アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

32 / 35
32 東京大会王城戦前

 

 

 王城戦まで、残り三日。

 泥門デビルバッツの面々は【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】の形稽古に勤しみながら、各自課題を持って特訓している。

 

 

「ほらほらお前ら、【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】もいいが、ステップだきゃなにがあっても揃えろ! (ライン)は連携が命だぞ!」

 

「ふんぬらばっ!!」

 

 

 (ライン)組+重佐武は、個人技ではなく、溝六コーチの指導のもと、連携を鍛え上げている。

 

 キッカーのムサシは黙々と、ひたすらキックの反復練習。

 なぜか室サトシも混じって練習させられているが、意外と上手いから反応に困る。

 

 

「キャッチMAX!!」

 

「アハーハー! 負けないよ! ボールは僕のものさ!」

 

 

 モン太は、鉄馬相手にやられ放題だった悔しさをバネに、ひたすらキャッチを磨いている。

 仮想鉄馬、仮想桜庭を務めるのは、エースレシーバーの座を争う滝夏彦だ。

 

 夏彦は、鉄馬ほどではないにせよデカくてパワーが有る上に、自慢の柔軟性でモン太の妨害をものともせずパスをモノにする。

 投手(クォーターバック)はヒル魔が主体で、あらゆるシチュエーションでの限界ギリギリのパスを投げ込んでいた。

 

 

雪光(ユキ)! 次はスラントだ!」

 

 

 雪光は、助っ人の山岡、佐竹とともに、ロスを投手(クォーターバック)にしてのパスルートキャッチ。

 ロスの投げるボールは、肩を労ってハーフスピード主体だが、回転が強烈にかかっていて、直線軌道に近い独特の球筋だ。

 スポーツ医学に基づいたトレーニングにより、ロスの肉体は確実に厚みを増しており、もはやマッチ棒とは言えなくなってきている。まだ細いけど。

 

 キャッチ役1人に対し、残る2人がディフェンス役につき、ひたすらローテーションを回す。

 こちらもスポーツ科学の恩恵で、運動神経はさておき筋力的には成長著しい雪光は、馬力と根性でパスルートを死守する。弱体ながら、その執念はまるで鉄馬だ。

 

 

「みんな。選手ごと、プレーごとの映像編集と、各種データの数値化、大変だったね。ありがとう! 王城に勝つために、わたしたちも頑張ろうね!」

 

 

 まもり指揮のもと、裏方であるスタッフチームの士気も高い。

 セナや三兄弟への殺意も高いが、それはいつものことである。

 

 そして。

 アイルとセナは、アイルを仮想進清十郎としての、一対一の対決。

 だが、アイルは春大会での進──【スピアタックル】を駆使する音速の戦士を想定していない。

 ロスの分析では、進の最高速はすでに40ヤード走4秒2台──光速の領域に足を片踏み入れている。必殺の【スピアタックル】も、より磨きがかかっている。

 

 フットワークだけじゃ勝てない。

 なら──セナも、腕を使うしかない。

 ベンチプレス140kg、進清十郎には敵わないものの、鍛え、成長したベンチプレス55kgの光速の腕を。

 

 

「──おおおおっ!!」

 

 

 アイルが、裂帛の気合とともに腕を伸ばす。

 力で劣り、速度は亜音速──40ヤード走4秒5にすらはるか及ばぬものの、セナの光速の動きすら正確に捉える、疾風の突撃槍。

 

 その手を、セナの光速の拳が弾く。

 おそらくはアイルの知るそれより威力を増した【デビルスタンガン】。

 

 だが。

 腕を弾かれ、つんのめりながらも、アイルはセナが左脇にしまい込んだボールを強引にねじり抜く。

 

 

 ──【悪魔の噛食(デビルバットバイト)】。

 

 

 交錯の後。失敗したと頭をかくセナに、ボールを手にしたアイルが声をかける。

 

 

「セナ、攻撃を捌いたからって油断しちゃだめだよ。指一本でも届けば、進さんのパワーならセナを止めれるんだから」

 

「すごいね、アイル。全然抜けないや」

 

「それは腕を使っての差し合い前提の練習だからだよ。というか、単純な差し合い勝負だけならもう五分なんだけど?」

 

「あはははは……アイルのタックル、こっちの突っ張った腕ごと重心崩してくるから、捌きに専念できたのがよかったのかも? というか手すら使わず、体捌きだけでこっちの重心崩してくるのは反則だと思う……」

 

 

