アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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38 関東大会抽選会+アイル

 

 

 東京大会の翌週、11月2日、日曜日。

 来たる関東大会の対戦カードを決める、運命の抽選会の日。

 東日本各地から、大会を勝ち抜いてきた強豪チームが一同に会する。

 

 そんな会場の入り口──「全国高校アメフト関東大会抽選会場」と書かれた大看板の、すぐ真横で。

 

 

 

「やー! いい景色! アー姉、ストップストップ!」

 

 

 看板に並ぶように、アイルは鈴音を乗せた片手を高く差し上げる。

 掲げられた手の上で、鈴音は見事な片足立ちのバランスを取り、まもりに向けて横ピースを送る。

 

 

「アイルちゃん、鈴音ちゃん、撮るわねー!」

 

 

 パシャ、と携帯のシャッター音。

 中国雑技団かサーカスじみた曲芸写真が出来上がる。

 その光景を見て、十文字は驚きを通り越して呆れたような表情になる。

 

 

「……片手で50kg持ち上げるとか、どうなってんだよ……」

 

「そこっ! モンジー! 風評被害! 40kgとちょっとだもん!」

 

 

 十文字のつぶやきを聞きとがめて、鈴音が頭上から猛抗議する。

 

 

「それ逆に軽すぎだろ。普段なに食ってんだよ」

 

「ポテチ食うか?」

 

「屋台で買ったたこ焼きもあるぞ」

 

 

 スレンダーすぎる鈴音を心配して、三兄弟が肥育しようとしているのはさておき。

 

 ひょい、と鈴音を降ろしたアイルは、開場前に集まった泥門一同を見回した。

 ヒル魔、栗田、ムサシ、小結、三兄弟、夏彦、雪光、ロス、石丸……それに、マネージャーのまもり、チアリーダーの鈴音、トレーナーの溝六。アイル含め、みんなおしゃれな格好だ。

 

 今日はトーナメントの抽選会だが、月刊アメフトの撮影会も兼ねている。

 だからチームの代表だけでなく、出場選手も招集されているのだが……アイルの記憶同様、セナとモン太の姿はまだない。

 

 

 ──遅刻しないよう念押ししといたんだけどなあ。

 

 

 撮影を意識してか、身だしなみを整えた他校の選手たちが続々と会場入りするのを見ながら、アイルは内心ため息をついた。

 

 アイルの時同様、来る途中にいろいろあったんだろうが、遅刻は遅刻。

 集合時間ギリギリになって、遠くから必死に走ってくる、キメた格好のセナとモン太の姿が見えて。

 

 

「集合時間まであと3秒、2、1──0遅刻は死ね!」

 

 

 ビバババババ、とヒル魔がジッポライターを乱れ投げると、狙い過たず迫撃砲的なアレの導火線に着火する。

 ドドドドド、と連続発射された爆撃は、セナとモン太の背後に着弾。爆音とともに、セナとモン太はこちらにふっとばされてくる。

 

 

「よっ──と」

 

「アハーハー!」

 

 

 アイルがセナを、夏彦がモン太を綺麗にキャッチする。

 

 

「アハハハハ。アイル、ありがとう」

 

「いやー、飛んだねーセナ」

 

「あ、セナずるーい! 私もアー姉にお姫様だっこされたーい!」

 

「逆……セナ、そこは逆じゃない……!」

 

 

 などとわちゃわちゃしながらも。

 どうにか無事に全員集合したデビルバッツ一同は、そのまま会場に足を踏み入れた。

 

 高級ホテルの大宴会場を思わせる豪華な会場内には、すでに多くのチームが集まっている。

 王城、西部、太陽、神龍寺、白秋……周囲を見渡せば、アイルがよく知る強豪チームが勢ぞろいだ。

 それに、注目度の高い関東大会の抽選会だけあって、マスコミの数も尋常じゃない。テレビカメラまで複数台運び込まれているあたり、アイルの時より数段賑やかな気がする。

 

 

「アイルちゃん! 関東大会に向けて、ぜひ今の心境を聞かせて下さい!」

 

「は、はい。どこのチームもみんなすごい人たちばかりなので……そんな皆さんにすごいって認めてもらえるよう、がんばります!」

 

 

 と、アイルの姿をみつけて、大江戸テレビの女性リポーターが目を輝かせてやって来たので、如才なく答える。

 

 

「目指せキャッチNo.1ッス!」

 

「いや、キャッチで一番目立つのはこのボクさー!!」

 

 

