ARMORED CORE 6 緑の魔女はルビコンに羽ばたく 作:強化人間E4-514
今回はかなり改変しています。
ユルシテ
621が出撃した数十分後。
《GREEN WITCH》のコックピットでブリーフィングの開始を待つビルバオは、《ALL MIND》を経由せずに直接送られてきた音声メッセージを開いた。
送信者であるV.III オキーフがメッセージに吹き込んでいた内容は一つ。
〝《ALL MIND》を信じるな〟
その一言だけが、大量のノイズに紛れて吹き込まれていた。
ただの傭兵支援システムに過ぎない《ALL MIND》を信じるなとはどういう意味だろうか。
今のビルバオには、答えを出せるだけの情報がない。
コーラルについての基礎知識と強化人間の知識、そしてレイヤードの解放から今日に至るまでの歴史。
今の彼女が持つ情報はそれだけであり、たったこれだけで答えを出すのは早計だろう。
ビルバオは両手で自身の頬を叩き、頭の中を切替えた。
思慮の抑えが利かなくなりがちな自身の脳を理解している彼女が、頭の中をリセットするためのトリガーである。
頬に残る痛みを頭を振って飛ばし、正面に視線を戻した。
ブリーフィングの開始時刻を告げるアラームが鳴り、網膜投影によって今回の依頼主が視界に映し出される。
独特な民族衣装のような装いの女性が舵輪を脇に抱えて視線の先を指差す意匠のエンブレムの依頼主。
〝ルビコン解放戦線〟
アイビスの火以前からのルビコン3の土着民である彼らは、コーラルを求めて侵略を行う企業に反抗するために作られた組織だと、解放戦線の窓口担当らしい男は言う。
コーラルを軸とする独自の宗教的思想や世界観を持ち、警句を唱えて戦う彼らの戦力は困窮していたが、ルビコンの現地企業から提供された大型兵器や地理を生かした要塞によってなんとか持ちこたえていた。
保有戦力の少ない彼らは独立傭兵も積極的に雇用しているらしく、今回の依頼は新参者であるビルバオの腕を試そうという魂胆だろう。
ひとしきり自分たちの活動理念や思想を語ってから咳払いをして気を取り直し、今回の依頼内容の説明を始めた。
『独立傭兵ビルバオ、貴方に引き受けてもらいたい作戦がある。
内容は…… 我々の武装採掘艦 《STRlDER》の護衛。
企業の侵略行為は留まるところを知らず、ベリウス西部のボナ・デア砂丘まで広がっている。
……元々《STRlDER》は、コーラルを汲み、分け合うための移動式拠点だった。
ドーザーに大金を積んでまでして武装化したのだ……失うわけにはいかない!
その為にも、まずはボナ・デア砂丘から《STRlDER》を離脱させるのが急務と判断した!
貴女の助力が得られることを願う』
解放戦線の窓口担当をしている優しげな青年〝アーシル〟の声は切実だった。
それほどまでに企業の侵攻は激しいということなのだろう。
ビルバオは少し考えた後、依頼を受けることにした。
「了解しました。
作戦区域に到着次第、連絡を送りますね。
企業が投入するのはおそらく独立傭兵でしょうから……ACにはACです」
実のところ、ウォルターの所には解放戦線の依頼と同時に、シュナイダーからの依頼も入っていた。
シュナイダーの依頼内容は《STRlDER》の破壊。
やはりと言うべきか報酬額は企業からの依頼の方が多かったが、報酬目当てであれば解放戦線の依頼は受けないだろう。
ビルバオが解放戦線を選んだ理由は報酬ではない。
「それと、少しお願いがあるのですが……」
『あぁ、何でも言ってくれ。
我々のために戦ってくれるのだ、こちらも誠意を見せたい』
誠実そうな人物、というのが、ビルバオからのアーシルに対する印象であった。
聞き心地良く、使命感に裏打ちされた雄弁な彼の語り口は嫌いではない。
ビルバオは解放戦線の活動や施設がまとめられたデータのうち、自身の興味をひいた項目のページをアーシルに送った。
『これは……我々の自然管理プラットフォームか……?
