こっちを選べばぶち殺される!あっちを選べば一生ツラたん! 作:ラクらる
轟音。
何かを盛大に吹き飛ばした音が、周囲一体に響き渡る。
視界の隅に石が飛び散る光景を捉えていた俺は、すぐに壁がぶち抜かれたことに気づいた。
しかし、俺にそれを確認している暇などない。
爆発した壁を背に、多少絡れながら足をがむしゃらに動かす。
(まずいまずいまずいまずい)
鼓動は鬱陶しいほど大きな音を立てるせいで、無意識的に呼吸の速度が上がってしまう。
視界はいっそ恐ろしいほどに良好であり、夜の路地裏を明瞭に認識できる。
だが、その違和感すらも今の俺には小事である。
今は、とにかくこの場から逃げ出さなければ、俺の命はない。
いや、命を取られるだけであるならば、それはそれで嬉しいことなのかもしれない。
確実に命だけで済ませられる程度の怒りであれば、ここまで必死になって逃げていない。
「縺翫>蠕? ※繧!」
何か悍ましい声が俺の背後から聞こえてくる。
それと同時に、周囲に散らばるゴミ箱やら何やらを吹き飛ばしながら、どんどんと近づいてくる足音も。
状況は最悪である。
俺の後ろにいるのは間違いなく、俺に対する追っ手だ。
アレはとにかく嗅覚に優れており、一度追跡を始めた存在を逃すことなく必ず見つけ出すことで有名だ。
アレは死ぬまで止まることがない。
そして俺じゃアレを止めることはできない。
つまり、この状況は詰みというやつである。
だが、俺は諦めることなどできない。
というより覚悟はしていた。
あの日、あの時。
アイツを、彼女を……連れ出したあの時に。
こうなることは予測可能だったはずだ。
そしてこの後、俺のみに降りかかる出来事もしっかりと理解している。
このままじゃ俺は追いつかれて、きっと酷い目に遭うことだろう。
そして……死ぬ。
ああ、いやだ。
恐怖で足がすくみそうになるが、先ほどから走り続けている足は俺の意思とは関係なく、狂ったように前へ前へと進み続ける。
だが、その逃走も既に限界が近い。
かれこれ一時間ほど無意味な追いかけっこを続けていた俺だが、いかんせん追っ手の数が多いせいで一人を撒いたとしても、逃げ込んだ先で新たに遭遇してしまう。
そして今、後ろに迫っているアレが騒音を立てたせいで、さらにアレがここに向かって集結するだろう。
というよりもそれ以前に終わりではある。
なぜなら、もうすぐ後ろにまで鼻息が聞こえるからだ。
「はっ、はっ、はっ、い、いやッ!」
そしてついに、アレに足を絡め取られ、俺は思いっきり地面へと転がってしまう。
瞬間、先ほどまで激しかった鼓動がさらに跳ね上がり、視界は一気に歪み、呼吸のリズムが乱れたせいでヒューヒューと喉が鳴き始める。
と同時に、あれほど火照っていた身体が、内側からひんやりとした冷たい感覚に襲われる。
頭の中は困惑と恐怖、諦めと動揺でいっぱいだった。
だからこそ、ゾッとする冷たさのおかげで、俺は
ふと現実世界に目をやれば、ギチッと俺の手足を地面に縫い付けるように拘束するアレの姿が視界一杯に埋め尽くされていた。
それと同時に、今から俺が受けるであろう未来も理解してしまう。
「や、やだ、許してッ」
「それは無理だなぁ、お嬢ちゃん」
声のする方へ恐る恐る目を向ければ、コツコツと軍踵を鳴らしながら近づく人影。
白いコートに身を包み、顔には十字マークの仮面をつけた、男がいた。
白いコートに、白い仮面に赤色の十字マークという特徴、そしてアレを操ることができる人物。
そんなことができる人物、いや、組織は一つしかない。
そしてそんな組織に捕まれば、何をされるかはこの国の人間であれば誰もが知っている。
異端審問局。
神の秩序を保つために、汚れた仕事を請け負う狂人組織。
「なぁ、今ならこのまま解放してやる。だからアイツの居場所を吐け。な?」
「フゥッ、フゥッ……!」
嘘だ。
俺はその言葉が嘘であることを、理解している。
だからこそ襲ってくる絶望感。
どう足掻いてもこの窮地を脱することができないという、無力な俺への失望。
「言う気はないか。ならまー、仕方ねーよな? 眠らせろ」
「ひっ」
首筋に何かがブスリと刺さり、冷たく温かい液体が注入される。
途端、視界がお日様をのぞいているかのようにサンサンと輝き出し、その光量に脳が焼かれるような痛みが走る。
「あぐぅぅぅぅッ!」
(痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ、脳が、焼げるぅううぅ、助けて、誰かぁぁぁぁ)
声にも出すことができないこの苦痛。
結局俺はこの後十秒も持たずに、意識を失った。