「いいか吉影……何度も言うがハゲを甘く見てはいかん。何事も早い段階で対策しておくべきなんじゃ」
「あ、ああ」
「一度失った髪を取り戻すのは至難の業なんじゃ!というかほぼ不可能だッ!儂も最初は色々と高い商品に手を出して頑張ってみたよ。だが進行を遅らせる事はできても取り戻す事はできなかった。失ってから対策しても手遅れなんじゃ!」
「そ、そうか」
「吉影!お前は健康に気をつけ規則正しい生活習慣を送っているから儂みたいに若い段階で兆候が出てくる事はないだろう。じゃが慢心はダメだ!儂だってそんな事はない、大丈夫だと言ってやりたいよ……だが今は心を鬼にして警告せねばならんッ!」
「う、うん」
「儂や、儂の父親や、儂の祖父がどうなったかお前も知っておるはずじゃ!写真を見た事があるはずだッ!……………みぃ〜〜〜んな最終的にはハゲてしもうたんじゃ!残念じゃがお前もそうなる可能性が高い!悪い事は言わないから今から対策しろ吉影ッ!お前だって儂のようになりたくはないじゃろうッ!?」
「わ、わかったよ親父」
「スゴい剣幕だったな、いつもの親父らしくない。まあ私だってハゲたくはないし対策を始めておいてもいいだろう」
吉廣に鬼気迫る表情で説得された吉影は、週末の休みに一人で買い物の為に外出していた。
「親父の言う通り目に見える形で髪を失ってからだと手遅れだからな。親父は心配しすぎだと思うが……でも親父や祖父達は皆ハゲていたからなぁ。チッ、私もいずれそうなる可能性は否定できないか」
吉影は頭頂部が禿げ上がった未来の自分を想像し思わず身震いする。身嗜みやお洒落に気をつけている吉影としてはハゲ頭になった自分など想像するのも嫌だったからだ。
「冗談じゃないぞ、そんな惨めな姿になるなんて!鬘で誤魔化すなんて論外だ、あんなの周囲にバレバレじゃないか!それならスキンヘッドの方が遥かにマシだ。いや、坊主頭も嫌だぞ……年老いても髪を残す為に今から対策しておくのは正しいな」
そして吉影は対策の為に育毛剤等を買うことを決意するのであった。
「だが杜王町で買うのはダメだ。知人に見られて噂にでもなったら赤っ恥だからな。でも郊外だと店も少ないし……ちょっと遠出をする事にしよう」
「ふむ、やはり仙台は賑わっているなぁ」
吉影は買い物の為に遠出をする事を決め、杜王町から移動し仙台に到着していた。東北地方で一番賑わっている都市である仙台なら吉影の求める物があると考えたのだ。
「様々な店があって飽きないね。だが仙台は人が多くて騒々しいのがちょっと嫌だな。色んな店があるのは便利だが、住むのは遠慮したいよ。やはり静かに暮らすなら杜王町が一番だね」
騒々しい仙台の様子を見た吉影は、やはり住むなら杜王町が一番だと再確認する。そして目当てのドラッグストアに入る事にしたのであった。
「さっさと買い物を済ませるか。親父から聞いた効果のある物を買うとしよう。どうせ滅多に来ないし店員に顔も覚えられる事もないだろう」
「よし、目当ての物は購入できた。後は吉美へのお土産を買ってから杜王町に帰るとするか」
無事に目的の品を購入した吉影は一息つきつつ周囲を見回す。仙台は大勢の人々が行き交っており、中には吉影が
「ふぅーん、さすが大都市なだけあって素晴らしい女性も多い。絶好調の時なら
今年も
「相手に付け入る隙を与えるなんて愚かな真似はしないさ。でも4年前からずっと自粛しているが、まさかここまで我慢できるとはなぁ」
吉影は自分が4年も
(……私だって
自分の生き甲斐である