貴女がなぜ知っているのかは聞かないが、何故このデータを……?』
解放戦線がルビコン星内企業〝BAWS〟第3工廠内で運用している、食糧時給用の自然管理プラットフォーム。
〝アイビスの火〟の渦中で奇跡的に残っていた食品加工可能な植物や、繁殖能力が高く、かつ摂食可能な原生生物などをシェルター内に隔離し、
過去のルビコンの環境を人工的に再現してそれらを育て、収穫する施設だった。
枯れた星であるルビコンの土着民が飢えによる絶滅を免れているのも、このプラットフォームの存在が大きい。
故にここを破壊されるということは、それはルビコンの住人の生命線が潰えるという最悪の事態に他ならない。
企業に指示されてこの施設を探ろうとしているのではないか。
そう予測したアーシルは、密かに通信の録音を開始しながら尋ねる。
『……失礼を承知で聞くが、貴女の目的は何だ……?』
裏があれば素直に答えるわけがない。
少しでも怪しい素振りを見せれば即座に殺害に踏み切れるよう、通信の逆探知機も作動させた。
解放戦線には実質的な配下である暗殺者もいる。
少々様子はおかしいが腕は確かな人物だ、いざとなれば彼に頼んで排除すれば良い。
しかし、ビルバオの返答はアーシルの予想していたものとは違っていた。
「私は昔、地球で緑化運動をしていました。
今はもうその場所もなくなってしまいましたが……
このルビコンでもその活動がしたいのです」
『……緑化運動?』
「独立傭兵が何を言うかと思われるかもしれませんが、私の夢なのです。
……このルビコンの環境は、荒れ果てています」
『半世紀前のアイビスの火が、全てを焼き尽くしたからだ。
我々ルビコニアンの生活が困窮し始めたのもその頃からと、帥叔から聞いている』
「えぇ、ウォルターさんもそう言っていました。
環境とは人が生きていく為に必要なものであり、それが汚染されるということは、それは回り回って人を殺しかねない要因となります」
『それが、今のルビコンだと?』
「……はい。
私がかつて生きていたレイヤードは、人の行き過ぎた経済活動と武力衝突が汚染した世界から、逃げるようにして建造されました。
そんな世界で生きていたからこそ、私は知り、動かなければならないのです。
……そのためにも、まずはこのルビコンのことを知りたい。
それが理由にはなりませんか?」
『……私の一存では決めかねるが……』
少しの間を置く。
返答に悩むのも当然だった。
美辞麗句の理想を謀略に使うやり方はありふれているし、解放戦線も、そうやって英雄願望のある未熟な傭兵を使い潰したことくらいはあるだろう。
綺麗事は人を動かす良い糸になる。
それを分からない両者ではない。
数多くの傭兵と交渉し、時に人の暗部を見てきたアーシルは、口振りや言葉選びから、その真意を見破る能力を自然と身に付けていた。
……だからこそ。
『……独立傭兵ビルバオ、私はあなたを信じたい。
貴女はただの企業の走狗ではない、理想を追う我々の同志だ。
まずは作戦を無事に終えてから、管理プラットフォームの見学が出来ないか、帥叔に掛け合ってみよう』
彼のそのセンサーに、ビルバオは反応しなかった。
全てが本心から来る言葉と解釈したアーシルは、彼女の意に答えたかったのだ。
『とにかく、まずは《STRlDER》の護衛を頼む。
決行の夜までに、作戦区域で待機して欲しい。
……コーラルよ、ルビコンと共にあれ』
解放戦線の警句らしいそれを言うと、アーシルは通信を切断した。
ブリーフィングルームが閉じられ、ノイズと共に網膜投影が終了する。
少し気を張って強ばっていた体を緩めて息を吐く。
シートに背を預けて目を閉じ、頭の中でイメージトレーニングを始めた。
アセンブルを変更して直ぐに舞い込んだ依頼のため、慣熟訓練に使える時間は少ない。