 モン太と夏彦がカメラの前に割り込んできたのはともかく。

 基本的にはチームごとに固まる中、泥門の面々は軽くばらつきながら、他校の顔見知り相手に挨拶や雑談を交わしている。

 

 そうするうち、ステージ上で抽選会の開始がアナウンスされる。

 続いてトーナメントのくじ引きが始まるが、アイルの記憶とは呼び出し順が違う。

 元々地区別や順位別の順番ではなかったとはいえ、泥門が東京大会で優勝したことが間接的に影響しているのだろうか。当然、くじ引きの順番が違う以上、結果も違ってくる。

 

 最初にくじを引いたのは王城で、番号は2。

 続いて呼ばれたのは白秋(はくしゅう)で、番号は8。王城とは反対のブロックだ。

 太陽は7番で、アイルの記憶同様、白秋と初戦で当たるが、続く西部が引いたのは3番。王城と同じブロック。

 

 そして、泥門の名が呼ばれた。

 鈴音に背を押されおっかなびっくり壇上に上がったセナが引いた番号は──5。

 王城や西部とは決勝でしか当たらない位置だ。栗田や黒木、鈴音がよくやったと歓声をあげるが、頂点を目指す以上、アイルとしては強敵と戦い、チームの実力を磨けるほうが望ましい。

 

 以前と違い、泥門と白秋は最初から同じブロックに入った。

 そのため、くじを交換する意味はなかったが、それはそれとして、白秋のマルコは、アイルとセナに話しかけてきた。

 

 

「──やあ、セナくんにアイルちゃん、だよね? オレは白秋ダイナソーズの投手(キュービー)やってる円子(まるこ)ってんだ」

 

 

 目的は、偵察を兼ねた挨拶といったところか。

 泥臭く這い上がってきたアイルの時と違い、今回、泥門デビルバッツは強豪ひしめく東京大会を制した、押しも押されぬ優勝候補の一角なのだ。

 

 

 ──というか白秋、峨王くんは来てないんだ。一度会っときたかったんだけど。

 

 

 峨王力哉(がおうりきや)

 白秋ダイナソーズが誇る、高校アメフト最強のラインマン。

 野生と理性が同居した、純粋な力の体現者たる破壊の獣。

 以前なら、力で対抗するって発想自体なかったけど……今は、少し気になったりする。さすがに勝てる気は微塵もしないけど。

 

 様子を見に来たモン太を加え、少し残念に思いながらマルコと話していると。

 

 

『──続いて、神奈川代表、神龍寺ナーガ!』

 

 

 アナウンスが響き渡る。

 ざわり、と会場の空気が揺れた。

 自然、人混みが割れていき……その中を神の軍勢が、厳かに進んでいく。

 

 関東大会九連覇。今大会でも文句なしの絶対的本命。

 超人たちの祭典に集った全チームから畏敬の視線を受けながら、主将の山伏権太夫(やまぶしごんだゆう)が堂々とくじを引く。

 

 だが、その番号が公表される前に。

 小さなアメフトボール型のくじは、傍らに居た金剛阿含(こんごうあごん)の手に渡った。

 次の瞬間。ミニボールは強烈な手首(リスト)の力で弾かれ──超高速の弾丸となってセナの顔面に襲いかかる。

 

 

 ──知ってた!

 

 

 あらかじめこれを予期していたアイルは、すでに【光速の思考速度(パーセプション)】のスイッチを入れている。

 

 セナが持ち前の反射神経で顔を半個分ずらし、右目めがけて飛んできたボールを間一髪、避けると同時。

 アイルは親指と人差し指で小さな(サークル)を作った右手をセナの眼前に伸ばし──飛び込んできたボールの弾丸を握り込むようにキャッチした。

 

 

「おおっ! お見事キャッチMAX!!」

 

 

 モン太が称賛するが、ミニボールだからこそ出来た曲芸だ。

 とはいえ、キャッチの達人に褒められて悪い気はしない。というか素直にうれしい。

 

 

 ──あ、でもこのボールどうしよう。

 

 

 知ってたから思わず捕ってしまったが、いざ手元に残ると始末に困る。

 まさか捨てるわけにもいかないし、かといって阿含に投げ返すのも角が立つ。形はボールでも、大事な抽選用のクジなんだし。

 

 考えたが、やはり神龍寺側に直接返すしかない。

 とはいえ、セナを害しようとした阿含に渡すのも、なんか癪だ。

 

 

 ──まあ渡すなら雲水(うんすい)さんかなあ。

 

 

