ARMORED CORE 6 緑の魔女はルビコンに羽ばたく   作:強化人間E4-514

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621初登場です。
基本的には本筋を踏襲していますが、少しだけオリジナルの展開があります。

フルでやると長くなりそうなので、前後編に分けました。
さすがに次で密航は終わるんじゃないですかね……




第3話 STOWAWAY OF RUBICON(前編)

 ──────ハンドラー・ウォルターがC4-621とビルバオを引き取ってから1週間後。

 

 ルビコンの宙域に侵入する輸送用ロケットがあった。

 

「ルビコンが近い。そいつを起こしてくれ」

 

『了解です、ハンドラー・ウォルター。

 脳深部コーラル管理デバイスを起動』

 

 

 十基では収まらないほどのブースターが取り付けられたそれは、621の起動と同時にそれら全てをパージする。

 

『強化人間C4-621、覚醒しました』

 

 ISB-2262 ルビコンIIIの宙域は、50年前の災禍〝アイビスの火〟以降、惑星封鎖機構の監視衛星が睨んでいる。

 

 何重もの輪状に伸びたセンサーユニットが張り巡らされ、それらを中継するように設置されたジェネレーターとターゲティングを内包する球型ユニットが眼球のように辺りを見渡しており、異常を発見した場合には6秒以内にユニット下部のレールガンから大質量弾を放って対象を文字通り消滅させる。

 

 厳重な子の監視の中でルビコンへの密航を果たすには、センサーユニットの僅かな隙間を何かしらの方法で探知し通り抜けるか、師団級の火力と物量で以て球型ユニットを破壊するか、或いは……

 

 重ね着を脱ぐようにしてブースターを排除し、身軽になった突入用カプセルは、突入の第2段階として装備していた中型ブースターを吹かして進む。

 

「621、仕事の時間だ」

 

 突入用カプセルの中、厳重な装甲に守られたAC《LOADER 4》のコックピットに座る1人の少女、C4-621は、バイタル計測用の機器が埋め込まれたパイロットスーツを着込んだ体を収まりが悪そうにモゾモゾと動かす。

 

「突入カプセルの電源を落とす。

 惑星封鎖機構のセンサー相手では、声も探知される可能性がある。

 俺が合図をするまで発声は控えろ、621」

 

 数年前、同じように監視衛星の付近に着く直前まで作戦の練り直しをしていたC4-618という猟犬が、封鎖衛星に狙撃されて重傷を負ったことがあった。

 

 突入自体は成功したが、618は回収後に1ヶ月もの間昏睡状態に陥り、目が覚めてからの初仕事でウォルターと因縁のある男に撃墜された。

 

 突入が万全であれば618は死ななかったのかもしれない。

 ウォルターにとって、621の突入は618のリベンジでもあった。

 

 621の突入用カプセルは慣性に導かれて熱圏に近づく。

 このまま事が進めば、無事にルビコンに密航できる。

 

 〝友人たち〟の情報から得た封鎖衛星のセンサー探知範囲の限界点を通過した621に合図を送る。

 

「今だ、起動しろ」

 

 大気の壁が621を迎える。

 それは歓迎ではなく、寧ろ迎撃に近い。

 

 テリトリーに入られることを忌避する獣のように、ルビコンの大気は突入用カプセルの表面を焼き始めた。

 

 残留コーラルによってエネルギー伝導効率の上がった大気圏の熱が分厚い装甲板を焦げ付かせ、突入用カプセルはそれに抗うかのように下部のブースターを吹かして調整を続ける。

 

 いけ、もうすぐだ、ここを耐え抜けば─────

 思わず手を組み瞼を閉じて祈っていたウォルターに届いたのは突入完了の知らせではなく、無慈悲な警告音だった。

 

「な……っ!?」

 

 封鎖衛星に探知されたことを示す警告、つまり、今から6秒後に621は撃ち落とされる可能性が高い。

 

 ウォルターの心を焦燥が支配していく。

 今からできることは? 621に制御ができるか? 封鎖衛星にハッキングを? 

