STARWARS バクトゥールの地にて 作:バケツ頭 小説もどき家
轟音を轟かせながらゲートから出ていくスピーダーバイクとその乗り手。リマは防壁の上からバイノキュラーを覗き、命知らずな走り屋を追う。相変わらず危なっかしい操縦だ。視界から外れると、バイノキュラーを下げてため息をつく。
「彼なら大丈夫よ」と、言う声。リマが隣に顔を向けると、そこにはファマが立っていた。「どんな敵だって、彼に追いつけやしないわ。無事に味方のもとへ辿り着くはず」
「確かに速度は部隊一です。だけど“超”がつくほどの無謀で向こう見ずな愚か者ですよ? 自分の操縦に自惚れるあまり、切り株や倒木に突っ込むかも」
「向こう見ずでも、腕は確かよ。今は彼を信じるしかない」
彼女の声は穏やかだが、どこか揺るがない。リマはちらりと横顔を見てから、やや呆れた調子で返す。
「ふっ……数十人の命が無謀なバイカーの手に託される。夢なら覚めてほしいですよ」
「正に悪夢ね」ファマはヘルメットの下で小さく笑い、狙撃手の肩を叩いた。「何か見つけたら報告を」
「了解」
◇
目まぐるしく変わる景色。激しくバイザーやアーマーに当たる雨粒。セインはマシンの限界に近い速度で森を潜り抜け、草原を駆ける。
森を抜けた瞬間、セインの背後で轟音が響いた。反射的に後ろを振り向く。「張ってやがったか」自機を追いかける二台のスピーダーバイク。追っ手の登場に、走り屋の血が騒ぐ。「保安部隊の検問のような真似しやがって」
セインはスロットルを押し込み、体をさらに前傾させる。エンジンが咆哮を上げ、雨の中を切り裂くように加速した。
背後では、敵のスピーダーが光弾を放つ。青白い閃光が地面を抉り、泥と水柱が跳ね上がる。セインは器用にハンドルを切り、機体を傾けながらジグザグに走行した。
舌打ちしながらも、彼の動きには焦りがなかった。むしろその声には、わずかな高揚が混じっていた。狙われているという緊迫の中に、どこか楽しんでいるような響きがある。
追っ手との距離は間近に迫った。どちらも真っ直ぐ追いかけてきている。
「よし……驚かせてやる」
セインは速度を一気に下げた。追っ手の間をすり抜けるように通り過ぎていくセイン。追っ手のガイバグは咄嗟に後ろを振り向いた。
間髪を入れずにレーザー砲を撃ち込む。地元の保安部隊相手にはできなかった事だ。レーザーが直撃し、スピンするスピーダーバイク。ぐるぐると振り回されながら追っ手は叫び声をあげ、機体もろとも岩に激突する。
「ざまぁみろ!」
セインは残骸の方を向き、勝利のサインをしてみせた。
「よくも!!」
頭に血が登ったガイバグはセインの隣にスピーダーバイクをつかせる。彼は怒りに任せて機体を相手にぶつけた。
「友達は残念だったな!!」
スカウトトルーパーから飛び出すまさかの挑発的な言葉。ガイバグは驚くと共に更なる怒りを感じた。機体を離し、勢いをつけてもう一度ぶつける。
「そう怒んなって」
ガイバグは間髪入れずに体当りする。
セインは軽く笑うと、スピーダーをわずかに傾けた。次の瞬間、敵の機体が突進してきた――だが、セインはそれを読んでいた。機体を上昇させ、相手を避ける。
「あああああ!!」
めいいっぱいの体当りは彼にとって命取りになった。セインの機体が消えたせいで、速度を吸収する物がなくなり、ガイバグは予想よりも左に出てしまった。目の前に盛り上がった丘が見えたときには全てが手遅れだった。スタビライザーが丘に接触し、ガイバグは地面に叩きつけられた。
「友達によろしく」
セインは軽く敬礼してみせ、物言わぬ存在となった敵を挑発した。
追っ手を巻いたスカウトトルーパーは味方にいち早く部隊の危機を伝えるため、更にスピードを上げるのだった。
◇
