人斬り上手いので処刑人一族の当主になった、あと切腹した馬鹿と浮気した。   作:鴉の子

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息抜きの息抜きの息抜きにこんなもん書いています。
殺伐ボーイミーツガール(妻子持ち!)


1話:人斬り、山田浅右衛門吉豊

 

 ふと、思い返してみる。

 

 血風の吹き荒ぶ時代だった。戦国の世よりも、ずっと血の匂いが濃かった気がする。何せ、人間の血の匂いがした。

 

 いつだって殺し合いが当たり前だった時よりも、きっと私たちの世界は血腥いものだったのだろう。だって、そんなことを知らなかった人たちが沢山死んでるし。

 

 ……まぁ、想像でしかないから、どうなんでしょ。

 

 とはいえ、割とロクな時代じゃなかったと思う。でもまぁ、私は運がよかった。

 

 その辺の農村から口減らしに売られて、道すがら人買いの喉を短刀で裂いたのが最初の記憶。通りがかった浪人に拾われて……あいつ浪人か? 

 

 山田浅右衛門吉利(やまだあさえもんよしとし)と、男は名乗った。しがない人斬りだと言うものだから、なんだ、盗賊まがいの浪人と思っていて連れられていたら、辿り着いたのは江戸のお屋敷。

 

 人斬りは人斬りでも、幕府お抱えの処刑人、それが私の父となった人だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ただそれだけの伝統を守るために私にも人斬りの技術を仕込まれた。

 

 剣術、試し斬りの仕方、辞世の句を読ませるための俳諧、それと出来る死体を使った医術、死体から薬を作る方法、それを売る商売のやり方。

 あと、刀の鑑定方法。我が家のでっかい収入らしい。

 

 やることもないし、ご飯食べさせてくれるから大人しくやってたら、あれよあれよと次の当主というになっていた。あ、まだ吉利が当主だけどね。

 

 公式の身分もなく、人斬りとして恐れられている家だったが、お陰でどの大名からも人気あるし、お金はたくさんあったし(5万石)、うん、やっぱり恵まれている。

 

 私、山田浅右衛門吉豊(よしとよ)。職業、人斬り。叶わぬ将来の夢はお嫁さん、今日も江戸の街を歩きながら読本を漁ったり、簪を見たり、たまに出る辻斬りを返り討ちにしています。

 

 これで京都よりマシですって、世も末ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女がいた。少し癖のある黒髪、首元まで広がり、そこから長く腰まで広がる濡羽色が陽光に煌めいている。

 

 豊かな胸を黒い喪服じみた着物に包んでいる。髑髏の柄が入れられており随分な傾奇者にも見えてしまいそうな格好だった。だが、女の血に濡れた抜き身の刃物のような、陰鬱さすら帯びた雰囲気と相まって独特な気配を放っている。

 そして、()()()()()()()()()()()が何よりその女に化生の様な印象を持たせる。

 

 それに向かうのは壮年の、皺が顔に浮かぶようにはなったが、未だ若々しい活発さを残した男。これも、本人の陽気そうな表情に反して何処か陰気な、人を殺す生業故の陰を帯びた男だ。

 

 現当主、山田浅右衛門吉利、この国で最も人を殺したと言っても過言ではない男だった。

 

 座敷で向き合い、彼の口が開いた。

 

「吉豊、京都へ行け」

 

「えー」

 

「えーじゃない、洛中で業物3本を届けなきゃならん。将軍の上洛に備えて色々と欲しがる武家は多い」

 

「私じゃなくていいでしょう?」

 

「顔合わせも兼ねてだ、俺が引退したらお前の商売相手なんだぞ?」

 

「…………えー」

 

 女が暗く濁った眼を伏せて、露骨に嫌そうな顔をする。嫌なもんは嫌である、と言わんばかりだ。

 

「行きなさい、路銀とは別に小遣いやるから」

 

「やった、行きます、別で20両」

 

「足りるか?」

 

「多分?」

 

 領地なしで5万石の力である。庶民や下級武士からしたら目を剥くバカみたいなやり取りをしながら、旅支度を始める。

 

「すぐのほうがいい?」

 

「出来ればな、ま、急かさんよ。身支度もあるだろ?」

 

「刀、長脇差、渡す分の刀。あとは人足に預けるわ」

 

「おう、供回りは顔見知りで揃える。旅行する気でいい」

 

「はーい」

 

 今の京の情勢は、それはもう悲惨な状態ではあるが、二人の会話はまるで近所に出かけるかのように気楽なものだった。

 

 なにせ、人斬りなのだから。

 

 当然、疑問は生まれるだろう。所詮、ただの処刑人。動かぬ罪人を試し斬りすることしか知らぬ人間に、斬り合いが出来るのか? 