《ALL MIND》のシュミレーションを使おうかとも思ったが、オキーフからのメッセージを聞いた今ではそのような気も起きなかった。
ビルバオの頭の中で、ボナ・デア砂丘の砂嵐とそこに立つ《GREEN WITCH》、そして他の同業者のデータから平均的なアセンブルを組み立て、それを相手とする。
ペダルを踏む動作や操縦桿をひねる動作を空中で模倣しつつ、暫く頭の中でAC戦闘の基礎とその応用パターンを試していると、ウォルターから連絡が入った。
「すまない、ビルバオ。
ブリーフィングは……もう終わったか」
シュナイダーの部隊と報酬額について話し合いが長引いたらしく、少し疲れているのが声色から分かった。
マグカップに注いだコーヒーを啜り、一息ついたウォルターが話し始めた。
「俺はこれから621のオペレーティングをしなければならない。
あいつが迂闊に飛び出していかないように、適当に話し相手をしてやるつもりだ」
「それはそれは……
621さん、ちょっと向う見ずなところありますからねぇ……」
「あぁ、全くだ」
2人して少し笑う。
621の情動は幼く、それが良いかどうかはさておいて、あまり考えずに突っ込むきらいがあった。
待つのが苦手な性分であり、その上戦闘中はやかましい。
これでは襲撃任務を任せようにも勝手に見つかりに行って勝手に返り討ちにされかねないと判断した2人は、どちらかの手が空いている場合はできるだけ621の手綱を握っておくことにしていた。
今日はビルバオも621も仕事のため、ウォルターは621の方へつくこととなっている。
「……まだ慣れていないだろう、すまないな」
申し訳なさそうにウォルターはつぶやく。
「いえいえ……
ルビコンのことはまだ把握しきれてはいませんが、私にはレイヤードの経験もあります。
傭兵の仕事には慣れていますから」
ビルバオには経験があった。
レイヤード時代の、グローバルコーテックスの元で活動する傭兵としての経験が、未知のものばかりのルビコンで活動する彼女を支えていた。
再開発されたとはいえ、ACはACであり、人は人である。
どれを相手取る戦い方も捌き方も、彼女は知り尽くしていた。
そして、それはウォルターも理解している。
「……そうか」
ウォルターはそう呟いてコーヒーを啜り、頭の中を再び仕事に切り替えた。
「作戦時刻になったら、俺の代わりにハークラーがオペレーターを担当する。
現場を知っている男だ、感覚も近いだろう」
腕時計で時刻を確認したウォルターは、ガレージを輸送形態に切り替える操作を行い、ビルバオと《GREEN WITCH》のいるガレージが円筒の装甲に包まれて輸送ヘリに固定される。
「敵対する両陣営から依頼が来るとはな。
……結果さえ出せば名が売れるのが、独立傭兵の利点だ」
ウォルターに見送られながら、《GREEN WITCH》を載せる輸送ヘリは飛び立っていった。
─────────────────────
ベリウス西部、ボナ・デア砂丘。
日が沈み、グリッドの隙間から星空がまばらに覗く夜。
輸送ヘリから投下された《GREEN WITCH》の細い四脚が、砂嵐の中へ降り立った。
『メインシステム、戦闘モードを起動します』
ACのCOMが戦闘モードに切り替わると同時に表示された射撃用レティクル。
その向こうに、6本足の影が見えた。
筒のような……馬のようにも見える胴体に大柄な脚が取り付けられ、鈍重ながらも前へと進むそれは今回の護衛対象《STRlDER》。
「うわー……でっかいですねぇ……」
「でっけーな……」
通信で《GREEN WITCH》のカメラ映像越しに見るハークラーとビルバオが同時に声を上げる。
「えーと、ACのサイズが大体10mだろ?
