コードギアスを一期でハッピーエンドにしてみた 作:三ツ石 冷夏
夜が、静かに終わろうとしていた。
長く続いた争いの気配はもう、この街にはない。
朝靄の向こう、緑の丘の上に建つ小さな屋敷。その庭に、白い花が揺れていた。
ルルーシュはその中に立ち、淡く微笑んだ。
仮面を脱いだ彼は、もう『ゼロ』ではない。
革命の象徴は終わり、ただの青年として、今を生きている。
シャーリーが温かい紅茶を盆に乗せて現れた。
カップの縁から、ほのかな香りが立ちのぼる。
彼女はそっと微笑み、ルルーシュの隣に腰を下ろした。
「今日もいい天気だね」
「……ああ。嘘みたいに静かだ」
言葉少なに交わしながらも、二人の間には確かな温もりがあった。
かつて血と陰謀の中で、幾度も引き裂かれかけた絆。
今、その傷跡のすべてが、光のように優しく結ばれていた。
(俺は……ようやく、ここまで来たのか)
戦場の幻影がまだ、脳裏をよぎる。
炎と絶望の夜を幾度も越え、そのたびに誰かを失いながら、彼はそれでも進んできた。
その果てに辿り着いたのは、『王座』ではなく――『平凡な朝』だった。
庭の奥から、ナナリーの声がした。
「お兄さま、花がまた咲きましたよ」
彼女の車椅子の膝には、白い花弁がこぼれている。
シャーリーが嬉しそうに笑い、駆け寄ってそれを摘み取った。
ルルーシュはその様子を見つめ、ゆっくりと目を細めた。
「ナナリー……。お前が見ている世界は、もう、光に満ちているか?」
「ええ。とても明るいです。――お兄さまのおかげで」
その言葉に、彼の胸の奥で何かが静かにほどけた。
(俺が壊した世界で、君たちは笑っている。
ならば、それだけでいい。もうそれ以上の“正義”はいらない)
シャーリーが花を差し出し、ルルーシュの胸ポケットに挿した。
「似合ってるよ。ね、ルル?」
彼は少し照れくさそうに笑った。
その微笑みは、かつてゼロが見せたどんな仮面よりも、人間らしかった。
遠く、鳥の声が響く。
ユーフェミアの創った『特区』は今も続き、人々はゆっくりと立ち直り始めている。
スザクはブリタニアの奥深くで沈黙を守り、世界を見つめる亡霊のように生きていた。
だが――ルルーシュはもう、彼を憎んではいなかった。
(俺たちは、違う道を選んだだけだ)
(それでいい。憎しみではなく、“生き方”で終わらせよう)
紅茶が冷める前に、シャーリーが彼の手を握った。
その指先には、戦場では決して得られなかった柔らかさがあった。
「ねぇ、ルル。これから、どうするの?」
「どうするも何も……もう十分だ」
「ううん。だってあなた、いつも何かを“背負って”たから」
「……そうかもしれないな。けど今は、ただ――」
彼はシャーリーの瞳を見つめた。
その中に、自分を許す光があった。
「――君たちと、この世界を見ていたい。それだけでいい」
ナナリーが微笑み、風が花を揺らす。
陽の光がルルーシュの頬に差し込み、その影が少しずつ薄れていった。
(母さん、ようやく見つけたよ。俺の戦う理由じゃなく、“生きる意味”を)
庭の空に、白い花弁が舞い上がる。
革命の果てに残ったのは、静かな祈りのような幸福――。
それは誰も知らない“ゼロ”の本当の結末だった。