お隣さんはちょっと◯い   作:400円

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お兄さんもといお隣さんですが、名前は全く考えていないので皆さんの想像にお任せします。


お隣さんは嫉妬しやすい

 

 その日、ルリナが守るジムでは水も蒸発してしまうような熱狂の渦に包まれていた──

 

「カジリガメ、岩雪崩!」

 

 ルリナさんの相棒であるカジリガメが容赦なく岩雪崩を俺に差し向けてくる。

 ヤローさんの時もワタシラガが俺ごと眠らせようとしてきたし、ジムリーダーは俺も"倒すべき対象"として見てくれているのが正直嬉しくもあった。

 

(ニダンギル!)

 

 ニダンギルは「任せろ」と俺の意思に応えるように身体を引っ張る。

 普段の俺であれば間違いなく失敗する……というか、常人の誰であってもまず無理な芸当である岩雪崩を飛び移る(・・・・・・・・)という最早曲芸の域に達しているのではないか?と思いたくなるような動きをニダンギルは行い、技が収まりきった後に悠々と地面に立ち尽くす姿は我ながら異常であると思わざるを得ない。

 

「ウソでしょ……一発くらいは当たると思ったんだけど?」

「正直俺も同感です」

「なら当たって欲しいんだけど」

「いやですよ、痛いし」

 

 ならニダンギルを握って戦うな。と誰かが言った気がした。ド正論もド正論なので返す言葉もない。

 

「はぁ……ダイマックス使えないのと中々考えものだわ」

「……俺個人としてはありがたいですね」

「そりゃそうよね。その戦い方だと勝ち目ゼロだし……ま、偶には悪くないんだけどね!カジリガメ、遠慮なくやるよ!」

「お願いします!ニダンギル、舞うぞ!」

 

 

 ────

 

 

「いよっしゃぁ、ジムバッジゲットぉ!」

「おめでとう……渡したの私だけど」

 

 あの後、カジリガメの放水を真正面から迎え撃ったニダンギルは放水を斬るというわけのわからない芸当をやった後、呆気に取られていたカジリガメに容赦なくアイアンヘッドを打ち込んで戦闘不能に。

 そんな結果にムシャクシャを通り越して笑えてきたルリナさんは勝利祝いということもあって飯を奢ってくれると自ら申し出てくれ、今に至る。

 

「どう?捕れたての魚を捌いて作った料理は!」

「メチャクチャ美味いです。ニダンギルが食えないのを恨めしそうに見るくらい」

 

 ボールの中で睨んでいるニダンギル。「頑張ったの俺なのに」といいたげだが、そもそもお前口無いし食ったら錆びるだろうに。

 むしろ頑張った報酬として此方も文字通り命を削っているのだがら生命力補給も兼ねてコレくらいは許して欲しいものだ。

 

「……で、なんであの戦い方なの?」

「んぐっ!?っゲホッ、ま、また急ですね……」

「そりゃ気になったからさ。普通ありえないよ?トレーナーがポケモンに立ち向かうって。昔のシンオウ地方じゃあるまいし」

 

 ご尤もである。

 ルリナさんの言う昔のシンオウ地方……その昔ではヒスイ地方と呼ばれていた頃はまだ人間とポケモンが共生するという風習は殆どなかったようで、ポケモンと人は土地を隔てることでお互いの領域を侵さないよう暗黙の了解をとっていたという。

 しかし所詮は他種族同士の暗黙の了解。そんなもの無いに等しかったのもあり度々ポケモンは人里にやってきてはいたのだとか。

 それが続いていれば、もしかすれば今の時代もヒスイ地方の頃のポケモンとの歴史は進展しなかったのかもしれない。

 

「えっと……実は俺、ポケモンバトルが苦手でして……」

「……ウッソだぁ。あんな動き出来るならポケモンバトルなんてお茶の子さいさいでしょ」

「あれはニダンギルがやってるんですよ。俺は身体を貸してるだけで……大半はニダンギルのおかげです」

「ふーん……じゃあニダンギルがいないと」

「ゴミですね。控えめに言って」

 

 自己評価の低さに涙が出そうになるが、残念ながら事実だ。

 幼少期のジムチャレンジも今は家で手伝っているタイレーツを主軸として頑張ってはいたのだが……当時の鋼ジムリーダーにコテンパンにされ、ダンデのリザードン……当時はまだリザードだったが、ソイツにもメッタメタにされ……思い出すだけでも涙が出てきそうだが、そういう事もあって自身のセンスの無さと勝つビジョンが見えなかったダンデに心を折られた。