 それら全てを考えては捨てていく間に経過していた6秒。

 

 封鎖衛星の大型ユニットが突入カプセルを睨みつける。

 レールガンのチャージ開始、発射──────

 

 

 ザンッッッ

 

 

 レールガンの大質量弾が、突入カプセルの()()()()()()()を貫いた。

 

「……ッ!」

 

 621が咄嗟に誘爆の兆候を見せた後部ブースターをパージし、スタッガーした制御システムは未介入のまま、カプセルは重力によって急速にルビコンへ引き寄せられていく。

 

 熱圏を抜け、中間圏、そして、成層圏。

 

 覆い尽くすような灰に煤けたメガストラクチャー〝グリッド〟と暗い雲が占める大地が、試練を乗り越えた621を迎えるかのように、悠然と広がっていた。

 

 

 下部ブースターが全ての燃料を使い切って減速。

 限界を迎えて煙を吐き、それと同時にカプセルの爆砕ボルトが激しく弾けた。

 

 

「ィイいイいよっっっっっっしゃぁぁぁぁぁああァアア──────ッッ!!!!!!!!!!!」

 

 コーラルによって脳を焼かれた、感情の起伏に乏しい第四世代型強化人間。

 その中でも珍しく感情の起伏の〝伏〟が乏しいタイプのC4-621は、これまで押さえ込まれていた鬱憤を晴らすかのように、ACの足でポッドから飛び出し、歓喜の声を上げながらグリッドに向かって一切の着地動作も取らず落下した。

 

 アホである。

 

 

 ──────────────────────

 

 

「ヌォ──ーッ! 抜けない……ッ!!」

 

 グリッド135、天井を突き破って頭から落下し、床へ腰まで刺さった《LOADER 4》は足をジタバタと忙しなく動かし、慣性を利用して抜け出した。

 

「うおーッ!」

 

 抜け出した勢いのままに尻もちをついた《LOADER 4》は自身が突き破った天井の穴から覗く空を見上げ、薄暗いグリッドへ差し込む光に一瞬モニターがホワイトアウトする。

 621は左手を掲げ、空へ中指を立てた。

 

「キモい目ん玉砲なんか当たるかヴァ~~~~~~~カ!!!!! 

 ギャハハハハ!」

 

 危うく猟犬が衛星砲にブチ抜かれるところだったウォルターは、品性のない笑い声を上げながら何度もジャンプする《LOADER 4》の映像を見て頭を抱えていた。

 

 着陸地点のグリッドの監視カメラをハッキングし、生存を祈りながら映像を繋げた結果がコレである。

 

 

 1週間前、ハンドラー・ウォルターは2人の強化人間を猟犬として引き取った。

 1人は以前から発注していた腕の立つ第四世代型強化人間、もう1人は闇医者から在庫処分として押し付けられたアンティークの強化人間。

 

 アンティークの方はビルバオと言い、真綿のような雰囲気の温和な女性。

 

 どうやら強化人間になる前は緑化運動に勤しんでいたらしいが、少々過激派すぎるきらいがあるためとんでもない奴を掴まされたと思っていた。

 しかし蓋を開ければ彼女は思いのほか聞き分けが良く、感性も近いためこれはこれで頼りになると感じていた。

 

 問題は621のほうだった。

 

 この強化人間、テンションが凄まじく高い。

 従順で人懐っこいが、やる事なす事全て喧しく騒ぐなどこれまでの猟犬には居なかったタイプのため、やりづらい。

 

 それに加えてマトモな教育を受けていなかったらしく、簡単な読み書きや意思疎通すら満足にできなかったため、ビルバオとウォルターの2人がかりによる徹底した指導によって何とか最低限の知識をルビコン入りまで身につけさせた。

 

 まぁ、それも危うく先程の落下で徒労に終わりかけたわけだが。

 

 ウォルターは手元に置いていたコーヒーを啜って頭を切り替え、通信機をONにした。

 

「……無事に着いたようだな、621」

 

「そりゃあ、もォバッチリ! 

