アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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47 閑話3 アイルと王様ゲーム

 

 

 関東大会決勝、王城ホワイトナイツ戦。

 激戦を勝ち上がり、両チームともに満身創痍で迎えた宿命の戦いは、死闘の末、延長戦に突入。

 泥門デビルバッツは怪我が完治していないヒル魔まで投入しての総力戦を戦い抜き、ついに勝利を収めた。

 

 死闘を制したものの代償は大きく、デビルバッツの面々は全員ボロボロだ。

 そんな彼らは、18日後に控える帝黒アレキサンダーズ戦のために、船上での関東大会優勝パーティを終えたその足で、湯治場に直行した。

 

 目的地は、那須塩原市にある塩原温泉。

 そこには、網乃大附属病院が所有する回復(リカバリー)施設がある。

 温泉プールに大規模リハビリ訓練室、酸素カプセルに高機能寝具まで完備された、アスリートのための最先端施設だ。網乃は泥門の支援に本気なのだ。

 

 

「やー! 気持ちいい!」

 

「ここの温泉はね、美肌効果抜群なの」

 

「あー、溶ける……」

 

 

 着いて早々、温泉に入ったアイルたちは感嘆の声を漏らす。

 施設自体も広いが、温泉も広い。浴場には、プロと思しきアスリートの姿も多く、気後れした鈴音は思わずアイルの陰に隠れてしまう。

 

 といっても、アイル自身が金髪縦ロールなのでめちゃ目立つ。

 美人で上背も高く、肉厚ながらも女性的なプロポーションだから余計だ。

 近くに居た柔道選手らしき女性が「こやつ……出来る!」的な視線をちらちら向けてくるので、アイルはちょっと落ち着かない。

 

 

「アー姉、背中流してあげる!」

 

「ちょ、鈴音。触りすぎ。くすぐったいよ」

 

 

 わちゃわちゃする二人を、まもりが慈母の微笑みで見守る。

 ちなみに鈴音は娘枠に収まっているので、まもり視点嫁と娘のじゃれ合いである。強めの幻想が過ぎるけど。

 

 その日はゆっくり休んで、翌日は静養の一日。

 温泉を始め、冷水浴、マッサージ、酸素カプセルによる休息。

 泥門のみんながそれぞれ疲労やダメージをゆっくりと癒し、迎えた二日目の夜。

 男子用の大部屋に集まった一同は、食後ののんびりした時間を、駄弁りながら思い思いに過ごしていた。

 

 そんな時、まもりがぽん、と手を叩いて提案した。

 

 

「せっかくゆっくり出来る時間なんだし、みんなでパーティゲームでもして遊ばない?」

 

 

 静養中ということもあり、枕投げやプロレスごっこもできない。

 基本的に暇を持て余している一同は、まもりの提案に興味を示した。

 

 

「──ゲームは、そうね。王様ゲーム、なんてどうかしら?」

 

「鈴音、王様ゲームって?」

 

「簡単に言うと、くじで決まった王様の命令には絶対服従! ってゲームだよ! 楽しいよ!」

 

 

 セナに尋ねられた鈴音が謎に推してるのはともかく。

 説明を聞いた瞬間、モン太やバスケ部の助っ人コンビ、山岡と佐竹がガタッと腰を浮かす。

 

 逆に乗り気でない──というより、まもりの提案に胡散臭げな視線を向けたのはヒル魔だ。

 

 

(ファッキン)マネ。別に止めはしねえが、俺はやんねーぞ」

 

「そこは強制じゃないわよ。あ、でも1年生は全員参加してくれたらうれしいかな」

 

 

 温泉に来ている一年生は、助っ人含めて12名。

 ノリノリなのはモン太と夏彦、鈴音、山岡、佐竹。

 流されてなんとなく参加は、三兄弟とセナ、アイル、小結。

 興味はないけどまあ協調はしますよって感じなのがロスだ。

 

 その様子に、まもりは満足げにうなずいて。

 

 

「じゃあ、王様ゲームのルールを説明するわね」

 

「──待てよ(ファッキン)マネ。参加者の一人が勝手にルール決めんのは不公平だよなあ? 歯止めも要るし、俺が作ってやんよ」

 

 

 まもりを制して、ヒル魔が意見を割り込ませた。

 ヒル魔に良心を求める方が間違ってるので、あえて意図を推察するなら、過激な命令による友情破壊や、感情がこじれる事態を回避したいってところだろうか。

 

