アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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04 恋ヶ浜戦後+アイル

 

 

 セナの活躍により、泥門の勝利で試合が終わって。

 光速の脚を見せたアイシールドに、助っ人たちは自分の部活に勧誘しようと目の色を変えて押し寄せたが、セナはそれより早く逃げてしまった。

 アイルのほうにも勧誘はあったが、いかんせん女子だ。助っ人たちは男子部所属ばかりだから、陸上部の石丸からダメ元で声がかかった程度だ。

 

 ともあれ、助っ人たちとは駅で別れて。

 アメフト部員の5人は、道具を部室に片付けるため、学校に向かった。

 

 

「でもすごいよね、あのアイシールドって人。セナと同じくらいちっちゃいのに、敵をみんな抜いちゃって、タッチダウンしちゃうなんて」

 

 

 アイシールドはセナ本人なのだが、まもりは知らない。

 セナが実力を示した以上、まもりにも明かしていいはずだが……

 ヒル魔にはそんな気なさそうだし、栗田はそんな気を回せる人じゃないし、セナはまもりがアイシールドを褒めまくるものだから、言い出せない様子。

 

 

「すごい選手だったでしょう? あれ、セナ君です」

 

 

 だからアイルがぶっちゃけた。

 本来そこまで重い秘密でもないのだ。

 まもりは身内だし、心配性で過保護だが、事実をみとめないほど頑なではない。

 

 なお、すでに彼女から自立したアイルがそう思ってるだけで、セナに対するまもりの保護意識はなかなかに根深いのだが、もう遅い。

 

 

「ええ……? 嘘だよね?」

 

「こんな嘘つかないですよ。運動部の勧誘避けにアイシールドしてるんです。たしかにセナは怖がりなとこあるけど……フィールドの上じゃ男らしかったでしょ?」

 

 

 まもりは視線をセナに移す。

 セナはこくりとうなずき、アイルの言葉を肯定した。

 

 

「最初は怖かったんだ。でも、いまは違う。アメフトなら、フィールドの上でなら、僕だって戦えるって──戦いたい気持ちがあるって、知っちゃったんだ」

 

「……危ないよ。怪我しちゃうよ。取り返しがつかないことになるかもしれないんだよ?」

 

 

 まもりの心配は、過剰ではない。

 アメフトは危険な競技だ。怪我や骨折も珍しくない。

 NFL(プロ)の平均選手寿命が3年という短さは、決して競争の激しさだけが原因じゃない。

 

 

「そうかもしれない。でも、不思議と怖くないんだ。アイルさん──アイルといっしょなら、なんでも出来る。そう思えるんだ」

 

 

 拳を握り、宣言するセナの覚悟に。

 まもりはしばし、動きを凍らせて……いきなり鼻から感涙をあふれさせた。

 

 

「ちょ、まもり姉ちゃん!?」

 

「大丈夫、大丈夫だから……ちょっとふたりの信頼が尊すぎて……」

 

「よくわかんないけど、それ大丈夫なの?」

 

「アメフト部に入ってくれて本当によかった……セナは立派に成長してくれるし、かわいいガールフレンドもできるし。お母さんもういつ死んでもいい」

 

「ほんとになに言ってるのまもり姉ちゃん!? 縁起でもないこと言わないでよ!? というか僕とアイルはそんなんじゃないからね!? というかいま自分のことお母さんって言った!?」

 

 

 大暴走するまもりに冷や汗をかきながら、アイルは全力で存在感を消していた。

 知っているまもりの反応じゃなさすぎて怖がってるアイルだが、そうさせた間接的な原因が自分だとはイマイチわかってない。

 なんか勝手に暴走してる、くらいに思ってる。実際は母性が暴走しただけである。どのみち暴走なのだが、まもり本人は幸せそうだ。

 

 

 

 

 

 

 2回戦の日程は1週間後。

 相手は強豪、王城ホワイトナイツだ。

 試合翌日、部室に集まった一同を前に、ヒル魔は対戦相手について語る。

 

 

「新入部員どものために簡単に説明すると、ホワイトナイツは都内最強の名門チームだ。ディフェンス重視で守って守って守り勝つスタイルだな」

 

「攻めて攻めて攻め殺すウチと正反対のチームカラーですね」

 