 目ん玉砲の一発や二発だいじょ~ぶよ!」

 

「……そうか。

 仕事を続けるぞ、621。

 場所はグリッド135……誤差はあるが許容範囲内だ」

 

 ルビコンにいる〝友人〟から受け取ったマップデータを開く。

 621が着陸したポイントから数km先にカタパルトを発見し、《LOADER 4》のモニターへマーカーを送る。

 

「この先のカタパルトを使え、それで帳尻が合う」

 

「りょ~かい、ごすずん! ワンワン! ギャハハ!!」

 

「ご、ごす……?」

 

 随分と奇妙な呼ばれ方をされたものだ、と思いつつ、ウォルターは621の進行を見守る。

 

 621はACの戦闘モードを起動し、ブースト移動のONとOFFの操作感を確かめたり、その場で右手のライフルを構えてターゲティングシステムのチェックをしている。

 

 それは強化人間になる前からACに乗っていた621の癖なのだろう。

 何十年と冷凍されていても彼女の身体は癖を忘れていないという事実にウォルターは目頭が熱くなる。

 

 そうやってしばらく動きを確かめた後、《LOADER 4》はブースターを吹かして落下地点から飛び立った。

 

 狭い通路をくぐり抜けた先、カーゴ輸送用レールが何本も通る、開けた場所に出た。

 付近には逆関節型簡易MT《GUARD MECH》が6機ほど徘徊している。

 

「うぉ~、鳥みたいなアシの奴がウロウロしてる。

 これどうすりゃいいのごすずん」

 

「ガードメカは排除しろ」

 

 ウォルターの端的な指示を即座に理解した621は、ブースターを吹かして《GUARD MECH》の群れに飛び込み、戦闘を始めた。

 

『ACだと!? 独立傭兵か!』

 

『RaDの2000型ならやりようはある! 

 殺せ!』

 

「やってみろよヴァ~~~~~~~カ!!!!!」

 

《GUARD MECH》のパイロットと621の罵声が飛び交う。

《LOADER 4》はアサルトブーストで急接近をしかけながら、ウォルターこだわりの一品、彼が機体の他部分を妥協してでも用意したタキガワ製のパルスブレード〝HI-32 BUTT/A〟を装備した左腕を振りかぶり─────

 

 3機並んでいたうちの、真ん中でマシンガンを撃っていた《GUARD MECH》の足を掴んだ。

 

『は?』

 

「細っせ~~~~~~~! 

 持ちやす~い!」

 

《LOADER 4》は《GUARD MECH》の足を掴み、右手のライフルで素早くコックピットを撃ち抜くと、その場でブンブンと振り回す。

 どうやら手に馴染んだようで、621はご満悦な声を上げる。

 ウォルターはあまりにも意味のわからない光景に頭を抱え、同時に《GUARD MECH》のパイロット達に同情した。

 

「弾代は節約節約ゥ~~~~~!!!! 

 ウヒャヒャヒャ!! ギャハハハハ!!!!」

 

 足をグリップに、重心が位置するコックピットをハンマー代わりに振り回し、左右の2機に襲いかかった。

 

 最初に足を潰して転倒させ、動きを封じたところでコックピットを叩き潰す。

 

 破天荒ではあるが洗練された動きを見るに、おそらく621は強化人間になる前からこういう戦術をとっていたのだろう、とウォルターは強引に自分を納得させた。

 

 というかこれを咄嗟に思いついて実行する人間がいると考えたくないのがウォルターの本音だ。

 

 高速で振り回され、何度も衝突させられたコックピットの中は凄惨を極めていることは想像に難くない。

 

 

 グシャグシャに装甲がひしゃげ、見るも無残に叩き潰された《GUARD MECH》を見て満足した621は、足場の縁からハンマー(GUARD MECH)を投げ捨てる。

 

「はァ~スッキリ! 