 ダンデや当時の鋼ジムリーダーを言い訳にしているのは十分分かってはいるが、そうでも思わなきゃどこかで壊れていただろう。

 

「……そこまで言わなくていいんじゃない?」

「お恥ずかしい話、事実なので……ご馳走様です!」

「はい。私はちょっとここに用があるから、先出といていいよ。代金は払っとくからさ」

「ありがとうございます。それじゃ失礼します」

「次はカブさんだけど、気張りなよ」

「はい!」

 

 ルリナさんからの応援を受け取り、店を出て美味だった海鮮料理の感想を思い浮かべながらエンジンシティに続く道を歩いていると──

 

「おにーいさんっ♪」

「うおっ!?ゆ、ユウリちゃん……いつの間に」

 

 いつの間にか背後に立っていたユウリちゃんに飛び退く。

 ニコニコと笑顔を絶やさないユウリちゃんに若干恐怖を感じつつも、逃げるわけにもいかないので恐る恐る聞き出す。

 

「えっと、どうしたんだい?」

「ジム戦見ました。流石です!」

「あ、ああ……ありがとう」

「それで……ルリナさんとのご飯、美味しかったですか?」

 

 息が詰まった気がした。ユウリちゃんは笑顔を絶やしていないが、その背後にはオニゴーリがいる錯覚を覚えるくらいに怖い。大の大人が子供に何ビビってんだと言われるかもしれないが、それくらい今のユウリちゃんは表情に反して怒っている……気がした。

 

「お、美味しかったよ……」

「ふふ、そうですか。じゃあ私も、お兄さんのお祝いってことで……」

 

 ユウリちゃんが俺の手を引き、半ば強引に連れてこられた先はブティック。ファッションに興味は無いのだけどとはとてもじゃないが今のユウリちゃんには言えない。

 

「……お兄さんに、着てほしい服があるんです」

 

 そう言ってユウリちゃんは気になった服をあれやこれやと手にとっては俺に着るように渡し、着せ替え人形にされている気分を味わう。

 しかし悲しいかな、ユウリちゃんのファッションセンスはホントに子供かこの子は?と疑いたくなるような抜群のセンスを誇っており、自分で自分を鏡で見ても「案外カッコいいな?」と頷いてしまうほどだった。

 そうして何枚かを脱いだり着たりして、次の一枚に入ろうとしたときだった。

 

「あっ、ルリナさんだっ……!」

「うぇっ!?ちょっ、ユウリちゃん!?」

 

 見つかりたくなかったのか、慌てて更衣室に入ったユウリちゃんはカーテンを閉める。

 突然の行動に対応しきれなかったのもあり、更衣室という狭い空間と先日の婀娜っぽい姿を思い出し、心臓の鼓動が速くなる。

 

「……ごめんなさい。ルリナさんに見られると思って」

「い、いや別に……」

「……お兄さん、今日のバトルもすごかったです。岩雪崩をあんなふうに避けるなんて……私ですら、考えつきませんでした」

 

 やったのはニダンギル定期だが、そんな事言う余裕もない。

 今のユウリちゃんは先日の婀娜っぽい雰囲気に加えて上目遣いで下心のない俺への賞賛を送っているのだ。

 しかも誰が見ても美少女だと認定するルックス持ち。異性として照れないほうがおかしいというものだ。

 

「と、というか……見てたの?」

「はい。コートの入り口から最後までバッチリ」

「……えっと一応聞くけど、どうやって?」

「チャンピオン権限です♪」

 

 この娘はもう既に職権濫用を覚えているようだ。とりあえず後でダンデに「若い子の教育に悪いからしっかり指導しろ」と抗議の連絡を送るとしよう。

 

「……次からはちゃんと観客席で見たほうが良い」

「むぅ……」

 

 むくれるユウリちゃんに可愛いなと思いつつも、それはそれコレはコレとしてしっかり注意だけはしておく。

 なんだかんだで聞き分けのいい娘ではあるので、次回からは流石に観客席での観覧をしてくれるだろう……チャンピオンの職務に追われていなければ、だが。

 

「……お兄さんのけち」

「いやけちって……ぅえぃっ!?」

 

 完全に油断していたのもあり、ユウリちゃんが抱きついて来たことで更衣室の鏡に寄りかかってしまい、傍から見ると大の大人が子供に壁ドンされているという情けない体勢になってしまい、こんな姿をルリナさんに見られるわけにはいかないと奇しくもユウリちゃんと同じ考えになる。

 

「……抱きついちゃいました」

「だ、ダメだぞユウリちゃん……年頃の女の子が、こんな……」

「それ、この前の時に言うコトですよ?それに……そんな薄着のままなお兄さんが悪いんですから……」

「ちょぉっ!?」

「しー……っ♪」

 

 驚く俺を無視してユウリちゃんが顔を埋める。その仕草は可愛いというよりも、艶めかしい感じがした。

 

「すん、すん……はぁあ……♪お兄さんの匂いだぁ……」

(……エッ……いや、駄目だ駄目だ!何歳下の女の子に邪な感情抱いてんだ俺!?落ち着け俺……!)

