名前
「小生はいつまでも、人の笑顔のために人形を、作り続ける予定、だよ」
プロフィール
小生という古風な一人称の人形作家の少女。
途切れ途切れに喋り、マイペースな性格をしており、人形のように可愛らしい、悪くいえば人間味が無い容姿をしている。
ドールマスターPMの2代目を名乗り、その製作能力は1分もあれば親指程度の小さなぬいぐるみ程度なら精巧に、簡単に作れる。
魔法 無し? トラウマ ●● 誕生日 9月12日
原罪 不変の人形作家 身長131cm 体重43kg
わがはいは言われた通り、その場に立ち尽くして待った。
数分後、店の奥から戻ってきたアイリが、わがはいの手になにかを握らせる。
かすかに温かく、ふわりとした小さな塊。
「これは……」
ごくりと息を呑み、ゆっくりと掌を開く。
――そこにあったのは、よく知るぬいぐるみのミニ版だった。
「あ……あぁ」
どっと胸の奥が熱くなり、脳裏に白混じりのどす黒い記憶が溢れ出してくる。
少しグロテスク、しかし可愛らしさもあるシロクマのぬいぐるみ。
わがはいの、アンアンの【最初の罪】が形となったものだ。
指先に力を込めれば、今すぐにでも握りつぶし、床に落として踏みつけることだってできる。
――だが、そんなことはできない。
【あの頃とは違うのだから】。
今のわがはいは、自分を褒められる、幸せになっても良いと言えるのだ。
この人形は、一時は幸せだった時間を象徴するものでもあるのは確かだからな。
それにしても……わがはいは何故、こんな大事な記憶がさっきまで抜け落ちていたのだ?
「何故、わがはいがオーダーした品を知っているんだ?」
「顔は覚えてるよ。オーダーメイドの依頼人はみんな、記憶してるから、ね」
その言葉が、視界の霞むわがはいの耳に優しく届いた。
「……うむ、ありがとう――大事にしよう!」
掠れた声。ボロボロと大粒の涙をこぼしながらも、わがはいは心の底からの笑顔を作った。
——数十分くらい経っただろうか、落ち着いたわがはいは袖口で涙を拭い、アイリに頭を下げた。
「すまなかったな」
「別に、小生はただ太客だった娘に、ちょっとしたプレゼントをあげただけ、だよ?」
首を傾げ、本当になんとも思ってないのでは思うほど静かにそう言ってくれた、職人なのだろうな、それも真面目で、優しい。
「それでもだ、わがはいの思い出を掘り起こしてくれたのだからな、なにかして欲しいことはあるか?」
「して欲しいこと……」
アイリは指を顎に当てて考え込む様子を見せ、何も思いつかなかったのか顔をしかめたが、辺りの人形、ぬいぐるみを見てハッとした様子で願いを告げた。
「小生のお店を見ていってくれないかな?、これでも、1日では見きれないほど広いよ、《地下》にもたくさんあるから、ね」
「そ、そんなにあるのか……うむ、そういうことならそれでお礼としておこう……アイリ」
「なに?」
「何故、そこまでしてぬいぐるみを作ろうと思ったのだ?」
少しの沈黙のあと、そうだねと言いながら近くの人形を見ながら答えくれた。
「小生はいつまでも、人の笑顔のために人形やぬいぐるみを、作り続ける予定、だよ」
——ノア、ミリア、そして小さなぬいぐるみを携帯のストラップにして、それを眺めながら歩いているわがはいの3人は、アイリの人形屋を楽しんで、現在帰っている途中だ。お土産まで貰ってホクホクだ
「楽しそうだね、アンアンちゃん」
「そう……か?うん、楽しい、楽しいんだろうな、わがはいは」
ストラップのぬいぐるみを眺め、改めて自分の感情を噛み締める。その様子をミリアは母親のような優しい眼差しで見ていた——が、それもすぐ終わってしまった。
「あ……アンアンちゃん、ノアちゃんって何処に行ったのかな?」
「本当だな、何処にもいない」
「反応薄いよ!?の、ノアちゃぁぁん!!」
焦ったミリアは大声で叫んだ、まわりから奇異な目を向けられることも気にせずに。
結局、ノアはそれから数時間後に発見され、わがはいは呆れ、ミリアはそれはもうカンカンに説教したのだった。
—————————
決まった!
