ARMORED CORE 6 緑の魔女はルビコンに羽ばたく   作:強化人間E4-514

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お待たせしました、8話です。
時間かけた割にアレですね……次回はもう少し早く投稿したいところです


第8話 ELIMINATION OF TESTER AC

 ベイラムからの依頼を遂行した数日後の深夜。

 

 静まり返った居住区にはガレージの自動システムが機体を整備する音が微かに響くのみ。

 

 時刻は午前3時を少し過ぎたくらいか。

 

 普段のウォルターならば既に床に着いている時刻だが、今日は珍しくこの時間まで起きていた。

 

 ビルバオの《GREEN WITCH》と621の《LOADER 4》が並んで固定され、主を待っているガレージ。

 

 ウォルターはそこに併設された小さな部屋の中で、旧知の友に連絡をとっていた。

 

 ウォルターの業と使命を知りながらも、彼を尊重して一定の距離を保ちながら接してくれる数少ない〝友〟である。

 

 ウォルターがしばらく連絡が繋がるのを待っていると、ガガッ、というノイズの後、少し遅れて声が聞こえてきた。

 

「いつ以来だ、ハンドラー・ウォルター!」

 

「久しいな、ミシガン。

 だが今は昔話に興じる必要も無い。

 本題に入ろう」

 

 通話の相手はベイラムの精鋭AC部隊であるレッドガンの総長を務める男、〝G1 ミシガン〟。

 

 それなりに音量を下げたスピーカー越しでもよく通る彼の声は、まさに映画で描かれるような鬼軍曹といった印象を相手に抱かせる。

 

「うむ。

 貴様のとこにいる役立たずの身柄を引き渡してもらう件だが……ようやくまとまった時間ができた。

 近々うちの連中を連れて引き取りに向かおう」

 

 ミシガンの言う役たたずとは、同じくレッドガンに名を連ねるハークラーのことであった。

 

 何故か普通にここの生活に馴染み、一緒に食事を摂り、とまるで初めからここの住人だったような顔をしているが、本来なら彼も企業の精鋭AC乗りである。

 

 ひとまずミシガン側が片付くまで預かる約束だったが、レッドガンの仕事もひとつ区切りがついたらしい。

 

 

 ウォルターはようやく少し落ち着けると思いながらも、彼にすっかり懐いている621が寂しがるかもしれないという可能性に一抹の不安を覚えた。

 

 兵士という仕事柄、次にまた会えると確証のある人間は一人もいない。

 

 それは精鋭であるハークラーも例外ではなかった。

 次にベイラムの依頼を受ける時には死んでいるかもしれないし、621自身がその手を下さねばならないかもしれない。

 

 強化人間になる前から戦場で生きてきた621ならそれくらいは慣れているだろうとも思ったが、そもそも本来なら子供が慣れるべきではない事柄である。

 

 ましてや不可抗力で戦場へと放り出された彼女は否が応でも慣れるしかなかった。

 〝普通の人生〟それを取り戻すためには、価値観も戻さねばならない。

 

 相変わらず621の教育方針についてあぁでもないこうでもないと唸りながら思考をめぐらせていると、一向にウォルターからの返事が返ってこないことに痺れを切らしたミシガンが叫んだ。

 

「返事をしろ! 馬鹿者!!!」

 

 突然飛び込んだ怒声に心臓が跳ね上がるような感覚がウォルターを襲う。

 脇に置いていたマグカップの中のコーヒーを啜り、頭を切り替えることにした。

 

「……すまん、ミシガン。

 しかし、ただ渡すだけのことに、レッドガン全員が来る必要も無いだろう」

 

「役たたずを引き取るついでだ、当日に仕事を回す。

 お前の猟犬を使わせてもらおう。

 ちょうど手数が足りないと思っていたところだ」

 

 ミシガン曰く、数日後にルビコン解放戦線の主要なインフラ設備に対して、レッドガンを投入する作戦が計画されているらしい。

 

 この作戦にはレッドガンの隊員が3名アサインされていたが、その内の一人であるG6 レッドが先日の戦闘で負傷し、当初予定していた戦力に空きが出てしまった。

 

 そこで621を登用し、猟犬としての力を試そうということらしい。

 

