「重ちー君、一緒に帰ろ!」
「わかったど吉美ちゃん」
運動会も終わり秋もそろそろ終わりつつある頃、ぶどうヶ丘小学校ではいつも通り授業が終わり下校時間となっていた。小学一年生の吉良吉美は友達の重ちーこと矢安宮重清と一緒に下校する事にした。
「あ、見て見て。またあの二人が一緒に帰っているわ」
「あの一年生の二人って仲がいいわね~、カップルかしら?」
「いやぁ~違うんじゃない?多分友達どまりよ」
吉美と重ちーが仲良く下校しようとするのを見た上級生達は二人の事を微笑ましく見ていた。可愛らしい女の子と個性的な男の子の二人組は中々目立つ存在であり、同級生だけでなく上級生達にも知られていたのだ。
「あの二人っていつまでああやって仲良くするのかしらねぇ~」
「今は無邪気に遊んでいるけど大きくなったら自然と別れるんじゃない?私もそうだったし」
「まあねぇ、成長したら同性とつるむ事が多くなるもんね」
上級生達が好き勝手な事を言っているのも知らず吉美と重ちーはいつも通り下校するのであった。
「吉美ちゃん、今日も公園によっていくの?」
「うん、あのユニークなお兄さんに会えると思うし」
「あ、見て!またあのユニークなお兄さんが来ているわ!」
「おぉ~またあのユニークな兄ちゃんが来ているど」
「ユニークじゃねーよボケ!ロックだと言え!」
どうしてこうなった、とユニークなお兄さん……音石明は渋い顔をする。目の前のちびっ子二人組は無邪気な様子で演奏を聞いてくれるファン1号と2号であったが、自分の事をユニークなお兄さんと呼ぶ事に何とも言えない表情を浮かべていた。
「お前ら俺のファンだからある程度失礼な発言も見逃してるけどよォ~~ッ、このロックな俺を見てユニークってどういう事だよ!」
「おもしろいお兄さんだよ!」
「なかなかおもしろい兄ちゃんだど!」
「それ褒めてるのか?馬鹿にしてないか?いや、悪意はないし褒めてるんだろうけどよ、俺の事を褒めるならもっといい言葉があるだろォ?」
「「?」」
「……小学一年生には難しいかぁ」
不思議そうな顔をするファン二人を見て音石は盛大に溜息をついていた。ウルトラ・スーパー・ギタリストを目指す彼は、最近になって小さい頃からコツコツと貯めていた貯金を使い憧れのギターを購入していた。そしてギターの腕前を磨く為に公園で地道に練習を続けていたのだ。
「でもお兄さんはどうして公園でギターを弾いてるの?」
「あー、俺も本当は家で練習したかったんだけど、ボケ親がギターが五月蠅いし近所迷惑だって怒鳴るからさァ~~ッ、仕方なく公園で練習してるんだよ」
「へぇ~、そうなんだど」
自分のギターへの情熱を理解してくれない両親にぶつくさ文句を言いつつ音石はギター演奏を続ける……まあギターの練習は非常に喧しく五月蠅かったので近所迷惑だと両親が文句を言うのも無理はないだろう。
「フン!俺の才能を理解しねーボケ親共め!俺はいつかウルトラ・スーパー・ギタリストになって世界的ミュージシャンになってボケ親共を見返してやるぜッ!」
「うん、お兄さんならきっとなれるわ」
「そうだど、兄ちゃんのギターはスゴイど!」
「おおっ、わかってくれるか!流石俺のファン達だぜッ!見てろよお前ら、俺は絶対ビッグになって成功してみせるからよ!」
吉美達から応援された音石は気を良くしつつウルトラ・スーパー・ギタリストとして世界的に成功する為にギタリストとしてこれからも精進する事を誓うのであった。
「よし、いい子ちゃんなお前らには特別にサインをプレゼントしてやるぜ!いつかプレミアがつくから大事に取っとけよ!」
「わーありがとう!」
「ありがとだど!でもなんて書いてあるのかわからないど」
「いや俺の名前だよ。テレビで出ている有名人のサインってこんな感じだろ?……でもよく見たら下手だな。サインの練習もしとくか」
それからも音石明は時間があれば公園で地道にギターの練習を続けていた。
春になれば公園で咲く桜を眺めつつギターを演奏し……
夏になればうだるような暑さや喧しく鳴く蝉の声に負けじとギターをかき鳴らし……
秋になれば涼しくなった気温にホッとしつつギターテクニックを披露し……
杜王町の厳しい冬では家で静かにギターの練習を行って腕を磨き続けていたのであった。
「いい演奏だったわお兄さん」
「去年より上手になってるど」
「おう、ありがとな」
そして1年が経過した。音石は自分のギターの腕前が上達した事を実感しており、ファンの二人からも褒められた事にまんざらでもない様子を見せつつも微妙な表情を浮かべていた。
「……練習を続けた結果去年より確実に上達している。それはいい。ボケ親共も俺の努力を認めて家での練習をある程度認めてくれるようになった。それもいい」
「音石君はギターが上手じゃの~。ワシも若い頃ミュージシャンを目指しておったものじゃ」
「公園で演奏を続けていたらファンも少しずつ増えてきた。継続は力なりと昔の人は言ってたが本当だったぜ」
「音石君は顔もいいからきっと売れると思うよ。アタシらが保証してあげるよ!」
「お、サンキューな婆さん……でも新規のファンがジジババばかりってどういう事だよ!?いやファンになってくれて嬉しいけどよォ!」