 

 ────出来る。

 

 否、それどころか、人体を切断、殺傷するという行いに関しては彼らは並の剣客を遥かに凌駕する知見と技量を持つ。

 

 そして、古今東西の職業処刑人の中で、山田浅右衛門という一族は極めて最も特異な技術を修めた。

 

 一振りの刀による、()()()()()。それは、人の命を玩具にする試し斬りという行いの中で培われて来た異形の技術。

 

 本来、三寸斬り込めば死ぬ人間という生物を、“物体”として両断する。尋常ならざる筋力と、独自の技巧を凝らした悍ましいまでの剣術技巧。そして、その無数の死によって積み上げられた人体理解。

 

 それを、ただ100年以上研ぎ澄ませて来た一族が、果たして()()()()()()()が出来ない理屈などない。

 

 故にこそ、名も残らぬ、それを生業にするわけでもないが、確かなる剣客であった。

 

 

 

 

 

 ────故に、この様なことも起こる。

 

 冬の京都。

 

 降り積もる雪を、赤い血が染めていた。いや、血に濡れた泥が、降る雪を溶かしている。

 

 辻に転がるのは浪士の死体。首か、脇、腿、といった急所だけを裂かれて死んでいる。あるいは、首が落ちているか、胴にて真っ二つ。縦に裂かれたように死んだものすらいた。

 

 そして、未だ生きる者がいる。刀を片手に、気怠げな表情で佇む女一人を囲む浪士が三人。今、転がっている死体の仲間だったのか、恐怖と怒りの混在した表情で、増える手に力を込める。

 

「ちぇりゃああああ!」

 

「うるさい」

 

 大上段、よく恐怖の飼い慣らされた迷いのない踏み込み。己の命を度外視すれば刃を撃ち下ろせば過たず眼前の人間を斬り捨てる、薩摩者か、それに倣ったか。

 

 だが、届かない。

 

 するり、と女が片手で刀を逆袈裟に切り上げる。豆腐でも切断されたかのように、()()()男の肉体が二つに別れる。

 

鈍刀(なまくら)、もっとお金かけるべきよ」

 

 そう呟いて、何が起こったのかわからぬ残りの二人の間へ、一歩踏み込む。そして、踊るように身体が廻る。刃の軌跡はくるりと男達を捉えて、寸断した。

 

 片方は首筋、背骨の隙間、肋骨を避け脊椎に刃を通して両断。もう一人は腸の大部分と肝臓を切断、糞尿と血で汚れた腑は二度と治ることはないだろう。

 

「……あたまいたーい」

 

 返り血に塗れて、女はしょんぼりとした表情を浮かべている。眉間に寄った皺をぐりぐりと指先で揉む。

 

 女の蒼い瞳に映る視界には、()()()()()()()が映る。人や、物、景色全てに罅のように走るその線は、いつ見ても気持ち悪い。

 

 少し呼吸を変えて、街娘の如く過ごす時のように身体を切り替える。そうして、焦点をずらせば、線は視界から消えた。

 

 そうして残ったのは立ち尽くす、血に塗れた人斬りの女が一人。

 

 そこに、さくり、さくりと雪を踏む足音が聞こえる。

 

 現れたのは槍を構えた赤髪の偉丈夫。雲間から、月の光が落ちて、白と赤に染まった路の二人を照らす。

 

 

「──────あら、お兄さん、いい夜ね」

 

「なんだ? あんた」

 

 赤い髪が、女の瞳に映って、揺れている。

 

「山田浅右衛門吉豊、あなたは?」

 

「……浪士組、原田左之助」

 

 

 

 ────これが、殺人的恋愛の始まり。




アサシン、山田浅右衛門、強そう。
もし続けば簡単にキャラデザも描いておきます。
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