「どうぞ、お兄さん♪」
「お、カレーだ。いいね!」
「はい、張り切っちゃいました♪」
エンジンシティジム前で待ち構えていたユウリちゃんに捕まり、ワイルドエリアへと足を運んで行われた勝利祝い。
鋼タイプなのに特に嫌がる様子もなく燃える剣を披露したニダンギルを見たジムトレーナーに「防火ジェルでも塗った?」とドーピング疑惑を持ちかけられるも、ちゃんとした戦場では卑怯な手を嫌い、自分の意思とは関係なく刀身に触れる輩は俺含めて許さないニダンギルが「んなわけねぇだろ切り刻むぞ」と自身に向けられた不正に憤りを表明していたのは印象深い。
因みにユウリちゃんに連れられる俺を後ろで眺めていたカブさんは「若いってのはいいね!」と微笑ましく見守っていたが、ユウリちゃんの行動を経験した俺からすれば少し怖い。
「お兄さんが好きなもの、ちゃんと覚えてましたから」
「はは、それは嬉しいな」
最近はより顕著になってきたユウリちゃんの視線。
会う度にやられていたら慣れるだろうと思われるだろうが、よく考えてみてほしい。
美少年もしくは美少女が自分に向けている好意の矢印がダイマックス並みにデカくて歳不相応な誘惑を仕掛けてきた人物からの視線は慣れないモノだと俺は強く思う。
「はい、お兄さん。あーん♪」
「えっ…?」
「あー…ん♪」
ユウリちゃんにスプーンに乗ったカレーを差し出される。
無視して食べようものなら何をされるか分からないと悟った俺は抵抗することなくそのスプーンを咥え、口に広がるカレーの味を堪能する。
うん。とてもうまい。
「あー……んぐ」
「美味しいですか?」
「お、おお…」
美味いが、恥ずかしい。
親子とか兄弟なら可愛げがあっていいなと思うのだろうけど、お隣さんってだけの関係な俺とユウリちゃんだと恥ずかしさのほうが勝る。
当の本人はノッてくれた事にとても嬉しそうにしていると思えば、俺が口にしたスプーンで自分のカレーを掬い、口に運ぶ。
……いやいやまさか、いくらなんでもユウリちゃんも考えてないだろうと自分の変態じみた思考が嫌になる。
「…それにしても、料理上手になったね」
「えへへ…といっても、まだカレーだけですよ?」
「いやカレーだけ、って言うけど…」
普通にルウと食材を適当にぶち込むのではなく、木の実やらどこで仕入れたのか分からないやたら紅色な調味料やらと食材を選出する姿はまさに主婦のソレだった。
「自炊している身としては十分凄いと思うよ」
「あれ…お兄さんって、自炊していたんですか?」
「まぁね。と言っても、所謂男飯ってやつしか作れないけど」
油を敷いたフライパンに適当な量の肉と野菜、それと好みの調味料を突っ込んで混ぜるだけの簡単な料理。
人に振る舞うのであればもう少しちゃんとするのだが、悲しいかな、振る舞う人に恵まれなかった俺にはこれくらいが丁度いいのである…片付けとかも楽だし。
「じゃあ、次はお兄さんの料理が食べたいな」
「あー…そのうちね?」
「はいっ…その時は、私にもあーん…ってしてくださいね?」
「え"っ…いやそれは、恥ずかし「して…くれないんですか?」……ゔぐ。わ、分かったよ……」
ユウリちゃんお得意の上目遣いにやられ、いつかするという約束をしてカレーを平らげる。
片付けはユウリちゃんがやるということなのでお言葉に甘えて少しゆっくりしようと考えていた矢先に、ユウリちゃんの最大戦力であるエースバーンにじゃれつかれる事になったのであった。
────
お兄さんがエースバーン達にもみくちゃにされている他所で、使い終えた食器を洗いながら、私は先程の出来事に胸を高鳴らせていた。
(しちゃった。しちゃった……)
お兄さんと間接キス。スプーンを口に運んだ時、嬉しさでバレるかもと一瞬だけ思ったが、お兄さんはどうやら私が間接キスに喜んでいるとは思っていなかったようだ。
それどころか、私の思っていた思考を当てて、そんなはずはないと自己嫌悪に陥っていたようで、少しだけ陰が差していた。
そんなお兄さんが、本当に可愛くて、愛おしくて──
大人の様な…その、いやらしい事は分からないけど。こういうのがそういう大人の感情というのなら、今の私が抱くのは間違っているのだろう。
だけども、私は後悔していないし、もしそれの責任は何処にあるのか?と聞かれたら…私とお兄さんのせいだ。
(…お兄さんのせい、ですからね)
幼い頃から私とよく遊んでくれて、ザシアンと初めて会ったあの森でダンデさんと血相変えて助けに来てくれて、ムゲンダイナとの決戦の前では「応援しかできないけど、頑張れ」と背中を押してくれて……私がチャンピオンになった時は自分のことのように喜んでくれた。
そんなに尽くしてくれた人を好きになるなと言われても、私には無理だった。
だからこそ、私は本気でお兄さんを捕まえにいくし、お兄さんの事を好きなライバルがいるのなら、そのライバルを出し抜いてでもお兄さんの気を引く。
私を本気にさせたのは、お兄さんですよ?