 ウォルターにとっても丁度良かった。

 彼はハークラーに対して辛辣な評価を下していたが、それはミシガンというストッパーが居ない上での評価である。

 

 ミシガンの監督下でのレッドガン隊員達は皆荒くれ者ではあるが、自身が精鋭であるという矜持と自負を持っていた。

 

 言わばハークラーは休日を過ごしているようなものである。

 それは〝レッドガンのG7〟とは別個の存在で、ましてやレッドガン全体の評価に繋がるものではない。

 そこを見誤るウォルターではなかった。

 

 自身が力を持ち、それを振るう責任を理解している者たちと接することは、621の意識にも良い影響を与えるだろう。

 

「ふむ……

 了解した、ミシガン」

 

 ウォルターは手帳に日程を書き込み、そこでふと手を止めた。

 いままで621の話しかしていなかったが、今のウォルターの元にはビルバオもいる。

 

 実弾兵器主体のベイラムが抱える部隊となればほぼ確実によく分からない揉め事を起こしそうだが、そこは彼女も一応は大人であるためおそらく大丈夫だと思いたい。

 

 ミシガンに尋ねてみたところ、ビルバオ……というよりレイヤードの強化人間については登用したことがなく、実力がわからないとなんとも言えないとの事。

 

 ひとまず621のみを預けてビルバオはその場で判断ということで合意し、ミシガンとの通話は終わった。

 

 時計を見ると時刻は3時半。

 今日も昼は仕事が控えている。

 

 ウォルターは冷めきったコーヒーを胃に収めてから、自室で少し眠ることにした。

 

 ルビコンの灼けた空は、まだ寒い。

 

 ─────────────────────

 

 数時間後、リビングで621の前に座るハークラーは頭を抱えていた。

 ビルバオがウォルターと仕事の相談をすると言って621の教育係を彼に押し付けたからである。

 

 毎回のようにとんでもない回答をしてバツを喰らっている621は、何も考えていないんじゃないのかと心配になる笑い声を上げていた。

 

「わかんねー! ギャハハハ!」

 

「はぁ……

 もっかい考えてみろ。

 お前は最新のブレード……まぁなんでもいいが、それの倉庫を護衛してる。

 

 お前の今使ってる武器の弾単価がいくらだ? 

 MT一体あたりの撃破報酬がいくらか、一体に対して何を何発使って倒せば、いくら得になるか考えてみろ」

 

 ハークラーは紙に簡単な絵を書いて説明する。

 

 後輩であるレッドの弟たちに教えていた頃を思い出し、あの2人は物覚えが良かったんだなと実感していた。

 

 それに比べて遥かに頭が滅茶苦茶な621は理論の飛躍としか思えないような答えを、まるでこれが模範解答だとでも言うかのような顔で出す。

 

「ブレードなら弾代かかんないし、最新型なら強いから置いてあるヤツ使って全員倒す! 

 そしたら報酬ぜんぶもらえる! これ正解!」

 

「お前よく強化人間なる前に殺されなかったな」

 

 パーツを護衛しろと言われているのに、それを使うという発想は傭兵としてどうなんだ。

 

 昔似たようなことをやった傭兵がいたと聞いたことはあるが、もしかしてコイツじゃないのか。

 

 こんな発想を常時繰り返してくるやつ相手にウォルターはよく匙を投げないものだと、ハークラーは認識を改めた。

 

「お前マジでさぁ……もォ~~~~~」

 

 頭をガシガシと掻きむしるハークラーに少し心配になったのか、621は身を乗り出して彼の頭を撫でた。

 

「ハークラー調子悪い? 

 大丈夫?」

 

「……性格はマトモだしいい子なんだよなァ~

 頭がおかしいだけで……」

 

 621を押し返しつつ、マグカップの中のコーヒーに口をつけて一気に飲む。

 苦い。シロップを入れ忘れていた。

 

「あぁ俺そのままのコーヒー苦手だったわ。

 なんで飲んだんだろう、頭がおかしくなる」

 

 微妙に塩対応をしてくるウォルターに反実弾兵器のスライドショー説教が趣味みたいになっているビルバオ、極めつけに頭のおかしい発想をノンストップで垂れ流す621。

 

