アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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07 王城戦後+アイル

 

 

 王城戦が終わって翌週。

 なぜかカジノに魔改造された部室に全員集まって、ミーティングが開かれた。

 カジノの壁面には、アイシールドの(ラン)を大写しにした部員募集のポスターが貼ってあり、セナが居心地悪そうにしている。

 

 

「ケケケ。おありがてえことに、王城戦のテレビ放送がありやがったからな。校内でもアメフトの知名度が爆上がりだ。戦力強化のチャンスだ!」

 

「特に専業レシーバーだね」

 

 

 ヒル魔に続いて、栗田がふんすと主張する。

 

 

「パスプレーで唯一計算に入れられる(ファッキン)ドリルが何でも屋(タイトエンド)だからな。贅沢言やどんなプレーでもパスは常に手札に置いておきてえ」

 

「いや正規レシーバー欲しいってのは、贅沢とは言いませんよ。頑張って探しましょう」

 

「ま、やれることはやる。そりゃ前提だが……根性ねえやつは弾きてェ。だから、チラシでも一発カマす。なーに簡単だ。泥門のチームカラーを全面に出してやりゃいい」

 

 

 椅子の上でふんぞり返り、足を組んで。ヒル魔は邪悪に言い放つ。

 

 

「──最凶チーム! 悪魔のコウモリと書いて──その名は泥門デビルバッツ!」

 

「ひええ、かっこいいけど恐ろしい……」

 

「テレビでアイシールド21を悪のカリスマに仕立てたのも、イメージ戦略だな。対戦相手までビビってくれれりゃ万々歳だ」

 

 

 光速で身震いしてるセナに、ヒル魔は笑って説明する。

 まあデビルバッツの邪悪要素は、現状ヒル魔が一身に背負っている。

 最強、悪魔をチームカラーとして全面に出すなら、人気男性アイドルを病院送りにしたセナは格好の素材だ。

 

 

「悪魔の司令塔に、悪魔のランニングバック。エースはチームの看板だから、ここでハッタリ効かせると、他が普通でも『悪魔の軍団』って感じになりますよね!」

 

「ケケケ、その通りだよウチの二枚看板くん」

 

 

 アイルの言葉を肯定しながら、ヒル魔はなにやら不吉なことを言う。

 それは、アイルもまた、デビルバッツの看板──ハッタリを効かせるべき存在だということで。

 

 

「──(ファッキン)ドリル。なにかと目立ってるテメーも、イメージづくりに協力してもらおうか。なに、ちょっと悪魔っぽいメイクしてくれりゃいいんだ、ホレ、こんな風に」

 

 

 言って、ヒル魔はノートパソコンを操作し、部員たちに向ける。

 みんなでのぞき込むと、そこに映っていたのは、アイルの写真画像だ。

 ただし、真紅の唇に、アイラインが切れ長に強調され、目元や首筋にハートマークが描かれた──小悪魔かサキュバスって感じのアイルだ。

 

 

「あ、あ、アイルさん?」

 

「なんで敬語に戻るのセナ。いや、わたしこんな化粧してないからね!?」

 

 

 ドン引きのセナに、アイルはあわてて自己弁護する。

 そんなふたりにお構いなしで、ヒル魔は画像について説明を始めた。

 

 

「ケケケ、パソコン研究部に作らせたコラ画像だ。試合ん時はこいつを見本に、メイク班に化粧させる!」

 

 

 なんだろう。ヒル魔は「メイク班」って言ったはずなのに、みんなの耳には「奴隷」って聞こえている。

 

 

「校内ではダメだからね! さすがに風紀委員として見過ごせないレベルだし、アイルちゃんの風評にも関わるんだから!」

 

 

 なんだろう。まもりは「アイルちゃん」って言ったはずなのに、みんなの耳には「義娘」とか「うちの嫁」って聞こえている。

 

 

「こ、こ、これはあんまり良くない気がする……」

 

 

 画像を見ていたセナが、震える声でヒル魔に反対する。

 その意見を聞き入れたわけでもないだろうが、パソコンに手を伸ばしながら、ヒル魔はセナに尋ねた。

 

 

「もっとタトゥーシールとかベタベタ貼ったやつもあるんだが、そっちにするか?」

 

「もっとダメー!! ……まもり姉ちゃん? なんでこっち見てニコニコしてんの?」

 