 目ん玉砲にもいつかこれ喰らわせたいなァ~~~~~! 

 よしじゃあ次!」

 

 残骸を蹴散らしながら《LOADER 4》はアサルトブーストを起動し、ライフルを構えながら先へと飛び出した。

 

 いくつかのコンテナを遮蔽にしてミサイル持ちの攻撃を防ぎながら、怖気づいてコンテナの傍に隠れる《GUARD MECH》をきっちりライフルで撃ち抜いていく。

 

 やはり実力はあるのだろう、頭がおかしいだけで。

 

『なんだ……!? コイツは……!?』

 

 1段高いレールの上で、扉を塞ぐように立っていた四角い装甲の《BIPEDAL MT》に搭乗するパイロットは目の前の光景に思わず声を漏らす。

 

《LOADER 4》は後ずさりする《BIPEDAL MT》に向かって、拾った《GUARD MECH》の残骸を投げつけた。

 

 友軍MTだったモノの残骸が《BIPEDAL MT》のカメラユニットを遮る。

 

『うわッ!?』

 

 ほぼ確実にこれまでの人生、そしてこれからあったはずの人生で絶対に経験しない事態に驚くMTのパイロット。

 

「隙ありィッ!」

 

 視界を遮られて慌てるMTのコックピット目掛け、《LOADER 4》は左腕で唸るパルスブレードで残骸ごとMTを貫いた。

 

 特殊なパルスで両刃状に形作られたエネルギーの刃が、MTの装甲と内部メカを融解し中のパイロットを跡形もなく蒸発させる。

 

 MTがボンっと煙を吐き、ジェネレーターを破裂させてバラバラに吹き飛んだ。

 

 後方へクイックブーストで下がって破片を回避し、周囲をスキャンして敵が居ないのを確認しつつ、621は指折りして計算を始めた。

 

「ぇーと……このライフルの弾薬費が40COAM(コーム)で……

 MT一体あたりの報酬が……わっかんね! 

 ギャハハハ!!」

 

「はぁ……

 ガードメカが800COAM、MTが2,400COAMだ、621。

 その先にカタパルトがある。リペアキットを使用してから進め」

 

 すべてのACにはリペアキットと呼ばれる装備が標準搭載されている。

 これを使用することで各所に設けられたセンサーがACの装甲をスキャンし、破損率に応じてナノマシンを送り込み、応急処置を行う。

 

 兵器の装甲の損耗率を表す単位《AP》は非損傷状態の平均を9000とし、リペアキット使用時の回復量は3000と少しだが、咄嗟の離脱や小さな損傷、対ACや対大型兵器との戦いではこれの残数で生死が分かれるほど重要な装備だ。

 

 

「うぉっしゃ~リョーカイごすずん!」

 

 リペアキットを使用して《LOADER 4》のAP最大値である9080まで回復し、ブースト移動を起動して先に進む。

 

 扉と狭いトンネルをくぐりぬけてたどり着いたのは、グリッド間の航空輸送機の発射を目的として開発されたカタパルトとそのポートだった。

 

 壁面はとうの昔に剥がれ落ち、開口部からは灰の大地と雪景色、そしてグリッドが空に広がる情景が広がっている。

 

「カタパルト……カタパルト……? 

