琥珀紀1168年。「開拓」の星神により星々の航路が切り開かれ、宇宙が第一次繁栄を迎えた頃。
未だ開拓が進んでおらず、放置されている宇宙の端。そこに位置するM3星系と呼ばれる惑星群で、事の始まりは起こった。
それは、胎児の様に繭の中で蠢く一つの生命だった。それは自発的に動くこともなく、ただ流れに身を任せ漂うばかり。
大きさも小惑星以下であり、M3星系の人々は始め、それを赤く光るだけの点としか認識していなかった。
だが、観測機でそれを詳細に見たものが次々に廃人と化し始めたことで、人々はそれに対する認識を変えることとなった。
謎の生命体に対し議論が行われる中で、学者達はこう結論を告げた。
『あの生命体は常に特殊な光波の様なものを放出し、生物に感染させる。そして、適応できなければ自我の消滅、適応した場合凶暴性を増大させ、知能を低下させる。
もし、あの生命体の成長と光波が関係しているならば、このまま放置するとM3星系に生きる全ての生物が光波の影響を受け、死滅する可能性がある』と。
謎の生命体がM3星系に出現し100システム時間が経過。M3星系の人々は謎の生命体──以降、赤狂と呼称──に大規模な殲滅作戦を開始した。
赤狂は自ら動かず、ゆっくりと慣性に沿って移動する。ならば後は通過するであろう地点を予測し、そこへ先回りし待ち構えるだけだった。
事実、この目論見は成功。赤狂がポイントに到着した瞬間仕掛けられた爆弾の起爆と共に、艦隊による大量のミサイルやレーザーが降り注いだ。
本来直接破壊できる者が殴ればそれで終わるが、赤狂の光波によって近づけない以上、この様な遠距離攻撃でしか対応できなかった。
ともあれ、人々は安心した。これだけの数多の暴力に晒されれば、赤狂も消滅する。
────その筈だった。
この攻撃が最後の引き金であり、赤狂の意識に反撃という概念が芽生えるキッカケとなってしまった。
攻撃を一時止め、赤狂の状態を確認しよう一隻の船が本隊から外れたその時。
一本の槍が、独りになった船を貫いた。
自分達が死ぬことも、何が起きたか理解する間もなく、船は花火となって爆散した。直後、辺りに破片などが飛び散り、残る艦隊の底や壁をつついた。
本隊が意識を取り戻したのは、爆散した音が無線から流れたのと、飛んできた槍の先に視線を向けてからだった。
傷一つない赤狂と、それを守護するかの様に佇む無数の巨人達。そして、巨人達が一斉に放ったおびただしい数の槍を最期の光景とし、艦隊は消滅した。
それから約24システム時間後、M3星系は赤狂によって生み出された巨人達により侵略され、無残な姿と変わり果てていた。
どの惑星も赤黒い大地に変貌しており、生命が生きていくのは到底不可能であった。そうでなくても、この星系は宇宙の辺境。この惨劇を知るには、どれ程の時間が掛かることか。
こうして、一つの星系を制圧した赤狂。その名を改め【禁断の星】は、長い宇宙の放浪を再開した。宛もなく、ただ流されるままに宇宙の海を進む。
そうして、其はやがて完全な姿へと成長し、多くの場所に『禁断』の傷痕を遺すことになる旅路を始めたのだった。
───
悲報、目が覚めたら宇宙を漂流している件。突然何言ってんのか分からんと思うが、一先ず聞いてくれ。
いつも通り仕事して、家に帰って風呂に入り、飯を食って。そんで崩スタっていう最近始めたゲームのストーリー進めて、最後にお気に入りのデュエマのカードを確認して寝た。
で、目が覚めたら声が出ないし身体が変で、手を見たら鉤爪が生えたゴツゴツした手になってるし、何故か球体状の何かに乗って宇宙を漂流中。
いや、あのさ?一つ言わしてくれよ。
『意味わかんないだろこれぇ!!!』
そう叫んだ筈なのに、出てくるのはめちゃくちゃ低くて聞き取れない唸り声だけ。一人でこんなことしてるの考えたら物凄く恥ずかしい。
というか、俺はそもそも今生きているのか?もしかして死ぬ直前の最後の夢だったりして??
