだ。

 開幕の号砲となるどデカい一発は、高く高く打ち上がって……敵陣最後方、甲斐谷陸の手に収まる。

 

 最後方とはいえ、滞空時間が圧倒的に長い。

 モン太や石丸は、すでに間近まで迫っている。

 が、好敵手をまっすぐに見据えながら、西部のエースランナー・甲斐谷陸は前に出る。

 

 

「見せてやるよセナ。(ラン)テクニック最上級技、【ロデオドライブ】を──!!」

 

 

 言って、陸は【グースステップ】を刻み、鋭角に曲がり(カット)を切る。

 ほどんど停止したように見える静の状態から──瞬間的に最高速へ。

 洗練された走りの緩急──【チェンジ・オブ・ペース】で二人を抜き去り、甲斐谷陸はアイルの前を避けるように横切っていく。

 

 否。向かう先は逆サイドに居る、己の弟子──小早川瀬那だ。

 

 

 ──いまのセナでも、あの【ロデオドライブ】を初見で対応は難しい……なら!!

 

 

 アイルはとっさに急ブレーキを掛け、身を翻して自陣へと逆走する。

 十文字、黒木、セナの三人を、身の捌きと緩急だけで縦にぶち抜いた陸は、ゴールラインへ向かい一直線に駆ける。

 

 

「──させないっ!」

 

 

 そこに。判断の速さと直線距離の有利でかろうじて間に合ったアイルが、横合いから突っ込み左手を伸ばす。

 が、アイルの手は虚しく空を切った。上体の捌きだけでかわされたのだ。

 

 

「──天王洲アイル。あんたの動きは死ぬほど勉強したぜ」

 

 

 そのまま無人のフィールドを切り裂いて。

 甲斐谷陸は、ゴールラインを駆け抜けた。

 

 

『た、タッチダウーン! 西部ランニングバック甲斐谷君、キックオフリターンタッチダァァウン!!』

 

 

 実況を聞きながら、アイルは身震いする。

 陸についてはよく知っているつもりだった。

 速度の差はあれ、一対一なら止められると思っていた。

 だが、陸は進化していた。アイルの手さばきすら躱せるほどに。

 

 

 ──やっぱり陸はすごい……!

 

 

 知らず、口の端が釣り上げる。

 陸の背を追うアイルの目には、驚き以上に煮えたぎる闘争心があふれている。

 

 

 ──でも、うちのセナだって、陸には負けない……!

 

 

 返す泥門の攻撃。

 西部のキックボールを受けたセナは、味方の(ブロック)に助けられながら、急ブレーキと爆走の往復ビンタで、西部ディフェンスを次々と抜き去っていく。

 

 甲斐谷陸のものと同質にして異質。

 練習量にあかせた強引な【加減速の走り(チェンジ・オブ・ペース)】。

 セナの光速の(ラン)は、西部のエースランナー、陸さえ引き離しながら、敵陣ゴールラインを爆速で斬り割った。

 

 

『ま、ま、またキックオフリターンタッチダウン! 試合開始40秒で2本だぁー!?』

 

 

 高速の殴り合いに、会場のボルテージが沸騰する。

 大歓声の中、セナと陸の視線はまっすぐに結ばれている。

 

 

 ──陸は、セナに任せる。

 

 

 昂ぶる感情を抑え、アイルは強く、拳を握り込む。

 

 

 ──西部に勝つためには、ヒル魔さんがキッドさんに勝たなきゃいけない。ヒル魔さんの作戦を爆発させるのは……僕のパワーだ!!

 

 

 キックオフで、西部は中央付近までリターン。

 西部の攻撃は、パス重視の超攻撃的フォーメーションショットガン。

 (ライン)の両脇に、投手(クォーターバック)以外の残る全員がレシーバーとして並ぶ。

 

 

「──(ファッキン)ドリル! 一発カマせ!」

 

 

 ヒル魔の指示は、【電撃突撃(ブリッツ)】。

 守備位置を放棄して全速ダッシュ。ステップワークで無理やり(ライン)端をすり抜けて、キッドに向けて一直線に突撃する。

 

 

 ──神経を尖らせろ! 光速を思考しろ──【光速の思考速度(パーセプション)】!

