アイルさん。お元気ですか。
いよいよクリスマスボウルですね。
泥門は勝ち上がってくるって、私、信じてました!
帝黒のレギュラー争いは相変わらず大変ですけど、なんとか一軍を死守してます。
アイルさんと戦えるって信じて、大和くんたちに手伝ってもらって猛特訓してたんですよ。決勝では見ててくださいね!
PS:峨王さんをふっ飛ばしたアイルさんの映像を見て、平良さんが頭抱えてます。
──小泉花梨
花梨さん、ありがとう。
王城戦、ホントキツかったけど、なんとか勝てました。
花梨さんたちは勝ち上がってくるって知ってたけど、まだ強くなるの……?
花梨さんたちがどれくらい強くなってるか、ちょっと怖いけど、クリスマスボウルが楽しみでワクワクしてます。
わたしも、花梨さんを驚かせられるようにがんばります。
PS:平良さんやアキレスさんもふっ飛ばしたいですね!
──天王洲アイル
そんな感じで花梨とメールのやり取りしながら。
王城戦の疲労と傷を温泉でゆっくり癒したアイルたちは、帝黒戦に備えた特訓に励んでいた。
関東オールスターをコーチにつけたスペシャル特訓。
アイルの担当は、同じタイトエンドで前年度関東MVP、赤羽隼人だ。
重点メニューは1on1のブロック練習。
スピードやパワーは赤羽が上。テクニックは、理論の赤羽とセンスのアイルの違いはあれど、互角。
「さすが赤羽さん……強い!」
「フー、感じる! 感じるぞ! 君の指先の
赤羽のテンションがちょっとキモかったのはさておき。
互角の技量を持つ相手との、ハイレベルで拮抗した勝負は、アイルにとっても得るものが大きい修練だ。
そんな感じで、帝黒戦までは連日特訓漬け。
泥門には合宿所もあるから、練習後も居残る選手は多い。
というか巨深の水町とかもう住んでる。栗田や小結とはルームメイトだ。
選手もコーチ陣も、打倒帝黒に向けて意気軒昂。
とはいえ、それだけじゃ回らないのも事実。抜かりないヒル魔やロスたちは、士気高揚のための催しも忘れない。
ある日の練習後。
普段は直帰する連中も残って、少し遅めの夕食は豪華バーベキューパーティ。
校長の車から大量の肉と野菜が荷下ろしされると、あちこちで野太い歓声や雄叫びが上がった。雄叫びは峨王である。
薄暗い校舎の中、合宿所の軒先だけが照明に照らされて、明るい。
並べられたドラム缶バーベキューコンロの前で、まもりが手際よく串焼きをひっくり返し、鈴音が手早くアウトドアテーブルに並べていく。
「美味さMAX!」
「あはははは、ヘトヘトだからめちゃ美味しい……」
「カラァァァイ!? アリエナァァイ!?」
ちなみにロシアンバーベキューなため、激辛肉が混じってたりする。逆に最上級の松阪牛なんかもあるギャンブル仕様だ。
アイルもまもりたちを手伝いながら、合間に炭火で炙った肉串をぱくついていると、峨王と栗田が巨体を揺らしながらやってきた。
「アイルちゃん」
「あ、栗田さんに峨王くん……肉の量すごっ!?」
ふたりが両手に持った串焼きを見て、アイルは思わず声を上げる。
栗田は野菜ドッサリ肉ドッサリの串焼きを両手に装備してて、峨王は肉オンリーのギガ肉串焼きを両手で支えてる。二刀流と両手持ちだ。
「あのね、串焼きのおかわり貰っていい?」
「このうえなお!?」
思わずツッコんだが、言ってる間に栗田も峨王も半分近く食べてしまっている。
一瞬にしておかわりが必要な大食いっぷりを見れば、焼く方が追いつけるか心配になってしまう。
が、段取りのいいまもりは、当然ふたりの来襲に備えている。
「アイルちゃん、栗田くんと峨王くんの分はこっちに焼いてあるから」
「あ、なら足りるかもですね。ふたりとも、おかわり焼いとくから、とりあえずこれでつないどいてください」
「ありがとう!」
笑顔になって、栗田がさっそく串焼きにかぶりつく。
峨王もドネルケバブ*1かってデカさの塊肉にガブリと食らいついて、口の端を獰猛に釣り上げる。
「天王洲アイル。精気