 金剛雲水は、阿含の兄だが、真面目な努力家だ。

 アイルにとって、神龍寺のメンバーの中で一番接しやすいのは彼だ。

 

 そう考えて、アイルはボールを手に、壇上の神龍寺チームの元へ向かう。

 大会ド本命。大注目のチームに分け入っていくのだ。衆目を集めまくっているが仕方ない。

 途中、阿含が「ククク」と笑いながら絡んでこようとしたが、気づいてないフリして雲水に歩み寄り、笑顔でボールを手渡す。

 

 

「はい、雲水選手。ボール、飛んで来ましたよ」

 

「あ、ああ。すまない……」

 

 

 困惑しながらも、ボールを受け取る雲水。

 アイルがやけに親しげなことに困惑しているのだろうだが、自認にズレがあるから仕方ない。

 雲水にとってアイルは初対面だが、アイルにとっては何度も言葉を交わした上に、対帝黒戦の特訓でもお世話になった恩人なのだ。

 

 

「──ボールの番号は6番……ということは、君たちが初戦の相手か」

 

 

 ボールをちらと見て、雲水がアイルに視線を向ける。

 関東大会の対戦カードが大きく変わる中、奇しくもそこだけは、以前とおなじだ。

 

 

「神龍寺との試合、楽しみにしてます。全力で当たらせてもらいますから」

 

「……泥門も東京王者だ。そう謙遜することもないだろう。神龍寺として、こちらも全力で当たらせてもらおう」

 

「望むところです。そのために、鍛えてきました」

 

 

 アイルは手を差し出し、雲水と握手を交わす。

 

 そうしながら、アイルは小早川瀬那として戦った関東大会を思い出す。

 神龍寺、王城、そして白秋……楽な試合など、ひとつとしてなかった。どこが一番強かったか、とてもじゃないが選べない。

 だが神龍寺との戦いが初戦じゃなかったら。雪光という最大の隠し札がすでにオープンになっていたら。泥門は確実に敗北していただろう。そう思わせるほどに、神──神龍寺ナーガは強い。

 

 

 ──でも、負けない。神相手に戦って、勝つ。

 

 

 胸の奥で闘志を燃やしながら、アイルは一礼して雲水に背を向ける。

 すると、獲物を待ちかねていたかのように、阿含が顔を近づけ、絡んでくる。

 

 

「よう、ドリル女。雲子ちゃんにご執心でこっちは無視か?」

 

「……阿含さんの相手はセナだよ。喧嘩を売った相手なんだし、望むところでしょう」

 

「ククク。あんなすばしっこいだけのカスチビ、軽くひねってやる……手癖が悪ぃだけのテメーも──そこの才能のねえカスどももな」

 

 

 阿含が、アイルの背後に視線を向ける。

 横目で見ると、ヒル魔と赤毛のロスが、肩を並べて迎えに来ていた。

 ふたりと阿含の間に、不穏なものが走る。それを感じて、アイルは阿含に一礼した。

 

 

「では、この借りはフィールドの上で」

 

 

 公式の場で問題を起こされては敵わない。

 ヒル魔がなにか言う前に、アイルはふたりを引っ張って阿含と分かれた。

 そうしてアイルが泥門の席に戻ると、様子を見ていたセナが、なにやら不安そうに声をかけてきた。

 

 

「あ、アイル。阿含さん、なんかずっとこっち睨みつけてきてるんだけど……?」

 

「大丈夫だよ。セナの代わりにちゃんと宣戦布告してきたから」

 

「ひいいいい、なんでそんな恐ろしいことを……!?」

 

 

 アイルが微笑むと、セナは悲鳴を上げる。

 だけど、見た目ほどセナが怖がってないことを、戦う意志があることを、アイルは知っている。

 

 

「頂点を目指すなら、避けて通れない相手だから、だよ」

 

 

 アイルは答えた。

 【神速の反応速度(インパルス)】を持つ100年に一人の天才、金剛阿含。

 アイルにとっても、セナにとっても、先へと進むために越えねばならない大きな壁だ。

 

 それを知っているから。

 最強のライバルたち相手に、挑み続けた経験があるから。

 アイルは立ち向かえる。神にも、絶対の皇帝にも、そして五芒を描く世界の頂点にさえも。

 

 

「アイル……うん、そうだね。クリスマスボウルに行くのなら、誰が相手でも勝たなきゃだ」

 

 

 アイルの言葉を噛み締めて、セナは拳を握り込む。

 進清十郎を破り、正体を明かしたセナは、すでに戦士(フットボーラー)としての自負がある。

 