 ごすずん、アレか?」

 

 

 621は右手のライフルを、開口部右側から外へ向かって伸びている機構を指した。

 

 ACの両足や輸送機がちょうど固定できそうな足場が左右のレールを通して取り付けられているそれの電源は、まだ生きているようだ。

 

「そうだ、621。

 ……見えるか? お前にはあの汚染市街に降下してもらう。

 カタパルトにアクセスしろ」

 

「あいよっ」

 

《LOADER 4》は徒歩でカタパルトに近づき、ハッキングコードを流し込む。

 

 独立傭兵が運用するACには非合法のハッキングコード《MASTER KEY 870》が搭載されている。

 

 かつては先進的だったルビコンの電子デバイスだが、50年も経てばセキュリティはガラクタに成り下がっていることだろう。

 技術の進歩は偉大である。

 

 コードを書き換えられたカタパルトは一時的にウォルターの制御下に入り、オイルが固着してギギギ……と音を立てながら足場が《LOADER 4》の足元一歩前に到着する。

 

「およ」

 

《LOADER 4》が乗ると同時に足場がゆっくりとせり上がり、物々しい警告音を背景に射出用レールが起動する。

 

 直感で理解した621は《LOADER 4》の膝を落とし、スキージャンプのように身構える。

 

 足場のロック機構が《LOADER 4》の足をホールドした。

 

《LOADER 4》のコア後部が展開し、パンタグラフのような冷却機構が露出する。

 続いてブースターのチャージングが開始。

 ACの制御システムが超高速射出に切り替わり、専用のプログラムが立ち上がる。

 

 長距離高速飛行用機動形態〝オーバードブースト〟だ。

 背部ブースターから気合十分に吹き出す盛炎が火の粉をまき散らす。

 

「行くぞ、621。

 仕事の時間だ」

 

 カタパルトの最終シークエンスによって弾き出される《LOADER 4》。

 621の身体が慣性によってシートに押し付けられる。

 

 関節をギシギシと唸らせながら、《LOADER 4》はルビコンの空へと飛び出した。

 

 大気を切り裂き、ジェットストリームの帯をなびかせて進む《LOADER 4》のモニターいっぱいに、山脈とグリッドのに挟まれた地平線から顔を出す太陽の光が差し込んでホワイトアウトする。

 

「うぐぐぐぐ……! 

 速すぎ……ッ! 眩し……ッ!」

 

 苦しげに唸る621。

 だがその表情は笑っていた。

 

 感情の種類が著しく減退する第四世代型技術によって体を作り変えられているとはいえ、子供が笑っている顔は微笑ましいと感じる。

 

 ウォルターは笑みを浮かべつつ、仕事の話を始めた。

 

「……この星でコーラルを手にすれば、

 お前のような……脳を焼かれた独立傭兵でも、人生を買い戻せるだけの大金を得られるはずだ」

 

 岩肌が露出した小山に雪が降り積もる谷を抜け、621と《LOADER 4》はついにルビコンの大地に立った。

 

 Gに耐えていた身体を脱力させ、621は息を吐く。

 

「……ぷはっ! 

 ハァ……ハァ……」

 

 息切れする621の呼吸が整うのを待ってから、ウォルターは通信ですべきことを伝える。

 

「ACの残骸を漁り、生きている傭兵ライセンスを探せ。

 ……密航者には、身分証が必要だ」

 

 ウォルターが《LOADER 4》越しに検出したACの残骸がある地点が、モニターに表示される。

 

 菱形のマーキングが示した箇所は3つ。

 それら全ての付近には稼動状態のMTが検出されており、戦闘は避けられないだろう。

 

「汚染市街には現地のゲリラが展開している。

 リロードを忘れるな、621。

 不意の交戦に備えろ」

 

 ルビコンはベイラムとアーキバスの二大勢力に加え、そのどちらにも属さず敵対する土着の組織〝ルビコン解放戦線〟が存在する。

 

 アイビスの火以前からルビコンで暮らしていた彼らの生活基盤にはコーラルが根ざしており、新時代のエネルギー資源としてコーラルを得ようとする企業を侵略者として激しく対立している。

 

 組織としての行軍経験は乏しく兵器も足りないルビコン解放戦線だが、彼らは同じく土着の企業であるBAWSとエルカノから資金と兵器の提供を受けることで渡り合っていた。

 

「あいよっ!」

 