「その精気滾るっての、もうちょっと穏当な表現にできない……?」
「そんな事はどうでもいい。俺に【
なんかそんな気はしてたが、峨王は【Δダイナマイト】にご執心だ。
まあ
「教えるのはいいですけど……栗田さんとの練習では使わないでくださいよ? いま栗田さんに故障されたら、帝黒戦ぜったい勝てないですから」
「無理だな」
「ですよねー」
ダメ元で頼んでみたが、峨王に即拒否され、アイルは乾いた笑いを浮かべる。
【Δダイナマイト】の試金石として、峨王が自分より強い栗田を選ぶだろうことも、覚えたら即座に使うだろうことも簡単に予想がつく。知ってたすぎる反応である。
「アイルちゃん、ちゃんとタックルダミー使うし、僕なら大丈夫だから……」
「ふん、案ずるな」
フォローする栗田の言葉を遮って、峨王は鼻を鳴らす、
「──泥門は、白秋が
「峨王くん……」
「勝てよ天王洲アイル。
そう、言い残して。
また串焼きのおかわりをして、峨王と栗田は去っていった。
◆
その後、赤毛のロスと筧のフェニックス中コンビが来たり、小結と水町の凸凹コンビが来たり、三兄弟が来たり、栗田峨王コンビが再び襲来したりして、肉を焼くのが間に合わなくて若干ワタついた後。
ようやく次の肉が焼けた頃合いに、王城の桜庭がやってきた。
ちなみに進はすでに食事を終え、カジノな部室の看板にとり着けられたデビルバットの上で倒立腕立てをしている、というのはともかく。
「はい、どうぞ。桜庭さん」
「ありがとう……前から思ってたけど、その縦ロール、試合の邪魔にならないの?」
串を取って振り返った拍子に、アイルの
「あはははは。桜庭さんくらいバッサリいけたら楽なんですけどね。もうトレードマークになっちゃってますし……でもヘルメットのせいか、最近前髪がぴょんって跳ねてきてるんですよね」
「それ虎吉も言ってたなあ。俺もそうだし、ヘルメットでクセ毛になったってのはあるのかもね」
東京ベストイレブンの記念品──モデルSAKURABAのスパイクのせいだという事実はともかく。
「──でも、さすがにベリーショートはファンの子たちにも賛否両論なんじゃない?」
「昔から、ちょっと憧れてたんですけどね。レスリングだと女の子のベリーショートは珍しくなかったですし。ちょうど桜庭さんみたいな感じの女の子とかも居ましたよ」
「それは俺が女顔だってこと……?」
「いやあ、あのヒゲ坊主の格好見たら、だれもそんな事言わないと思いますよ。実際、いまの桜庭さんってかなり精悍な部類ですし」
坊主、と聞いて、神龍寺の雲水と太陽の番場の坊主頭コンビが振り返ったのは、ともかく。
アイルの言葉に、桜庭は照れ隠しにか、頭をかきながら苦笑をうかべる。
「はは……なんか新鮮だね。いつもは記者さんとかカメラの前だから……こうして普通に話すのも珍しいよね」
「といって、別にメディア向けに話を作ってはないんですけどね。基本本音で」
同世代相手に無双してたアマレス時代は、記者の質問にどう穏当に答えるか困ったものだが……
アメフトでは言って角が立つ本音なんてないので、正直に話せるからありがたい。
「それに関しては、俺がひねくれてるのもあって、素直に飲み込めなかったってのもあったんだよね。春大会の時とか、自己評価よりかなり高く評価されてたし」
「でも桜庭さん、わたしの評価が大げさじゃないくらい強くなったでしょ?」
「それを春の時点で言えるのがすごいんだよなあ……」
「知ってましたから」
ふふん、とアイルは胸を張る。
桜庭は苦笑を浮かべて、それから居住まいを正した。
「……正直、君たちがクリスマスボウルの舞台に立つなんて思わなかった。関東大会が始まった頃でも、わりと」
「あはははは。そりゃ初戦が神龍寺でしたもんね」
泥門が東京大会の覇者だって事実を加味しても、勝つのは厳しいって評価が打倒だ。
抽選で組み合わせが決まった時、大半のアメフト関係者が、決勝は神龍寺VS王城、あるいは西部だと予想しただろう。