 

 

 ガチン、と時感覚のギアをオーバートップに入れる。

 光速の思考でキッドの一挙手一投足を観察しながら、至近距離まで肉薄して。

 

 瞬間、キッドは投球を始める。

 テイクバックもほとんどない。体のひねりと、わずかな重心移動。

 たったそれだけで、ボールはキッドの手から矢のように放たれ──レシーバーの手に収まっていた。

 

 

 ──やっぱりキッドさん、すごい……!

 

 

 気持ちを高ぶらせていると、キッドと目が合う。

 目を輝かせるアイルを見て、早撃ちの天才はふう、とため息をついた。

 

 

「……しっかり、見られちゃったねぇ」

 

「ケケケ、中高女子アマレスの絶対王者ナメんな。こいつはテメーと同じコンマ数秒の世界の住人だ。たとえテメーの早撃ちがデータより早かろうがな……こいつはいずれ、テメーの(タマ)に届く」

 

 

 ぽん、と、アイルのヘルメットに手を置き、ヒル魔は邪悪に嗤う。

 

 

「──(ファッキン)ドリル。いまから全プレー電撃突撃(ブリッツ)だ。ガンガンプレッシャーかけてけ。奴の早撃ちにゃまだ底があるが……テメーならやれる」

 

「知ってます。まかせてください」

 

「ケケケ、それに、他の野郎どもにも活躍してもらわねえとな。(ファッキン)アル中仕込みの【心臓バンプ】で、レシーバーガッタガタに崩してやる」

 

 

 ヒル魔の宣言通り。

 泥門のバンプ作戦は功を奏し、パスキャッチ軍団を総崩れにしていく。

 アイルは再び突っ込んでキッドに迫ったが、あと数センチというところでボールを投げ捨てられた。

 

 だが、次のプレー。

 アイルのチャージを紙一重で避けたキッドの早撃ちで、ボールが西部の重機関車・鉄馬に渡る。

 マッチアップしていたモン太を弾き飛ばした鉄馬は、レールの上を進むが如くゴールへと直進し、そのままタッチダウンをもぎ取った。

 

 キックも決まって【泥門7‐14西部】。

 続く泥門の攻撃に対し、西部は全員前線に出ての電撃突撃(ブリッツ)

 だが泥門(ライン)は栗田を中心に強固な連携を見せ、崩れない。

 (ライン)が持っている間に、フィールド奥深くまで駆けたモン太に向けて、ヒル魔の【デビルレーザーバレット】が突き刺さる。

 

 ロングパスに成功し、次のプレーでは、西部のディフェンスライン、主将・バッファロー牛島が両腕を振り回す左右のウエスタンラリアット──【二本の角(デュアルホーン)】を解禁し、泥門(ライン)を粉砕する……かに見えたが。

 

 

「──知ってた!」

 

 

 この奥の手を知っていたアイルは、(ライン)を超えてヒル魔に突進する牛島を横合いから突き、バランスを崩させる。

 

 

「でかした(ファッキン)ドリル!」

 

 

 ヒル魔は倒れ込む牛島をサイドステップで躱して、セナにパス。

 ボールを受けたセナは、迷わず敵陣へと切り込んでいく。

 

 攻守を変えて、ふたたびセナと陸の対決。

 セナは迷わず最強の手札(カード)を切る。ねじり抜く【ハリケーンゴースト】だ。

 光速の(ラン)に、【ロデオドライブ】による超加速で瞬間亜光速となった陸のタックルが突き刺さり──だが、セナはボールを離さない。

 

 

「ボールのために全身を捨てる……うれしいぜ。セナにもあるんだな──最強の自負(プライド)が」

 

「あはははは。アイルにさんざんやられて、こうしなきゃボールを奪われるって知ってるから……でも、わかるよ陸。僕は負けない。陸にも、進さんにも、本物にも」

 

「そうだ。それでこそ俺の──最強のライバルだ」

 

 

 セナが止められて、泥門の攻撃は残り10ヤード。

 この距離で狙うは──当然、中央突破だ。

 

 