 そんな調子で、東京大会優勝を目標に全員が闘志を燃やす。

 

 試合前日。決勝に備え、練習は朝練のみで切り上げられたが、放課後、アイルとセナはヒル魔に部室へ呼び出された。

 もっとも、泥門メンバーも、半分ほどは部室でたむろしており、残る半分も家には帰らず、合宿所で休んでいるのだが、さておき。

 

 

「──大江戸テレビの生放送特番?」

 

 

 ヒル魔の説明に、アイルとセナは声をそろえた。

 

 

「テレビ放送する明日の決勝戦を盛り上げるための企画だな。ま、無視してもいいんだが……ただでさえあっちにゃ桜庭が居るんだ。会場が(ファッキン)アウェイになるのは美味(うま)かねえ」

 

「ああ……うちがエイリアンズに勝てたのも、観客の応援の力もありましたもんね」

 

 

 エイリアンズ戦を思い出して、アイルは納得する。

 あの時は会場は日本の応援一色で、それは確実にアイルたちの力になっていた。

 

 

「王城は春から大化けしてるかんな。相性もあって4:6で分が悪ぃ。こっちからもスター選手に出して、観客を泥門に引き寄せるっきゃねえ……ケケケ、おありがてえことに、こっちにゃ野郎共に大人気の女がいやがるからな」

 

「わたしにテレビのゲストやってこいってことですね」

 

 

 アイルの確認に、ヒル魔は口の端を邪悪に釣り上げる。

 

 

「あっちは2大エースの進と桜庭が来やがるんだ。こっちも2大エースを出す……(ファッキン)レシーバーども、テメーらじゃねえから身だしなみ整えんのをやめろ。こっちも虎の子──アイシールド21を出す」

 

「ええええ、僕!?」

 

 

 悪魔的な笑みを浮かべたヒル魔に、セナは素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「大江戸テレビプレゼンツ! 高校アメフト東京大会ファイナル、王城ホワイトナイツVS泥門デビルバッツ特番! 秋大会決勝まで勝ち上がった両チームの、まずは紹介と、これまでの歩みを見ていただきましょう!」

 

 

 放送スタジオの舞台袖。

 セナとアイル、それに王城からのゲスト、進と桜庭は出番を待つ。

 場に合わせて……というか好感度稼ぎのため、アイルは制服姿にナチュラルメイクだ。

 金髪縦ロールが悪目立ちしているものの、もともと素材のいい長身美人なのだから、いい感じにお嬢様感がある。いやお嬢様なんだけど。

 

 王城のふたりも、清潔感のある制服姿。

 セナだけはアイシールド21のユニフォーム姿で、派手に浮いている。

 正体を明かせないのと、それ以上にハッタリを利かすためだから仕方ないんだけど。

 

 テレビ生出演ということで、セナはガッチガチに緊張している。

 こんな様子でまともに受け答え出来はずがないので、そこはアイルがフォローするしかない。

 

 

「……では、本日ゲストに来ていただいた両校の選手を紹介しましょう! 王城からはご存知二大エース、レシーバーの桜庭春人さんと、ラインバッカーの進清十郎さん! 泥門からは、こちらも二大エース、タイトエンドの天王洲アイル姫と、光速のランニングバック、アイシールド21選手です!」

 

「なんで姫呼び……」

 

「あはは……こういうのはついて回るものだから」

 

 

 司会の紹介にうんざりするアイルに、桜庭がフォローを入れる。

 セナは緊張しすぎて変な歩き方になってるが、まあ尊大っぽく見えなくもない。

 ゲスト4人のプロフィールと活躍がVTRで流されて、それから司会がゲストたちに質問を回していく。

 

 

「じゃあ、両チームに聞いてみようか。ズバリ、決勝の勝算は?」

 

「庄司監督指揮のもと、我々は特訓を積んで来ました。泥門は力、スピード、戦略、すべてがハイレベルの脅威的なチームですが、我々に分があると判断しております」

 

「あ、はい。勝つ気で鍛えてきましたし、勝つ気で戦います。俺の……レシーバーとしての勝利が、王城の勝利につながると信じてます」

 

 

 まずは進が、続いて桜庭が返答する。

 進は淡々としすぎてわかりにくいが、彼が嘘を言うはずもない。戦力判断は客観的な事実だろう。

 桜庭は……なんというか、ようやく「桜庭春人」になってきたって感じだ。春大会の頃の自信なさ気な姿は、もうない。

 

 