「ウチはそれっきゃ勝ち筋がねえからな。助っ人どももフィジカル的には悪かねえんだが、いかんせんアメフトじゃ素人だ」

 

 

 アイルの発言に、ヒル魔は答える。

 

 

「──つっても、王城は別格だ。まともにやりゃこっちの攻撃は1mmも通りゃしねえ──アイシールド21の(ラン)以外はな」

 

「つつつ、つまり、ぼぼぼ僕が全部走る……?」

 

「セナ君が見たことないような震え方してる……大丈夫?」

 

 

 ガックガクに震えるセナに、栗田が心配そうに声を掛ける。

 アイルは、怯えるセナの肩にぽんと手を置き、「大丈夫」と声を掛けた。

 

 

「セナは、わたしが守るから」

 

 

 まもりが、手で隠した口元から、なにかを垂れ流しながら感涙しているのはともかく。

 

 

「つっても(ファッキン)ドリル。アイシールドを狙ってくんのは進清十郎(しんせいじゅうろう)だぞ。40ヤード走4秒4、ベンチプレス140kg。高校最速にして最強のラインバッカーだ」

 

「ベンチプレス?」

 

「バーベルを使ったトレーニングの一種で、台の上に寝た状態でこう、バーベルを上げるんだ」

 

 

 ヒル魔の説明に疑問を挟んだセナに、アイルが説明する。

 

 

「それってどれくらいすごいの?」

 

「普通男子で45kgくらいかな。アメフト選手なら、バックスで60kg、ラインなら80kgくらいが目安だと思う……強い学校(とこ)は100kgで足切りしたりするって聞いたこともあるけど」

 

「ひえええ恐ろしい世界すぎる」

 

「泥門だと俺が75kg、(ファッキン)デブが160kgだな。こいつはクソ鈍足だが、パワーだけなら高校最強だ」

 

 

 どこか誇らしげに、ヒル魔は栗田の腹をぽこんと裏拳で叩く。

 

 

「──で、対する(ファッキン)チビは……テメーの体格なら普通の女並み──20kgってとこか?」

 

「見くびらないで。セナはわたしより貧弱なんだから!」

 

 

 まもりの言葉に、ヒル魔は可哀想な生き物を見る目になる。

 

 そりゃそうだ。

 この頃のセナはベンチプレス10kg。

 高校最速にして最弱の生物なのだから。

 もはや呪文を使えないメタルスライムである。

 

 

「で、この貧弱な(ファッキン)チビを進から守るテメーは勝てんのか?」

 

「スペックじゃ勝負になりませんね。わたしのベンチプレス、80kgくらいなので」

 

 

 ヒル魔の視線を正面から受け止めて、アイルは答える。

 地味にヒル魔より強い。セナが信じられない怪物を見る目で見てくるのは、ともかく。

 

 

「──でも、レスリングで培った引き出しがあります。1度や2度は、進さんを止めてみせますよ……絶対に」

 

 

 舐めているわけではない。

 光速の脚を持たないこの体では、過去進に勝った経験も活かせない。

 だが、また進清十郎と戦う機会を得たのだ。使える手札をすべて使ってでも、勝ちたい。

 

 アイルの宣言に、ヒル魔は口の端を邪悪に曲げる。

 

 

「自信の元は、恋ヶ浜のディフェンスをぶっ倒してたハンドテクか? あれもレスリング仕込みだろ」

 

「はい。レスリングだと、組み合っての重心の崩し合いが必須だから、その応用ですね。10年間の経験値にあかせたもので、理論だった技術じゃないんですけど」

 

 

 添えた手に加える荷重の精密操作で敵の重心を崩す。

 近いのは、盤戸スパイダーズの赤羽が使う【蜘蛛の毒(スパイダーポイズン)】だろうか。

 アイルが使うなら、悪魔の毒──【デビルバットポイズン】と名付けるべきかもしれないが。

 

 

「ケケケ、いいじゃねえか。さすがレスリングの申し子。最強のサラブレッドってとこか」

 

「あ、わたしのこと調べたんですね」

 

 

 唐突に異名をぶつけられたが、アイルは平然と返す。

 驚くまでもない。なにせヒル魔だ。相手の素性を調べるなんて、当然のようにやってるだろう。

 

 

「隠す気もなかったろ。名前調べりゃ一発だ。ファンサイトまであったぞテメー」

 

