1週間後。
4月17日、聖泉球技場。
天然芝のグラウンドを有する決戦の地は、観衆で満ちていた。
マイナースポーツの地方大会。佳境でもないただの2回戦で、これほど人が集まった原因は、ジャリプロ所属の人気男性アイドル、
テレビカメラも入っており、リポーターがいろんな人に取材して回っている。
「おい
毎度どんな手管を使ってるのか疑問だが、ヒル魔だからそういうもんだと思うしかない。
「泥門デビルバッツ入部受付中!」と書かれたバイザーを付けさせられ、取材場所に向かった。
特設スタンドの前には、テレビクルーが陣取っていて、面識のある何人かが、「たのむよ」と気さくに手を振ってくる。
カメラの前にはすでにリポーターの女性と、王城の桜庭が並んでいる。
「──さて皆様、エース桜庭さんの対戦相手泥門デビルバッツに、思わぬ有名人が居たので、来てもらいました! みんな誰だと思いますか? 当番組にも出てもらったことがある、『姫ご乱心』で有名な、アマチュアレスリングの天王洲アイルちゃんです!」
早速リポーターに取材されて、アイルは戸惑いながらも居住まいを正す。
全中女子三連覇の場で「アメフトやりたい」って言った事件にそんな名前がつけられてたのは初耳だが、いまは流すしかない。
「どうも、お茶の間の皆様、ご無沙汰しております。天王洲アイルです。現在は泥門デビルバッツに所属し、クリスマスボウルを目指してます」
「アイルちゃん、クリスマスボウルってなんですか?」
「高校アメフト秋大会の全国決勝のことですね。一番を目指すってことです」
「おおー。その最大のライバル。エース桜庭さん率いる王城ホワイトナイツとこれから戦うわけですが、アイルちゃん、抱負をどうぞ!」
「王城ホワイトナイツは、はるか格上の相手。こちらが挑戦する立場です。胸を借りるつもりで挑ませてもらいます」
「さあ、対する桜庭さん。挑戦者アイルちゃんに対して、ひと言!」
「いや……女の子なのに、男に混じって頑張ってるってすごいと思う。こちらこそ、よろしく」
挨拶とともに、桜庭が手を差し伸べてきたので、アイルも握り返す。
なんか観客席から悲鳴とブーイングが上がったが、取材なので勘弁して欲しい。
「アイルちゃん、これから対戦するエース桜庭さんの、どんなところがすごいと思いますか?」
「高さ、ですね。桜庭先輩は長身の上に手も足も長い。わたしが届かないような高さでキャッチされたら手も足も出ませんから、要警戒です」
「はい。アイルちゃんも注目している桜庭くんのキャッチ。これから始まる試合でもぜひ注目して下さい! ──はいOK、ふたりともありがとう!」
「こちらこそ」とリポーターや取材班に挨拶をして。
みんなのところに戻る途中、「天王洲さん」と、桜庭が追いかけてきた。
「取材ありがとう。ごめん。気を使ってもらっちゃって」
「こちらこそ……気を使う?」
「いや、俺なんかをエースだって持ち上げてくれて」
「いやいや、なに言ってるんですか。普通に本音ですよ。桜庭さんの高さは脅威です。去年の練習試合の映像で見ましたけど、あんな高いとこでキャッチされたら、手がつけられません」
本当は、未来の桜庭をイメージして語ってたのだが、話すわけにもいかない。
アイルの言葉に、桜庭は驚いたように目を開いて。照れくさそうに頭をかいた。
「ありがとう。ホントのこと知らないみんなにエースエース言われて、不貞腐れちゃってたみたいだ。泥門との練習試合のアレは出来すぎだったけど、あんなプレイをいつも出来るようにがんばるよ……でも、ひとつ、訂正」
そう言って、桜庭は自陣を振り返る。
都内最強。栄光ある王城ホワイトナイツのメンバーが並ぶ中、視線の先はただ一点。
「うちのエースは進──
「ええ、知ってます。王城ホワイトナイツのもう1人のエース。最強のラインバッカーのことは……でも、負けません。勝つのは泥門デビルバッツです」
「勝てないさ、たとえキミでも。東京の王座はそんなに軽くない」
桜庭の言葉は、耳に入らない。
見据えるは進清十郎。昔も今も代わらぬ目標であり続ける最強の男のみだ。
◆
王城ホワイトナイツ対泥門デビルバッツ。
王城はディフェンスの要、進清十郎を欠いた状態で始まった。
開幕、デビルバッツの攻撃はアイシールド21の
王城ディフェス陣のパワーと連携の練度は恋ヶ浜とは比較にならない。
さすがのセナも、王城の連携の前では走行ルートを見いだせない。
だが。光速のランナーには、王城の突撃を防ぐ頼もしい盾──天王洲アイルが居る。
──強い。硬い。
王城ディフェンスの圧力を肌で感じながら。天王洲アイルは笑う。
──でも、渡り合える!