グリッドの高度とACのサイズから考えて……分からん」
指折り数えてサイズを計算していたハークラーは自分の脳がオーバーヒートしそうになるのを感じて直ぐにやめた。
《STRlDER》に限った話ではないが、ルビコンのものは大きすぎる。
軍属になって長いハークラーだが、未だに特殊兵器の大きさには慣れない。
敵影を確認するために定期的にスキャンをしながら解放戦線から指定されていたポイントへと進む。
大柄な武装採掘艦はギシギシと音を立てながら歩んでおり、その姿はさながら大型の草食動物のようだ。
小高い岩の丘の頂上付近に巨躯を寄せた《STRlDER》からの指示で、胴に取り付けられたサブジェネレータに併設された足場に乗る。
道中で何度もロックシステムが企業の刺客らしき残骸を誤認識してミサイルが起動するなどのトラブルはあったが、辺りは異様なほど静かであった。
違和感を抱いたハークラーが、纏まりきらない思考をそのまま口に出す。
「……おかしくねぇか?
あの《STRlDER》だぞ? 俺たちベイラムすらマークしてるデカブツだ。
どっかしらが散発的に襲撃か、偵察部隊でもけしかけてないとおかしい。
それに……」
「……残骸が途中からありませんでした。
企業勢力が、一定以上のラインから接近できていないとは、考えにくいですが……」
進路上にあった残骸が、《STRlDER》から4kmあたりの地点から全くといっていいほど見つからなくなった。
唯一見つかった残骸も既に風化しているくらいには古いもので、直近の戦闘で撃墜されたものとは考えにくい。
そして、もうひとつ不可解な点がある。
ビルバオもハークラーも気づいていたことではあるが、それがどう作用するかはわからなかったためあえて黙っていた内容である。
「なぜ、彼らは
道中の残骸にはMT同士の射撃戦の銃痕や格闘戦による斬撃、打撃の痕に加え、重量物がのしかかったことで潰されたと思しきものがあった。
封鎖惑星であるルビコンに大型兵器を持ち込むほどの輸送ルートを企業は構えられていないため、消去法から考えられるのは惑星封鎖機構。
しかし、直近で惑星封鎖機構が動いたという話は621の密航時のヘリを覗いて聞かず、また、MTやACを踏み潰せる程の巨躯の機体となればその所属は恐らく執行部隊だろう。
封鎖機構の中でも下っ端とも呼べる
「どこの誰が、あのような兵器を……?」
ハークラーと2人して唸るが、答えは出ない。
ひとまず《STRlDER》の広域レーダーと情報を共有して待機する。
1時間、2時間、3時間と経っても襲撃はなかった。
不自然すぎるほどに、ACどころかヘリの1台も現れない。
《STRlDER》の甲板に取り付けられた人間の眼球のような形をした大型エネルギー砲台《EYE BALL》が周囲を見回しながらスキャンを繰り返すが、それでも敵影は映らない。
そうこうしているうちに《STRlDER》はボナ・デア砂丘の端へとたどり着いていた。
ここから数キロほど先の谷を越えれば、後は解放戦線の部隊が引き継ぐ約束となっている。
さすがに数時間と気を張っていては疲弊もする。
ビルバオはため息を吐きながらシートに身を預け、小さく鳴る腹をさすりながら呟いた。
「お腹……空きましたね……」
ビルバオは仕事中に小腹が空いたときのためにと、ウォルターからもらったボディバッグに携帯食をいくつか忍ばせていた。
しかし、訓練中やガレージの清掃中につまんでいたため、現状腹が満たせるほどの数はなく、それに落胆したのが1時間ほど前。
コックピットを漁った結果は中古のサバイバルキットに残っていた期限間近の保存水であり、それを飲んでなんとか気を紛らわすのが精一杯だった。
狭いコックピットの中で伸びをしつつレーダーを見るが、やはり敵影はない。
そろそろ終わりだろうと考え、帰り支度の気分で姿勢を正して操縦桿を握る。
そのときだった。
『敵襲! ACが一機!』
《STRlDER》の艦橋から通信と同時に望遠カメラの映像が、《GREEN WITCH》へと飛び込む。
ルビコン星内企業〝BAWS〟の旧型AC《BASHO》の姿があった。
