更新速度はゆったりめで、10万文字くらいを予定。
どうぞ良しなに。
どうやら、私は天才らしい。
不可能を可能にしてしまう、そんな感じの。
正直、そんな自覚は無い。
できるからできたのだ、それ以上でもそれ以下でもない。
故に。
「ヒジリ……!!もう、やめて……!!」
「いいえ、やめません。私は私の為すべきことを見つけ、そしてそれが可能であると結論を出しました。ならば実行するだけです」
「私はっ、そんなことのためにあなたを育てたわけじゃ……!!」
世界の一つや二つ。
壊してしまおうと思った。
今まで育ててくれた、他ならない貴女の為に。
だから、良いのだ。
この果てに、私の命程度が砕け散るくらい。
永劫回帰する、この歪んだ世界を正せるのならば。
それでいいのだ。
「母上。今までありがとうございました。新たなる世では、貴女に自由があらんことを」
魔力励起、想定の二倍を確認。
凄まじいな。
大地の息吹というものを、少し過小評価していた。
「直、世界は再創成されるでしょう。また会えるかは分かりませんが、お元気で」
創り上げた祭壇も、もう崩壊するだろう。
これが、私にできる最初で最後、最大の恩返し。
私は目を閉じて、最後の瞬間を待った。
もう長くはない。
如何な天才と言えど、私は一人の人間でしかない。
世界を壊すなどという身の程知らずの結果は当然、破滅だ。
さようなら、母上。
私を拾ってくれたのが、貴女でよかった。
そんな前世を持つのが私、
ということを、今思い出した。
「なんだってこんな時に」
なお現在、絶賛正体不明の暴漢に襲われて交戦しているところであり、脇腹に刺し傷がついたところである。
刃渡り、入射角、位置的に、内臓に傷はないはず。
痛みを堪え、腹の筋肉を引き締めてナイフを固定する。
そして、隙だらけの顔面に拳を叩き込んだ。
記憶の無い状態ならばともかく、今の私は歴戦の魔女である。
筋力強化、耐久上昇、爆風加速。
ナイフが抜けないで慌てている間抜けの顔面に、死なない程度のありったけを込めてぶち込む。
「フンッ!!!」
やはり筋肉。
最後に頼れるのは筋肉である。
私の拳は暴漢の頬に突き刺さり、勢いよく吹き飛ばし、近くの建造物のコンクリに罅を入れた。
あ~、すっきりした。
暴力は楽しいものだ。
用法容量を守らなければ捕まるが。
「聖ちゃんっ!!」
私が残心を解くと、後ろから駆け寄って来る声が一つ。
私よりも頭一つ分小さい、小柄な少女。
「ケガはない?ソラ」
大國 ソラ。
私の義理の姉に当たる存在で、恐らくは母上の転生体。
運命とは数奇なもので、私はまた幼少期にソラに拾われ、大國家の一員として育った。
その家庭事情もまた、少々複雑なものだが。
「ケガをしているのはヒジリちゃんだよ?!えっとええっと!!」
「ケーサツ呼んで。私は救急呼ぶから」
「なんでそんなに冷静なの!?痛くないの!?」
「痛いけど、気合で」
「気合で!?」
慌てるソラに警察の番号を押し付け、私は救急を呼んだ。
内臓に傷は無いと思うけど、万が一があるし。
下手に抜くと処置がね……。
「あー、もしもし?ちょっと脇腹を刺されまして。場所はまあ、ハイ。○○の✕✕―――」
まあ、警察の方が先に来るだろう。
遠くにサイレンが聞こえる。
野次馬が呼んでたみたいだし。
救急車が来るまで気長に待とう。
しかし、なんでいきなり襲われたんだか。
私はソラと一緒に登校していただけなのに。
全く以て解せない。
ただの愉快犯なら良いのだけど。
「ひ、ヒジリちゃん……!」
「大丈夫だから。見た目より深刻じゃない。多分」
「たぶん!?抜かなくてもいいの!?」
「抜いた方が危ないって。専門の人に抜いてもらうのが一番だよ」
「うぅ……」
慌て過ぎだ……とも思ったけれど、平和な現代社会においてはこれが普通だと思い直すことにした。
刺し傷ができる状況など、そうそうないのだ。
慌てない方が無理だった。
さて、そろそろ警察が来る。
事情聴取とかに応じないと……。
しかし、さほど鍛えていない体だから辛いものがある。
熱が出て来た気がする。
軟になったものだ。
「顔色悪いよぉ、やっぱり大丈夫じゃないよぉ……」
「大丈夫、だから……」
せめて救急が来るまでは保たせたい、が……。
うん、無理だ。