 ミシガンからの伝言を伝えに来たウォルターは、扉を開くなり飛び込んできた頭を抱えているハークラーと、押し返されながらもそれを撫でようとする621の光景に困惑した。

 

「……これはどういうことだ??」

 

「あ! ごすずん!」

 

 ウォルターを視認した621は素早く椅子から飛び降りて抱きつき、灰色のふわりとした髪を彼の腹にグリグリと押し付けていた。

 その様子はさながら小型犬である。

 

 ぶんぶんとしっぽを振っているようにも見えてくる。

 鳥頭でしかも犬とは器用だな、とハークラーは思ったが、それを言うとウォルターにどつかれそうなのでやめた。

 

「ごす! 今日も勉強してるよ! 

 弾代かからない近接武器って便利!」

 

「あぁ、偉いぞ、621。

 パルスブレードはあればあるほどいい。

 タキガワの技術は世界一だ」

 

「こっちはこっちで変なんだよな」

 

 四方八方変なやつしかいない。たすけて総長。

 そろそろ限界が近いハークラーに、救いの手とも言える事実が、621の頭を撫でているウォルターから告げられた。

 

「……ところでハークラー。

 お前の身柄を、レッドガンに引き渡す日が決まった」

 

「ほう」

 

「621にはベイラムから共同任務の依頼が届いている。

 顔合わせも兼ねて、現地でブリーフィングを行うらしい。

 ミシガンは621に興味を持ったそうだ」

 

「共同任務ねェ……

 あの親父、コイツをスカウトしようって魂胆じゃねぇだろうな……」

 

 ハークラーが入隊した時、レッドガンにはミシガンがスカウトした独立傭兵上がりの隊員がいた。

 

 腕の立つ傭兵や荒削りだが筋はいい者など、ミシガンは気に入った人材を積極的にレッドガンに勧誘している。

 

 かつてベイラムと敵対していた〝ファーロン〟という企業の精鋭だった彼は、社会的な立場や関係には拘らない。

 

 ただ実力のみが真実。

 それ故に、規律や上下を重んじるベイラム上層部からはやっかまれていた。

 

 ハークラー個人としては、これ以上ミシガンが上から睨まれでもして、くだらない足の引っ張り合いに巻き込まれて欲しくない。

 

 それに加えてこの621である。

 

 犯罪的な意味で頭のおかしいものなら1人いるがそもそも生物として頭のおかしい621はあのミシガンすらも手に負えない気がする。

 

「……はぁ。

 まぁいいか」

 

 ミシガンなら何とかするだろう、と強引に自分を納得させてマグカップの中身を飲み干した。

 

「クソオヤジめ、変なとこで気が利きやがる。

 ……そろそろ帰ってやらねぇとな」

 

 空のマグカップを持って席を立ったハークラーは621に近づき、頭を撫でた。

 

「うちのバカどもと仲良くしてくれよ」

 

「うぁ」

 

 気の抜けた声を漏らす621。

 気まぐれで621がルビコンに来てからの戦闘記録を見たが、未だにこの目の前の子供が、あの苛烈な戦いをしているとハークラーは信じられなかった。

 

 今の621は、何処にでもいるようなただの子供である。

 サイズの合わないシャツの隙間から見えるおびただしい数の手術痕を除けばだが。

 

 ウォルター曰く、親に借金のカタとして売られ、ACに乗せられて使い潰された挙句強化人間として長く冷凍保存されていたらしい。

 

 向こうは本人の自業自得ではあるものの、同じく借金のカタで強化人間にされたレッドガンの後輩を思い出したハークラーは、621にその姿を重ねる。

 

「……お前も災難だな」

 

 頭上にハテナをいくつも浮かべていそうな621の赤い瞳の奥に〝誰か〟を感じたのは、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

「お仕事~~!!」

 

 アイドリング状態の《LOADER 4》に接続し、コックピットでジタバタとはしゃぐ621を落ち着かせるべく、ウォルターは通信を繋いだ。

 

「落ち着け、621。

 今日はアーキバスからの依頼だ。

 もう少しでブリーフィングが始まる、接続するぞ」

 

 先日の四脚MTとの戦いでは目立った損傷もなく各関節の簡単な調整と装甲板の補修程度で済み、621の体調も万全である。

 