《LOADER 4》のライフルがマガジンをパージし、腰部に取り付けられた予備マガジンが再装填される。

 

 薬室に弾が入ったことを確認した621は、崖付近に集まっていたMT部隊を右肩のミサイルとライフルで手際よく片付けると、アサルトブーストで1つ目の残骸へと向かった。

 

 落ちたグリッド付近で迎撃してきた盾持ちMTを排除し、筒状タンクの残骸にもたれかかって事切れているACにアクセスした。

 

「……Rb18、独立傭兵トーマス・カーク。

 ライセンスは失効済みか……」

 

 ウォルターが求めるライセンスの条件は2つ。

 現地の傭兵支援システムの認証が失効しておらず、かつ支援システムの恩恵をフルに受けることが出来る《ARENA》のランクに名前が登録されていることだ。

 

 トーマス・カークは26/Eランクだが、既に失効しているため第1条件を満たしておらず使えそうにない。

 

「他を当たれ、621」

 

「ハズレかァ~……! 

 よし次!」

 

 アサルトブーストを起動し、次のマーカーへと向かう。

 途中でENが切れたので、ブースト移動をONにして地表スレスレをホバーする方式に切りかえた。

 

「おっ、あれかァ?」

 

 廃墟となった市街のビルの谷を横切るようにかかった橋をくぐった先に、膝をついて停止し各所から漏電のスパークを撒き散らしているACが見えた。

 

 全身が緑にペイントされているが、左腕だけは真っ赤に染められている。

《LOADER 4》のカメラが拾った映像を見たウォルターは、次のマーカーへ行けと命じた。

 

「えぇ~なんでさごすずん?」

 

「その機体はおそらくべイラムの精鋭、レッドガン所属のものだ。

 企業所属では足がつく」

 

「ふぅ~ん。

 じゃいいや」

 

 621はクイックターンで方向転換し、通り抜けてきた建造物群を通り抜けようとしたその時だった。

 

 プロペラが風を切る騒音とセンサーユニットの駆動音を響かせながら、武装した巨大なヘリがグリッドの残骸があった方向から姿を現す。

 角張った分厚い装甲材に守られ、武装が無い箇所のほうが少ないのではないかと思うほどに各所から銃口が覗く外観は、相対する者を恐怖の底に叩き落とす。

 

「惑星封鎖機構の大型武装ヘリか……!? 

 見つかるな、目をつけられるとまずい」

 

 ウォルターの声色に緊迫が混ざる。

 

『SGだ! サブジェクトガードがきたぞ!』

 

 解放戦線のMTのパイロットの悲鳴がオープン回線に乗る。

 悲鳴を探知した武装ヘリのサーチライトが進行方向に存在する全てのMTたちに向けられ、爆撃が始まった。

 

 機体下部に取り付けられた大口径4連装グレネードランチャーが砲撃とバルカン砲の豪雨をMTたちの頭上から降らせ、ものの数秒で辺り一面は惨劇と化す。

 

『よせ! 構うな! 退避しろ!』

 

『こっ……このぉ……! ぐわっ!』

 

『たっ、助けて……っ! 死にたくな』

 

 悲鳴をあげ、背を向けて逃げたMTはバルカン砲によって蜂の巣にされ、無謀にも立ち向かうMTはグレネードで焼かれる。

 

 ハイテンションだった621もこればかりは危険だと本能で予感したのか、低い建造物の間で機体を屈ませ、両手で口を塞いでいた。

 

 

 遮蔽物に隠れてやり過ごそうとしたMTは倒壊するビルに潰されてその命をあっけなく散らせていく。

 

 武装ヘリは辺りのMTを全て撃破したことを確認すると、621が飛んできたグリッド135方面へと抜けていった。

 

 嵐の後の静けさとはこの事だろう。

 炎が燃える微かな音を残して、周辺のMTは全て死に絶えていた。

 

「……やり過ごせたようだな。

 621、仕事を続けるぞ」

 

