アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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09 地獄の塔+アイル

 

 

 全校生徒を沸かせた賊学戦の、翌月曜日。

 放課後、アメフト部の部室前には、長蛇の列ができていた。

 

 緊急入部説明会のために集まった生徒たちだ。

 興味本位もあってか、その数は100人近い。

 彼らに並んでもらって、順番にポジション分けの面接をしていくのだが……

 

 モン太と夏彦は面接役をやりたがるし、まもりは事務処理に欠かせない。

 ヒル魔と栗田は居ないと話にならないので、押しに弱いアイルとセナは、待機列の整理係に回ってしまった。

 セナ──アイシールド21は直に会わせるとボロを出すのが怖いし、アイルも目立ちたくないので裏方に引っ込んどきたいのだが、「人手が足りねぇ」と言われて、サキュバスメイクまでされて駆り出されてしまった。

 

 

「俺天王洲(てんのうず)さんのファンなんだよ!」

 

「天王洲さん、2組でアメフトに興味ある連中連れて来たよ! その格好すごいね!」

 

「アイル姫! 小学生の頃からずっと応援してました! アメフトでも応援してます!」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 

 来る人来る人に話しかけられ、アイルの中の小動物的な本能が暴れだしそうになったが、なんとか抑え込む。

 デビルバッツの看板背負ってるんだから、ちゃんとハッタリは効かせないといけない。もっとサキュバスっぽく……

 

 

 ──いや無理無理無理無理!

 

 

 アイルとセナ、ふたり分の人生のどこを漁っても、エロカワなギャルの演技の引き出しなんて存在しない。

 なので、アイルは内心冷や汗を流しながら、堂々とした風を装って、言葉少なに対応していく。

 

 一方セナは過剰にペコペコしながら、列の整理をしていた。

 演技できる分、セナ時代より成長したと思うべきか、根っこは変わってないと言うべきか。微妙なところだ。

 

 対応しながら見てみれば、参加者には、見知った顔が混じっている。

 というか、なんだかんだ1年間付き合った同学年の仲間たちなのだから、3割くらいは見たことある顔だ。

 

 中でも目についたのは、2年の雪光学(ゆきみつまなぶ)と、1年の小結大吉(こむすびだいきち)

 アメフト部として、ともにクリスマスボウルを戦った、頼れる仲間たちだ。

 あとは黒木(くろき)戸叶(とがのう)十文字(じゅうもんじ)の不良学生3人組──通称ハァハァ三兄弟だが、彼らは後日の入部テストからの参加……と思い込んでいたのだが。

 

 なんかいた。

 さっき声をかけてきた、以前助っ人やってくれたクラスメイトたちから少し距離をおいて、3人仲良く集まっている。

 

 

「黒木君、戸叶君、十文字君。来てくれたんだね!」

 

 

 3人はクラスメイトだし、無理やりながらも先日の賊学戦でチームメイトだった間柄だ。

 遠慮なしに声を掛けると、三兄弟の長兄、十文字はなぜかアイルとは視線を合わさず、頬をかきながら答える。

 

 

「俺らはあの悪魔にゃ関わりたくねえんだがな。クラスの連中に無理やり連れてこられたんだよ」

 

 

 悪魔、ってだけで、それがヒル魔だとわかってしまったのは、ともかく。

 言ってから十文字は、ふっ、と口元を緩ませる。

 

 

「……ま、土曜の試合に出たおかげで、クラスで居心地良くなったしな。声援も悪かなかったし、アメフトやってみんのも悪かねえと思ってよ」

 

「3人とも、うれしいよ!」

 

「おいあんま近寄んじゃねえ! 俺らはセナみたいにクラスで人権失いたくねえんだ!」

 

「僕クラスで人権無かったの!?」

 

 

 アイルと十文字の会話に耳をそばだてていたセナが、驚愕の事実に声を上げた。

 

 

「お前気づいてなかったのかよ。クラスの男連中から総スカン食らってんのに」

 

 

 三兄弟が、かわいそうなものを見るような視線を向ける。

 思い返して、思い当たることがあったのか、セナはガーンと頭を抱えた。

 

 

「そういえばクラスだと、女の子にしか話しかけられたことない……」

 

「はっはっは。死ねばいいのに」

 

 

 なんか助っ人のクラスメイトがポツリとつぶいているのは、さておき。

 そんな風に知り合いと話していると、部屋の中からまもりが顔をのぞかせた。

 