 強敵を続けて屠り、621にも確かな自信がつき始めているのだろう。

 待ちきれないかのように鼻歌を歌って上機嫌な621が微笑ましい。

 

 隣で別の仕事を受け、少し後の時刻で予定されているブリーフィングを《GREEN WITCH》のコックピットで待つビルバオは、通信から聞こえてくる621声にふふ、と笑った。

 

「楽しそうですねぇ、621さん。

 ……ところで、お金に余裕も出てきましたし、そろそろEN装備も試してみませんか?」

 

「使いにくいからヤダ!」

 

「うぐぐ……」

 

 それとなくEN兵器を勧めるビルバオを一蹴する621。

 もはや見慣れたやりとりである。

 

 少しの談笑の後、《LOADER 4》のコックピットで、開始時刻を告げるアラームが鳴った。

 

「あっ、そろそろ始まる! 

 切るねー!」

 

「頑張ってくださいね~」

 

 ビルバオとの通信を切った621は、網膜投影によって映し出されるブリーフィング用モニターに意識を向ける。

 

 モニターの真ん中に表示されたウォルターのエンブレム、続いてアーキバスの傭兵登用担当であるV.VIII ペイターの不気味なエンブレム、最後に621の使用している、データノイズを帯びた白い渡り鴉のエンブレムが表示された。

 

 参加者を順に表示するフェーズを終えて621とウォルターのエンブレムが左端へと捌け、画面中央でペイターのエンブレムが点滅し始める。

 

 若い男の声が、今回の内容を読み上げ始めた。

 

『独立傭兵レイヴン。

 これは当社系列企業、シュナイダーからの依頼です。

 

 我々と敵対関係にあるベイラム系列企業、大豊がテスターACを導入しました。

 

 外部アーキテクトへの委託によりアセンブル最適化を施したテスターACは、熟練のパイロットに渡れば、無視できない脅威となります』

 

「ごすずん、アーキテクトって何?」

 

「企業のAC乗りやその部隊、独立傭兵からの依頼で、使用者に合わせたアセンブルを施す業者だ。

 

 お前の《LOADER 4》も、密航時に合わせて俺と俺の友人が、アーキテクトとして調整した」

 

「ふーん……ありがとごすずん」

 

「気になることがあれば遠慮なく聞け、621」

 

『……話を聞いていますか? 

 

 依頼です。

 当該機体の輸送を狙い、これを撃破していただきたい。

 

 弊社の電子戦部隊がハッキングを施して輸送機のアラートを鳴らします。

 輸送機が点検のため着陸した隙を、襲撃してください。

 

 アーキバスグループは、独立傭兵レイヴンの奮闘に期待しています

 ブリーフィンは以上です。

 よろしくお願いします』

 

 ペイターは作戦内容を伝えて退室し、主がいなくなると同時にルームは若干のノイズとともに閉じられた。

 

 ブリーフィングの終わりと同時に円筒状の輸送形態にガレージは姿を変える。

 

『相手は試供サンプルとは言え、ACには変わりない。

 油断せず気を引き締めていけ、621』

 

 621は既に強力なACを撃破した実績があるが、慢心とは時に銃や刃物よりも遥かにあっけなく、そして無惨に人を殺してしまう。

 

 精神的に未熟な者であれば尚更だ。

 感情はあってもその裏付けを持たない今の621には危険すぎる。

 

「だいじょーぶ、ごすずん! 

 AC相手は慣れてるから!」

 

「……そうか。

 行ってこい、621。

 健闘を祈る」

 

 621と《LOADER 4》乗せたガレージはいつものように輸送ヘリに固定され、グリッド090を飛び立って行った。

 

 

 

 ─────────────────────

 

 汚染市街の郊外。

 コーラル調査領域拡大のため一応は抑えているが、場所自体に価値はなく敵襲の可能性も低いと踏んだ大豊が、ルートに組み込んだ場所である。

 

 ヘリポートのある建造物の上に、輸送ヘリが降り立つ。

 

 機体下部の輸送用コンテナの中から大豊製フレーム《TIAN-QIANG》で全身を固め、右手に曲型マガジンの特徴的なバースト式アサルトライフル《RANSETSU-AR》を握り、左腕にはパルスブレード《HI-32 BUTT/A》、左肩に2連装ミサイル《BML-G3/P05ACT-02》を装備するACが、警備のために出撃した。