 

「……! なら、私も不参加でいいわ。その代わり、ルール決めには私も意見させてもらいます!」

 

 

 ヒル魔の言葉に、まもりは鈴音に目配せしつつ、即答した。

 プレイヤーとして参加するよりもルール策定を選ぶあたり、まもりの目論見は過激な命令を息子(セナ)(アイル)にぶつけたいってとこだろう。

 

 

「おう。基本ルールは踏襲でいいだろ。ただし、命令はなんでもアリっつーのはよくねえ。これから帝黒戦なんだ。差し障る命令は弾きてえ。いっそ命令は事前に紙に書いとくのはどうだ? それを俺らで検閲すりゃいい」

 

 

 ヒル魔の提案は、ゲームを骨抜きにするものだ。

 この手のゲームは、場が盛り上がってくるにつれ、過激な命令が飛び出してくるからこそ面白いのだ。

 最初から命令を決めて、しかも検閲までされては、キスはおろか、ハグや「大好き」って言わせるのも難しくなってしまう。

 

 

「概ねその方針でいいけど、それだと盛り上がりに欠けるわ。なので、ゲーム序盤用の初級、中盤に入ってから使う中級、盛り上がってからの上級、三種の命令を用意することを提案します」

 

 

 対するまもりの提案は、ヒル魔の提案へのカウンター。

 あえて難易度に段階をつけることで、過激な命令を書きやすくさせる算段だ。

 

 

「そこはそれで問題ねえ。だが実際やってみて、こりゃ無理だって命令も出てくるだろ。各自1回、エスケープ権を持たせるってのはどうだ?」

 

「却下。それじゃ王様ゲームの面白さを損ないます」

 

「ケケケ、まあ聞け。この場合のエスケープ権ってのはな、命令をゲーム不参加の人間──要するに俺とてめえで肩代わりする権利ってことだ。これなら面白えだろ?」

 

「さすがに最大16人分の肩代わりは罰ゲームみたいなものじゃない! なら、2年生は全員身代わり役になってもらいましょう!」

 

 

 このやりとりで、ヒル魔はエスケープ権をねじ込み、まもりは悪ノリとは無縁の4人──年長らしい良識のあるムサシ、心優しい栗田、常識人の雪光、それに聖人の石丸を、命令作成に関われない身代わり役にすることに成功している。

 

 

「わかった。まあいいだろ。あとは実際やって、白けそうな命令は2年の過半数がダメっつったら引き直しだ」

 

「そこは全会一致を要求します! 『王様の命令は絶対』は出来る限り尊重しなきゃ!」

 

「必死すぎんだろ……代わりに検閲を多少強めんぞ……ま、あんまややこしくも面白かねえし、そんなもんだろ。1年どもは初級中級上級1枚ずつ、好きに命令書きやがれ。それを俺らで検閲すりゃちょうどいいだろ」

 

 

 まもりが外野からのストップをほぼ無効化し、ヒル魔がかわりに検閲を強める。というより、検閲で我を通すためにストップルールを持ち出した形か。

 

 ルールが大方決まって。

 だが、まだヒル魔とまもりの主導権争いは終わらない。

 

 

「ちょっと待って。どんなものを書いたらいいかわからない子も居るでしょうし、私が例題をいくつか書くから、まずはそれで練習しましょう」

 

「待て。俺も書く。二人で初級と中級1枚ずつ書いて計4枚。練習は3回。これでどうだ?」

 

 

 例題で支配できるのは、ルールではなく参加者たちの心理。

 当然それを察したヒル魔は止めにかかったが、半分でもピンク色な命令が混入すれば十分というのがまもりの見込みか。

 

 天才たちの(他人の)恋愛頭脳戦に、一同あっけにとられてるのはさておき。

 なまじ頭がいいだけに、察してしまったのだろう。赤毛のロスが、ヒル魔とまもりによる無駄でしかない高度な情報戦に頭痛を堪えてるのはさておき。

 

 こうして、泥門アメフト部1年生部員による王様ゲームが始まった。

 

 

 

 

◆練習編

 

 

 まずは小手調べ。

 全員がくじを引いて、書いてある番号を確認する。

 王様と書いたくじを引き当て、最初の王様になったのは、十文字だった。

 

 