「おほほ、おかまいなく」

 

 

 まもりは、あいかわらずいい空気を吸ってツヤツヤだ。

 

 

 

 

 

 

 雷門太郎(らいもんたろう)。愛称はモン太。

 泥門デビルバッツの、未来のワイドレシーバー。

 セナにとって頼もしい相棒であり、親友である彼がデビルバッツに入るのは、王城戦後のこの時期だ。

 

 彼の入部に関しては、アイルは心配していない。

 セナがなんとかしてくれると信じてるし、それ以上に、最終的にモン太がデビルバッツに来てくれることを疑っていない。

 

 その後、賊学(ぞくがく)戦後に三兄弟と小結(こむすび)雪光(ゆきみつ)

 それからアメリカ合宿の最中に瀧夏彦(たきなつひこ)。秋大会ベスト4でムサシ。

 関東大会を、そしてクリスマスボウルを戦った、頼れる仲間たち。

 

 その中の1人、瀧夏彦だけは、現在泥門高校に所属していない。

 超のつく馬鹿な彼は、アメフト部のある高校を片端から受験し、すべて落ちた結果、単身渡米する。

 実は補欠合格していたのだが、瀧家の家族がそれを知ったときには、夏彦はすでに渡米して後の祭り。後にアメリカで偶然セナと出会って泥門に中途入学する。

 

 この経緯を知っているアイルは、泥門高校を受験した時、夏彦に手紙を送っていたのだ。

 まあ、その結果、夏彦が泥門に入学してくれたかというと……アメフトをやりたくてたまらない彼が、部にやって来ない以上、どこかですれ違いがあって入学していないのだろう。

 

 

「はあ……瀧君、いまごろどうしてるんだろ」

 

 

 放課後。手分けして部員勧誘活動の時間。

 アイルは玄関口で、新しい部員勧誘チラシを配りながらため息をつく。

 

 

「まあ、そんな都合よくは……」

 

 

 言いかけて、アイルは固まった。

 なんかチラシを手に、I字バランスをしながら校門を出ようとする変態の姿を見てしまったのだ。

 

 

「──いたーっ!? ちょ、ちょっと待ってそこの人!!」

 

 

 玄関口からあわてて走り、男に追いつく。

 180cmを超える長身に、厚みのある肉体。

 あごヒゲを蓄えた濃いめの顔……間違えようがない。夏彦だ。

 

 

「なんだい、マドモアゼル」

 

「ごめんなさい。ちょっと聞きたいんだけど!」

 

 

 I字バランスでくるくる回りながら返事する夏彦に、アイルは話しかける。

 あきらかな不審人物を相手にした蛮勇に、下校する生徒たちがドン引いているのはともかく。

 

 話そうとするアイルの前に、夏彦はすっと手を広げた。

 

 

「おっと、みなまで言わせないよ。わかってるさ。サインだね? でもゴメン。いま僕はとっても急いでるのさ! アメフト部に行かなくちゃいけないからね!」

 

「いや、アメフト部の部室に行くのに、なんで校門を出るの……?」

 

「アハーハ! だってさ、ほら、チラシの地図を見てみなよ。入部受付場所は、黒美嵯川(くろみさがわ)の橋のあたりだろう?」

 

「どこをどう見たらそうなるのっ!?」

 

 

 アイルは全力で突っ込む。

 夏彦は筋金入りの方向音痴とはいえ、ぶっ飛びすぎている。

 迷子に関しては人のことをとやかく言えないアイルでさえ、理解の外の謎理論だ。

 

 

「違うのかい? 前回は泥門駅の側かと思って3日ほど待ってたんだけど、誰も来なくてね! おまけに季節外れのインフルエンザで1週間ほど学校に来れてなかったのさ!」

 

 

 ──瀧君って風邪引けるんだ!? じゃなくて。

 

 

「学校に居なかったのそれで!? 心配してすっごい損した気分だ……」

 

 

 アイルは脱力感に肩を落とす。

 いや、夏彦が入学してくれてて安心してはいるんだけど、手紙を送ったのに入学式から姿を見なくて、ずっと気になってたのだ。

 

 

「……えーと、わたしは1年の天王洲アイル。君が探してたアメフト部の部員」

 