 

「アイルちゃん、番号札1番の人から入ってもらって」

 

「わかりました──1番の方、入室して下さい!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 まもりに言われて、アイルは順番待ちの列の先頭に呼びかける。

 

 まあ1番は雪光で、2番は小結だ。

 礼儀正しくきびきびと面接を受けた雪光と、なんか部室の扉をぶち破って飛び込んできた小結のことは、いまでも印象に残っている。

 

 

 ──懐かしいなあ。

 

 

 アイルが感慨に浸っている間にも、面接は進む。

 

 でも、部室の前で案内する度に、みんななんか話しかけてくる。

 できれば放っておいてほしいのだが、話題はアメフト関係が多いし、部員候補相手に邪険にも出来ない。

 なお「彼氏いるの?」とか「このあとカラオケ行かね?」とか関係ないこと聞いてきた連中は、なぜか部室の中から飛んできた銃弾的なアレとモップで撃退された。

 

 ひと言話すと「はい次」って感じで、なんだかアイドルの握手会みたいなノリで、列は進む。

 勝手に案内を手伝っている助っ人の山岡(ドルオタ)が、無駄に手慣れた様子で客を捌いているのはさておき。

 

 列がすべて掃けたころには、もう夕方になっていた。

 

 

「お疲れ様です。いまの人で終わりです」

 

 

 セナといっしょに部室に戻ると、面接していた5人は、さすがに疲れたのか、椅子に体重を預けて伸びをしていた。

 

 

「おー、(ファッキン)チビに(ファッキン)ドリル。残ったシュークリーム食っていいぞ。つまみ食いした風紀委員は遠慮しとけ」

 

「ありがとうございます。どうですか? 新入部員の人たちは」

 

 

 まもりが永久にイジられるネタを掴まれたのはともかく。

 アイルが尋ねると、みんな「うーん」と首をひねる。

 

 

「ピンキリだが、そこそこ動けるのは居るな」

 

 

 シュガーレスガムを膨らませながら、ヒル魔が語る。

 

 

「──ただ、動けるってだけなら、いまの助っ人連中で十分だ。問題は、あいつらがどんだけやる気あるかだが……」

 

 

 アイシールドファンに、アイルやまもり目当て。

 テレビと練習試合の効果は抜群だったが、凶悪チームのイメージを出してなお、ミーハーを集めてしまった感はある。

 

 

「……テストすっか。残すのはやる気のあるヤツだけでいい」

 

 

 こうして、過酷な入部テスト【地獄の塔(ヘルタワー)】開催が決定した。

 

 

 

 

 

 

地獄の塔(ヘルタワー)】。

 入部希望者を選別する大規模な入部テストは、東京タワーを貸し切って行われた。

 

 ゴールは標高250mの特別展望台。

 製氷機で作った氷を、外階段を登ってゴールまで届ける。

 ただし、氷が溶けたら地上に戻って氷を補充しなくてはならない。

 

 そんなルールで始まったテストだが。

 みんなビニール袋に氷を入れて登り始めて早々、猛犬ケルベロスの咆哮と悲鳴が地上にも聞こえてきた。

 

 

「いや高校生が部活のために東京タワー貸し切りって……すごいというか、さすがというか……」

 

「アイルちゃんは見習っちゃだめよ」

 

「ヒル魔さんのことは、尊敬はしてても真似したいとは思いませんよ」

 

 

 まもりといっしょに氷番しながら、のんびりそんな話をする。

 ちなみにセナ、モン太、夏彦の1年部員男組は、率先してテストに参加している。

 モン太と夏彦が競うように大量の氷を抱え、アイシールドに扮したセナも、巻き込まれながらもやる気満々で先頭切って登って行った。

 

 

「ちなみに、セナのことはどう思ってるか、聞いていい?」

 

「セナのことは、気になるっていうか、目が離せないっていうか……いや、大丈夫だって知ってるんですけどね」

 

 

 アイル自身、セナの到達点を知っている。

 その過程で無限の進化を遂げてきたことは知っていても、いまのセナの未熟な部分は、どうしても気になってしまうのだ。

 

 

「へ、へえ……ちなみにセナのほうは、アイルちゃんを見てると、自分もがんばらなきゃって思うみたい」

 

「がんばって欲しいですね。将来のためにも……!」

 

 

