「人やお店がいっぱいいる!」
「それはそうさ、夏祭りだからね」
1992年も夏になり杜王町の中心部では夏祭りが行われていた。杜王町の住民だけでなく外からの観光客も夏祭りに参加しており大変賑わった様子を見せていた。
「しかし昔はこうも騒がしくなかったんだがなあ。私が子供の頃は杜王町もここまで大きな町じゃなかったし、ここの夏祭りも規模はもっと小さくて地元住民しか参加してなかった」
「そうなの?」
「ああ、この町が急速に発展したのは吉美が生まれる数年前からかな。それまでは歴史はあるけど地味な田舎町だったんだ」
娘を連れて夏祭りに来た吉良吉影は祭りが賑わっているのを見て自分の頃はもっと地味だったと思い返していた。
杜王町の歴史は非常に古く縄文時代から人が定住していたのが確認されており、昔は侍の別荘などがあった由緒ある土地であった。1980年代前半から急速に発展したがそれまでは田舎町だったのを覚えている吉影はこの町も随分と変わったなあと感慨深い様子であった。
「まあ私としては今の杜王町の方がいいよ。昔と比べたら随分と便利になって住みやすくなったし」
「そうなんだ、夏休みの自由研究で調べてみようかな!」
「それはいいかもしれないね。何かわからない事があれば親父に聞いてみたらいい。吉美が頼めば幾らでも話してくれるさ。じゃあ屋台を見てみようか」
「うん!」
吉良親子は楽しげに会話しつつ会場にある幾つもの屋台を見て回る事にした。
「あ、りんご飴!」
「おお、祭りの屋台といえばこれだな。これを食べながら祭りを見て回るとしよう」
「ありがとう!」
「金魚すくいがあるぞ。吉美もやってみるかい?」
「うーん、ちょっとやってみたいけど。クロミがいるから飼えないしいいかな」
「ああ、ウチにはクロミがいるからなあ。吉美が言い聞かせれば襲わないかもしれないが、いくら賢いとはいえ猫だしなぁ……」
「あの猫のぬいぐるみかわいい!」
「射的屋か。ちょっとやってみようか」
「よぉし、がんばる!」
「お父さんありがとう!」
「どういたしまして。吉美も欲しいぬいぐるみ手に入ってよかったね」
吉影は射的屋で手に入れた猫のぬいぐるみを大事に抱える愛娘を見て笑顔を浮かべており、傍から見ればとても仲の良い親子であった。
「あ、お父さん見て。ロックなお兄さんがいるわ!」
「コラコラ、人を指差しするのはよくないぞ……………うん、確かにロックな髪型をしているが」
娘が指差した先を見た吉影は、非常に特徴的な髪型をした少年を見て確かにロックだと納得する。
「ん?お嬢ちゃんこの髪をロックだって言ったか?」
「そうよ、ロックな髪型のお兄さん!」
「……そう言われたのは始めてだなァ〜〜ッ、褒められてるのはわかるし嬉しいけどさ。でもこの髪型はロックというよりグレートだと言ってほしいぜ」
「わかったわグレートなお兄さん!」
(なるほど、以前運動会で聞いた通り少し変わっているが優しそうな少年だ。そして息子の彼がここにいるという事は……フフッ、今日は運が良いようだ)
自慢のリーゼントを褒められた少年……東方仗助は満更でもない表情をしていた。そして仗助を観察していた吉影は思わぬ幸運に顔を綻ばせるのであった。
「ちょっと仗助!一人で先に行かないのよ」
「あ、ごめんなさい」
(うん、予想通りだ。母親も一緒に来ていたね……しかし本当に朋子さんは素晴らしい手をしているなぁ)
「あらあら、この子が貴方の娘さんですか。可愛いわね〜、大人になったらスゴい美人さんになるわね」
「えぇ、自慢の娘ですよ」
東方朋子が愛娘を褒めるのを聞いて吉影は少し誇らしげな顔をしつつにこやかに会話を続ける。ナンパしてくる若い男達とは違い娘を連れた父親で紳士的な吉影に対して朋子も好印象を抱いていた。
「しかし随分若いお父さんね。学生結婚かしら?」
「ええ、若気の至りで……両親には迷惑をかけてしまいましたよ」
「ああ、そうですよね。私もとうさんにスゴく迷惑をかけちゃって……とうさんは気にしなくていいと笑ってたけど」
「ははあ、なるほど」
(ええ、知ってますよ。貴方が大学生の頃に仗助君を産んでシングルマザーとなったのは)
事前の調査で東方朋子がシングルマザーなのは吉影も既に知っていた。
「あーあ、とうさんも一緒に祭りに来れたらよかったのに。野犬騒ぎで警察が大騒ぎしているしついてないわね」
「野犬ですか。確か凶暴化した野良犬が人を襲ったとニュースで聞いてましたが」
朋子の言葉に吉影はとあるニュースを思い出す。凶暴化した野犬が人を襲い死者もでている物騒なニュースであり、吉影も娘が襲われないか心配した事があったのだ。
「野犬は既に駆除されたそうでよかったですよ。娘が野良犬に襲われると考えたらゾッとします。そういえばニュースでは熊並に大きな犬だと聞きましたが大袈裟ですよね」
「ええ、とうさんも否定してたし嘘だと思うわ……でも、ただでさえ忙しいのにあの人の一件もあるし、とうさんには本当に申し訳ないわね」
「え?」
「ああいえ、家庭の問題でして」
「……なるほど」
