クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について 作:古野ジョン
気を取り直して、俺たちはすごろくを進めていった。なかなかゲームバランスがうまく調整されていて、最上と一進一退の攻防を繰り広げている。既に二人とも三年生編に突入にしていた。
「いち、にい……『模試でA判定が出る。3マス進む』」
「おっ、やるなあ」
最上はマスの内容を呟きながら、オレンジ色のおはじきをさらに三つ進めていた。俺は盤面に転がっていたさいころを手に取る。今の時点で六マス負けてるのか、一振りで同点にしてやる……!
「ほいっ!」
「……あ、ピンですね」
「どうしてだよおおお」
コロコロと転がったさいころが、また赤い一つ目を見せていた。しぶしぶ青のおはじきを一マスだけ進める。……って、このマスすごいぞ!?
「『恋人が出来る。5マス進む』だってよ! よっしゃ、追い付いた!」
「……」
俺がいそいそとおはじきを進めている間、最上は不満そうな表情を見せていた。なんだよ、意外とマジになってるじゃん。クールな振りしてお子ちゃまなのかもしれないな。
「私は模試を受けているのに、先輩は彼女に現を抜かしているんですね」
「すっ、すごろくの話だろ!?」
「ところで、先輩」
「ん?」
さいころを手に持ったところで、最上が動きを止めた。俯いたまま、静かに口を開く。
「……いないとは思いますけど、先輩に彼女はいるんですか」
「へっ?」
突拍子もない質問に、思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまう。俺が戸惑っている間に最上はさいころを振っていたようで、五の目が出ていた。
「いち、にい、さん……」
「ちょっ、なんでそんなこと聞くの!?」
「いえ、なんとなく気になっただけです。いないとは思いますけど」
「……」
「『冬休み直前に風邪をひく。一回休み』だそうです。先輩、チャンスですよ」
「あっ、ああ」
淡々とさいころを渡してくる最上。なんで彼女の有無なんか聞いてきたんだろう。気まぐれ? なんとなく? ……だといいけど。
「で、彼女はいるんですか」
最上はじっとこちらを見て、再び尋ねてきた。「いないとは思いますけど」とか失礼な言い方をする割に、やたらと気にしてるじゃん。ちょっとからかってみようかな。
「まあ、それはいいじゃん。……おっ、四の目」
答えをはぐらかしつつ、さいころを振った。最上は盤面をじっと眺めている。どれどれ、ひいふうみい……。
「『クリスマス当日。恋人がいる場合は3マス進む』だってよ、ラッキー」
「あの、彼女は――」
「そういや去年のクリスマスさあ、女の子と一緒に出掛けてたんだよ。柄じゃないけど、イルミネーションとか見てさ」
「……そうですか」
「綺麗だったなあ。今年も行けるといいけど」
「……」
最上はすまし顔のまま、表情を変えていない。ちえっ、もっと反応するかと思ったのに。つまんないの。そうだっ、最上は一回休みだったから次も俺の番か。
「ほいっ」
盤面に転がっていたさいころを手に取り、再び振り出す。今度は……三の目か。
「なになに、『卒業直前、後輩に想いを告げられる。恋人がいる場合は一回休み』だとさ」
「……くだらないマスですね」
「今更!?」
「なんですか、このすごろく。色恋沙汰ばかりじゃないですか」
「実際の高校生もそんなもんだろ」
「先輩みたいにおモテになる方はそうお思いなんですね」
「モテないけど」
「……」
何も言わず、盤面上からさいころを拾い上げる最上。俺、そんなにモテないけどな。最上の方がよっぽどモテそうに見える。綺麗な子だし、意外と面白いし。
「いち、にい、さん……」
なんて考えている間に、さいころが振られていたみたいだ。最上はオレンジのおはじきを四つ進めて、マスの内容を読み上げる。
「『センター試験で大成功。次のターンで出目が2倍に』だそうです」
「おっ、すげえ! 一気にあがれるじゃん!」
「センター試験、という響きが懐かしいですね。ところで、先輩は一回休みですよね」
「あっ、そうか。やべっ」
最上の残りマスは……ちょうど十二マス。すなわち、次で六の目を出せばゴールというわけだ。なかなかギャンブル性もあって面白い設計だな。
再びさいころを持って、両方の手のひらで包み込む最上。さっきから良い目ばっかり出てるからな。本当に六の目を出してしまうかも。
「あの、先輩。もしもですけど」
「もしも?」
「私が六の目を出してあがることが出来たら、すごいことですよね」
「えっ? まあ……たしかに」
「じゃあ、お願いがあります。六の目が出たら……」
最上はゆっくりと両手を振り始めた。思わずその手つきに目が奪われてしまっていると……予想だにしていない「お願い」が耳に届く。
「クリスマスに一緒に出かけた人とどうなったのか、教えてください」
賽は投げられた。