みんな、私のことを天才と呼ぶ。
5歳の頃だった、【知りたい】というありきたりな感情から始まったのだとは思う。
簡単な算数とにらめっこしていた時だった、ふと頭に数字が浮かんできて、それを親に見せると、正解だと言われ、頭を撫でられた。褒められて嬉しかったんだ。
その後も次々と正解を出していき、普通ならちょっと頭のいい子供で収まっていたのかもしれない。だが、父親の部屋にあった古めの教科書を見つけた瞬間、これは普通ではないと確信を持てた。それも思えば、この《呪い》の必然だったかもしれない。
それは父が昔通っていた大学試験の問題集だった。それを私はあろうことか全問正解して見せてしまった。私は父の奇異な目から逃れるため、答えをインターネットで調べたと嘘をついた。
5歳の子供がインターネットを扱えるかは置いておいて、父はそれを信じていつもの優しい目を向けてくれた。それから私は子供ながら自制を覚えた。疑問は全てこの《呪い》が解明してくれるが、みだりに口に出すことは無くなった。それでも便利ではあったから利用しようとは思った、無くした物の場所、新聞を使った掃除方法など調べれば見つかる程度の軽い知識に利用していった。
父も母も褒めてくれた、お利口さんだと言ってくれた⋯⋯それで私は特に喜ぶことは無かったが。おかげで私は様々な知識を受けて、精神が早熟していった。
何が悪くて、何が正しいのか、誰が何で困っていて、誰が何を必要としているのか⋯⋯そして、この【呪い】の正体を、私は知った。
【魔法】 魔女因子を持った少女の、不思議な力の総称らしい。それを扱う存在を【魔女】と呼び、魔女の話だと魔女狩り、あるいは魔女裁判が有名だろう。
私の魔法は言ってしまえば、【解明】の魔法と言ったところだろうか。知りたいことを知る、隠された真実を【解明】する魔法。
綺麗な部分だとこんなところだろうか。本質的な話をしよう。中学の時、この魔法がどれだけ呪いと呼べるシロモノだと思い知った。
友達が欲しいと思った 友達の本質を【解明】した、欲しい言葉、好かれる行動をした、誰からも疎まれないように、まわりの人間を【解明】した。
結果、どうなったか。私は人間を嫌いになった。その人の良いところより悪いことばかり知った。
笑顔の裏で私を品定めする冷酷な計算や、劣等感からくる小さな悪意。数式のように割り切れない人間のドロドロした感情が、脳内に直接流れ込んでくる。
それは「全知」という名の、ただの悪臭がするゴミの山だった。そんなことで何故悩み、どうでもいいことを何故私に頼む。【解明】はしている、動機も、背景も、すべて。でも、理由は分かっても、なぜそんな醜いことができるのかという『納得』がどうしても追いつかない。
その頃にはストレスから食べる量も増え、私は何故こんな奴らのため演じていたのか分からなくなっていた。わかってはいる、一人は嫌なんだ、それでもこんなことになるとは初めから分かっていたはずなのに。
私だって人間だ、感情という揺らぎが存在するのだから当然だ。寂しさを埋めるために【欲しい言葉】を配り、【好かれる顔】を貼り付ける。毎日、他人が作った台本通りに舞台に立つ主役の気分だった。気がつけば、鏡に映る自分の顔が、誰のものだか分からなくなっていた。私は演じた、【解明】して、【解明】して、演じて、演じて――わけがわからなくなっていった。
心に摩擦熱すら起きない。私の感情は、磨り減る前に他人の本質という冷水で冷やされ、ただただ摩耗していった。全ては大魔女の呪いだ、そいつが何処にいるのか、それが魔法の、魔女因子の根源なのはわかるが、何処にいるのかは【解明】できなかった。
当然ではある、全て大魔女のさじ加減なのだから。魔女因子が活性化していけば私は魔女になり、永遠となり、今より全知になるのだろう。ただその前に私はある場所に収監されることを【解明】していた。
【牢屋敷】、そこで私は他の魔女見習い、便宜上魔法少女達と疑い合い、殺し合い、結果魔女の【なれはて】となるんだろう。
そんなことになるつもりは全くない。神の気まぐれか大魔女の呪いは知らないが、私の人生を勝手に用意されたシナリオ通りに進められてたまるか。
だから私はネットが繋がらない場所に行った瞬間、事細かく魔女の存在を公に発表されるようにしていた。あらゆる手段から、もみ消すのが難しいほどに。私の魔法は呪いだ。けれど、その呪いを磨き上げた刃で、今度はルールを押し付ける側を脅かす番だった。
15歳のある日、寝静まった夜、私の部屋の鍵を静かに開け、拉致しにきた黒服の男たち。ベッドに寝ていた私の代わりに、枕元に置いたスマホから予め録音していた私の声が流れた。
『動かないで。あなたたちの足取り、所属、そしてこの部屋の電波が遮断された瞬間に、世界中の主要メディアへ同時に魔女の証明データが拡散されるシステムについて説明します』
冷淡な機械の声を突きつけられた男たちは、暗闇の中で完全に凍りついた。私を強引に連れ去れば、その瞬間に彼らの組織の破滅を意味する。
手出しもできず、ただ苦渋の表情で撤退していく男たちの背中を、私はベッドの中から冷めた目で見送った。これが、私の仕掛けたチェックメイトだ。
それから数日間、奇妙な膠着状態が続いた。組織は私を監視しつつも、迂闊には触れられない。互いの出方を探るような、静かで張り詰めた時間。
そして、その夜。私の部屋のベランダに、音もなく【その人】は現れた。これまでの粗暴な連中とは明らかに違う、洗練された、だが底知れない気配をまとった一人の使者。2階の窓を軽く叩き、不敵な笑みを浮かべた使者は、自らを【処刑人】と名乗り、私の仕掛けた完璧なはずの自動暴露システムすら【面白い玩具】と切り捨てるような余裕を崩さないまま、一つの提案を口にした。それは――魔女達の楽園【アビゲイル】にこないかという誘いだった。
寮番号0番 寮長
百合園リンネ
「自由にやってみるといい、私は何も関与しないし、何も言うつもりもないのだからな」
寮人プロフィール
全てを達観した言動と視線の黒眼鏡の少女。
学校には通っておらず、何事も最適な行動してロボットのようにも見える。
相手に合わせるのが上手く、寂しがりな一面もある。
魔法少女達を導くために行動しており、深くは関わってこないが、度々助言を勝手に言ってくる。
大魔女に対しては憎悪を向けており何十人もの魔法少女が魔女に、なれはてになっているのを知っている。
魔法 解明 トラウマ 理解 誕生日 12月31日
原罪 全知の