(ふうむ、恋人の事かな?これ以上の詮索はやめておこうか。性欲を持て余した男子高校生じゃあるまいし魅力的な女性とはいえがっつくのは品がないからね)
言いづらそうにする朋子を見て吉影はそれ以上詮索するのはやめる事にした。
「音石お兄さん!」
「おお、俺のファン一号の吉美ちゃんじゃねーか!祭りは楽しんでるか?」
「ふむ、君が娘が言っていたギタリスト志望の少年か」
「あ、どうも」
東方親子と別れた吉良親子は音石少年と出会い雑談をする。音石も今日は祭りを純粋に楽しんでいるようであった。
「最近野犬が暴れてた件もあったけど、やべー奴も多いからなあ。俺も以前危ない目にあったし吉美ちゃんも気をつけろよ」
「何があったの?」
「あー、二ヶ月ほど前に早朝の公園でギターの練習してたらさぁ、矢を射られた事があったんだよ。マジで危なかったなァ〜〜」
「……矢、だと?」
音石の話を聞いた吉影は思わず聞き返していた。
「お兄さん大丈夫だったの?」
「ああ、心配しなくていいぞ。俺にはギリギリ当たらず野良犬にぶっ刺さってたからな。ったく、あんな危ないもん人様に向けて射つなよなぁ~犯人はまだ捕まってないし心配だぜ」
「ふむ、物騒なイタズラだな。吉美も気をつけるんだよ」
「うん」
(……………まさか、な。帰ったら念の為に金庫に「矢」があるか確認しておくか)
吉影はまさかと思いつつも帰宅したら「矢」がきちんと封印されているか確認する事を決めた。
「そろそろ帰ろうか。屋台については一通り回る事ができたし、これ以上遅くなると他の人達も帰り始めて混むだろうからね。今日の夏祭りは楽しかったかい?」
「うん!また来年も行きたい!」
「そうか、それはよかったよ。来年もまた来ようね」
愛娘が満足気な様子なのを見た吉影は微笑みつつ車を停めてある駐車場へと向かう事にした。そして来年も娘と一緒に夏祭りに行こうと決意するのであった。
「あ、スゴく大きな男の人達がいる」
「おお本当だ、二メートル近い大男と外国人の二人組か。地元の人間じゃなさそうだし観光客だろうな」
「あの親子連れの父親の方がジョースターさんの念写に写っていた男なのか?」
「ああ。吉良吉影、26歳の会社員。スピードワゴン財団が調査しても何も怪しいものはなかったが、クソジジイの念写に写っていた人間がただの一般人のはずがない」
「なるほど、スタンド使いの可能性が高いだろうな。「矢」も持っているかもしれない」
「やれやれ、「矢」の捜索をしていたら日本で犬の駆除をする事になるとは。あの犬はおそらく「矢」によってスタンドに目覚めた可能性が高い。これ以上犠牲者が出る前に「矢」を確保しておきたい」
「そうだな、「矢」は危険な代物だし俺達が回収しないと。ところで、その、娘ちゃんの件はどうするんだ?」
「クソジジイのやらかしの尻拭いもあるし杜王町には暫く滞在する事になるだろう。娘が生まれたのに傍にいてあげられないとはな……クソジジイめ」
「その、うん、残念だったな。愚痴ならいくらでも聞いてやるぞ承太郎」
<人物紹介>
●吉良 吉影
→娘と一緒に夏祭りに行って楽しんだ。
天敵となるヤバイ奴等が杜王町に来ているとは気付いていない模様。もし戦う事になれば瞬殺されるだろう。幸いな事に
●
→父親に猫のぬいぐるみを取ってもらい無邪気に喜んでいた。宝物として大切にするだろう。夏休みの自由研究として杜王町の歴史を調べ事にしたようだ。
●東方仗助
→グレートな少年。リーゼントを褒められて満足気な様子を見せる。最近自分の父親の件で祖父が難しい顔をしているので大丈夫なのか心配しているようだ。
●東方朋子
→鼻の下を伸ばしてくる男達とは違い紳士的な態度を取っていた吉影には好印象を持った。外面はいいから騙されるのは仕方ないね。
恋人の件で父親に迷惑をかけている事に対して少し申し訳なく思いつつも、近い内に再会できる事になったので喜んでいる。
●音石 明
→謎の兄弟が所持する「矢」によってスタンドガチャをさせられそうになったがギリギリ回避した幸運な少年。その代わり野良犬がスタンドに目覚めたが大丈夫だ、問題ない。力に酔った野良犬が凶暴化し少なくない人達が犠牲になったが大丈夫だ、問題ない。
●野良犬
→スタンドガチャに成功した犬。自分を捨てた人間達に復讐した後好き勝手に暴れていたが、ある二人組によって討伐された。
野良犬が暴れたせいで二人組が出向く羽目になり、財団が調査してクソジジイの浮気も発覚したのであった。
●謎の二人組
→凄腕のスタンド使いのコンビ。一体誰太郎と誰ナレフなんだ……「矢」の調査をしていたら野良犬がスタンド能力で暴れていると報告を受けて討伐した。「矢」を捜索して確保する為に杜王町には暫く滞在する事にしたようだ。
クソジジイの浮気が発覚して色々と忙しいせいで、今年生まれた娘の傍にいてあげられず内心ブチギレている男に対してフランス人は深く同情していた。
趣味で書いているので更新は遅くなります。今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。