クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について   作:古野ジョン

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第13話 詩音くん

 最上が文芸部に入部してから、一週間ちょっとが過ぎた。相変わらず毎日の放課後を読書(たまにボードゲーム)に費やしているけど、少しずつ会話も増えるようになった。もっとも、最上が無表情なのは変わりないけど。

 

 そんなある日の昼休み。教室で弁当を食べた後、飲み物を買うために購買横の自販機前までやってきた。何を買おうかと考えていると、背後から声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのは菓子パンを三個ほど抱えた最上だった。

 

「先輩、こんにちは」

「最上か、お疲れ様。それお昼ご飯?」

「昼食はもう済ませました。デザートです」

「デザート!?」

「何か?」

「いや、別にいいけど……」

 

 メロンパンとクリームパンとチョコチップパンをデザートだと言い張るあたり、柚希が「悠って結構食べるんだよ」と言っていたのは本当かもしれないな。

 

「先輩は何をしてるんですか?」

「飲み物買いに来た。水筒持ってくるの忘れてさ」

「ああ、柚希が二本持ってましたよ」

「えっ、本当?」

「『おにいに持っていかないと』って言ってたのに、二本とも飲み干してました」

「あっ、そう……」

 

 うちの妹の胃袋も大概かもしれん。それより、さっさと買って戻らないとな。次の授業は体育だし、早く着替えないと。なんて考えながら自販機の方に向き直ると――

 

「あっ、()()()()!」

「ん?」

 

 また声を掛けられた。再び振り返ってみると、最上の向こうから歩み寄ってくる一人の女子。ああ、同じクラスだ。

 

「あのねー、次の体育はグラウンドじゃなくて体育館に集合だって」

「あれっ、変わったの?」

「さっき職員室でね、教室のみんなに伝えてきてーって言われたとこだったの」

「そうなんだ、わざわざありがとね」

 

 俺と女子がやり取りしている様子を、最上はぽかんとして眺めていた。あんまり普段見ないような表情だな。

 

「ところでさあ、詩音くん?」

「ん、なに?」

 

 ふと前を向くと、女子が不思議そうな顔で俺と最上を交互に見ていた。何だろう。

 

「この子、知り合い?」

「ああ、部活の後輩」

「なあんだ。てっきり彼女かと思ったー!」

「えっ!?」

「じゃあねー、詩音くん! 間違ってグラウンド行かないでねー!」

「ちょっ、おいっ!?」

 

 突然の彼女疑惑に、俺は呆然と立ち尽くすばかりだった。最上はというと……なんだか厳しい視線を俺に向けている。

 

「先輩。……今の方は」

「クラスメイトだよ。ごめんね、彼女とか適当なこと言って」

「べっ……別にそれはいいです。それより、仲が良さそうでしたけど」

「えっ、どこが?」

「し……」

「し?」

 

 し、という発音を残して、最上は言葉に詰まってしまった。たしかにあの女子とは去年も同じクラスだったけど、特に仲が良いってわけではない。一体なにが気になるんだ?

 

「しっ、『詩音くん』って呼んでたじゃないですか。下の名前で呼ぶなんて、随分と距離がちか」

「ああ、それ? 同級生はみんな俺のこと名前で呼ぶよ」

「……えっ?」

「『雫石』だと長いんじゃない? みんなが『詩音』って呼ぶから慣れちゃったよ」

「……」

 

 困惑したのか、最上は目をぱちくりさせている。みんな名字じゃなくて名前で呼んでくれるからなあ。知らない人から見れば不思議なのかもしれないな。

 

「分かりました。じゃあし……先輩、私はこれで」

「えっ?」

「なんでもないです。では」

「あっ、うん。お疲れ様」

 

 しかし最上はすぐに冷静さを取り戻して、自分の教室へと戻っていった。なんか変だったな、今の反応。何も無ければいいけど……。

 

 しかし、何も無ければいいと思った時には何かあるのが世の常である。この日の放課後、文芸部部室にて――俺と最上の関係が、少しだけ変わろうとしたのだ。

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