 

 パイロットである大豊の訓練生はスキャンを開始し、周囲を確認する。

 

『クソ……どうしてこんな時にトラブルなんて……

 頼むから何も起きないでくれ……』

 

 ボヤきつつもレーダーに目を光らせ、時折各方向へライフルを向けて威嚇する様を、スキャン圏外の高台に立つ《LOADER 4》が見下ろしていた。

 

 アーキバスから支給された

 モニター欺瞞形式(Monitor Display Deception )───MDDの迷彩で姿を隠していた《LOADER 4》もスキャンを開始し、敵機の簡単な解析情報がウォルターのオペレーション用モニターに映し出される。

 

 排除目標のデータと照らし合わせ、確証を得たウォルターは621へと通信を繋ぐ。

 

「大豊の訓練校所属パイロット、AC《TESTER》。

 目標を補足した」

 

 数時間前から待機し、眠気を堪えていた621はコックピットで軽く伸びをして目を擦る。

 

「やっと来たか~

 もう行っていい?」

 

「仕掛ける好機だ。

 行け、621」

 

「りょ~……かいッ! 

 ギャハハハハハ!」

 

 地面を蹴ってアサルトブーストで高台から飛び立ち、パルスブレードをバズーカに持ち替えながら突撃する《LOADER 4》。

 

 FCSが《TESTER》を捉え、白いマーキングを表示すると同時に索敵圏内に入ったことを告げるアラートが鳴り、敵機が気づいて振り向くより先に621は引き金を引いた。

 

『ぐわッ!? 敵襲ッ!』

 

 肩の装甲に被弾した《TESTER》がバランスを崩しつつも、咄嗟にクイックブーストを吹かして開けた場所に飛び出す。

 

 不意打ちからの追撃を避けるために、障害物のない場所で敵機を補足する時間を稼ぐその動きは、《TESTER》を駆るパイロットが優れた腕を持つ証左である。

 

 追撃のために《LOADER 4》が振り下ろしたブレードは空を切っていた。

 

 重量機体にも関わらず、的確な回避。

 確かにこのAC……あるいはパイロットが精鋭部隊に渡れば、アーキバスとて無視はできないだろう。

 

「およ、やるねぇ……」

 

『解放戦線……!? いや、独立傭兵かッ! 

 応戦します! 安全な場所へ退避を!』

 

《TESTER》のパイロットが味方へ手短に告げると、《LOADER 4》の背後で輸送ヘリが浮き上がった。

 

 撤退の魂胆を読み取った621が素早くバズーカに持ち替え、コックピットを狙う。

 

「逃がさねェ~~!」

 

『な……ッ! やめろッ!』

 

 バズーカを構えた《LOADER 4》へ《TESTER》がパルスブレードを振りかぶりながらアサルトブーストで接近する。

 

「ヤバッ!」

 

《LOADER 4》がバズーカを下げつつクイックブーストで後退し、飛び立っていく輸送機を背景に戦場は建造物の入り組んだ場所から、障害物のほとんどない開けた場所へと移った。

 

 薄く水の張った地面を滑るように移動しながら、お互いが互いを中心とした周回軌道を取って隙を探る。

 AC同士の一騎打ちではよく見られる光景だ。

 

 先にしかけたのは621。

 バズーカを叩き込み、《TESTER》が回避した先に数発のライフル射撃で牽制する。

 

 かつての強敵から学んだ戦い方はやはり有効だ。

《TESTER》のは横移動が主の周回軌道から蛇行を主とする後退に切り替えた。

 

 621は《TESTER》の蛇行軌道の頂点に射撃を置いて徐々に直線的な動きへと追い込み、敵の息切れを目論む。

 

「おぉ~なかなか避けるね~! 

 ギャハハハハハ!」

 

『クソッ! 傭兵ごときに……! 

 やってやる! 俺だって訓練は受けてるんだ!!』

 

 パイロットが叫ぶと同時に《TESTER》の2連ミサイルが放たれ、《LOADER 4》のモニターへ警告音と共に弾頭が迫る方向が表示される。

 

「っ!」

 

 速度を敢えて落とすことで追尾能力を高めた高火力型弾頭が《LOADER 4》をロックし、軌道を完璧に追従していた。

 

「コイツ……ッ! 

