こっちを選べばぶち殺される!あっちを選べば一生ツラたん! 作:ラクらる
一旦落ち着いて状況を整理しよう。
まずは自己紹介からだ。
俺は工藤○一。探偵さ。
……嘘だ。本当の名前はララ。
齢十三な可愛い少女だ。
なお中身は前世男という残念美少女だ。
金髪碧眼という国の、模範的民族としての外見を持っている。
だけど、両親はすでに死んでいるせいで、この集落でのヒエラルキーはかなり下。
毎日雑用や狩りをこなしながら、食をなんとかつないでいる。
少女ではあるが、長距離走が得意だ。
あとそこそこ頑丈。おかげで風邪などにかかったことは一度もない。
そんな俺だが、究極の二択を選ばねばならない事態に陥っている。
ぶっちゃけたことを言えば、もうここの集落に住んでいる人間が助かることはほとんどないだろう。
なぜなら、俺以外の人間は何かしら彼女に対して危害を加えており、彼女はそれをしっかりと記憶している。
そして俺は危害を加えていないが、集落の一員かつ人間であるため、当然彼女にとっては粛清対象だ。
粛清……多分拷問を数百年間受け続けることになるだろう。
そんなの絶対に嫌だ。
ただでさえ死ぬのが怖いから心からの友達を作るために、集落を出ていく準備を整えていたのだ。
そんな俺が数百年の拷問に耐える?
バカいうな。絶対無理だ。
じゃあ逆に彼女を助けるとどうなるか。それはこの集落に対する裏切りと同じだ。
最悪の場合、彼女と同じ扱い、もしくは見せしめとしてより酷い扱いを受けるかもしれない。
あの学校のイジメのターゲットが移動するように、俺にヘイトが集中してしまう。
だが、正直集落を敵に回すよりも恐ろしいことがある。
それが人理教会だ。
人理教会は規則が厳しく、異端に容赦がない。
特に彼女のような白目白髪の異端者は、教会が特に厳しく管理している存在だ。
噂では目撃情報があった地方ごと、生きるもの全てを駆逐したことがあるとかないとか。
どんだけ目の敵にしてるんだよ。
そんなイカレ野郎を敵に回すのは、正直しんどい。
だが、それでも。
彼女を敵に回せば確定で数百年の拷問コースが待っている。
確定で、だ。
であるならば。
彼女の味方になって、覚醒した彼女に身を守って貰えば、それで万事解決なのでは?
実際彼女は覚醒したらとんでもない力を秘めていることは間違いないわけだし。
近々覚醒するだろうから、それまで彼女を俺が守りさえすれば勝ちだ。
いくら巨大組織である人理教会とて、国を滅ぼせるほどの力を持つ彼女の庇護があれば、問題など一切起こるはずもないだろう。
(うん。なかなかにいい考えじゃね?)
そうと決まれば、彼女の好感度を稼がなくてはならない。
そこまで考えて俺は一つの壁にぶち当たる。
(ヤベェ、集落の人間全員を恨んでる彼女の好感度なんて、どうやって稼ぎゃいいんだ!?)
そう、これである。
彼女の人間に対する絶望と怒りは計り知れない。
怒りは深く、憎しみは無限大だ。
そんな彼女のターゲットにならない程度に好感度を上げるなど、そう簡単にできるわけがない。
だが、それをしなければ俺は間違いなく死ぬ。永遠の苦痛を味わいながら、最低な死を迎えることになる。
それだけは絶対に嫌だ。
気合いを入れろ俺。まずは彼女をあの地下室から出さなきゃ話が始まらない。
脱出経路と潜伏先の用意は一週間程度で終わった。
元々集落から抜け出す予定だったおかげで、意外と手早く終わった。
問題はどうやって彼女と接触するかだが、これもすんなりと解決した。
集落の人間に彼女の世話係を進み出てみたところ、普通に許可が出たのだ。
あっさりと許可が出たので、早速行動を開始する。
時間帯は深夜。
本来なら集落の中を深夜に歩き回ることは禁止されているが、今回だけ特例として認められている。
村の外れに近い場所に放置されている雑多な倉庫。
その地下に、彼女は放り込まれている。
なるべく音を立てないように、彼女が入れられている地下室の扉を開ける。
瞬間ブワリととてつもない匂いが、俺を包み込む。
まるで取り込むかのようにまとわりつくその空気に、少し冷や汗をかきながらゆっくりと階段を降りていく。
手元に持っている魔導ランプだけで十分足らせているというのに、今の俺は不安感で押しつぶされそうだった。
軋む木の階段にゆっくりと足を乗せて、一歩また一歩と
もし、手遅れの場合どうするか。手遅れだった場合、俺は今すぐ国外に逃げるべきだ。
移民というのは得てして社会的地位は最底辺なのは理解している。
だけど苦痛を味わうよりもましだ。
しかし、本当に手遅れだった場合、きっと今一人で足を踏み入れようとする俺は格好の標的だろう。
何せ少女であり、両親もおらず、こんな深夜に働かされるような人間が俺だ。
社会的地位はそこそこ低いことは、監禁されている少女でも察することができるだろうし、殺すのに躊躇いなど持たれないだろう。
あと手遅れ以前に……本当に人理教会を裏切るような行いをして良いのだろうか。
俺は別に人理教会に深い信仰心を持っている訳ではない。
だが……だがだ。
人理教会はこの国では絶対的な正義の象徴であり、人理教会が黒といえば白でも黒と言わねばならない。
何か不都合なことがあれば異端であると正当性を無理やりこじつけ、地域ごと浄化(意味深)をしてくるイカれた宗教組織。
それほどの権力を持つ人理教会に楯突くような行いをして、果たして俺は無事でいられるのだろうか。
だいたい、彼女がとてつもない存在であるというのも、俺の勘でしかないのだ。
勘でしかないというのに、この国全てを敵に回すかのような行いを、果たして俺ができるだろうか。
そもそも俺の目的は、
本当に彼女を救うことで、その友人達は手に入れることができるだろうか。
迷う。本当に彼女を救うために俺のこれからあったであろう、今まで考えていた計画を棒に振る行いをしても良いのだろうか。
時間はそこまで残されていない。
答えは前から出ている。
ただ、どうしても決心がつかないのだ。
人生で、前世を含めた人生の中でこれほど重い決断を俺はしたことがないからだ。
(ああ、わかっている。分かってはいるんだ。理解ってはいるんだ。俺は……)
俺は、生き残らなければならない。
他でもない、俺自身が初めて抱いた夢のために。
だから、俺は再びゆっくりと階段を降りる。
今度は足が止まることはなかった。