ブリキの玩具のようなフォルムにリベット止めにも似た造形の装甲でいかにも弱そうな見た目だが、その性能は生産から半世紀以上過ぎた今でも通用するというのだから侮れない。
『接敵まで20。
頼むぞ、独立傭兵』
「ふぅ……では、お仕事始めましょうか……!」
ビルバオは《GREEN WITCH》が装備する武装をチェックする。
左腕にはパルスブレード《HI-32 BUTT/A》、右腕にはレーザーライフル《VP-66LR》の構成に加え、今回は右肩に懸架していたパルスミサイルを左肩へと移し、空いた右肩にプラズマミサイルの《Vvc-703PM》を装備していた。
装備は全て万全。
ビルバオが操縦桿を握りしめ、ペダルをゆっくりと踏み込むと同時に《GREEN WITCH》の還流型ジェネレーターが咆哮を上げる。
「チェック完了……オールグリーン。
ビルバオ行きます!」
アサルトブーストによって足場から飛び出す。
《BASHO》の進む先へと降り立ち、正面から迎え撃とうという算段だ。
スキャンによって解析された情報が《GREEN WITCH》のモニターに表示された。
汎用ライフルの《RANSETSU-RF》を右手に持ち、左腕の《ASHMEAD》で一撃必殺を狙うスタイルらしい装備構成。
後退しながら弾幕を張れば押し返せる相手だと判断し、ロックオン圏内に入ると同時に《GREEN WITCH》はレーザーライフルを構える。
射撃準備に入ったレーザーライフルの銃口の先に《BASHO》が現れた。
《GREEN WITCH》を視認するなり《BASHO》はアサルトブーストを吹かし、適当な牽制射撃にライフル弾をばら撒く。
機動性に優れる《GREEN WITCH》は素早くフロート形態を取ってそれらを回避するが、
「なかなか食らいつきますね……ッ!」
後退しながら《GREEN WITCH》はミサイルとレーザーライフルを放ち、そのうち数発が《BASHO》に着弾して装甲を焼く。
しかし直撃ではなかったようで、装甲の表面を少し焦がした程度。
「やはり、砂嵐の中では減退してしまいますね……
引き撃ちは分が悪いでしょうか……」
EN兵器は長射程で高火力という、正しく痒いところに手の届く性質の武装である反面、ある大きなデメリットを抱えていた。
それが、環境によって左右される威力変動。
砂嵐や海中などではEN兵器の弾丸は砂や水分子に衝突して拡散、減退してしまう。
長所である射程は縮み、威力も半減してしまう状況では、環境に左右されず、かつどのような状態でも一定の性能は保証されている実弾兵器に分があった。
「ビルバオ、あの手の敵にはあえて突っ込んだ方が勝てるぞ」
ハークラーの短いアドバイスでビルバオは作戦を切替える。
《GREEN WITCH》はアサルトブーストで正面から《BASHO》と衝突する。
揺れるコックピットの中でビルバオが敵の脚部へと狙いを定め、素早くパルスブレードを奮って右脚を斬り落とした。
片足を失った《BASHO》のアサルトブーストを、《GREEN WITCH》は左にクイックブーストを吹かして躱し、敵を見失った《BASHO》は激しく横転する。
地面を削り、砂埃を巻き上げて吹っ飛んだ《BASHO》のACSは呆気なく機能停止に陥っていた。
《BASHO》は片足の欠損によるバランサーのエラーに加え、致命的なACSのスタッガー。
方や万全の《GREEN WITCH》は冷却を終えたパルスブレードを起動し、アサルトブーストで《BASHO》へと襲いかかる。
《GREEN WITCH》の勝利は確実であった。
パルスブレードの斬撃が《BASHO》のコアへと振り下ろされ────
「ッ!」
前方からのアラートで反射的に後方へのクイックブーストを吹かし、《GREEN WITCH》は《BASHO》から離れる。
無限履帯の基部に砲台を乗せたようにも見える謎の機体が《BASHO》を背後から踏み潰し、ジェネレーターの激しい爆炎の中から煙と煤をまとって飛び出した。
不明機体は紅いブースター炎の尾を引いて高速で機動しながら《GREEN WITCH》を補足し、ミサイルを放つ。
「不明機体……ッ!?