(空条承太郎達が派遣され私は拘束されるだろう。あの百戦錬磨の連中に立ち向かったところで勝ち目は薄いし、万が一勝てても今の平穏な生活はなくなってしまう……そして娘にも迷惑がかかる)
「私のトラブルに巻き込むわけにはいかない。娘は何も関係ないからな……まあいい、とりあえずお土産を買って帰ろうか。仙台名物のお菓子なら吉美も喜ぶだろうね」
愛娘である吉美について考えた吉影は、自分や娘の平穏の為にもこれからも
「未来の事はわからないが、今までと同じように前向きに生きていけばいいさ。私はこれからも家族と一緒に幸福に生きてみせるぞ」
<番外編:クロミの平穏な一日>
「ニャア」
クロミは吉良家で飼われている雄猫である。吉良吉美が杜王町のペットショップでクロミを一目惚れし連れて帰った猫であった。
「あ、起きたのねクロミ。ほら、いつものキャットフードよ」
「ニャオン」
朝起床したクロミは吉美から餌を貰いノンビリと朝食を食べる。クロミとしてはもっと美味い餌が欲しかったが、我儘を言えばボスから
「フフッ、クロミは相変わらずマイペースねぇ。悩みとかなさそうで羨ましいわ」
「ゴロゴロ……」
クロミは吉美から撫でられ喉を鳴らす。飼い主である吉美の事はクロミも気に入って懐いており、深い忠誠心もあった。暫く撫でられて満足したクロミは吉美から離れて日課である杜王町のパトロールに出かける事にしたのであった。
「ニャ」
「見回りに行くのね。いってらっしゃいクロミ」
「ニャア」「ニャオ」「ニャーン」「ニャニャッ」「ミャオン」「ミィ」「ニャフン」「ンナーオ」
杜王町を散策するクロミは行く先々で猫達から挨拶されていた。杜王町の猫達のボスとして君臨しているクロミは猫達から敬意を持たれていたのだ。クロミは暫く歩いた後、とある空き地に到着する。
「「「ニャニャッニャ」」」
「ンニャ」
空き地にはクロミに似た猫達が待機していた。彼らはクロミが杜王町に住む雌猫達に生ませた猫達で、スタンド使いの素質がある猫が空き地に集まっていた。
「ニャン?」
「ニャオ」
集まっていた子供達から話を聞いたクロミは自分の縄張りで異常がない事を確認し満足する。ボスが平穏な生活を求めているのを知っているクロミは自分の子供達を使って杜王町の治安維持を勝手に行っていたのだ。
「ナーオン」
「「「ニャッ」」」
子供達を解散させたクロミは機嫌よく見回りを続けるのであった。
「ニャア」
「あ、またクロミが来ているど」
昼になって空腹になったクロミはお気に入りの場所で昼食を取る事にした。吉美の彼氏である重ちーの家に来たクロミは勝手知ったる様子で重ちーの家に上がり込む。
「相変わらず図々しい猫だど……ママー!クロミがまたウチに来たど!」
「あらあら、またクロミちゃんが来たのね」
堂々とした様子のクロミを見ても重ちーは特に驚く事なく受け入れており、クロミが重ちーの家に頻繁にやって来ている事が伺えた。重ちーの母親はニコニコと笑いつつ魚の切り身をクロミに与える。
「ンニャ」
「よしよし、吉美ちゃんの飼い猫だから特別にあげてるんだど。クロミはもっとママに感謝するべきだど!」
「別にいいわよ重ちゃん。対価としてこの子を思う存分に撫でられるんだから文句はないわ。でも本当に綺麗な黒猫ねぇ~〜〜ッ、吉美ちゃんが丁寧にお世話しているのがよくわかるわ」
「確かに艶々でスベスベしているど」
重ちー達はクロミの毛並みを称賛しつつ撫でていた。昼食を貰う対価としてクロミは重ちーや両親に好きなだけ撫でさせる事を許していたのだ。そして食べ終わったクロミは大きく伸びをすると重ちーの家から出る事にしたのであった。