 確かな成長に、アイルは微笑をこぼし。

 より以上に、まもりが母性を溢れさせているのは、さておき。

 

 全出場校のくじ引きが終了し、会場のスピーカーから、大音量で関東大会の組み合わせがアナウンスされた。

 

 

『全国高校アメフト選手権関東大会Aブロック! 爪牙とスピードで大地を切り裂く北海道の狼、岬ウルブスVSその守備力は完全復活! 攻撃力を備えた最強城塞、王城ホワイトナイツ!!』

 

『無敵の早撃ちショットガンをひっさげて西部ワイルドガンマンズVSすべてを粉砕する静岡の猪突猛進ランナー、茶土ストロングゴ─レム!!』

 

『続いてBブロック! 攻撃&攻撃! 最強の矛を持つ悪魔軍団、泥門デビルバッツVS大会10連覇に王手をかけた無敗の神、神龍寺ナーガ!!』

 

『関東、いや日本を代表する超絶ヘビー級軍団、太陽スフィンクスVSSIC地区の新鋭はゴリ押し戦術の肉食恐竜、白秋ダイナソーズ!!』

 

 

 

 

 

 

 抽選会が終わって。

 現地でいったん解散したものの、中核メンバーは学校へと戻った。

 初戦の相手は関東大会9連覇の神龍寺ナーガ。対策はいくらでも打っておきたい。

 

 

「ヒル魔さん。神龍寺ナーガ戦、勝率はどれくらいですか?」

 

「8%」

 

 

 帰りの電車の中。

 アイルの質問に、ノンシュガーガムを膨らませながら、ヒル魔は短く答えた。

 アイルの時では考えられないくらい高い勝率と言えるし、肌感覚としては意外に低いとも感じる。

 

 

「それくらいですか」

 

「ああ、そんなもんだ。フィジカルで細かく上行かれてる上に、個人技も連携も作戦も、全部練度が段違いだ。おまけに金剛阿含と細川一休のツートップが止まんねえ」

 

「わたしやセナをぶつけても無理ですか」

 

「【神速のインパルス】っつってな。あの(ファッキン)ドレッドの真骨頂は天性の超反応だ。絶対的な反応速度で対応されちゃテメーの【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】は通じねえ」

 

 

 ヒル魔の分析は正しい。

 どれほど巧妙に重心を崩しても、それ以上の速度で立ち直られたら対処しようがないのだ。

 

 

「いよいよそういう領域ってことですね」

 

「ああ。地力も練度も知力も上の相手だ。博打でもなんでも打ちつづけて、崩しまくるっきゃねえ……ケケケ、東京大会の頃のデビルバッツじゃ、だがな」

 

 

 言ってヒル魔は口の端を邪悪に釣り上げる。

 

 そう。

 いまの泥門デビルバッツの実力は、東京大会決勝の頃のそれではない。

 

 

「そうですね! あれからみんな格段に成長しましたし……なにより関東大会からは、ロスさんが試合に出れる!」

 

「まだ医者の最終判断次第だが……その通りだともレディ・ゴリラ。大会後のレベルアップ&俺様の参戦を当て込めば、勝率は32%。おお、充分に勝ちを狙える数字ではないか……!」

 

「あはははは。めちゃくちゃ厳しい数字だけど、相手が神龍寺だからものすごくいい数字に見える……」

 

 

 アイルとロスの会話は、事実ではあるがなかなかに辛口だ。

 そのことに疑問を持ったのか、隣で聞いていたセナがひょこりと口を挟んでくる。

 

 

「でもさ。神龍寺ナーガが強いのはわかるんだけど、王城と比べてそんなに大きな差があるのかな……?」

 

「正直な、神龍寺と王城の戦力に、正味の差はねえ……が、相性の差がデケー。あとは天気。王城戦はオレらに都合が良すぎた」

 

 

 セナの疑問に、ヒル魔が答える。

 関東大会での王城戦のイメージがあるアイルにとっては、明確に格上というよりも、相性の差と言われる方が飲み下しやすい。

 

 

「まあ、台風ですごい風でしたからね。ヒル魔さんとムサシさんの、風を切るパスやキックが無かったら、泥門の勝ち目は相当薄かったでしょうね」

 

 

 実感を込めてアイルが同意すると、ヒル魔は口の端を釣り上げ、邪悪に笑う。

 

 

「天の助けは一度きりだ。悪魔は神に祈らねえ。持ってる手札で回しまくって……ぶっ殺す。それだけだ」

 

 

 

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