前のとは、別のようですが……」
右へ左へとフロート形態で躱しつつ反撃のプラズマミサイルを発射。
どうやら足の速い機体のようだが、ACのアサルトブーストのスピードを上回るプラズマミサイルは躱しきれないようだ。
1発、2発、と不明機体の至近距離で近接信管によるプラズマ爆発が起き、装甲を焼いていく。
しかし、《GREEN WITCH》のモニターに表示される不明機体の推定APは、まったくといって良いほどに減少していなかった。
「この機体……硬い……!」
《GREEN WITCH》を中心として円を描くような軌道をする不明機体がマシンガンを斉射し、いくつか被弾しながらも致命的なダメージは回避し続ける。
カメラ映像を見ながら、ハークラーは憎々しげに呟いた。
「あのヤロー……まさか、前にイグアスを襲った奴か!?」
「知っているのですか!?」
「あぁ……
前にぶちのめした時は、ミシガンの親父とヴォルタの野郎がグレネードで燃やしてた。
爆発系が弱点か……?」
「かもしれません……!
先程爆炎の中を突っ切って出てきた時、僅かですがACSに負荷を受けていました!
ですが……!」
弱点がわかったからといって、《GREEN WITCH》にはどうすることも出来なかった。
今の《GREEN WITCH》が積んでいる武装で通用するのはパルスミサイルとプラズマミサイルだが、そのどちらも継続的に撃てる武器ではなく、スタッガーで足止めもできないためこのままではジリ貧である。
そう長くは持たない。
最悪、あの《BASHO》のようにスタッガーした瞬間を踏み潰されて終わりだ。
追い詰められている。
不明機体の無機質な紅いセンサーアイが、《GREEN WITCH》を、そのコアの中にいるビルバオへと明確な殺意をぶつけていた。
操縦桿やペダルを忙しなく操作しながら、ビルバオは《STRlDER》の艦橋へと通信を繋ぐ。
「聞こえますか! こちらビルバオ!
不明機体と交戦中です!」
『こちらも交戦している!
おそらく同型が……ぐわぁッ!』
通信から聞こえてきた悲鳴と同時に、《STRlDER》の最後部が大規模な連鎖爆発を起こして崩れ落ちた。
数百m以上離れたビルバオの場所からでも視認できる、特徴的な紅いブースター炎。
間違いなく、今自分が対峙している機体と同じものだ。
「どうすれば……っ!?」
《GREEN WITCH》が《STRlDER》へと意識を取られている隙に、不明機体は大きく踏み込んで飛び上がった。
「ビルバオ! 前見ろ!」
「ッ!?」
ハークラーの声とアラートで正面へと視線を戻したビルバオと《GREEN WITCH》だが、既に遅い。
高速で稼動する無限履帯による飛び蹴りが、《GREEN WITCH》のコアと脚部の接続部に直撃した。
「きゃああぁッ!!?!」
蹴り飛ばされた《GREEN WITCH》の右肩が地面を削り、ACS負荷限界の警告が鳴る。
スタッガーを起こした《GREEN WITCH》の四脚はバランスを崩し、擱座してしまった。
「そんな……っ! ダメージが……!」
右肩の伝達系が損傷してライフルは使用不可、糸が切れたように垂れ下がる腕はもはやデッドウェイトにしかならない。
機体の損傷によるアラートがコックピットで大合唱を始めていた。
追いついてきた不明機体の紅い目が《GREEN WITCH》を睨みつける。
「いや……っ!