「A番は──ここは自由に決めていいのか。『1番は練習が終わるまで、語尾に【にゃん】をつける』」

 

 

 1番のくじを引いていたのは、アイルだ。

 

 

「これはちょっと恥ずかしいにゃん」

 

「これ、命令した俺のほうが大火傷してねえか?」

 

 

 金髪縦ロール語尾にゃん美人の爆誕に、十文字が頭を抱える。

 

 

「大丈夫よ十文字君……もっと欲望を解放しなきゃ!」

 

「俺が望んだ命令じゃねえからな!?」

 

 

 外野から煽るまもりに、十文字は全力で抗議した。

 

 続く2回目の王様は小結。

 命令は「4番は王様に踏まれる」で、黒木が屈辱に耐えながら小結に踏まれることになった。

 

 そして3回目、命令の過激さが増す中級の命令カード。

 王様になったモン太が引いたのは、まもりの書いた命令だった。

 

 

「1番が2番に──膝枕!」

 

 

 中級でこれ? なら上級はもうちょっと無理してもいいよねって感じの、絶妙な難易度だ。

 逆にヒル魔の命令は、悪ノリを抑える方向性だったのだろうが……ここは持ち前の強運を発揮したまもりに軍配が上がった。

 

 ちなみに、当たったのはアイルと鈴音。

 

 

「アー姉、太もも高い……首が90度に……」

 

「ごめん。それは物理的にどうしようもないから……縦に寝る?」

 

「おおう、おもちが目の前に……」

 

 

 鈴音の生々しい実況に、山岡と佐竹がテンションMAXになっている。

 そして、各自自分の命令を書き始める、直前。

 

 

「ケケケ、どれくらいの命令なら弾かれないか、よく考えて書くんだな」

 

 

 ヒル魔が絶妙なタイミングで釘を刺す。

 もちろん、まもりも黙っていない。

 

 

「そうねえ。『服を一枚脱ぐ』くらいならセーフかしら?」

 

「アウトだ馬鹿野郎! 全員浴衣じゃねーか!」

 

「なら、帯くらいなら……?」

 

「ライン探ってくんな。おら、テメーらさっさと書きやがれ!」

 

 

 最後の最後まで情報戦で争って。

 それから皆が周囲を探り合いながら命令を書き終え、検閲で何枚か弾かれた後、いよいよ本番が始まる。

 

 

 

 

◆本番:初級編

 

 

「王様だーれだ!?」

 

「俺か」

 

 

 みんなのコールに応えて、戸叶が手を上げる。

 まもりがすかさず命令ボックスを差し出すと、戸叶は箱に手を突っ込んでカードを1枚引き抜いた。

 

 

「なになに……『次の命令まで、3番は王様の椅子になる』」

 

 

 椅子役の3番は──黒木。

 練習に続き、本日2度目の屈辱である。

 

 

「……なんかすまん」

 

「くっそー! スゲー納得行かねー!」

 

 

 続いて2回目。

 

 

「王様だーれだ!?」

 

「おっしゃあ! 王様キャッチMAX!」

 

 

 モン太が勢いよく手を挙げて、意気揚々と命令カードを引く。

 

 

「なになに……『8番は王様にだ、だ、大好きって言う』!」

 

「なんでそんなにテンション高いの……はーい! 私だよ!」

 

 

 番号を指名され、鈴音が元気よく声を上げる。

 

 

「よっしゃ鈴音! エスケープ権使ってくれ! あとで絶対埋め合わせするから!」

 

「何の迷いもなく!?」

 

「お前、6分の5で男にあたるのに……」

 

「まあモン太くんはそうするよねってわかってたけど」

 

 

 まもり一直線でリスクを一切顧みないモン太に、みんな敬意すら向けたのはさておき。

 わりと屈辱的な要求をされながらも、鈴音はなだらかな胸を叩き、モン太の意気に応じた。

 

 

「仕方ない! モンモンがそこまで一途なら、一肌脱いであげようじゃない! エスケープで!」

 

「じゃあ、身代わりはどうやって決めましょうか」

 

「サクッと決めるためにサイコロでいいだろ」

 

 

 まもりとヒル魔がサクッと決めて、サイコロが振られる。

 1から、栗田、ムサシ、ヒル魔、雪光、石丸、まもりの順だ。

 

 

「6来い6来い6来い6来い6来い……!」

 

 

 呪文のように唱えるモン太だが、サイコロは6……を飛び越えて、2の目で止まった。

 

