コードギアスを一期でハッピーエンドにしてみた   作:三ツ石 冷夏

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エピローグ:黎明の庭

 朝靄がゆっくりと晴れていく。

 遠くで小鳥の声がするたびに、微かに揺れる木漏れ日が庭の芝を照らしていた。

 

 白いテーブルの上には、湯気を立てる紅茶。

 その向かいで、シャーリーが微笑んでいる。

 

 ルルーシュは、その穏やかな光景を眺めながら、胸の奥に小さな痛みを覚えていた。

(ようやく、ここまで来た…だが、俺は何を犠牲にしてきた?)

 

 風が吹き抜け、仮面の記憶が過ぎる。

 かつて『ゼロ』と呼ばれた自分が、誰かの希望であり、誰かの恐怖だった日々。

 あの血の夜――ユーフェミアが崩れ落ちる光景を防げたこと。それだけが、唯一の救いだった。

 

 彼女は今、ブリタニア本国で新しい特区を導き、ナナリーと連絡を取り合っている。

 ルルーシュはもう、彼女に銃を向けることも、憎悪を語ることもない。

 ただ、その『優しさの強さ』を遠くから尊敬するだけだった。

 

「ねえ、ルル。紅茶、少し冷めちゃうよ?」

 シャーリーの声が現実に引き戻す。

 

「ああ、悪い。少し考えごとをしていた」

 

 シャーリーは首を傾げて笑った。

「また、世界のこと? それとも……自分のこと?」

 

 彼女の瞳は、すべてを知っていた。

 ゼロの正体も、血に塗られた過去も。

 それでも、その笑顔に曇りはない。

 

(この人は…俺の罪を知っても、まだ俺を人間として見てくれる)

 

「どっちも、だな」

 ルルーシュは苦笑し、カップを手に取る。

 紅茶の香りが鼻をくすぐり、ゆるやかに胸の奥を温めていく。

 

 シャーリーは彼の手の動きを見つめながら、ふと呟いた。

「ねえ、あの日……もし、ユーフェミアが撃たれていたら、どうなってたと思う?」

 

 ルルーシュは少しだけ目を伏せた。

「俺は、もうこの世界にはいなかっただろう」

 

「そっか。でも……」

 彼女は、カップの縁を指でなぞる。

「わたし、きっとルルのそばにいたと思う。たとえ世界中を敵に回しても」

 

 風が再び吹き抜け、紅茶の表面に細かな波が立った。

 その一瞬、ルルーシュは心の奥にあった氷が、静かに溶けていくのを感じた。

 

(俺はようやく――救われたのかもしれない)

 

 庭の奥、ナナリーが花を植えていた。

 小さな手で土を掘り、慎重に苗を植えている。

 シャーリーが立ち上がって駆け寄り、笑いながら手伝い始めた。

 

 その光景を、ルルーシュはしばらく黙って見つめていた。

 陽光が彼の頬を照らし、かつての陰を静かに洗い流していく。

 

 ――もう、仮面はいらない。

 

(戦いの果てに残ったのは、失った命でも、勝利の旗でもない。

 ただ、『この日常』だった。それでいい。これが、俺の選んだ答えだ)

 

 ルルーシュは立ち上がり、二人のもとへ歩いていった。

 芝生に伸びる三つの影が重なり、やがて、柔らかくひとつに溶けていく。

 

 遠くで鐘の音が響いた。

 それは、かつての戦場にはなかった音。

 そして――新しい世界の、始まりを告げる音だった。

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