 アメリカ代表戦のことを言ってるのだが、まもりが知るはずもない。

 なのでまもりは、仏のような笑顔を浮かべて──いろんなとこから尊みをあふれさせた。

 

 

 

 

 

 

 猛犬ケルベロスの襲撃、灼熱の大展望台、ヒル魔による妨害。

 もはや悪意を超えて殺意しか感じない妨害で氷を失った受験生たちが、ぞろぞろと地上に降りてきては、氷を抱えて階段を登っていく。

 

 セナたちも何度か戻ってきたが、ほどなくして最初の合格者となった。

 セナ、少し遅れてモン太、さらに遅れて夏彦の順だが、夏彦が遅れたのは持ち前の運の悪さが原因だという。

 

 それからしばらくして、小結と三兄弟が合格。

 その後は合格者はなく、次第に諦める受験生が出てきて、階段を登る人間がだんだん減っていく。

 

 

(ファッキン)ドリル。そろそろいいだろ。こっちに上がってこい。受験生どもに声かけながらな」

 

「わかりました!」

 

 

 ヒル魔から連絡があって、アイルは動き出す。

 軽く屈伸してから、ビニール袋にたっぷり氷を入れて、担ぐ。

 重量は30kg……米袋1つ分ほどの重さだ。隙間が大きいので、実際の重量より、見た目はかなりデカい。

 

 

「それじゃまもりさん、行ってきます」

 

「……大丈夫? 氷袋、見た目サンタクロースの袋みたいな大きさなんだけど」

 

「普通に登るだけなら、たぶん? まあこれくらいじゃないとトレーニングになりませんし」

 

 

 心配げなまもりに軽く応じて、アイルは階段を登り始めた。

 死んだ表情で降りてくる者、重い氷を抱えて、のろのろ登っていく者。

 まだ体力全快のアイルは、そんな連中とすれ違いながら、どんどん登っていく。

 

 すれ違いざま、ヒル魔に言われたよう、声をかけるのも忘れない。

 

 

「大丈夫? 無理しなくていいからね? 写真やビデオ撮影とか、情報収集とか、裏方で手伝ってくれるだけでもうれしいから」

 

 

 ちなみにヒル魔のセリフだと「裏方で手伝って」は「奴隷になって」だというのは、さておき。

 パキン、ボキリと、受験生たちの心がへし折れる音を量産しながら、アイルは巨大な氷袋を担いで階段を登っていく。

 

 途中、ぶっ倒れてる雪光や、頑張りすぎて白目になってるクラスメイトたちにも声をかけてから、どんどん試練を突破して──ほどなくしてアイルは、ゴールにたどり着いた。

 

 

「着きました!」

 

「あ、アイルちゃん。早かったね」

 

 

 特別展望台では、栗田がかき氷を食べながら待っていた。

 他にいるのは、セナとモン太、夏彦、小結、それと三兄弟。全員知ってる面子だ。

 

 

「うっそだろ。そんな量担いで上がってきたのかよ」

 

「絵面が現実感なさすぎる」

 

「アラレちゃんかよ」

 

「アハーハー……やるじゃないかマドモアゼル・アイル。僕も負けてられないね!」

 

 

 ドン引きする三兄弟を尻目に、対抗心を刺激された夏彦が腰を浮かす。

 だが、彼が展望室を出る前に、妨害に出ていたヒル魔が、展望台に帰ってきた。

 

 

「おう、(ファッキン)ドリル。気持ちよく野郎どもの根性へし折ってくれたな。いまので受験生が半分以上あきらめたぜ」

 

「俺先にゴールしててよかった」

 

「発想が悪魔すぎる……」

 

「フゴッ」

 

 

 ヒル魔の発言に、恐怖におののく一同。

 ちなみに、アイルにはパワフル語はわからない。

 セナもアイルも、パワフルな精神は持ち合わせていないから仕方ない。0+0である。

 

 その後、日も暮れて。

 あきらめずに登ってきた雪光学が最後の合格者となって、この日の入部テストは終わった。

 

 試験に合格し、新規入部した選手は三兄弟と小結、雪光の5名。

 内、雪光以外は全員(ライン)。全員素人だが、秋大会に向けて猛練習を積めば、栗田頼りだった(ライン)も、グンと強化されるはずだ。

 

 ちなみに、アイルの誘惑に乗ってアメフト部の裏方になってくれた生徒は、意外と居たという。半分くらいはクラスメイトだったけど。

 

 

 

 

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