コードギアスを一期でハッピーエンドにしてみた 作:三ツ石 冷夏
静かな鐘の音が、遠くで響いていた。
ブリタニアの新しい都――再建された皇都ペンドラゴンの塔の上。
スザク・クルルギは、その音を聴きながら、白い手袋の中で拳を握りしめた。
冷たい風が頬を撫でる。
その感覚だけが、まだ『現実』に自分が生きていることを教えてくれる。
(今日も俺は、ここにいる。何もできないまま、ただ生かされている)
かつての栄光も、理想も、今はもう形を持たない。
“騎士”という肩書きは残ったが、それはただの飾り。
皇帝直属の護衛――だが、護るべき主もいない。
誰も彼に命令を出さない。誰も彼を信用しない。
スザクは知っていた。
自分は『飼い殺し』だ。
ブリタニアの血に、そして過去の罪に縛られた『亡霊』にすぎない。
(あの日、もし――俺がもっと早く、ルルーシュを信じられていたら)
(この手で、何を掴めたんだろう)
遠い空を見上げると、雲の切れ間から光が射し込んでいた。
それはまるで、何かを祝福するような柔らかい光。
――そう、彼には分かっている。
その光の下に、ルルーシュがいるのだ。
シャーリーと、ナナリーと、穏やかな時間を過ごしている。
報告で聞いた。
彼らが小さな家を建て、庭に花を植えていることを。
それを聞いた時、スザクの胸に生まれたのは『嫉妬』でも『怒り』でもなかった。
(……安堵、か)
唇から、乾いた笑いが漏れた。
「結局、あいつは俺とは違う世界を生きてるんだな」
ゼロとして戦い、世界を変えた男。
そして今は、ただのルルーシュとして生きる男。
その“二つの顔”を見届けてきたのは、スザクだけだった。
(俺は、あの時あいつを止められなかった。
それでも――今の世界があるのは、あいつが信じ抜いたからだ)
握っていた拳を開く。
風が指の間を抜けていく。
まるで、かつての戦場で散っていった命たちのように。
「ルルーシュ……お前は勝ったんだよ」
その言葉は誰にも届かない。
ただ、塔の上で虚空に溶けていく。
(俺が生きている理由なんて、もうないのかもしれない)
(けれど――お前の作ったこの世界を、見届けることくらいは、俺にだってできる)
スザクはマントの裾を翻し、ゆっくりと歩き出した。
皇都の廊下は長く、果てしなく静かだった。
どれほど歩いても、誰の声もしない。
それでも、彼の足取りは確かだった。
(この沈黙の中で生きる。
それが、俺の“罰”であり――せめてもの“贖い”だ)
外の空が、赤く染まり始める。
夕暮れの光が、塔の影を長く伸ばしていく。
まるで、かつての『騎士』という幻を引きずるように。
それでも、スザクは歩みを止めなかった。
彼の瞳の奥には、ほんの僅かに光が宿っていた。
(お前が見せてくれた“未来”は、たしかにここにある)
(それを守ることだけが――俺に残された“生きる意味”なんだ)
その心の声を最後に、彼はゆっくりと目を閉じた。
風が吹き抜け、遠くの鐘が再び鳴り響く。
ルルーシュのいる“平和”を讃えるように。
そして、沈黙の騎士の孤独を包み込むように――。