「ふんぬらばっ!!」

 

 

 三兄弟が不良仕込みの喧嘩殺法(ラフファイト)を解禁し、【二本の角(デュアルホーン)】に対抗する中、栗田が咆哮とともに中央をぶち破る。

 

 東京最強、栗田のパワー頼りの中央突破。

 わかっていても止めようがない圧倒的圧力で、泥門は3回の攻撃権を使って、確実にタッチダウンを収めた。

 

 けどムサシのTFPのキックは失敗した。

 

 

「テメー(ファッキン)ジジイ! てめえがキック決めなきゃ計算立たねーんだよ!!」

 

「ヒル魔、ムサシのキックは荒れ球なんだから、仕方ないじゃない」

 

「【死の行軍(デスマーチ)】で精度上げずに威力ばっか上げやがって!」

 

 

 叱責しながらも、ヒル魔はどこか楽しげだ。

 ムサシとともに、このヒリつくような勝負の場に立てることがうれしいのかもしれない。

 

【泥門13‐14西部】。

 派手な点の取り合いとなったが、逆に試合展開は遅くなっていく。

 中央突破(ブラスト)を主軸に、パス、(ラン)を交えて得点していく泥門。

 対する西部は、確実性の高いショートパスを軸に、鉄馬の爆裂突破で得点を重ねる。

 

 前半が終わって、得点は【泥門27‐27西部】となっていた。

 

 ハーフタイム。

 泥門一同は、弾む息を整えながら、作戦会議を開く。

 

 

「すみません。キッドさんを一度も止めれなくて」

 

「ケケケ、なに言ってやがる。上出来だ(ファッキン)ドリル」

 

 

 アイルが謝ると、ヒル魔は口の端を釣り上げる。

 

 

「──テメーがキッドの時間を削れるだけ削ってやがるから、西部は短いパスでしのぐ以外の選択肢が無くなってやがんだ。鉄馬って鬼札(ジョーカー)で互角に見せてるとはいえ、いまキツいのはキッドの方だ」

 

「そろそろあの鉄馬(アイアンホース)を止めたいところだが……いまは我慢だとも。レディ・ゴリラの【電撃突撃(ブリッツ)】に耐えかねて、西部がミスター・キッドに盾を貼り付けられれば──おお、そこが最高の攻め時だとも」

 

 

 ヒル魔とロスの会話に、モン太が悔しげに拳を握っている。

【心臓バンプ】、張り付いてのキャッチ争い、タックル……モン太の必死の攻勢を、鉄馬は無情に轢き潰し続けている。

 

 

「……俺、行くっスよ。努力MAXで鉄馬先輩からボールを奪って──勝つ!」

 

「ケケケ、折れてねえなら上等だ。(ファッキン)猿。100回やって1回でもいい。鉄馬に勝ちやがれ。そうすりゃ泥門の大勝利確定だ!」

 

「うっす!!」

 

 

 ヒル魔の発破に、モン太は燃え上がる。

 

 

「だが、悪魔殿。防御は我慢の時だが……攻撃の方は、そろそろ仕掛け時だとは思わないかね」

 

「ケケケ、防御の均衡を攻撃(うら)から揺さぶろうってか──いいじゃねえか。(ファッキン)チビ、(ファッキン)ドリル。テメーらのコンビネーション(ラン)──【デビルフォーミュラ・ワン】だ!」

 

 

 ロスの提案を受け、ヒル魔が命じて。

 アイルとセナは、「はい!」と力強く声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 後半は泥門の攻撃から始まる。

 これまで中央で攻撃の要になっていたアイルが(ライン)と夏彦のサポートで敵陣に切り上がっていき、その後ろをセナが走る。

 

 迫り来る敵ディフィンスは、前半いっぱい使って、すでに重心移動のクセを把握している。

 鎧袖一触。【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】で切って捨て、続く敵も、アイルとセナ双方【デビルバットゴースト】で抜き去る。

 

 二者一対で走るその姿は、まさしくF1のスリップストリーム走法。

 最終防衛線(セーフティ)の陸がこちらを止めんと突進してくるが、今度は抜かせはしない。

 【ロデオドライブ】に幻惑されず、瞬間亜光速のタックルにも対応して、アイルは陸を突き崩した。

 