「さあ、自信たっぷりの王城ですが、対する泥門の自信のほどは……?」

 

「そうですね。もちろん勝つ気でいますし、そのための隠し玉も用意してますが、正直五分五分です。わたしたちが勝つためにも、みなさん、ぜひ会場まで応援に来てください」

 

「……です」

 

 

 司会の質問に、慣れてるアイルが如才なく答える一方、セナが地蔵のように固まってるのは、さておき。

 

 

「ありがとうございます! では、それぞれ注目する選手とその理由を教えてください!」

 

「アイシールド21です。春大会でその驚嘆に値する実力を知って以来、ライバルと見定めてきました。同様の理由で、天王洲アイル」

 

「やっぱりレシーバーのふたり、モン太君と瀧君……それと天王洲さんかな」

 

 

 続いての質問に、進と桜庭が迷いなく答える。

 なんかオマケのように名前を出されているが、まあ直接のライバルはどちらも前者の面子だろう。

 

 続いては、泥門の返答。

 

 

「わたしは進さんと桜庭さんですね。泥門が勝つためには、どこかでふたりに勝たなきゃです」

 

「僕も進さんで。ずっと勝ちたいって思ってたから……あと、桜庭さんも……?」

 

 

 アイルに続いてセナが答えると、ついでのように名前を出された桜庭が苦笑した。

 

 

「いや、そこは気を使わなくていいから……っていうかアイシールドさん、けっこうそういう気を使う人だよね。接触で俺が怪我したときも」

 

「いやいやいや、気遣いとかじゃないから……王城のエースレシーバーを気にしないわけないから……」

 

 

 セナと桜庭がおたがいぺこぺこやってるのはともかく。

 

 

「では、東京大会、ここまで戦ったチームで印象に残った選手を教えてください!」

 

「未出場ですが、盤戸スパイダーズの赤羽隼人(あかばはやと)

 

「同じく盤戸の佐々木コータロー君かな。秋大会、王城初失点の相手だし」

 

 

 王城のふたりが名を上げたのは、奇しくも盤戸のふたり。

 アイルにとっても、関東大会出場を賭けた3位決定戦の相手として、強烈に印象に残っている相手だ。

 

 

「なるほどなるほど……では、泥門のおふたりは?」

 

「わたしは……やっぱりキッドさんですかね。最後まで投手潰し(サック)决めれなかった相手ですし。もちろん決着がついたとは思ってません。次は勝ちます」

 

「僕は……西部の甲斐谷陸(かいたにりく)。やっぱり走りの師匠……じゃなくて、フットボーラーとしての心構えがすごかった」

 

 

 アイルとセナも、それぞれ答える。

 こちらも両方準決勝の相手。やはり最強クラスの敵は、記憶に焼き付いているものだ。

 

 

「では、ちょっと砕けた質問もいいかな? 好きな異性のタイプとかありますか?」

 

「ええ、そういうの聞いちゃうの……?」

 

「チームの一員として誇りを持って動けることです」

 

「進、それマネージャーの条件じゃ……俺は、自分のことを応援してくれる子ってことで」

 

 

 進のズレた返答にツッコみながら、桜庭はそつなくアイドル的な模範解答。

 桜庭も困惑していたが、アイルやセナもそれ以上に返答に困ってしまう。なにせ色恋沙汰とか、これまで考えたことないのだ。

 

 だが、あんまり無言になっても放送事故になってしまう。

 

 

「えーと……あんまり考えたことないですけど、強いて言うならアメフトにひたむきな人ですかね?」

 

「えーと、僕もあんまり考えたことないですけど……あれ? あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「な、なんでもないです。僕も桜庭さんといっしょで、自分を応援してくれる子がタイプかな……」

 

 

 考えて、ふと気づいて、戸惑ってから、セナは誤魔化すように答える。

 はるか遠くで、まもりの母性がいろんなとこから溢れ出たが、ともかく。

 

 

「では、最後に……ここに居る相手にひとつ、質問するとしたらなにを聞きますか?」

 

「天王洲アイル。君の腕さばき(ハンドワーク)で不明瞭な点がある」

 

「いやいやいやいや、進、試合前で対戦相手! それ聞いちゃダメでしょ!」

 

 

 進の不躾な質問に、桜庭があわててツッコむ。

 

 

「えーと……まあ、いいですよ。なにが聞きたいです?」

 

「そっちはそっちで言っちゃうの!?」

 