 広域レーダーで武装ヘリが付近を離脱したことを確認したウォルターは、621への通信を繋いで声をかけた。

 

「ちくしょ~ルビコニアンデスバカコプターめ……」

 

 悪態をつきつつ《LOADER 4》を立ち上がらせると、ゆっくりと徒歩でレッドガンのACの残骸に近づいた。

 

《LOADER 4》の頭部がACを見下ろし、スキャンモードを起動する。

 

「621、そのライセンスは使えない。

 次のマーカーを……」

 

「いや……ごす、このAC生きてるよ。

 さっき赤い方の腕で、マシンガン撃ってた」

 

「……何だと?」

 

 先程の武装ヘリの爆撃の最中、建造物の端から様子を覗き見ていた621は奇妙なものを目撃した。

 

 レッドガンのAC、その左腕の先が突っ込んだ瓦礫の中から小口径弾が連続して発射されていたのだ。

 

 最初は跳弾だと思っていたが、弾道は確かにヘリの連装グレネードランチャーに向かって放たれていた。

 

《LOADER 4》が膝をついて瓦礫のそばを覗き込む。

 瓦礫の下には折れ曲がって電装系と骨格が露出したACの腕があり、完全な機能停止に陥ってはいなかった。

 手に握っていた得物はベイラム製マシンガンの《LUDLOW》。

 その銃身は空を向いており、621が目撃した弾道の根源と一致する。

 

《LOADER 4》は立ち上がり、ハッキングコードを流し込んでライセンスを確認した。

 

「……G7(ガンズ・セブン) ハークラー。

 レッドガンのNo.7か……」

 

「すげータフだねェ」

 

 621は感心したようにうんうん、と腕を組んで頷いている。

 すると、目の前のACから通信回線開示のリクエストが入る。

 

「およ、コイツやっぱ生きてる。

 ごす、どうする?」

 

 ウォルターは腕を組み、少し考えた。

 彼にはレッドガン部隊に知り合いがいる。

 その知り合いにハークラーの生存を報告すれば、縁ができて621とビルバオの仕事に繋がるかもしれない。

 

 だが、それは逆に言えばアーキバスからの依頼を受けた際に、驚異となり得る可能性が残ることになる。

 

「ふむ……

 よし、回線を開け、621。

 交渉は俺が行う」

 

「おっけおっけ、ついでに私は黙っとく」

 

 621がコックピットのインストルメントパネルを操作して通信回線をハークラーが提示した周波数に切りかえ、《LOADER 4》のコックピットを経由地点としてウォルターと彼を繋ぐ。

 

 若干のノイズと共に通信が確立される。

 

『……そこの……独立……傭兵……

 俺は……レッドガンの……G7……ハークラーだ……』

 

 ACから繋がる回線に、苦しげな壮年の男の低い声が乗る。

 声の具合からして重傷を負っているようだ。

 

「……ベイラム・レッドガン部隊所属、G7ハークラー。

 俺たちは通りすがりの独立傭兵だ」

 

 ウォルターは自分の身分を隠しつつ、ハークラーの意識を確認する。

 

『……企業のAC乗りが……情けないが……

 助けて……ほしい……

 俺はまだ……稼がなきゃ……ならないんだ……』

 

「俺たちはボランティアではない。

 救助を求めるなら、お前が持っている情報を教えろ」

 

 簡潔な交渉。

 ウォルターとハークラーはお互い、利益となる最善の行動を取っていると直感で理解した。

 

『あぁ……

 封鎖機構は……1人の傭兵を始末するため……あんな物騒なモノを……グッ……! 

 俺はその噂を聞いて……その傭兵を捕まえて封鎖機構に売れば……総長や……ベイラムを見逃してくれるかも……ついでに小遣い稼ぎも……できるかもって……

 甘かった……! 俺はアイツに見つかって……それで……!』

 

 ハークラーの声音が徐々に弱り始めてきている。

 621が発見する前から重傷で気絶し、爆撃の音で覚醒したはいいが、どの道死に体であろう。

 

『頼む……! 