「……はふぅ」

「ユウリちゃん……その、そろそろ」

「だーめ、です……ルリナさんと一緒にご飯食べた分、私もお兄さんを独り占めするんです」

 

 やっぱりというべきなのか、ユウリちゃんはヤキモチを妬いている様だった。ルリナさんとは別にそういう関係ではないのだが、ユウリちゃんはそれも気に食わなかったらしい。

 ぐりぐりと服が皺になりそうなくらい顔を埋めては俺の匂いを嗅いでおり、俺の羞恥心など知ったことかと言わんばかりに匂いを満喫している。

 

「……お兄さんは、チャンピオンを目指すんですか?」

「え?あぁ……目指せたらな、とは思うけど……多分、俺とニダンギルじゃ難しいだろうな」

「どうしてですか?」

 

 貴方がそのチャンピオンだからです。

 億が一でユウリちゃんに勝てたとしても、ダイマックスルールに戻った時には間違いなくすぐ誰かにその座を引きずり降ろされるだろうし、なら無理に狙う必要もないのでは?と考えている。

 

「……私のポケモン、貸しましょうか?」

「いやそれは駄目だ。そんなので得た勝利なんてなんの価値もないし、なにより俺自身が許せないよ」

「……あぁ、やっぱりお兄さんは……かっこいいなぁ」

 

 明確にユウリちゃんの助力を拒否すると、ボソりと何かを呟いたと思えば、俺から離れて更衣室のカーテンを開くと、俺に着せていた服を手に取った。

 先程の婀娜っぽさのある笑顔とは違い、天真爛漫な笑顔で俺を見つめるユウリちゃん。

 

「この服、お兄さんにあげますね!」

「えっ!?わ、悪いよ「その代わり!」そ、その代わり……?」

 

 何を要求されるのか身構えていると、ユウリちゃんは再び俺に近付いて艶っぽい表情で"次の約束"を告げる。

 

「……今度は、私とご飯食べましょうね」

「っ、わ、分かった……約束する」

「はいっ♪それじゃ、お会計してきますね!」

 

 俺の肯定に機嫌を良くしたユウリちゃんが会計場に向かう。今後もユウリちゃんに振り回されるのかと思うと、ほんの少しだけ気苦労が増えた気がした。

 

 

 ──―

 

 

「すみませーん、この服下さい!」

「はーい!……って、ユウリちゃんじゃないですか!」

 

 会計場に置かれた服を受け取る女性店員さんが私を見るなり嬉しそうにしている。何でも私のファンでチャンピオンとなった後の私のすべての試合を録画して見直すくらいのコアなファンなのだとか。

 

「いやぁ、まさか此処で会えるなんて!しかもウチの商品も買ってもらえるとは!今日は良い日ですよ!」

「あ、あはは……そこまで言われると、照れちゃいます」

「ところでこの服……メンズばかりですけど……もしかして、コレですか?」

 

 女性店員さんが小指を立てながら悪巧みしてそうな顔で私を見やる。店員さんの小指を立てる行為が何を意味するのか、そういえばとソニアさんから聞いた事を思い出した。

 小指を立てるのは所謂「恋人」という意味を孕んでいるらしい。

 

 ──外堀から埋めるのが大事とも、言ってたなぁ

 

「……分かります、か?」

「おぉおっ!!ユウリちゃんも隅に置けないですねぇ……お相手は?」

「えっと、今話題の人です!」

「今話題……あっ、もしかして、ニダンギルの!」

「……えへへ」

 

 女性店員さんの察しの良さに感謝し、如何にもな反応を示して真実味を帯びさせる。

 きっとこの人なら嬉々として来店したお客さんに語るだろう。それがどんどん広がって……最終的には、という流れだ。

 勿論ルリナさんもそんなつもりでお兄さんとご飯したわけじゃないのは分かってるけど……それを知った時の私の感情は黒く渦巻いていた。

 

(……今度、ソニアさんに聞きに行こうかな)

 

 歳上の人を堕とすにはどうするのが効果的なのか。

 

 

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