 

「俺だな」

 

 

 と、手を挙げたのはムサシ。

 壮絶に爆死を遂げた男が爆誕した。

 ムサシの「大好き」は、その場に居た全員に鳥肌を立たせたという。

 

 その後、5つくらい命令をこなして。

 セナがロスに押しつぶされたり、山岡が武士口調になったり、十文字が鳥になったり、鈴音が歌を歌ったり、佐竹が犬になったりしながら、ゲームは中級編に移る。

 

 

 

 

◆本番:中級編

 

 

「王様だーれだ!」

 

「よっゃあああ! 俺が王様だ!」

 

 

 ここまで不憫な命令続きだった黒木が、喜び勇んで命令カードを取る。

 

 

「えーと……『3番が、5番をくすぐる』?」

 

「あ、5番わたしだ」

 

「なんでまたこういう命令で……」

 

 

 黒木が命令を読み上げると、アイルと十文字がそれぞれ手を上げた。

 

 

「なんかズリー!!」

 

「うるせえ! 代われるもんなら代わりてえよ! ……仕方ねえ、エスケープだ!」

 

 

 セクハラ命令を押し付けられた2年生ズから抗議の声があがったのはさておき。

 振られたサイコロの出目は6。まもりに決まった。

 

 

「さあ、このへんかなー? こしょこしょ」

 

「あっ、ちょ、まもりさん、くすぐったい……」

 

 

 まもりに容赦なく脇腹をくすぐられ、アイルは身を捩りながら悶える。

 

 

「むー! なんかズルい!」

 

「これすっごくよくない気がする……」

 

 

 ほのかに立ち込める百合の香りに、鈴音は頬を膨らませ、セナは心臓を抑える。山岡と佐竹は大喜びだ。

 

 続いて、中級の2回目。

 

 

「王様だーれだ!」

 

「あ、僕か」

 

 

 セナが手を挙げて、箱から命令カードを取る。

 まもりがガタッと腰を浮かせたが、ヒル魔に「座ってろ」と止められた。

 

 

「じゃあ読むね。えーと……1番は、最近やった恥ずかしい話をして」

 

「アハーハ! ボクだね!」

 

 

 セナの命令に夏彦がビシッ! と足を上げる。

 浴衣でやったもんだから、はだけまくって見苦しいと、鈴音にハリセンでぶっ叩かれた。

 

 

「でも残念! ボクの日常に恥ずかしいことなんて微塵もないのさ!」

 

「兄さんは神龍寺戦のあと、疲れすぎてお風呂で動けなくなって、私とママで救助したよ」

 

「マイシスター!?」

 

 

 身内からの容赦ない暴露に、夏彦は悲鳴をあげた。

 

 続いて、中級の3回目。

 

 

「王様だーれだ!」

 

「ふっ。俺様が──KINGだとも」

 

 

 謎のノリで、赤毛のロスが華麗にターンしながら名乗りを上げる。

 無駄に洗練された所作で、さっと命令カードを二本の指で挟むと、ぴっと裏返した。

 

 

「3番と7番は王様に──しなだれかかれ!」

 

「あ、3番僕です……」「7番は俺か……」

 

 

 選ばれたのは、セナと黒木。

 

 

「鈴音、写真をスタンバイするのはやめて……」

 

「いや、これは2年どもにトスする絶好のチャンス! 卑怯がモットー黒木浩二、ここはエスケープだ!」

 

 

 黒木のエスケープ宣言で、サイコロによって選ばれたのはヒル魔。

 結果、長身のロスの両脇に、セナとヒル魔の頭ツンツンコンビがしなだれかかる謎の絵面が爆誕する。

 

 

「ケケケケケ」

 

「なんだこれ。なんだこれ……」

 

「ククククク、なにも恥ずべきことはないとも。これはいわば──青春の思い出!」

 

「なんで謎にテンション高いの!?」

 

 

 その後、さらに2回ほど命令をこなして。

 夏彦が雪光と不運な命令に巻き込まれたり、小結が運よく栗田といっしょに平和な命令を受けたりして、十分に場も温まり──王様ゲーム最終節、もっとも過激な上級の命令が登場する。

 

 

 

 

◆本番:上級編

 

 

「王様だーれだ!」

 

「王様キャッチMA──X!!」

 

 