 後輩の兄弟と……遊んでやる約束も……誕生日を祝ってやる……約束も……沢山あるんだ……!』

 

 

 情報は得られた。

 惑星封鎖機構が武装ヘリまで持ち出すような傭兵となれば、それは極めてランクの高い独立傭兵だろう。

 ならばたとえそれを見つけても無視すれば良いだけの話。

 ハークラーの利用価値は、この時点で完全に無くなったも同然である。

 

 しかし、ここで見殺しにするという選択肢はないのがウォルターという男だった。

 

 ウォルターはハークラーに語りかける。

 

「……救難信号を持たせる。

 俺の仲間内でしか使わない特殊なものだ。

 もう少しすれば、俺の仲間が付近に来るだろう。

 鮮やかな緑の4脚ACが来たら、俺の……

 ハンドラー・ウォルターの名前を出せ」

 

 ハンドラー・ウォルター。

 

 彼の名前を聞いたハークラーはふっ、と笑う。

 

『そうか……ハンドラー……ウォルター……

 アンタ……噂と違って……優しい……な……

 感謝する……この借りは……いつか返す……』

 

 その言葉を言い切り、ハークラーは再び気絶したようだ。

 ウォルターの指示を受けた621はハークラーの機体のコアに発煙筒を置くと、アサルトブーストで最後の地点に向かって飛び立った。

 

 621との通信を一時的に切断した621は、もう1つのAC用回線を開く。

 

「……早速だが仕事だ。

 汚染市街に向かい、発煙筒を持った赤い腕のACのパイロットを救出してくれ」

 

 ウォルターが繋いだAC用回線、その先のコックピットに座る女性は穏やかな声色で答える。

 

「あらあら……

 密航直後の最初のお仕事が人助けとは……

 うふふ、了解しました。ウォルターさん」

 

 アサルトブーストを起動し、鮮やかな緑でペイントされた細身のACがグリッド086から飛び立つ。

 

 〝友人〟の手助けを経て先にルビコンへと密航していた、もう1人のウォルターの猟犬。

 

 シュナイダー製の試作型機体《LAMMERGEIER》が緑の閃光となって空を切り裂く。

 

「……AC《GREEN WITCH》

 独立傭兵ビルバオ、行きます!」

 

 レイヤードから人類が解放されて100余年。

 かつて地球の偽物の空をもがくように飛んでいた傭兵は永い時を経て、ルビコンの本物の大空で、力強く翼をはためかせた。

 

 

 





オリジナル要素を含むキャラ紹介
・C4-621
ウォルターの猟犬。
人懐っこく従順で物覚えも良いが異常なまでにテンションが高く、頭のネジが外れているのでウォルターは若干引いている。

容姿はそれなりに整っており、ちゃんとケアをすれば十分に美しいが言動でそれら全てを台無しにしている。

手術のために頭髪が全て剃られていたため、ビルバオが自身の長い髪の一部を提供して作ったウィッグを被せられている。

ウォルターの呼び方は「ごすずん」。
ビルバオの呼び方は「姉さん」。

年齢は13歳

・G7ハークラー
汚染市街で機能停止していたACのパイロット。
ベイラムの精鋭であるレッドガンの所属で、後輩のG6レッドとは同郷なのもあり家族ぐるみで付き合いがある。

訓練生時代のレッドのたゆまぬ研鑽に付き合いながら成長を見守り続け、G2ナイルと共にレッドガン総長のミシガンに彼を推薦した。

ACや兵器の呼称についてのアンケートです。ACやMTなどの名称は現状常に《》を付けて表記していますが、初登場以降もこの表記を維持するか、《》を外して表記するか、読みやすい方に票を入れてください

  • 初登場以降も《》をつける
  • 初登場以降は《》を外して表記する
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