 避けきれな……わぁッ!」

 

《LOADER 4》左肩の装甲に着弾し、激しく爆発してACSに強い負荷を与えながらコックピットを揺らす。

 

 バランスを崩した《LOADER 4》は右に倒れそうになるが、クイックブーストの噴射で強引に立て直した。

 

 踏み込んだ足底が地面を割り、蹴り飛ばすように跳躍して破片が飛び散る。

 

 追撃のバースト射撃を交わしつつ、621はモニター越しに《TESTER》を睨み、口角を上げた。

 

「おもしれ~~……!」

 

 再び周回軌道の牽制が始まる。

《TESTER》のバースト射撃のリズムを読んだ621は、3発ごとに入る小休止を見抜いてライフルを放った。

 

 回避軌道を捉えた《LOADER 4》の放った弾丸が《TESTER》のコアに直撃するも、その堅牢な装甲はライフル弾を跳ね返す。

 

『上手いパイロットだ……! だが! 

 コイツの装甲を! 簡単に抜けるものかよ!』

 

《TIAN-QIANG》の堅牢な装甲はライフル弾程度では傷もつかない。

 機動力を犠牲にして得た装甲性能にパイロットは全幅の信頼を置いていた。

 

 積極的なパルスブレードの斬撃も、多少の反撃なら無視しても問題ない堅牢さに裏付けされたものである。

 

 機体の特徴をつかみ、それをものにする技量。

 彼は間違いなく優秀なパイロットだと、《LOADER 4》のカメラ映像越しに見るウォルターは感心していた。

 

 リロードを挟み、その隙を埋めるように放たれるミサイル。

《LOADER 4》を追尾して迫るそれに対する回避法は、既に621の中で確立されていた。

 

 ミサイルを接触する直前まで引き付けてからペダルを踏み込み、クイックブーストを進行方向の()()()()噴射する。

 その姿はまるで、自棄になって自らミサイルにぶつかりに行ったかのように見えた。

 

『ミサイルに向かって……クイックブーストだとッ!?』

 

《LOADER 4》の装甲が火花を散らしてミサイルと擦れ違い、敵を見失った弾頭は虚しく地面に衝突、爆発した。

 

「もう当たんね~!」

 

『クソ……っ!』

 

 驚いて動きの鈍った敵を逃す621ではない。

 短く吹かしたアサルトブーストで上を取った《LOADER 4》のパルスブレードが唸り、チャージングされた巨大な刀身が《TESTER》を襲う。

 

『金だけの傭兵にッ! 殺されてたまるかァッ!』

 

 負けじと振るわれた《TESTER》の斬撃が《LOADER 4》のそれと重なり、激しく緑の閃光を飛び散らせて拮抗する。

 

 お互いのパルスブレードが干渉して緑の閃光を糸のように散らせ、同時に出力限界を迎えて刀身が消滅した隙をカバーするようにライフルを構え、お互いのコアへと銃口が突きつけられる。

 

「やるね」

 

 621の短い称賛は、接触回線によって《TESTER》のコックピットへと届いた。

 訓練生は緊張を保ちながら返す。

 

『お前もな……! だが……!』

 

 同時に引き金を引き、お互いのコアの装甲板を貫通して内装にダメージが入る。

 超至近距離からの射撃では、重厚な装甲も意味を成さない。

 

 コアを損傷してAPを大きく失った両者が放った蹴りは交差して互いを吹き飛ばし、再び射撃戦が始まった。

 

 ACSの制御をもってしても受け流せないキックの衝撃が尋常ならざる負荷を与え、そこに射撃の応酬によってさらに負荷が蓄積されていく。

 

「やっべ~……! 