「音石君、この前リクエストしてくれた曲を弾いてくれんかのう?ビートルズの初期の曲じゃ」
「ビートルズって古すぎだろ!……いや練習してきたから弾けるけどさぁ!わかった、わかったよ!」
地道に成長している事は喜びつつも新しいファンが老人ばかりな事に音石はやるせない思いを抱いていた。
「音石君ありがとのぅ。リクエストしてみたが本当に弾けるとはビックリじゃよ。音石君ならきっといいギタリストになれるじゃろうて」
「ほれ音石君、お茶と饅頭は食べるかね?」
「あ、どうも。いただきます」
「オラも饅頭たべたいど!」
「ホッホッホ、重ちー君や吉美ちゃんの分もちゃんとあるから安心しなさい」
老人達が持参してきた茶と饅頭を食べつつ音石は疑問を抱く。
「この饅頭美味いな。でもなんで新しいファン達はご老人ばかりなんだよ?」
「なんでって、そりゃあのぉ」
「平日や土日祝日の昼間に公園にいてギターの演奏をノンビリ聞いてくれるのは暇を持て余した年寄りぐらいじゃて」
「……そりゃそうだ」
老人達の言葉に納得しつつ音石は溜息をつく。音石としては老人達に可愛がられるのは悪い気分ではなかったが、若い世代のファンも欲しいというのが本音であった。
「あーあ、贅沢だとはわかってるけどもっと若いファンも欲しいぜ」
「難しいと思うがのう。音石君と同世代なら部活に励んでる子が多いじゃろうし、忙しいサラリーマンや主婦がわざわざギターを聞きに公園に来るとは思えんわい」
「だよなぁ……」
老紳士に断言された音石は頭を抱えるも、自分の予想とは幾分か違う事になっているが何だかんだ少しずつ前に進んでいるのは理解していた。
「まあ頑張りなさい音石君、このまま頑張ればメジャーデビューも夢じゃないだろうさ」
「そうそう!アタシらもファンとしてこれからも応援してあげるからね!」
「あー、うん、どうもありがとな……そうだな、愚痴ってる暇があったらギターを弾いた方がいいよな!」
老人達から励まされた音石は気持ちを切り替えてギターの演奏に集中するのであった。
「……………ふむ、様子を見ていたが大丈夫そうだね。あの音石明というのは見た目は不良だが老人達に可愛がられているし悪人ではないようだ。吉美に悪影響を与えるようなら始末する必要があったが、これなら問題ないだろう。親父も悪い虫とは判断しなかったし私も寛大な精神で見逃してあげるとしよう」
<人物紹介>
●
→健やかに成長している吉影の愛娘。重ちーとは一緒に下校する仲である。帰り道の公園でユニークなお兄さんこと音石明の演奏を聞いてファン1号となった。音石のサインは大事に取ってある。
重ちーの事は大事な友達であるが今のところ恋愛感情は一切ない。まだ小学一年生の子供だからね。
●重ちー(矢安宮重清)
→吉美の同級生で友人。吉美とはとても仲良し。音石の演奏を聞いて面白いなと感じファン2号になった。音石のサインは机にしまっておいたが何処にあるかわからなくなった模様。
重ちーの両親は息子が変な少年に懐いているのを心配したが、音石が老人達に可愛がられているのを見てこれなら大丈夫だろうと警戒を解いたのであった。
●音石明
→原作キャラ。原作では「矢」によってスタンドに目覚めて調子に乗っていた小悪党であったが、この世界ではまだ「矢」に刺されておらずスタンドも覚醒していないので純粋にギタリストを目指す少年なのだ。スタンド使いに目覚めなければ殺人もしないし窃盗もやらないちょっと変わった少年でしかなく、堂々と食い逃げするような自称不良のレッテルを貼られている何処かの不良よりもまともである。
ファン1号と2号にギターの腕前を褒められて嬉しく思いつつ、夢であるウルトラ・スーパー・ギタリストになる為に公園で練習を続けた結果ファンも増えた。新しいファンは老人ばかりだがギタリスト志望の少年の演奏を聞いてくれる人なんて暇を持て余した老人くらいなので仕方ないね。両親は最初否定的だったが、息子の努力を認めて家での練習をある程度容認してくれた。
現在は老人達に可愛がられつつギターの腕前を磨いており本人も悪い気分ではない模様。一瞬だけ謎の悪寒を感じたが気のせいだと思う事にしたようだ。
ネタバレになりますがこの世界では音石明はスタンド使いにはなりません。
●音石明のギター
→音石が地道に小遣いを貯めた結果購入したギター。今後も相棒として改良されつつ使われることになり、最終的に原作で音石が使っていたギターのような見た目になるだろう。
●音石のファン達
→公園で練習している音石の演奏に感心してファンとなった老人達。音石や吉美と重ちーの事は饅頭をあげたりして可愛がっている。ちなみに彼等の存在のお陰で音石は無害な奴だと判断され命拾いした。
●吉良 吉影
→娘が変な奴に懐いていると聞いて始末しようかと考えたが、最終的に寛容な精神で見逃す事にした。娘が健やかに成長するのを見守っている父親の鑑である。
趣味で書いているので更新は遅くなります。今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。