東京最強の守り。本物たちを相手に、正面からぶつかりあえている。
セナの頃では想像もできなかった力と力、技と技の真っ向勝負に、アイルは闘志をたぎらせる。
──【
相手の動きをコントロールし、重心を崩すアイルの必殺技。
たたらを踏んだ敵を払い除け、生じた空隙を──セナが突き抜ける。
止まらないまま、セナは。アイシールド21はゴールラインを駆け抜けた。
──試したい。どこまで行けるのか。あの進さんに、いまの僕がどこまで通用するのか。
前回は超えられなかった、春大会での王城の壁。
たとえ自分が加わったとしても、勝率はごくわずかだろう。
ヒル魔、栗田、アイル、セナ……個々の力では負けてなくても、磨き抜かれた作戦が、高度な連携が、王城の壁を厚く厚くさせる。
だが、初回の攻撃だけは。
『泥門デビルバッツ、タッチダウーン!!』
文句なしに泥門の勝利だった。
その後泥門優勢のまま、攻防を繰り返して。
ついに日本史上最強のラインバッカー、進清十郎がフィールドに姿を現した。
残り25ヤード地点からの、セナの
爆速ダッシュで王城陣に割って入るセナに、進清十郎が突撃する。
セナを守るアイルともども、突撃槍の一撃──【スピア・タックル】の餌食にせんと駆ける。その速度は40ヤード走4秒4。音速の世界。
──速い!
迫りくる進の一撃に、アイルは驚愕する。
いまのアイルは、光速の世界の住人ではない。
そんな彼女にとって、進清十郎の音速の突進は、回避不能の一撃。
だが。
アイルとて、刹那の攻防の中に生きるレスリング世界の住人。
伸ばした手による突撃槍の打点をずらし、身をよじりながら敵の懐に入り込み──遅効性の悪魔の毒を流し込む。
──【
密着した状態からのハンドワークで進の重心をずらす。
だが、進清十郎は崩れない。
強靭な体幹と圧倒的なパワーが、未体験の技術をすら無理矢理に抑え込む。
だが、十分だ。
光速の世界の住人が進清十郎を突き放す。そのための時間としては、十分。
『泥門デビルバッツ。鉄壁の王城ディフェンスを抜いて、なんと2度目のタッチダウーン!!』
「Ya──Ha──!!」
驚愕のどよめきが観客席から漏れる中、悪魔の叫びが会場に響き渡った。
それから。
泥門は王城の攻撃で
アイシールドの
前半を【泥門12‐10王城】で折り返し、続く後半戦も、ジリジリとした一進一退が続く。
徹底マークの中、走り続けるセナの消耗は激しく、進からセナを守り続けるアイルも、肩で息をしている。
他にもプレイ中進のタックルを食らったメンバーが2人交代を余儀なくされており、セナも回復のため一時交代。泥門は満身創痍の様相を呈してきた。
泥門は攻防両面で出張っている選手が多い。
自然影響は、ディフェンスにも如実に出てくる。
王城の
要のセナを欠いた泥門の攻撃は振るわず、【泥門12‐24王城】のまま、試合は終盤を迎える。
◆
終盤。
アイシールド復帰のタイミングに合わせて、タイムアウトが取られた。
泥門一同がチームエリアに集まる中、疲労とダメージを隠せないアイルに、まもりが不安げに声を掛ける。
「アイルちゃん大丈夫? 無理しないで」
「大丈夫。わたし、うれしいんです。高校最強相手に戦えることが」
渡されたタオルで流れる汗を拭いながら、アイルは答える。
「
ヒル魔は言うが、アイル自身は自ら望んでやってるし、実は楽しんでる。
だからまもりに申し訳無さそうにされても困るのだが、「オラワクワクしてきたぞ」みたいなこと言ってもドン引き間違いなしなので、黙ることにした。
「あの……」
気まずい沈黙を破ったのはアイシールド──セナだった。
「一度だけ、逆やらせてもらっていいですか? 僕が守って、アイルが攻める。みたいな……あはは、自分でもなに言ってるかわからないけど」