「でも、君たちはそれを全部乗り越えた。そして……春には格下として、秋の東京大会決勝では同格として。そして関東大会決勝では、格上として、
「といって、どっちも準決勝のダメージありありで、どっちも完全だったら勝負がどうなってたかわかりませんけどね」
関東大会の王城戦、泥門はヒル魔を、王城は高見が負傷でスタメン落ちした状態で始まった。
どちらもボロボロだったが、ハイレベルな第二
だが、アイルの言葉に、桜庭は首を横に振る。
「勝負の場で『たられば』は言っても仕方ないよ。勝ったチームがすべてを手に入れる。その中には『相手よりも強い』って評価も含まれると、俺は思ってるよ」
「あはははは。じゃあ関東最強の名前を背負って、クリスマスボウル、行ってきます!」
桜庭が、拳を突き出す。
そこに籠もった王城の、桜庭の夢を受け取るために、アイルはこつんと拳を当てた。
◆
桜庭が去って、配膳に戻ると、ちょうど神龍寺の一休と西部の陸がおかわりに来ていた。
鈴音は追加のドリンクを取りに行ったので、ふたりはまもりから直接串焼きを手渡しされていた。
美人に弱い一休は、まもりの手渡しにドギマギしていて、陸はまもりからナチュラルに弟扱いを受けてタジタジだ。
それから、戻ってきた鈴音と雑談しながら、代わる代わるやってくる選手たちに肉を配っていると、まもりが声をかけてきた。
「アイルちゃん、鈴音ちゃん。モン太くんたちが手伝ってくれるから、休んじゃって」
「はーい! アー姉、いっしょに食べよう!」
「うん。まもりさんも、ほどほどにして食べる側に回ってくださいね」
言いおいて、鈴音といっしょにグラウンドに降りる階段に腰を下ろす。
階段には他にヒル魔やムサシ、雲水、キッドがグラス片手にそれぞれ距離をおいて座っていて、一種近寄りがたい大人びた空間になっていたが、鈴音はまったく気にしていない。
アイルと鈴音が隣り合って座り。
見計らったかのように、キッドが穏やかに声をかけてくる。
「あらためて、
鈴音が、所有権を主張するように手をアイルの腰に回したのは、ともかく。
「キッドさん。ありがとうございます。こんなにすごい人たちがコーチしてくれてるんですから、絶対勝ちますよ」
「あの帝黒に……とは言わないでおくよ。泥門は強い。東京大会で戦った、あの頃とは比べ物にならないくらいにね」
「あはははは、キッドさんにそう言われると、なんかうれしいです」
アイルは思い出す。
アメリカでの夏合宿。ベン牧場で、おたがい夢を語り合ったことを。
東京大会準決勝前。泥門の体育祭で、おたがいのチームを認めあったことを。
そして関東大会準決勝前、決勝に勝ち上がっておたがいの夢の決着をつけようと誓っいあったことを。
「結局のところ、最後は僕が約束を破っちゃったわけだけどね」
「そんな、滅相もない。結局わたし、キッドさんの早撃ちには一度も勝ててないですし……」
「いやいや。僕を捉えた進氏の【トライデント・チャージ】を、君は止めて見せたんだ。間接的には負けてるんだよ。これが」
言ってキッドは肩をすくめる。
だが、アイルは納得しない。出来ない。
光速の足を持たないアイルには、進と同じ事ができない。なら、間接的、なんてのはこじつけでしかない。
「それは……ズルいです。来年の春に、またやりましょう」
「……先の話をするより、いまは目の前の
「……だがまあ」と、キッドはテンガロンハットを目深に被って、口の端を曲げる。
「──あの帝黒に勝った最高のチームに、また挑戦するのも、悪くないかもねえ」
「……はいっ!」
アイルは満面の笑みで大きくうなずく。
帝黒に勝つ。
その後は高校ワールドカップ。
そして来春には、より強くなった西部や王城、白秋、神龍寺、他の強豪たちとも戦える。
そう思うだけで。
アイルは
「──楽しいよね、アメフト!」
誰にともなく、アイルはつぶやく。
階段の暗がりの中、複数の人間が微笑する気配がした。