小さな壇上で、私は華麗に踊り、そして歌った。
それはもう、集まってくれた観客のみんなから拍手と大絶賛の嵐! 久しぶりにこういうストリート気味なステージも悪くないなー、なんて私は大満足でドヤ顔を決めていた。
「いーい演目だったよ。久しぶりに感動して涙が流れてきちゃうかな、ねぇ……レイア?」
「はっはっは! そうだろうそうだろう! ……ろ?」
大袈裟に、かつ華麗にターンしながら振り返り、声をかけてきたその人を視認する。
その瞬間、私の脳内を真っ先に埋め尽くしたのは【感動】だった。
あの頃から全く衰える様子のない、いや、少女から大人へと移り変わる途中の、数段階も美しさが跳ね上がった整った容姿。古びた洋服さえ洗練された私服コーディネートに見せてしまう圧倒的な着こなし。
そして、全く笑っていない、どこか冷徹で綺麗な瞳で、彼女は私に拍手を送っていた。
……あ、ちょっとここまでの道中を思い出そうか。うん。
確か私はこの都市の調査に来ていたんだよね。最初はいろいろな人たちから真面目に話を聞いていた気がする。けど、途中でこの小さな壇上を見つけて、ついフラフラと登っちゃったら、たくさんの人が私に注目してくれちゃって。うん、ファンサービス的に仕方なく、ちょっとした一人演劇を始めたんだよ。うんうん、これは調査の一環だから仕方がな――アイタタタタタ!?
「⋯⋯で、なんで君がこの都市にいるの?」
顔面鷲掴み。恐怖のアイアンクローと、そこから約1時間に及ぶノンストップの説教の後。
私は芸能界の大先輩であり、子役時代からの私の師匠――
「ひ、人助けと都市の調査ですよ! 決して、ちょっと注目を浴びて気持ちよくなろうとしたわけじゃ……あだだだだ! 掴む力が強くなってますセイヤさん!?」
「ほう、私の目は誤魔化せないと言ったはずだがね。相変わらず場を与えればすぐ自分のステージにする。君のその悪癖は、子役の時から全く治っていない」
セイヤさんはため息をつき、ようやく私の顔から手を離した。
私とそこまで年齢の変わらない、まだ十七歳の少女のはずなのに、彼女から溢れるカリスマ性とオーラはあの頃のままだ。いや、むしろ表舞台を去った今のほうが、どこかミステリアスな影を帯びて、危ういほどの美しさに磨きがかかっている気さえする。
「……まあ、いい。君の歌とダンスのキレだけは、少しはマシになっていたようだからね」
「本当ですか!? さすがセイヤさん、見る目がある!」
「褒めていない。プロの基準から見れば、まだまだへたくそな言い訳と同じくらいお粗末だと言っているんだ」
相変わらず手厳しい。でも、厳しくも私の実力を真っ当に評価してくれるこの空気は、なんだか少し懐かしかった。
「それで? 本当のところは何をしに来たんだ。……まさか、この都市で噂されている【魔女】の件に首を突っ込んでいるんじゃないだろうね」
セイヤさんの声のトーンが、一瞬で冷徹なものに変わる。
私は思わず息を呑んだ。
引退して表舞台から姿を消したはずの彼女が、何故その件を知っているのだろう。
「どうしてそれを……。セイヤさんは今、この都市で何をされているんですか?」
「見ての通り、しがない雑貨屋の店主さ。……まあ、私一人では店を回しきれないからね。今は弟に店番を押しつけて、私はこうして備品の買い出しや、たまに頼まれる朗読劇の仕事で外へ出ているだけだよ」
そう言ってセイヤさんは、手元にある荷物に視線を落とした。
その横顔には、さっきまでの厳しい師匠の表情とは違う、どこか自嘲気味で、寂しげな笑みが浮かんでいた。まだ十七歳の彼女に、そんな枯れた表情をさせる過去が、胸を締め付ける。