そんなことを考えてみれば、こんな荒唐無稽で、妙に実感のある夢も、それはそれで納得がつきそうだ。最近はマトモに寝てないし、バランスのいい食生活をしていたわけでもないし、正直脳や心臓がイカれて、と言われても納得する。
なら、このヘンテコな夢を少しは楽しもうか。どうせ最後なら、色々やってみたいしな。
とはいえだ。宇宙空間なら普通の人間はすぐ死ぬ。夢とは言え、こんな膜一枚で隔てられた宇宙船なら宇宙服がいる筈なのに、この人外ボディにはない。
となると、俺は宇宙で生きていけるエイリアンになっている可能性があるが、俺の記憶の中にこんなゴツい手のエイリアンは存在しない。
こんだけゴツいと、俺の好きなカードのドルマゲドンXを真っ先に連想する。
……うん?ドルマゲドンX?
その単語が俺の何処かに引っ掛かった。何かを探すかの様に辺りを見回すが、鏡やそれに類する物は無い。むしろ、この球体状の宇宙船?にも違和感が出てきた。
球体状というより上下に伸びた卵みたいな形だし、膜の外をよく見ると、ひし形の格子に見える装飾が人間みたいな形をしているし……。
それを見て俺はふと、ある一つの考えに行き着いた。
『……もしかして俺は今、ドルマゲドンXになっているのか?だから、こんな封印された状態に?』
ドルマゲドンX。正式名称を終焉の禁断ドルマゲドンXと呼ぶそれは、TCG『デュエル・マスターズ』のクリーチャーの一種を指す。
全部を説明するとなるとこの余白に書ききれないので、一言で説明するなら全ての元凶、いわばラスボスといったところだろうか。
こいつが登場する前作のラスボスが、実はこのドルマゲドンXによって生み出された量産兵だと知った時は物凄く驚いたし、何よりアニメや背景ストーリーでの存在感。あれを見て俺のお気に入りのカードになったのは今でも覚えている。
『だが、夢とは言えよりにもよって封印状態なのはどうなんだ?幾ら何でも不便じゃないか?というか、どうやって封印剥がすんだよ』
そう、このドルマゲドンXには一つ大きな特徴、もといちょっとした弱点が存在する。それがこの封印状態だ。
ドルマゲドンXは最初から場に存在するかわりに、封印を四枚付けられ、一切の行動ができない置き物と化す。
そして、特定の条件を満たすクリーチャーを一体呼び出すことで、自身に付けられた封印を一枚剥がす。これを四回繰り返すことで、初めてドルマゲドンXはクリーチャーとして場に出てこられる。
裏を返せば、それまでは本当にただの置き物でいるしかなく、出られるかは完全に外部だよりなのだ。
しかし条件自体は比較的緩いため、きちんとデッキを組めば容易に出せるが、それはあくまでゲームの話。この夢がもし同じ条件下にあるのであれば、俺はここから出ることができないということになる。
『あーあ。折角ドルマゲドンXになったは良いものの、自分の封印一つ解けやしないし、ただ流されるだけだし、これはどうしようにもないな』
そう思いながら、色々と喋ったり動いたりしたら疲れてきた。仕方ない、ここは目を瞑ってゆっくりと休もう。もしかしたら時間が解決してくれるかもしれないしな。
そう思っていた矢先、突然背後に鋭い衝撃を受けた。
『痛っ!!なっ、なんだ!?』
そう言って後ろに振り向いたところで、俺は完全に固まってしまった。
まさか大量の宇宙戦艦が、こちらに砲塔を向けているとは夢にも思っていなかったのだから。
『(ああ、終わった……折角面白そうな夢だったが、これでお目覚めか。仕方ない、そんなこともある……)』
徐々に砲塔に光が収縮し、今にも放たれようとする、その矢先。
『(せめて、ドキンダムの一体や二体、生み出せたらな、なんて)』
そうして、視界が光へ一気に包まれていく中、一筋の赤雷が走ったのを最後に、俺の意識は闇に溶け込んだ。