「セ──アイシールド君……」
「僕だって、アイルに守られてばかりは嫌だ。僕も戦わなきゃいけないんだ。あの進さんと」
心配気なまもりに、セナはアイシールド越しに視線を向ける。
セナの示した覚悟に、ヒル魔は口の端を釣り上げて──笑った。
「ケケケ、よく言った
言って、ヒル魔は作戦を語る。
そして、タイムアウトが終わり、泥門の攻撃。
セナが受け取ったボールを、並走するアイルにトスする。
セナを先導させての、アイルの
アイルに向かって一直線に向かってくる進との間に、セナは臆せず割って入る……が、進の【スピア・タックル】に弾き飛ばされる。
セナが稼いだほんのわずかな時間を使い、アイルは前に出る。
外側を守る王城ディフェンスを、減速なしの切り返し【デビルバットゴースト】で抜く──が、光速ならぬアイルの脚では、ただのクロスオーバーステップ。反応されてしまう。
しかしそれも承知の上。
ぶち当った肩を支点に体を回転させる。
【スピン】で相手をねじり抜いたところで、進が追いついてきた。
40ヤード4秒4の音速から繰り出される疾風の一撃、【スピア・タックル】が背後から伸びてきて、アイルの動きを止める。
止められたとはいえ、デビルバッツは8ヤードの前進に成功した。
「セナ、大丈夫?」
「大丈夫。痛いけど、やれるよ」
身を起こすのを手伝うと、存外元気な声が返ってくる。
「──何度でも、戦ってやる」
「パワーは敵わない。でもスピードと
続いての攻撃は、セナの単独
ここで、ライン際を走るセナと、うっかりフィールドに入ってきた桜庭が衝突するトラブルがあり、桜庭の負傷でプレイが一時中断してしまう。
仕切り直しのプレー。
桜庭の思わぬ負傷。王城のわずかな心の動揺を、ヒル魔は見逃さない。
ヒル魔からボールを受け取り、敵陣に向かって駆け出したセナは、突然背後を振り向いて、ヒル魔にトスする。
手元に引き戻したボールを構えて、ヒル魔が投げる先は、王城がマークするレシーバーのどちらでもない。
ライン同士がもみ合う中央。二人がかりで左端を崩し、すばやく中央に回り込んできたアイルだ。
アイルに飛球を追うカンはない。
だが、ずっと練習してきたヒル魔のボールだ。球筋は読める。
ボールを両手に収め──お手玉しかけるが、指先の力にあかせてがっちりと止める。
パス成功。そこからの
だが。その脇をぴったりと。セナが走る。
進の進路を妨害するように。体を目一杯密着させて。
セナに妨害されながらも、進は【スピア・タックル】を放つ。
アイルはそれを右腕で凌いで──左手で、ボールをセナに手渡した。
「最後の盾役は、
進とアイルはがっぷり四つに組む。
組んだ手のひらは、吸い付いたように進から離れない。
2度、進の重心を崩しながらも、消耗激しいアイルが稼げた時間は、ほんの2秒。
その間に。
セナはディフェンス2人を躱し、ねじり抜き、一直線に駆ける。
遅れて進が追う。
だが、追いつけない。
高校最強の音速の脚は、アイシールド21の光速の脚を捉えることが出来ず、どんどん離されていき。
『泥門デビルバッツ。タッチダウーン!!』
アイシールド21は、不破の王城の鉄壁の門を、3度打ち砕いた。
だが、進に打ち勝った代償は大きかった。
本来瞬間しか出せない光速を、進を突き放すため無理に維持したセナは、タッチダウンの瞬間疲労でぶっ倒れる。
残る時間、泥門はアイシールド不在で戦わざるを得ず。
『試合終了ー! 泥門デビルバッツ対王城ホワイトナイツの試合は、18‐27でホワイトナイツの勝利です!』
春季東京大会、泥門デビルバッツは2回戦敗退で終わった。
アイシールド2/1にお付き合いいただき、ありがとうございます!
次回、チャット回です。