「……アハーハー! アメフト部を探してたら、部員の方から来てくれるなんて、やっぱり僕は神様に愛されてるじゃないか!」

 

 

 アイルが自己紹介すると、夏彦はブレザーの前をはだけさせ、喜びを表現した。

 ものすごく見慣れた光景だけど、周りの生徒たちはやっぱりドン引きだ。

 

 

「とにかく、部室行こう。部員のみんなはいま散らばっちゃってるけど、待ってれば誰か来ると思うから」

 

「親切にありがとう。マドモワゼル・アイル! 僕は瀧夏彦。アメフトの神様に愛された男さ!」

 

 

 なつかしすぎるノリに、内心苦笑しながら。

 アイルは自然と笑みが浮かんでくるのを感じた。

 春大会には間に合わなかったけれど、こんな早い時期から、夏彦がデビルバッツに加わってくれるのだ。こんなに頼もしいことはない。

 

 

 

 

 

 

 雷門太郎。

 泥門高校1年。

 野球歴9年。アメフト経験なし。キャッチの達人。

 希望ポジションはワイドレシーバー。

 

 瀧夏彦

 泥門高校1年。

 スポーツ歴9年。アメフト経験なし。スポーツ万能。

 希望ポジションは全部。

 

 

「ケケ、活きのいいのが来たじゃねえか!!」

 

 

 部員が勢揃いした、アメフト部部室。

 2枚の入部届を確認しながら、ヒル魔が口の端を釣り上げた。

 

 

「うわあ、ヒル魔さんめっちゃうれしそう」

 

「邪悪の化身みたいなアレ、うれしい顔なの?」

 

 

 アイルがつぶやくと、セナが突っ込んだ。

 セナはまだまだヒル魔への理解が足りない。

 

 

「待望のレシーバーが来てくれたしね。ヒル魔、すごい実力あるのに、それを活かせる機会がほとんど無かったから」

 

 

 しみじみと、栗田が語る。

 

 

「アハーハー! パスなら僕にお任せさ! キャッチ率100%さ!」

 

「ムッキャー! ちょっとデカいからって、命がけで練習してきたキャッチの腕だけはぜってー負けムキャアアアッ!!」

 

 

 夏彦がサムズアップしながらビシッっとポーズを決めると、モン太は対抗心もあらわに立ち上がる。

 

 モン太が、なんかヒートアップしすぎて人語を失ってるのは、ともかく。

 二人がそんな感じでやる気MAXだから、ヒル魔も余計うれしいのかもしれない。

 

 

「というか、どっちもレシーバーなんだ?」

 

(ファッキン)アゴヒゲはガタイあるから、ラインでもいーんだけどな。身長(タッパ)あって動けるやつは、とりあえずレシーバーに放り込む。攻撃力優先だ」

 

 

 アイルの疑問に、ヒル魔が説明する。

 

 超攻撃的なアメフトが泥門デビルバッツの信条だ。

 その選択は間違っていないのだろうが、瀧夏彦は本来タイトエンド。現在のアイルのポジションだ。

 

 夏彦は身長182cm72kg。

 40ヤード走5秒1、ベンチプレス90kg。

 単純な身体能力だけなら、ほぼアイルの上位互換なので、自分がタイトエンドやってていいのかとも思う。

 

 

 ──まあポジションは、ヒル魔さんなら一番いい形に决めてくれるよね。

 

 

 おぼろげな不安を、アイルはそんな風に切って捨てた。

 ヒル魔指揮のもと、ともに幾多の死闘を乗り越えてきたアイルは、ヒル魔に対する信頼度がすでにマックスを振り切ってるのだ。

 

 アイルが考えている間に、話題は部員勧誘に移る。

 新規に2人を入部させたとはいえ、現状正選手は6名。

 陸上部からの助っ人ながら、レギュラーの石丸を入れて7名だ。

 

 全メンバーが攻防両面で出るとしても、残り4名。

 予備戦力は助っ人たちで賄うとしても、ここまではそろえておきたい。

 

 そこで出た案が、校内での練習試合。

 実際試合しているところを見てもらって、アメフトに興味を持ってもらおうという作戦だ。

 

 と、いうことで。

 週末に、賊学(ぞくがく)カメレオンズとの練習試合が決まった。

 悪魔の司令塔による、電光石火の早業である。

 

 

 

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