「ニャン」
「またいらっしゃいねクロミちゃん」
「ママはクロミの事をちょっと甘やかし過ぎだと思うど……」
「ワンワンッ!」
「……ハァ」
午後の見回りをしていたクロミは野犬の目の前で溜息をつく。どうも最近捨てられたばかりの野良犬はクロミに臆する事なく威嚇し吠えていた。
「「「……」」」
周囲にいる猫達は「オイオイオイ死ぬわアイツ」と愚か者を見る目で野犬を見ていた。そんな猫達に気付かず野犬は威嚇を続ける。
「グルルルル!」
「……」
そしていい加減鬱陶しくなったクロミは目の前の野犬を始末する事にした。
「ワンワンッ、ワ」
「……フンッ」
前足を振って野犬の首を刎ねたクロミは面倒臭そうに死体の始末を行う。スタンド能力で死体を液体状にした後、下水に流し込み証拠隠滅を完了させた。以前片桐安十郎を狩った時騒ぎが起きていたのを覚えているクロミは、その後は死体を始末する事にしていたのだ。
「ニャ」
証拠隠滅を終えたクロミは一息つくと自分の住む家に帰る事にした。
「あら、お帰りなさい」
「ニャン」
吉良家に帰宅したクロミは何時ものお気に入りの縁側に座ると夕飯の時刻になるまで眠る事にした。
「相変わらず呑気な猫じゃのぉ〜。吉影から
「ウフフ、それでいいのよお爺ちゃん。クロミはこのままでいいの」
「ううむ、吉美ちゃんはクロミを甘やかし過ぎだと思うがのぉ」
縁側で眠るクロミを吉美は微笑ましく見ており、吉廣は孫娘が甘やかすからクロミが図々しいままなのではないかと考えるのであった。
<人物紹介>
●吉良 吉影
→吉廣から警告を受けて自分の髪を守る為に今から対策する事にした。父親や祖父達の姿を思い出し自分もいずれそうなるのではないかと危機感を持つ。
1992年からずっと
ちなみにクロミが自主的に杜王町を見回っている事は知らないし、そもそもボス猫として君臨している事も知らない模様。
●吉良 吉廣
→息子が警告を聞き入れてくれてホッとする。自分のようにはなってほしくないと考える父親の鑑である。
クロミの事は食っちゃ寝ばかりして時折散歩しているダメ猫ではないかと考えている。
●クロミ
→杜王町のボス猫として君臨している。ボスこと吉良吉影が平穏で穏やかな生活を最優先に考えているのを察しており、自分も協力してやるかと自主的に活動している飼い猫の鑑である。なお吉影は知らない模様。
自分の子供達にも協力してもらい杜王町の平和を守っているが、自由気ままな猫なので気に入らない奴がいれば躊躇なく攻撃するだろう。家族や仲間には決して手を出さないので大丈夫だ、問題ない。
●クロミの子供達
→子供は大勢いるがスタンドに目覚めているのは5匹程である。「矢」を使えばダース単位で増えるだろうが杜王町にはもう「矢」はないので大丈夫だ、問題ない。いずれ覚醒する猫が出るかもしれないが大丈夫だ、問題ない。
●重ちーと両親
→重ちーはちょっと渋い顔をしていたが、両親はクロミが図々しく昼飯を要求しても笑って許す人間の鑑である。クロミからは仲間扱いされているので、いざとなればクロミが助けてくれる事だろう。
●杜王町
→最近猫の数が増えたなぁと住民は呑気に考えている。何故か野犬や鼠の数が大きく減ったので喜びつつ不思議に思っている。
そして祖父の付き添いで杜王町を訪れたとある白づくめの大男は何かがおかしいと調査する事を決意したのであった。
趣味で書いているので更新は遅くなります。今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。