 一瞬の蹂躙劇。

 その破壊力に、一瞬西部応援団すらシンと黙り込んでしまう。

 

 揺さぶりの結果は、すぐにあらわれた。

【泥門34‐27西部】。キックオフで蹴り上げたムサシのボールは、当然の権利のように相手のゴールライン際に落ちる。

 

 ボールを確保した陸に、セナが躊躇なく特攻。 

 陸はタックルを受けながらもボールを死守するが、西部の攻撃開始地点は、自陣ゴールラインの目前だ。

 

 

「タイムアウトォォ!」

 

 

 西部の監督が慌ててタイムアウトを取る。

 

 

「ケケケ、ご都合よくスタート地点が相手のゴールライン目前。なら狙うっきゃねえよな、自殺点(セーフティ)!」

 

「ふむ。西部の頭脳はミスターキッドだが、将は監督。ここまでの超攻撃的な指揮は、間違いなく監督のものだが……」

 

「絶対に止められない最強のコンビネーション(ラン)でカマされた直後だ。攻撃の要のキッドまで殺されりゃ西部の士気が持たねえ! キッドなら、それでもあえて行くだろうがな」

 

「ククク、磨き上げたこの戦法と心中するなら上等。そんなプライドを崩してまで選んだ『確実性の高い戦法』……実に崩しがいがあるというものだ」

 

 

 悪魔と教授が邪悪に嗤う。

 想定通り、西部の攻撃、ショットガンを捨てての中央からの(ラン)

 だが、栗田を始め、(ライン)陣、そしてアイルに夏彦。泥門ゴリラチームがこの1プレーに全霊賭けた突撃は、西部(ライン)を一撃で粉砕し、後方のランニングバック2人をもろともにねじ伏せた。

 

 自殺点(セーフティ)成立、2点追加。

 続いて泥門の攻撃は、セナがついに陸の全霊を込めた【ロデオドライブ】をねじ伏せ、タッチダウンを決める。

 

 だが、敗北を認めても、甲斐谷陸は試合の勝利をあきらめない。キッドもだ。

 静かに秘めながら、燃え上がるふたりの闘志に火をつけられて、意気消沈していた西部メンバーたちも奮起する。

 

 

「ケケケ、心が折れた雑魚は一人も居ねえようだな、(ファッキン)マッチ棒」

 

「ミスター・キッドとミスター陸を褒めるべきだが……素晴らしい。それでこそ東京最強。我ら泥門(デーモン)と覇を競うべき相手だとも」

 

 

【泥門43‐27西部】からの、壮絶な叩き合い。

 どちらも確実に攻撃権をモノにして落とすことがない。

 たがいに2タッチダウン、西部は追加点チャレンジ(トライフォーポイント)を鉄馬へのパスで決めて、点差をわずかに縮める。

 

 残り5分。

 モン太がついに鉄馬の指を取り、ファンブルさせることに成功。

 しかしこぼれ球は陸に拾われ、追いすがるセナを腕を使って崩した陸によって意地のタッチダウンを决められた。

 

 西部は続いて攻勢に出る。

 続く泥門の攻撃。敵陣を見て、アイルは肌が泡立つのを感じた。

 

 西部はなんと守備に鉄馬とキッドを投入してきたのだ。

 それは、勝利に1mmでも近づこうという執念のあらわれだ。

 

 

(ファッキン)ドリル。畑違いだからって舐めんなよ。連中がむしゃらに勝ちにきやがった」

 

「知ってます。その強さは、泥門(うち)だからこそ」

 

 

 どれだけ強い敵相手でも、最後まで勝ちをあきらめなかった。

 結果、逆転勝利を重ねてきた、泥門デビルバッツという名のチームを知っているからこそ……天王洲アイルは全力で警戒を怠らない。

 

 西部の戦略は単純だ。

 キッドがヒル魔の動きを見極め、鉄馬はヒル魔に向かって一直線の電車道。

 たったそれだけで。キッドという芯と、鉄馬という強力なカードが加わったことで、西部の十八番、全員【電撃突撃(ブリッツ)】の威力は倍加している。

 