「私の輝く時間は終わったんだよ、とっくにね。今の私は、ただ日陰で静かに暮らすだけの人間だ。……だからこそ、君のような眩しすぎる光が、こんな不穏な場所にのこのこ現れると胸が痛む」
セイヤさんは真っ直ぐに私を見据え、警告するように言葉を紡ぐ。
「レイア。これ以上、この都市の謎に踏み込むな。キミには無理だ」
その言葉は、師匠としての純粋な心配なのか。
私は彼女の真意を測りかねたまま、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「……あ、レイアちゃんだー。みーつけた」
その重苦しい沈黙を破ったのは、緊張感のかけらもない、のんびりとした幼い声だった。
「え……っ、ノアくん!? なんでキミがここにいるんだい!?」
振り返ると、そこにはトコトコと頼りない足取りで歩いてくるノアくんの姿があった。
確か今日は、アンアンちゃんやミリアと一緒に人形屋に行くって言っていなかったかな? なんで一人で・・・。
「んー、なんか綺麗な、きらきらしたものがこっちに動いていくのが見えたから、ついてきちゃった」
ノアくんはそう言って、私……ではなく、私の隣にいるセイヤさんをじっと見つめる。
きらきらしたもの。それはきっと、表舞台を降りてなお、セイヤさんの内側から隠しきれずに溢れ出ているトップスターのオーラのことだ。ノアくんの持つ感受性が、それを察知したのかもしれない。
「……おや。可愛いお客さんだね。君の知り合いかい、レイア?」
セイヤさんはふっと表情を和らげ、ノアくんと目線を合わせるようにその場に屈み込んだ。さっきまでの冷徹な【元・一番星】の影は消え、まだ十七歳の少女らしい、優しいお姉さんの顔になっている。
「あ、あぁ。私の大事な友達だよ。……っていうかノアくん、キミ完全に迷子ではないかな! 今頃アンアンくんたちが血眼になって探してるよ、絶対!」
「えへへ、そうなのかな? でも、レイアちゃんと、そっちの綺麗な、お歌が上手そうなお姉さんに会えたからおっけー」
悪びれもせずふわふわと笑うノアくんに、セイヤさんは少し驚いたように目を見張り――それから、クスリと、今日一番の自然な笑みを浮かべた。
「ふふ、お歌が上手そう、か。手厳しいね。昔の私なら『上手いんじゃない、完璧なんだよ』と生意気を言っていたところだけど……。でも、ありがとう。可愛いファンに免じて、今日のところはここまでにしておこうか」
セイヤさんはゆっくりと立ち上がり、私の頭をぽん、と軽く叩いた。
「レイア。その子を早く、心配しているお仲間の元へ送り届けてあげなさい。……それと、さっきの私の言葉、忘れないようにね」
「セイヤさん……」
買い出しの荷物を持ち直し、今度こそ雑踏の中へと消えていくセイヤさんの背中を見送りながら、私はノアくんの小さな手をぎゅっと握りしめる。
「……よし、ノアくん。キミへの説教はここまでにして、残りはミリアくんに任せる。覚悟しておくといい」
「はーい。あ、アンアンちゃんが貰ったお土産のぬいぐるみ、レイアちゃんにも見せてあげるねー」
こうして、私たちの少し騒がしくて、どこか不穏な影が忍び寄る『日常』の一日は、茜色に染まる都市の夕暮れへと溶けていくのだった。
雑貨店クレイ 店主
名前
「私の輝く時間は終わったんだよ、とっくにね」
プロフィール
100年に1度のアイドル、トップスター候補とまで言われていた天才
現在は雑貨店で弟と共に切り盛りしており、たまに朗読劇なども行っていたりしている
欠点がないとまで言われたほどダンスも歌もプロレベルであり、それは引退したあとも変わっていない、レイアの子役時代からの師匠であり、あらゆる意味で未熟だった彼女を立派なスターに変えた立役者だった。
魔法 ●● トラウマ●● 誕生日 5月7日
原罪 舞台から堕ちた