クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について   作:古野ジョン

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第51話 特等席

「二人三脚、始まっちゃう……」

 

 先輩に言われて部活対抗リレーを手伝っていた私は、急ぎ足で自分のクラスへ戻ろうとしていた。なんと言っても、次の競技は文化部対抗の二人三脚。おにいと悠の勇姿を見逃すわけにはいかないもんね。

 

「あー! 柚希ちゃんっ!」

「えっ?」

 

 大会本部のテントの後ろを通り過ぎようとしたとき、私を呼び止める声が聞こえた。周りを見回してみると、テント内の長机に向かって座っている春先輩がこちらに手を振っていた。……苦手な人に会っちゃったな。

 

「どうしたの、そんなところで?」

「おにいと悠が二人三脚に出るので! 自分のクラスに戻って応援しようかなって!」

「ふーん……じゃあじゃあ、ここ座ったら?」

「えっ?」

 

 春先輩は自分の隣の椅子を指さした。本来は実行委員の席なんだろうけど、出払っているみたい。……仕方ない、もう始まっちゃうし。

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん! どうぞ!」

 

 相変わらずニコニコと笑っていて、本心がよく分からない人だな。なんて思いながら、私は春先輩の隣に腰かける。さてさてっ、おにいと悠はどうしてるかな……。

 

「あの二人、何か話してない?」

 

 春先輩がやや不思議そうにスタート地点の方を見ていた。私も顔を向けてみると、たしかにおにいと悠が真面目な顔で会話を交わしている。

 

「うーん、何か作戦でも打ち合わせているんじゃないですか」

「二人三脚に作戦なんかあるかなあ?」

 

 それもそうか。二人三脚なんて、ゴールに向かって誰よりも速く走るだけだもんね。

 

「どっちにせよ、おにいと悠には頑張ってほしいですっ」

「そうだねっ! うちの悠、詩音くんに迷惑かけないといいけど……」

 

 春先輩は、本当に悠のことを心配しているように見えた。私にはどうもこの人の考えが分からない。おにいとの距離を詰めたいはずなのに、どうして悠を応援しているんだろう。

 

「あの、春先輩」

「なになにっ?」

 

 私がそう問うと、春先輩がこちらに笑顔を向けた。どうせならはっきりと聞いてやればいいもんねっ!

 

「春先輩って、おにいが好きなんですか?」

「うん、そうだよ~」

「……へっ?」

 

 ――一瞬、何が起こったのか分からなかった。……この人、認めたよね!? おにいが好きだって認めたよね!?

 

「だってー! いい子だし、カッコいいし、文句ないよねっ!」

「好きって、その……恋人にしたいって意味なんですか?」

「どう思う?」

「えっ?」

「柚希ちゃんは、どう思うかな?」

 

 春先輩はニコッと笑って、私の目をじっと見ていた。おかしい。私がジャブを打ったはずなのに、気づけば会話の主導権は向こうの手の中にある。せめてっ、何か言い返さないとっ……!

 

「じゃっ、じゃあ!」

「えっ?」

「なんでおにいと悠に二人三脚なんかさせたんですかっ!?」

「え~? そんなの簡単だよっ!」

「簡単って――」

「悠が詩音くんを好きなのか、気になったんだよねっ!」

 

 私は呆気にとられる。一ミリも悪意を感じない声色で、春先輩は恐ろしいことを言い放った。この人はおにいのことが好きで、だから悠の好意を確かめたかったんだ。……いや、違うか。

 

 この人は――二人三脚を通じて、おにいと悠の仲を試しているんだ!

 

「あっ!」

「!」

 

 先輩が叫んだ。ピストルの音がして、各部の選手たちが一斉にスタートする。たしかおにいと悠は左端のレーンだったよね。えーっと、カーブを抜けてきて……あっ、先頭だっ!

 

「頑張れー、おにいー! 悠ー!」

 

 気付いた時には、私は席から立ち上がって声を張り上げていた。さっきの話を聞いてしまうと、なおさら二人に勝ってほしいという気持ちが強くなる。どうか、お願い。二人とも、最後まで走り抜けてっ……!

 

「すごーい! 二人とも速いねっ、ねっ!」

 

 春先輩はぱちぱちと手を叩きながら、レースの様子を見守っていた。最後の競技だからなのか、グラウンド中から一段と大きな歓声が巻き起こっている。それにしても、本当に速いなあ。練習したかいがあるって感じだ。

 

「悠ー、頑張れー!」

 

 いつの間にか、先輩も立ち上がって声を張り上げていた。その横顔は、まさしく妹を応援する姉そのもの。もしかして、本当に春先輩には悪意がないのかも――

 

「あっ」

 

 春先輩の表情が、一瞬にして固まった。何があったのかと思い、私はトラックの方に視線を戻す。すると、そこにあったのは――

 

「えっ……?」

 

 悠に引っ張られるように転倒する、おにいの姿だった。

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