エースバーンにもみくちゃにされているお兄さんに熱っぽい視線を送りながら、そろそろ助け舟を出しに向かう。
──向かわなければよかった、と思ったのはお兄さんをみた瞬間の事だった。
「…は、はは。助かったよ、ユウリちゃん」
「(……っ!?)エースバーン、だめだよー?」
やんわりと注意し、エースバーンをボールに戻す。やんわりと、だったのは…半分エースバーンに感謝もしていたから。
もまれていた事で乱雑になったお兄さんの服装。そこからちらっと見える鍛えられた肌色に心臓が跳ね上がった。
──これもお兄さんのせい。だから私は触るんだ。
「…ユウリちゃん?」
「…………お兄さんって、鍛えてるんですね」
「え?あ、ああ…まぁ……っうひぃっ!?」
お兄さんの割れたお腹にそっと触れ、割れ目に沿って指をなぞる。
自分でも不思議に思うくらい落ち着いている自分とは裏腹に、どくん。どくん。と心臓が激しく脈打つ。
この先をもっと見てみたい。と邪な考えが私の行動を支配し、行動に移させようとした途端──お兄さんの手がソレを止めた。
「……ソレ以上はダメだ。本気で怒らなくちゃいけなくなる」
「ぁ…ご、めんなさ…い」
お兄さんの表情は険しいものになっており、他の人が見ても怒っていると手に取るように分かる。
嫌われた。そう思ってしまった私は自分が悪いにも関わらず、ぽろぽろと涙を流してしまった。
「ごめん、なさい…っ!」
「ユウリちゃんが俺をからかっているのか、それとも本心から今の行動に移したのかは俺には分からない。だけど…それはまだユウリちゃんがすることじゃない」
「…なんで、ですかぁ…っ!」
「まだ子供だから…は、俺の言い訳だな。ユウリちゃんは
怒った顔から一変してへにゃっとした顔で笑うお兄さん。
…ずるい。
「……自分で言っててなんだけど自惚れすぎてないか俺…?」
「…ずるい、ですよぉ…っ」
「あはは、かもね。だけどそれが大人の特権ってヤツさ」
「………嫌いに、なってないですか?」
「まさか。そりゃちょっと驚いたけど……ソレくらいのことで長い付き合いのユウリちゃんを嫌いになるもんか」
「〜〜〜〜〜っ!!」
お兄さんの言葉に堪らなくなって顔を思いっきり埋める。
この前の時は驚いていたけど、今のお兄さんは私をあやすように優しく頭を撫でてくれて、私が離れるまで押し退けようともせずにされるがままの状態で私を受け入れてくれていた。
少しだけ落ち着きを取り戻すと、さっきの
「…さっきの話、本当?」
「勿論」
「……言質、とったよ?」
「…ど、どんとこい……というか、ユウリちゃん。喋り方が……」
「
「…早速攻めてくる、って訳かぁ」
言わないほうが良かったかなぁ、と後悔の念を抱くお兄ちゃんだけど……口振りや表情からして満更でもなさそうにしているのを見て、ちょっとだけ可笑しくて笑う。
これからは、遠慮なしでいくからね。お兄ちゃん。