こっちを選べばぶち殺される!あっちを選べば一生ツラたん! 作:ラクらる
前世は特に何も考えず、特別な志もないまま生きてたおかげで、最高の幸せを得ることができなかった。
しかし、特に変哲もない人生のおかげで、そこそこの幸せを享受できたのも、また事実だ。
だから俺は前世に対してコンプレックスがあるわけでもなんでもない。
俺自身、前世はそれなりの完成系であると思えた。
ほどほどに充実した学校生活を送っていたし、そこそこの大学にも進学させてもらえた。
心残りがあるとすれば、親よりも早く死んでしまったことだろうか。
老い先短い親を置いて旅立ってしまって、申し訳ないとも思う。
ただ、死因は後天性とはいえ国中を覆った新型ウイルスのせいであるため、その罪悪感も比較的僅かにしか感じていない。
ちなみに死ぬ直前は非常に怖かった。
力を入れようにも、全てが空振りで、息をしようにもできないのだ。
助けを求めようとドアを見つめても、誰もくる気配はない。
ゆっくりと暗転する世界で、うめく俺はただ一人。
そんな孤独感は、とても辛かった。
だから、二度目の人生が始まった時、俺は真っ先に絶望した。
また、あの死を経験しなくてはならないのかと。
また、あの恐怖を味合わなくてはならないのかと。
そんな時、俺はふと一つのことを閃いた。
(死ぬのが怖いなら、怖くない死を遂げた人間と同じ状況になればよくね?)
何十年後かに訪れる死に恐怖していた俺は、とある漫画での一幕を唐突に思い出したのだ。
それは以下の通りである。
紅葉の葉が暖かく彩られた、秋の昼下がり。
窓に飾られたモミザの花が、まるで役目を終えたかのようにハラリと舞い散る病室で。
一人の少女が多くの友人に囲まれながら、幸せそうな表情で逝っていた。
そう、
恐怖など感じず、苦しみもせず、幸せに死んだのだ。
ああ、なんと素晴らしきことかな。
つまり、”多くの友人”に”囲まれ”ながら死ねば、幸せに逝くことができるということだ。
そうと決まれば友人探しだ。
当然薄っぺらい人間はダメだ。
もっと深く、それこそ家族のような友人をたくさん作らなくてはいけない。
故に俺は生きなければならない。
友人を作るまで死ねないのだ。
死ねないのだ。
ああ、素晴らしきかな我らが神よ。
テメェの世界どうなってんだよ。
夢であってほしい。というか夢であるなら今すぐ目を覚ませ俺。
じゃねぇと取り返しつかねェことになるぞ。
俺は目の前で、集落の大人たちにリンチされている異端者を見て、思わず両手で顔を覆う。
(そいつ、絶対ヤバい存在なのに、お前らよくリンチにできるなァァァァ?)
唐突だが、究極の選択という物をご存知だろうか。
例えば寿命百年獲得と百兆円獲得の二つを提示されたとして、どちらを選ぶか。
まさに究極的だ。
命と時間のどちらが大事かなど、そう簡単に決めれる物ではない。
中には即答する人もいるかもしれないが、一般的な人にとってはそう簡単に決めれる物でもないだろう。
好きな食べ物は、最初に食べるか最後に食べるか。
どちらかを選択した場合、もう片方の行動はこの先一生行うことができないとしたら、果たしてどちらを選ぶか。
ちなみに俺は最後に食べる派だ。
美味しいものはやはり最後に取っておくべきだろう。
さて、さらに選択肢を出していこう。
愛してる恋人と愛してる家族、このどちらかを選ばねばならぬ場合。
選ばれなかった片方からは、最大級の恨みを持たれるものとする場合。
どっちを選ぶべきだろうか。
どっちを捨てることができるだろうか。
答えなど出るはずがない。
誰が好き好んで、どちらかに恨みを持たれるような選択をしなければならないのか。
どちらか片方に恨みを持たれる人生など、楽しいはずもない。
どうしようもなく俺の人生にまとわりついてくる呪いとなるのは、体験しなくても……理解できる。