「まあ秘匿事項もありますし、答えるかどうかは、さすがに聞いてから判断させて貰いますけど……進さんの性格だと、逆にこっちが聞いてもいろいろ教えてくれそうですし……」

 

 

 正直、腕さばき(ハンドワーク)については上手く言語化できない部分が多いので、聞かれても困るのだが……お礼にいまの進の速度でも体験させてくれたら、お釣りが来る。

 いや、全国放送だし、公開がまずそうなら収録後の情報交換にしてもらうけど。

 

 

「うむ。ではそこに立ってくれ……君が使う、攻撃を喰らいながら相手を崩す技術だ」

 

「ああ、体幹で崩す技術ですね。レスリングの時にテレビで実演してるので大丈夫です。こう、相手が腕を突き出してきたとします」

 

「うむ」

 

 

 その時スタジオに、ふにょん、と音が鳴った気がした。

 説明するアイルの言葉通り、突き出してきた進の手のひらが、アイルを押した音だ。

 

 

「ちょ、進! なにやってんの!? 女の子相手に、しかもテレビの前でなにやってんの!?」

 

 

 と、我に返った桜庭が、あわててアイルから進を引き剥がす。

 

 

「指導を受けているだけだが……?」

 

「女の子の胸に触っちゃダメでしょ!? プロテクターつけてるならともかく、いまはつけてないんだから!」

 

「? 胸筋だろう?」

 

「言い方ぁ……」

 

 

 アイルが脱力しながら物申す。

 進の場合、本気でその理解だから困る。

 進に下心がない上に、手のひらで押しただけだからアイルも別に気にしていないのだが、桜庭はあわてまくっているし、それ以上に──セナが切れ散らかした。

 

 

「おおおお、デビルバット──」

 

 

 ノータイムで【デビルバットダイブ】をぶちかまそうとしたセナを、アイルはあわてて抱き止める。

 

 

「アイシールド君、待って! 待って! 君はプロテクターつけてるんだから生身の人相手にタックルはマズいって!? なんでそんなにキレてるの!?」

 

「キミはわかっとこうよ!?」

 

 

 わちゃわちゃしまくったが、司会がなんとかその場を収める。

 冷や汗かいてるのは桜庭ひとりで、進とアイルは何事もなかったような顔をしてるし、セナは怒っている自分に戸惑ってる。

 

 

「……失礼。トラブルがありましたが、最後に泥門デビルバッツより、視聴者の皆さまにお知らせがあります」

 

 

 時間が押したのか、司会は番組の締めとして、手元の書類を読み上げる。

 

 

『Ya──Ha──!! テレビの前の諸君、アメフト楽しんでるかい!? 東京大会決勝、泥門VS王城、現地に行こうか迷ってる野郎どもに朗報だ! この試合、もし泥門が勝利したら──そこに居るアイシールド21が、素顔を晒すぜ!』

 

「ええええ──っ!?」

 

 

 驚きの声を上げたのは桜庭とアイルだけだ。

 当のセナは、落ち着いて前を見つめている。

 

 

「聞いてたの?」

 

「……うん。進さんに勝てるくらいのプレイヤーになれたなら、そうしたいと思ってて」

 

 

 以前のアイルは、西部に負けての三位決定戦──盤戸戦で、実名を明かして試合に望んだ。

 だが、本当の最初は……まもりに心配かけたくなくて。大丈夫だって示すために、進清十郎に勝ったら正体を打ち明けるつもりだった。

 

 

「知ってたけど……びっくりした」

 

「勝つよ。進さんに勝ちたい。それ以上に、負けたくないって思ったから」

 

『ケケケ、ついでにアイル姫も大胆にイメチェンするかもな! 会場での応援待ってるぜ! Ya──Ha──!!』

 

「……ちなみにいまの、アイルは聞いてた?」

 

「いや、これたぶんハッタリ……『かもな』だし」

 

 

 その後、出番が終わると桜庭に平謝りに謝り倒されて。

 アイルは「試合後の進の練習協力」を条件に、許すことになった。

 進にこれっぽっちも下心がないことを知ってるアイルは、別に気にしてないのだが、それくらいしてもらわなきゃ怒ってるセナを納得させられそうになかったのだ。

 

 それから帰り道、テレビを見たチームメイトたちから電話がじゃんじゃかかかってきて、アイルは対応に苦労する羽目になるのだが……まあ仕方ない。

 

 そうして夜が更けていき、日が昇る。

 東京大会決勝。王城ホワイトナイツとの戦いが始まる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。