 最終的にヒル魔からボールを奪ったのはバッファロー牛島。

 アイルはモン太と連携して、鉄馬の突進を止めるので精一杯だ。

 なにせ鉄馬は、かつての進清十郎同様、何度崩しても一瞬でリカバリーしてくる。決して止まらないモンスター機関車だ。

 

 攻撃権が西部に移って、西部は再び得意のショットガン。

 回を重ねるごとに鋭さを増すアイルの【電撃突撃(ブリッツ)】によって極限まで余裕が削られているものの、絶対に得点が欲しいこの状況。一番信頼できる鉄馬にパスが渡ることは、泥門全員がわかっていたが……西部ブロッカーをすり抜けたセナ、モン太、石丸、ヒル魔。4人がかりでも、モンスター機関車は止まらない。

 

 得点は【泥門64‐59】。

 西部は賭けに勝ち、一発逆転圏内に無理やり詰め寄ってきた。

 

 だが時間は残り50秒。攻撃権は泥門。

 ただ時間を潰すだけで、泥門は勝てる。

 

 

「──(ファッキン)野郎ども! 連中100億%オンサイドキックで来やがるぞ! 密集地帯に転がしてボールを奪われたら攻撃権は西部のモンだ! ぜってー止めろ!」

 

 

 ヒル魔の檄が飛ぶ。

 

 アイルは意識を極限まで研ぎ澄ます。

 密集地帯でのキャッチ勝負だ。まずキャッチの天才・モン太の方には飛ばない。

 だったら、来るのは真中央から右サイド。ただし、半球形のアメフトボールだ。どこに転がっていくかは神のみぞ知る。

 

 西部のキックで、ボールが放たれた。

 不規則に暴れ、跳ねるボールを、鉄馬が、セナが、ヒル魔が、陸が、キッドが──全員がもつれあいながら、追いかける。

 

 アイルに、ボールを追うカンはない。

 モン太のように、ボールがどう跳ねるかなんて予想できない。

 だが。敵が確保したボールを、超絶した指先の力でねじり抜く事はできる。

 

 

 ──【悪魔の噛食(デビルバットバイト)】!

 

 

 西部の司令塔、キッドが執念でボールを捕まえた、その瞬間。

 飛び込んだアイルはキッドの懐に手を差し込み、ボールをねじり抜いた。

 

 

『試合終了──っ! なんとなんと、最後の大勝負、オンサイドキックを制したのは泥門タイトエンド、アイル姫だぁっ! 泥門デビルバッツ、東京最強、西部ワイルドガンマンズに勝利を収めたーっ!!』

 

 

 絶叫のような実況を聞きながら、アイルはボールを奪われ、倒れたキッドに声を掛ける。

 

 

「【電撃突撃(ブリッツ)】。キッドさんには一度も届かなかったけど……最後の最後、届きました」

 

「ああ。負けたねぇ……でも、不思議だね。負けたってのに……悔しいってのに、下を向いてる気になれない。最後の最後まで、本気で俺の早撃ちを止めようと向かってきた君の姿を、見せられたからかもねぇ……」

 

 

 立ち上がって。

 キッドはアイルに手を差し出してくる。

 

 

「もう一度戦おう。関東大会で。次は勝つよ……全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くのは、西部だ」

 

「ええ。最高のチーム同士、関東大会で。全国大会決勝(クリスマスボウル)で勝つのは泥門です」

 

「……なんていうか……おたく、こっちが頑張って絞り出した言葉を、やすやすと越えてかないでほしいねぇ……」

 

 

 そう言って。キッドは苦笑交じりで頬をかいた。

 周りでは、泥門と西部のメンバーが、勝利と健闘を称え合い、再戦を約束している。

 赤毛のロスが、フィールド外から手が大丈夫かってくらい思い切り拍手を送っており、まもりはキッドにガンを飛ばしていた。

 

 全国高校アメフト選手権東京大会準決勝。

 勝者、泥門デビルバッツ。決勝に駒を進めるとともに、夢の舞台・関東大会への出場権を手に入れた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。