幸いなことに前世ではそういった選択肢が出てこなかったおかげで、俺の前世は比較的幸せなものだった。
そう、前世では。
ああそうだ。
逆説的に理解できるだろ。
今世は最悪だ。
(あー、ハイライト消えてる。もう闇落ちしてるじゃねぇか。自殺しないってことはそういうことだよなーこれ)
もう今世は色々と最悪だ。
まず文明レベルは前世よりも低い。
俺が住んでいる集落も比較的閉鎖的であり、外部の情報もあまり入ってこない。
農業も全て手作業であり、コンバインなどの重機はどこにも見当たらない。
あと性別が女だ。
俺、確か前世は男だった気がしないでもないせいか、これもまた生活している上で不便だ。
具体的に言えば男からの視線がな。
まだ無理やり襲われたことはないが、セクハラまがいのことはされているし、あと二年もすると成人してしまう。
そうなるとこの集落の誰かと結婚しなくてはならない。
んなの嫌すぎるわ。
俺はたくさんの大切な友人に見守られて、惜しまれながら死ぬのが夢だ。
こんな閉鎖的な集落では、絶対達成不可能だ。
だからしっかりと集落を出る準備を整えてた。
そんな時にやってきたのがこの異端者だ。
白目白髪。
この世界でも異端とされるその風貌は、ぶっちゃけ超美人だ。
そのせいで集落では
殴る蹴るは当たり前。
朝も夜も乱雑に、特に男から道具のように扱われているその様を一言で表すなら、哀れと言うべきだろう。
まだ十歳程度の子供だというのにな。
だが、仕方のないことでもある。
何せ人類の絶対正義である教会が述べている、異端者の特徴と完全一致するのだ。
そしてここは閉鎖的な集落。
普通の人間である俺ですら、性的暴行はないにしろ、軽い暴力を受けることはまちまち。
精神的な暴行なんざ日常茶飯事である。
そんなクソみたいな集落に、見た目はそこそこいい、何をしても許される異端者がやってきたらどうなるか。
結果は分かりきってるだろう。
だから、俺はその話を聞いた時、御愁傷様と手を合わせることしかできなかった。
しかし、仕方ないと割り切った俺の心はどこかざわめいている。
見逃すな、行動しろ、行動しなければ死ぬよりも恐ろしいことが待っているぞ。
初めの数週間は我慢していた。
しかし、焦燥にも似たざわめきは時が経つにつれて大きくなっていき、ついに俺は重い腰を上げた。
そして、手伝いという形で現場に足を踏み入れた俺は、一瞬で異端者を理解した。
(あ、これヤバいわ)
一眼見ただけで理解できる。
これ、絶対ヤバい存在であると。
具体的に言えば、まず国を滅ぼせる力を彼女単体で保有している。
非科学的すぎて俺自身も俺の勘を笑ってしまいそうになるが、さっきから痛いほどに鼓動している心臓が俺の本心を垂れ流してしまっている。
あと多分、この異端者はそう遠くないうちに覚醒して、俺を含める集落の人間を地獄で数百年の拷問刑にかける。
そしていつかこの国を滅ぼすだろうな。
最悪すぎるし、幸せに死にたい俺にとっては迷惑極まる。
と言うか俺リンチに参加してねぇし、無関係なんだがな。
とはいえこの異端者……はやめておこう。
彼女視点では、もう一ヶ月以上、大人の男たちからありとあらゆる暴行を受けているというのに、誰も助けない俺たちは、敵としか思えないのだろう。
ああ、理解した。
最悪極まるが、理解できてしまう。
そして彼女は、もはや人間という存在全てを、憎らしく思っている。
最悪だ。
(……ここから入れる保険、ある? 無くね?)
いや、あきらめてなるものか。
俺は死ねない。
俺の求める幸せを必ず掴み取ると決めたじゃないか。
であるならば、今すぐに選ばなければならない。
さあ、選ぼうじゃないか。
今世で初めての二択だ。
選択ミスをすれば人生即終了な究極の二択。
タイムリミットは……そう、