クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について   作:古野ジョン

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第5話 すごろく

「えーっと、何かあるかな……」

 

 棚に詰まれた段ボール箱を漁って、遊び道具を探す。しばらく使ってなかったし、先輩たちが持ち帰っちゃったのもあるしな。何か残っているといいんだけど……。

 

「おっ、花札」

「ルール分かりません」

「だめか~」

 

 椅子に座ったまま、最上が首を横に振った。正直、俺もルールが分かってないので完全に没案だな。他には何か……って、懐かしいのがある。

 

「碁盤があるよ」

「ルールくらいなら分かりますけど」

「ダメダメ、碁石がないんだよね」

「じゃあなんでわざわざ言ってきたんですか」

「女子高生なら碁石持ってるかなって」

「先輩は私たちを何だと思ってるんですか?」

 

 意外とノリがいいな、この後輩は。とはいえ、これじゃ本当に遊び道具がない。トランプ……はあるみたいだけど、二人だと遊び方が限られるからな。おや、これはたしか昔の先輩が作ったという代物か。

 

「すごろく、ってのはどう?」

「良いと思います」

「ちょっと待ってね。道具を出すから……」

 

 段ボール箱をさらに漁り、丁寧に折りたたまれた盤面、シンプルなさいころ、駒代わりのおはじきを二個取り出す。……なんかおもちゃ箱みたいになってるな、この箱。

 

「はい、おはじき何色がいい?」

「じゃあ、私はオレンジで」

「俺は青だな」

 

 最上におはじきを渡しつつ、机に盤面を広げた。紙が若干黄ばんでいて、まあまあ古いものだと分かる。盤面も全部手書きだし、マスに書いてある内容もちょっと昔って感じだな。

 

「『学院生活すごろく』?」

「十年くらい前の先輩が作って、うちの部に残していったんだってさ」

「へえー……」

 

 タイトルを読み上げ、最上は興味深そうに盤面を眺めていた。ちなみに、学院というのは俺たちの高校――森宮(もりみや)学院高校――の通称である。つまり、このすごろくは学院に入学してから卒業するまでの流れに沿った内容というわけだ。

 

「じゃ、早速始めようか。はいっ、最初はグー……」

 

 掛け声を出すと、最上はサッと拳を見せる。

 

「「じゃんけん、ぽんっ」」

 

 俺がパー、最上がチョキだった。二人分のおはじきをスタートに置いて、さいころを最上に渡す。

 

「はいっ。頑張って」

「……」

「どうかした?」

「いえ、なんでも」

 

 一瞬、最上がどこかのマスをじっと見つめていたような気がしたのだけど……気のせいだったか。などと考えていると、最上が両方の手のひらの中でさいころを振って、盤面上に転がした。コロコロと音がして、机の端でピタっと止まる。

 

「おっ、幸先いいね」

「いち、にい、さん、し……」

 

 最上の声とともに、オレンジのおはじきが五マス進んだ。たしかマスの中身も凝ってるんだよな。五マス目の中身は……

 

「『入学式で惚れた人に、中学時代からの恋人がいることが発覚。2マス戻る』だってさ」

「……くだらないマスですね」

「まだ初っ端だよ!?」

「全然幸先良くないじゃないですか」

「三つ進めたのなら、よかったじゃないの」

「私、別にやさしくなりたいわけじゃないんですけど」

「伝わるんだ」

「いいから、先輩の番ですよ」

 

 家政婦の〇〇って、再放送で観たけど面白かったよなあ。なんて考えつつ、さいころを受け取る。よっしゃ、ここは先輩の威厳を見せなければ――

 

「一の目ですね」

「なんでだよお」

 

 コロコロと転がったさいころは、真っ赤な一つ目を見せていた。威厳どころの話ではないな、とため息をつきながら青のおはじきを進める。マスの中身は……

 

「『入学式翌日に忘れ物をして、こっぴどく叱られる。ふりだしに戻る』って――」

「ぷっ」

「!?」

 

 えっ!? ずーっと表情が変わらなかった最上が、明らかに吹き出して……こっちが驚いてしまう。

 

「ど、どうしたの!?」

「いえ、その……昨日、柚希が……」

 

 ……あっ、そうか。そういや柚希が昨日筆箱を忘れたとか言ってたな。つまり、思いっきりすごろくの内容と一致してるってことか。……にしても笑い過ぎじゃないか?

 

「そっ、そんなに面白い?」

「いえっ、その……柚希が『()()()のところに借りに行っていいですか』って先生に言って、クラス中に笑われてて……」

「!?」

 

 おい柚希、高校一年生が人前で「おにい」はやべえだろ!? そりゃ最上もこんな口元抑えて笑うわ! つーかすげえなお前、こんなクールな子が笑いを堪えるのに必死ってよっぽどだぞ!?

 

「そっ、そっか。うちの妹が失礼した」

「い……いえ。じゃあ、次は私の番ですね」

 

 最上は青のおはじきをスタートに戻しながら、もう片方の手でさいころを持った。流石に普段からクールなだけあって、表情が戻るのも早いなあ。

 

「じゃ、振ります」

 

 また両方の手のひらでさいころを包み、ゆっくりと振り出す最上。……ちょっといたずらしちゃおっと。

 

「……おにい」

「ぷっ!?」

 

 静かに呟くと、最上はまた吹き出し笑いした。その拍子にさいころが手のひらから飛び出し、盤面を転がっていく。

 

「ちょっ……余計なこと言わないでくださいっ……!」

「いやあ、だって面白いからつい――」

 

 と、さいころが止まった。黒の目が二つ並んでいるってことは、また――

 

「おまっ……まっ、また『入学式で惚れた人に、中学時代からの恋人がいることが発覚。2マス戻る』……だってよ……?」

「~~~~!! 先輩っ、本当にっ……!」

 

 俺たちは腹を抱えて、必死に声を殺して笑い合う。たしかに柚希の言う通り、最上には可愛いところもあるのかもしれないな。……なーんてことを思った瞬間だった。

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