祖父はバクトゥール内戦で数百人の部隊を率い、ガイバグ軍と戦った。父はクローン戦争で、独立星系連合と分離主義勢力軍相手に名誉な戦死を遂げた。セチネル家は優秀な軍人を輩出してきた家系であり、その名誉と名声はホログラムや言い伝えで今に伝わる。ドネスラは自分の先祖や父がどんなに勇敢で輝かしかったかを祖母や母から聞かされて育ってきた。バクトゥール星系防衛軍の士官になるのは彼の中で夜の後に朝が来るのと同じくらい当然で、避けられない運命だった。
命令に抗議する軍曹、泣き喚く新兵。華々しい功績を残した先祖達も戦意のない兵や扱いにくい下士官に悩んだのであろうか? 士官学校を卒業してやっと戦場に馳せ参じたものの、指揮下の部隊は戦う前から崩壊寸前であった。
状況も絶望的ときている。部隊は敵の罠にはまり、墓場と化していた基地に閉じ込められ、死を待っている。通信は繋がらず、味方に増援を要請しに行った帝国の偵察隊員も無事に任務を果たしてくれるのかは未知数だ。
あのスカウトトルーパーが基地から出ていった事で、ドネスラの部下達の不満は更に高まった。伝令のためだとか、逃げた訳ではないだとかは彼らには関係ない。この場所から離れられたという事実に怒り、嫉妬しているのだ。
孤立した状況での戦死。今、全滅すれば部隊の醜態は伝わらず、父のように名誉ある死として語り継がれるだろう。だが、ドネスラは生きて子や孫に自分の物語を伝えたい。死んだ英雄としてではなく。
ドネスラは、濡れた防壁の内側に背を預けたまま、雨に煙る空を見上げた。灰色の雲は重く垂れ下がっている。
かつて父や祖父が見上げた空も、きっとこんな色をしていたのだろうか――そう思うと、胸の奥に何とも言えない感情が込み上げた。誇りと、後悔と、そして恐怖。
「ドネスラ少尉」
落ち着いていて、希望を失っていない声。スカウトトルーパーが目の前にやってくると、ドネスラは静かに彼女を見上げた。
「部下にSB-920の経験がある者はいない?」
女スカウトトルーパーは後ろの砲台を親指で指差してそう言った。
「どうかな……」ドネスラは少し考えた。「何人かは帝国アカデミーの落ちこぼれだ。訓練で扱ったものがいるかもしれん。聞いてみるよ」
「頼むわ」
彼女は短く頷いてそう言うと、自分の部下達の下へ戻っていった。ライフルを両手で持ち、士官の話を聞く数人のスカウトトルーパー。彼らはこの状況でも諦めるつもりはないらしい。
首に吊り下げた御守り。ドネスラは妻からの贈り物を眺めると、覚悟を決めた。
「SB-920の操作経験がある者はいるか?」
兵士達を集めると、小隊長はそう聞いた。兵達は顔を見合わせ、雨の音だけが響く。
「実戦でも訓練でも何でも構わん。誰かいないか?」
隣の仲間の顔を見る女兵士ミラ。彼女の眼差しに二人の戦友は首を横に振る。「いいことないって」そう言うダンとフォイ。ミラはそんな彼らを無視して手を挙げた。
「わたしとこの二人、SB-920を扱ったことがあります」
「ミラ……!」
「三人とも前へ」
ドネスラの言葉がダンの声をかき消した。
ミラは小さくうなずき、二人を引っ張るように前へ出る。
「お前達、本当に経験があるのか?」
「ええ」ミラはドネスラにそう頷いた。「私達は王立アカデミー在籍時、以前ヴィクトリー級スターデストロイヤー“ノヴァ”で訓練を受けたことがあり、その時にSB-920を扱った経験が」
バクトゥール星系防衛軍が保有する中で、ヴィクトリー級は最大の艦種であり、防衛艦隊の主力。そんな艦での訓練は、バクトゥール防衛軍の中でも選抜生しか受けられない。自分の小隊にその経験を持つ兵士がいるとは。ドネスラは予想外な事実に驚いた。王立アカデミーの選抜生が何故衛星の防衛部隊にいるのか等、今の彼にはどうでも良かった。
「では決まりだな。お前達にSB-920を任せる。詳細な指示は帝国軍のファマ少尉から受けろ」
「了解」
ミラは敬礼し、後ろのダンとフォイもそれに続いた。