動いて……! 動いて《GREEN WITCH》……!」
自棄になったように操縦桿を動かし、ペダルを乱暴に何度も踏み付ける。
ACSは復旧したが、《GREEN WITCH》自体が姿勢を直すまでには一瞬のラグがあった。
四脚が再び地面に立った時には遅い。
不明機体が再び宙を舞い、紅いブースターが火の粉を散らせて飛び蹴りを放つ。
死ぬ。明確な死が襲い来る。
かつてのグリッド135と同じように。
半狂乱の叫びを上げながら、ビルバオが踏み込んだペダルはアサルトブースト。
《GREEN WITCH》の皿のような頭部に不明機体の一部が擦れて火花を散らせたが、間一髪で下をすり抜けることが出来た。
まだ左腕は生きている。
ギジッ、と嫌な音を立てながら強引に動かされた操縦桿によって《GREEN WITCH》は素早くターンし、不明機体の底を捉えた。
当たればそれ以上は望まない。
パルスの斬撃で伸ばされた脚を履帯ごと斬り捨て、姿勢を崩した所にプラズマミサイルを叩き込む。
頭から地面に激突した不明機体は転がりながら小さな爆発を何度も起こし、紅い火球に包まれてバラバラに破裂した。
爆風から逃げるようにして、空を仰ぎながらアサルトブーストを吹かしていた《GREEN WITCH》のENが尽き、背中から落下しそうになるのを四脚の後ろ足で踏ん張って姿勢を直す。
「はぁ……はぁ……っ」
肩で息をするビルバオ。
彼女の体も《GREEN WITCH》も既に限界に近かったが、今は《STRlDER》の救援に向かわなければならない。
竦む足でペダルを踏み込み、7割ほど回復したENでアサルトブーストを起動し飛び立った。
使い物にならない右腕の供給を切って他の部位に回せば少しはマシになると考えたビルバオはジェネレーターが生み出すエネルギー配分を調整しつつ、《STRlDER》へと通信を繋ぐ。
『独立傭兵ビルバオ、こちらはかなり圧されている!
奴は甲板だ!
《EYE BALL》を破壊しようとしているようで、今は我々のMT部隊が抑えているが……』
「向かいますから……! もう少しだけ耐えてください……!」
お互い余裕が無いことはわかりきっていた。
既に《STRlDER》は後部車両を失い、《GREEN WITCH》はリペアキットで何とか表面装甲に応急処置を施してAPを誤魔化すしかできない。
まさか不明機体二機で、ここまで追い詰められるとは。
サブジェネレータ横の足場に着地して垂直カタパルトに移動、そのまま甲板へと飛ぶ。
不明機体を補足すると同時にプラズマミサイルを放つが、それらを回避しながら不明機体は生き残っていた最後のMTをマシンガンで撃破してしまった。
甲板のMT部隊は既に全滅し、その全てに踏みつけや飛び蹴りで砕かれた痕があった。
「やはり……陸戦では分が悪い……!」
「ホバリングで撃ち下ろせ!
ミシガンの親父がやってたやり方だ!」
「分かり……ましたッ!」
ビルバオは空中で四脚をフロート形態へ変形させ、接地した状態で不明機体がばら撒くフルオート射撃を回避する。
左手のブレードをパルスミサイルに持ち替え、右肩のプラズマミサイルとタイミングをずらしながら放つ。
戦いに集中するビルバオに代わり、ハークラーが《STRlDER》の艦橋に呼びかける。
「聞こえるか! 艦長!
《GREEN WITCH》があのふざけた野郎を追い込む、 ミサイルでもなんでもその隙にぶち込んでやれ!」
『了解した!
反抗の要を失う訳にはいかない! 砲台準備!