「ええええ、そんなのあるんだ……」

 

「小学生の頃からの大会成績とか、テレビや新聞の特集情報なんかあったぞ。ケケケ、ご丁寧に恋ヶ浜戦の時の画像もアップされてやがる」

 

「まだ現役で稼働してるんだ!?」

 

「隣で親しそうにしてるチビ許せねえとか書かれてるぞ」

 

「僕までとばっちり!?」

 

 

 セナが悲鳴を上げたのは、さておき。

 

 

「ま、そんなことは置いておいてだ。てめーが進清十郎を止めれんなら、そこは計算に入れてやるとして……王城戦まで1週間、出来ることはやんぞ。(ファッキン)デブ、(ファッキン)チビにアメフトの初歩を叩き込んどけ。(ファッキン)ドリルは俺とパスの練習だ」

 

「ぱ、パス連!?」

 

 

 ヒル魔の指示に、アイルは思わず声を上げる。

 

 セナの頃から、キャッチは苦手だった。

 練習に練習を重ねて、普通のパスならなんとか取れるようになったが、それでも時々ボールを持て余す時があった。

 球技経験が無さすぎてボールを追うカンがからきしで、おまけに手が小さく、握力もないのだから、キャッチが苦手でも仕方ない。

 

 一応、アイルの手は長身相応の大きさで、おまけにレスリングで培った握力があるから、原因は一部解消されているのだが。

 

 

「わたし球技経験、中3の大会以降の1年未満ですよ? たぶん助っ人の人のほうがちゃんと球追えますよ?」

 

「俺も、ンな短期でまともにレシーバーやれるとは思ってねェよ。だがいくらアイシールドが居ても、(ラン)プレーだけじゃ先に進んでくのはキチぃ。クリスマスボウルを見据えるなら、本職でレシーバーやれるヤツが()んだよ!」

 

 

 本職のレシーバーといえば、親友だった雷門太郎(らいもんたろう)──モン太だ。

 だがこの時期モン太は野球部1軍入りを目指して、必死で頑張ってる頃だ。セナみたいに売るわけにはいかない。

 

 

 ──そうだ。モン太が居ない分がんばらなきゃだ。

 

 

 思い至って、決意して、アイルはヒル魔にうなずく。

 

 

「わかりました。頑張ります……でもそうすると、セナの(ラン)プレーのリードブロッカーは」

 

「兼任。パスが取れるなら、ひとまずテメーをタイトエンドに放り込めるからな。まあタイトエンドに関しちゃアテがあるかんな。あくまで仮免許だ」

 

 

 そのアテ*1が、現在絶賛迷走中だという事実はさておき。

 

 タイトエンドは攻撃時のなんでも屋ポジション。

 走れて守れてパスも取れてとオールラウンダーな能力が求められる。

 

 未来の泥門デビルバッツでいえば、瀧夏彦のポジションだ。

 一見バカに見える彼だが、アメフトに関する知識と判断力だけは高く、40ヤード走5秒1、ベンチプレス90kg、やわらかいブロックと、キャッチ能力を備える、紛うことなきオールラウンダーである。震えるほどバカだけど。

 

 

 ──そういえば、瀧君どうしてるんだろう。

 

 

 実は匿名で、今年の泥門は受験者全員合格だって手紙を送っていたのだが、校内に夏彦の姿はない。

 

 アメフト好きな彼のことだ。

 入学してれば真っ先にアメフト部を訪れてもいいはずなのだが……

 彼ならいろいろすれ違って、やっぱりアメリカに行っちゃっててもおかしくないから困る。

 

 ともあれ、目下の目標は打倒王城。

 そのためには、アイルがキャッチをこなすしかない。

 

 

「よし、やりましょうキャッチ! 一週間、猛練習で!」

 

「ケケケ、覚悟しとけよ(ファッキン)ドリル! いまからテメーはライスくん*22号だ!」

 

 

 その呼び方で。

 アイルは特訓中、自分がどんな扱いを受けるのか察した。

 

 

 

 

*1
どぶろく先生。

*2
アメフト部の備品にして、パスの練習相手が居ないヒル魔のボールを受け続けたスゴい板。




本作の「キャラ崩壊」タグの原因=まもり姉ちゃん。
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