 スタッガーしそう……!」

 

『危険域……マズいな……!』

 

《LOADER 4》はパルスブレードから持ち替えた左手バズーカ、《TESTER》は高威力な肩のミサイル。

 どちらかが先に決め手を叩き込むかで勝負が決まると、2人は直感で理解した。

 

 連装ミサイルを発射する《TESTER》、バズーカの引き金に指を置く《LOADER 4》。

 

 先にスタッガーを取ったのは────《TESTER》だった。

 ミサイルが直撃した《LOADER 4》のAPが2000を下回り、ACSがスタッガーを起こす。

 

「うぅ……ッ!!」

 

 

 膝をつき、全身からスパークを吐く《LOADER 4》。

 自動姿勢制御システムという守りを失ったACにとって、大火力の砲撃や近接武器による攻撃は死に直結する。

 

 たとえ訓練生といえどACパイロット。

 そこを逃す者など存在しない。

 

『終わりだ……! 傭兵!』

 

 パルスブレードを起動した《TESTER》がアサルトブーストで《LOADER 4》へと一気に肉薄し、パルスで形成された緑の刀身が《LOADER 4》に襲いかかる。

 

 機体は動かず、ジェネレーターは激しく損傷し、コックピット内は各部位各機能からのアラートが鳴り止まない中、621は操縦桿から手を離し──────

 

 オープン回線で叫んだ。

 

「……引っかかったなヴァ~~~~カ!!!」

 

『ッ!?』

 

 621の叫びと同時に《LOADER 4》の背面の冷却ユニットが展開し、その奥で淡い緑の光を放つ発振器が中心となって大規模なパルスの爆発を起こした。

 

《TESTER》のパルスブレードは干渉によってかき消され、放たれたパルスの爆風がAPを急速に削りながら、瞬く間にACSをスタッガーへと追い込む。

 

『アサルト……アーマーだと……ッ!?』

 

 ACのコア拡張システム。

 攻防それぞれに強力な機能を搭載できるが、その分コアへの負荷は凄まじいものとなる。

 

 621の放った《ASSAULT ARMOR》は4種存在するコア拡張システムの中でも、カウンターに秀でた起死回生の一撃。

 パルスエネルギーを冷却ユニットの基部で限界までチャージし、一拍の間を置いて爆風と共に放出する大技である。

 

 強力である反面、一部のエネルギーがブランクデータの(ストーム)となってコアに逆流するため、設計の古いACではそのままシャットダウンのリスクもあった。

 

 しかし、強化人間であれば脳とその中に滞留するコーラルやデバイスでデータ(ストーム)を肩代わりすることが可能なため、ACの機体だけは実質的にリスクを負うことなく発動が可能である。

 

 スタッガーによって膝をついた《TESTER》。

 一瞬で窮地へと追い込まれ、訓練生はヒュッ、と喉を鳴らす。

 

 データの嵐を脳で肩代わりした影響で出た鼻血を腕で拭きつつ、621はバズーカの銃口を向け、引き金を引いた。

 

『クソ……ッ!』

 

 コアに直撃し、飛び込んだ弾頭の爆発が《TESTER》の内装に誘爆し、機体表面のバーニアからも小規模な爆発を繰り返して燃え上がる。

 コックピットのあちこちが火を吹き、その熱に焼かれる中で訓練生は呟いた。

 

『あぁ……俺も……』

 

 ジェネレーターが激しく爆発し、《TESTER》は地面に倒れる。

 

『コールサインが……欲しかったなぁ……』

 

 その言葉を最後に《TESTER》のコアが炎を上げて破裂し、その破片や四肢は宙を舞って辺りに飛び散った。

 コックピットごとジェネレーターの爆発に巻き込まれては、遺体も残らないだろう。

 

「敵ACの撃破を確認した。

 621、仕事は終わりだ。

 ……帰投しろ」

 

「……うん」

 

 炎に包まれ、焦げていく《TESTER》の破片と地面を、621はただじっと見つめていた。

 まるで、その炎の中に、何かを見出したかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかチマチマと伏線じみたことを書いてますが拾うのはあとの方なので覚えなくていいやつですね

次回はビルバオさん回です。

【本編で説明するのが面倒なところを説明する安いおまけ】

Q ハークラーは621のことをどこまで知ってる?

A 強化人間になるまでの経緯(ヤブ医者の情報込み)と年齢、現在の身体の状態等の話をウォルターから聞いています。

ACや兵器の呼称についてのアンケートです。ACやMTなどの名称は現状常に《》を付けて表記していますが、初登場以降もこの表記を維持するか、《》を外して表記するか、読みやすい方に票を入れてください

  • 初登場以降も《》をつける
  • 初登場以降は《》を外して表記する
  • 《》を外す&カタカナ表記にする
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