コードギアスを一期でハッピーエンドにしてみた 作:三ツ石 冷夏
夜の帳が落ちた。
トウキョウ租界の廃ビルの屋上で、ルルーシュは黒いマントを脱ぎ捨てた。
足元には血の跡が残り、冷たい風が頬を撫でる。
『ユーフェミア・リ・ブリタニアは日本人を虐殺した――』
その報せが、いまも耳の奥で鳴り響いている。
(違う……あれは俺じゃない。俺の意思じゃなかった。ギアスが――)
震える指が自らの左目を押さえた。
だが、どれだけ叫んでも世界は変わらない。
黒の騎士団は散り、仲間たちはゼロの正体を疑い、ナナリーの居場所もわからない。
全てが崩壊した。
あの“力”を得た日から、何もかもが少しずつ狂っていた。
「……滑稽だな。世界を変えると宣言して、このざまだ」
その独白は風に消え、誰にも届かない。
ルルーシュは屋上の縁に腰を下ろすと、目を閉じた。
ほんの僅かでも眠れればと思ったが、瞼の裏に浮かぶのはひとりの少女の笑顔だった。
(……シャーリー)
彼女の父を死なせたのは、他でもない自分だ。
なのに、彼女は泣きながらそれでも言ってくれた。
「誰かを守るために戦ってるなら、私は……嫌いになれない」と。
――あの時の涙の意味を、ようやく理解した気がした。
人を救うとは、誰かを犠牲にすることじゃない。
誰かに『救われる覚悟を持つこと』なのだと。
ルルーシュは小さく息を吐いた。
そして静かに立ち上がる。
「……終わりじゃない。俺にはまだ、やらねばならないことがある」
その時、遠くから微かな足音が聞こえた。
振り返ると、月明かりに照らされた少女が立っていた。
オレンジ色の髪が夜風に揺れ、怯えと決意が混じった瞳がこちらを見つめている。
その姿に、ルルーシュの胸が強く脈打った。
「……シャーリー?」
少女は震える声で呟いた。
「……ルルーシュ、やっぱり……あなた、ゼロなの?」
一瞬、世界が止まったようだった。
沈黙が二人の間に流れ、夜の冷たさがさらに増す。
ルルーシュは目を逸らさなかった。
逃げる資格など、自分にはもうない。
「……ああ、そうだ。俺がゼロだ」
シャーリーの瞳が揺れた。
怒りでも、悲しみでもない。
そこにあったのは、どうしようもないほどの『哀しみと愛しさ』だった。
「じゃあ、どうして泣いてるの……ルルーシュ」
彼女の言葉に、気づけば頬を濡らしていた。
ルルーシュは声を押し殺すように答える。
「……誰も救えなかったからだ」
シャーリーは一歩、彼に近づいた。
そして、そっと手を伸ばして彼の頬を拭った。
その指先が震えている。
だが、その温もりは確かだった。
「だったら、もう……救わなくていいよ。私が、あなたを救うから」
(そんなことが……できるのか? この俺を?)
それでも、シャーリーの瞳には嘘がなかった。
彼女だけは、どんな罪を背負っても自分を見捨てない。
その確信が胸の奥で灯をともした。
ルルーシュは小さく笑う。
「……君は本当に、愚かだな」
「うん。知ってる。でも、ルルーシュも同じでしょ?」
その瞬間、夜空を渡る風がやわらかく吹いた。
冷え切っていた屋上に、微かな春の匂いが漂う。
ルルーシュは彼女の手を取った。
それは戦場の決意でも、反逆者の握手でもない。
ひとりの人間として、もう一度生きるための約束だった。
「……これが、俺の“再起(Re;Origin)”かもしれないな」
シャーリーは微笑んだ。
「じゃあ、その始まりを……二人で見ようよ」
月が雲間から顔を出す。
冷たい光が二人の影を重ね合わせた。
そして、ルルーシュは静かに言った。
「ありがとう、シャーリー。君がいてくれて、本当に……よかった」