 上級の王様役を見事にゲットして、モン太がノリノリで人差し指を天に突き上げる。

 

 

「──そして命令はこれだぜ! 『6番が、王様と至近距離で30秒間目を合わせ続ける』!」

 

「……俺だな」

 

 

 めちゃ気が進まなそうに手を挙げたのは十文字だ。

 女の子たち相手に火傷な命令食らうのもゴメンだが、野郎と見つめ合うのもそれはそれで精神的苦痛が大きいのだ。

 

 

「よっし再チャレンジだ! エスケープ権を使ってくれ! 一生の頼みだ!」

 

「無理だ」

 

 

 相変わらずノータイムでまもりチャレンジを試みようとするモン太だが、十文字は首っを横に振った。

 

 

「なんでだよ!? まさかてめー俺と見つめ合いたいってのかよ!?」

 

「もう使っちまってるんだよ……エスケープ権」

 

 

 十文字の言葉を聞いて。咀嚼して。

 理解した瞬間、モン太はがっくりと崩折れた。

 それは見事な挫折のポーズだったという。

 

 続いて、上級2回目。

 

 

「王様だーれだ!」

 

「うおっしゃーでゴザル!」

 

 

 と、モン太並の大歓喜を見せたのは、武士口調を強いられている山岡だ。

 

 

「拙者の命令は……『1番は王様の指を10秒舐める』! でゴザル!」

 

「なんでこれ検閲通ったの……」

 

 

 みんなドン引きの中、おずおずと一本の手が上がった。

 

 

「あ。一番、わたしだけど……」

 

 

 アイルである。

 瞬間、山岡は感涙にむせび泣いた。

 

 

「──さすがにエスケープで。ごめんね?」

 

 

 山岡は泣いた。

 ワンチャン身代わり役にまもりをと期待したが、サイコロが選んだのは栗田だったから2回泣いた。

 

 そして、これが最後の命令となる、上級3回目。

 

 

「王様だーれだ!」

 

「やー!」

 

 

 歓喜の声をあげながら、鈴音が大きくジャンプする。

 すかさずまもりが命令箱を持っていき、鈴音が手を突っ込んだ。

 鈴音が「あれ?」と怪訝な表情を浮かべ、まもりが愕然とし、ヒル魔が「ケケケ」と邪悪に笑う。謎の攻防が起きているっぽいのは、さておき。

 

 

「えーと、命令は……『7番と3番がふたりのツーショット写真を携帯の待ち受けにする』!」

 

「あ、またわたしだ」「3番僕です……」

 

 

 当然のように当たったのはアイルとセナ。

 ピンポイント過ぎる指名だが、ヒル魔がスルーしてるため、不正はなかったか、あるいは温情で見逃されたか。ともあれまもりは奈落から這い上がり、優勝したかのようなガッツポーズを決めている。

 

 

「まあ、これくらいなら別に……」

 

「そもそもふたりとも、エスケープ権使っちゃってるしね」

 

 

 あきらめの表情で顔を見合わせるアイルとセナ。

 そんな二人を尻目に、鈴音がきらっきらの笑顔で指示を始める。

 

 

「じゃあ私がアー姉とセナの写真取るからね! はーい、アップで撮るから顔おもいっきり近づけて!」

 

「えーと、こんな感じ?」

 

「ええええアイル近い! 近いよ!?」

 

「こらセナ! もっとくっつかなきゃ画面に収まらない! アー姉もそんな借りてきたウサギみたいな顔しないでもっと笑顔で!」

 

 

 こだわりの強すぎる鈴音の注文を困惑しながらも、ふたりは顔を寄せ合う。

 背景が温泉宿、おまけにおそろいの浴衣姿なのも相まって、謎にカップルっぽいツーショット写真が完成してしまったのはさておき。

 そのあとアイルはねだられて鈴音とのツーショットを撮られたり、鼻から母性をあふれさせたまもりの注文でセナ、まもり、アイル、鈴音4人の写真を撮ったりしたのも、さておき。

 

 こうして、泥門のメンバーは帝黒戦に備え英気を養った。

 なお、それぞれの携帯の待ち受けになったツーショット写真が、家政婦の水戸さん経由でアイルの両親に伝わったり、セナが母親にうっかり見られることになるが、それはまだ先の話。

 

 とりあえずクラスメイトに待ち受けを見られたセナは、かつてない勢いで超追っかけられたという。

 

 

 

 

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