諸君! ありったけ叩き込むんだ!』
艦長の声と共に《STRlDER》のミサイルポッドが展開され、《EYE BALL》の広域スキャンによってマーキングされた不明機体をロックした。
一方《GREEN WITCH》が放ったプラズマミサイルは横から襲いかかる軌道を描き、不明機体の逃げる方向へパルスミサイルの弾頭を置くように発射する。
近接信管が作るプラズマ爆発のゾーンに巻き込まれた不明機体の装甲が焦げ、衝撃で減速した瞬間にパルスミサイルが直撃していく。
堪らず《GREEN WITCH》と同じ高度へ飛び出した不明機体はそのまま蹴りの姿勢を取る。
「同じ手は喰らいません……ッ!」
《GREEN WITCH》はそれよりも速くアサルトブーストで不明機体の下へと潜り込み、背中をパルスブレードで斬りつけた。
甲板の端まで吹っ飛び、足が止まった不明機体へと《STRlDER》のポッドから放たれたミサイル群が襲いかかる。
「いけるぞ!」
ハークラーが叫ぶと同時に大量のミサイルが直撃。
スタッガーして膝をついた不明機体へ、爆炎を通り抜けながら《GREEN WITCH》が四脚を開いて絡みついた。
「うぁあああァァァア゛っ!」
ビルバオの雄叫びに呼応するようにアサルトブーストを起動した《GREEN WITCH》は不明機体を四脚で絡みついて逃がさないように押さえ込み、もろとも甲板から落下する。
地面との激突までの僅かな時間で与えられる限りのダメージを与えようと、プラズマミサイルとハンドミサイルを至近距離で撃ち込む。
パルスミサイルのリロードを待たずにブレードへ持ち替え、刀身は短く高出力に調整されたパルスの刃に貫かれ、不明機体は奇怪な電子音声のような悲鳴を上げる。
不明機体がブースターを吹かして減速しようとするのを押さえ込むべく、《GREEN WITCH》は全身のブースターを全て上に向けて急降下し地面に不明機体を背中から叩きつけた。
衝撃をもろに受けた不明機体の関節から紅い火が漏れだし、各所で誘爆し始める。
「離れろビルバオ!」
「分かってます!」
脚を開いて《GREEN WITCH》が上昇した直後、不明機体が中心となって紅い火球が発生し、辺りに残骸を飛び散らせながら爆発した。
爆風に煽られながら着地する《GREEN WITCH》。
着地と同時にメインシステムがシャットダウンし、全身の発光体が一斉に消灯して四脚の姿勢が崩れた。
補助電源が起動し、コックピットの中ではモニターだけが青白く光る。
ビルバオは口元を押さえてうずくまっていた。
さすがに数千メートルの高度から落下して、その衝撃を相殺できるほどACは器用ではない。
「うぅ……おぇ゙……っ
げほ……っ」
振動で揺さぶられた内臓が大袈裟に反応し、ビルバオは《GREEN WITCH》の床へ空っぽな胃の僅かな中身と血を吐いた。
激しい衝撃で脳にも少しダメージが入ったのか、視界がぼやけてモニターに表示されている文字が上手く読めない。
そのまま、ビルバオは意識を失った。
暗い夜のボナ・デア砂丘に、不明機体の心臓から漏れ出たコーラルが、まるで血の川を描くように輝いていた。
【説明するのが面倒なところを説明する安いおまけ】
・《BASHO》乗りの傭兵
ビルバオと戦った独立傭兵。
それなりに実績を上げているらしく、シュナイダーからストライダーの破壊を依頼されていた。
しかし、運悪く遭遇したビルバオに敗北した挙句不明機体(ウィーヴィル)に踏み潰されて死亡した。
ACや兵器の呼称についてのアンケートです。ACやMTなどの名称は現状常に《》を付けて表記していますが、初登場以降もこの表記を維持するか、《》を外して表記するか、読みやすい方に票を入れてください
-
初登場以降も《》をつける
-
初登場以降は《》を外して表記する
-
《》を外す&カタカナ表記にする