鍛えていない肉体、急な魔力運用、脇腹に刺し傷という決して軽くない傷。
ちょっと耐えられそうにない。
「ヒジリちゃん……?聞こえてる……?」
「だい、じょうぶ……聞こえてる、よ」
意識が、もうろうとしてきた。
でも、ソラの前で倒れるわけには……。
「救急車きたよっ!ヒジリちゃん、がんばって……!」
「ん……」
よかった、間に合った。
担架に担がれて、救急車に運ばれたところで、私の意識は途絶えた。
「被害者は覚醒者か?」
「恐らくは……」
「家族を守るために、か。立派なことなのにな」
「全くです」
場面は事件現場に戻る。
そこでは警察官が多人数出現し、周囲から事情聴取や現場検証を行っていた。
そのうち、縄張 ミサオと芦本 クロマは、まだ公になっていない事項が関わっていることを確認した。
《
この世界、アルスガルで、近年現れるようになった、特殊能力を持つ人間の事を指す言葉だ。
まだ世界人口の0.1%にも満たない事例でしかないが、彼・彼女らが起こした事件は、隠蔽されてはいるモノの、いずれも被害がかなり大きい。
特にこの国、極東連邦では世界的に見ても覚醒者が多い傾向にあり、裏で動く出来事が多い。
そのため、現状では覚醒者を厳格な管理下に置かねばならない状況にあり、判明次第、収容されることになっている。
前科の有無に関わらず、だ。
明らかにやせ我慢をして、家族を心配させまいとしていたあの少女も、例外ではない。
十把一絡げな対応にならざるを得ないとはいえ、二人は対応に不満を持たずにはいられなかった。
「国家の犬ってのは辛いな……」
「割り切るしかないですが、割り切れたら苦労はしませんよね……」
被害者の少女は、恐らくは身体強化系。
シンプルながら怖ろしい能力とされている。
場合によっては肉体の耐久強度も上がり、標準装備のハンドガン程度では傷がつかないという事例もある。
その分、搦手などに弱い傾向にあるが、逆に言えば対抗手段を用意していない状態で対峙するのは自殺行為である。
防弾シールドなど構えたところで、ガード越しに吹っ飛ばされるのがオチだ。
催涙弾、ワイヤートラップ、スタンガンなど。
それらのアイテムが必須なうえ、拘束も一苦労というおまけつき。
「協力的になってくれると嬉しいんだがな……」
「でもたぶん、意思が強いタイプですよ、あの子」
「だよなあ」
なにか一波乱が起きる。
そんな予感がしたのだった。
そして、その予感は当たっていた。
【能力者はいた!?政府が隠蔽した現実!!】
数日後、そんな見出しと共に、世間に機密事項が露見した。
そして、仕事帰りのミサオの家の前に、二人の少女が倒れていた。
どちらも、見覚えがある。
暴漢に襲われて撃退した少女と、その少女に守られていた少女だった。
「……クソ」
ミサオは国家の犬としての自分と、人間としての自分の間で揺らぎ……。
「傷はないな……疲れただけか。それなら……」
人間としての自分を、優先した。
私、
国家の犬だ。
だから、今やっていることが、職務として間違っているのは、明白だ。
だが……。
「……警戒するな、とは言わない。ただ、敵意を向けるのは勘弁してくれ」
人間としての自分を棄てたら、致命的に何かが壊れる。
そんな気がした。
「ここはどこ」
「私の家だ。家の前で倒れてたんでな、誰も見ていなさそうだったから引き上げた」
「……なんで助けたの」
「年端も行かない少女が二人、家の前で倒れているんだ。助けない奴があるか」
「違う。それなら警察か何かに連絡すれば良いだけの話。そうしなかったということは」
「頭の回るお嬢さんだ。そうだ、裏の事情を知ってる国家の犬だ」
それでも、この選択は間違っていなかったと、私は胸を張って言える。
恐らく、自力で脱走したのだろう、少女。
厳重だっただろうに、無傷で出てくるその能力は、既に敵対することはリスクが高いことを示している。
そして、それと同時に、彼女には弱点であり、逆鱗と呼べる存在がいる。
今も尚、自分の身体で隠すように守っている妹分。
彼女に何かあれば、この少女の枷は解き放たれるに違いない。
「だが同時に今の体制に不満もある。正直、君を覚醒者だからと拘束することになるのは不本意だった」
「……チッ、嘘だったらまだやりやすかったのに」
「君には言葉の真贋を見分ける方法があるのかな?」
「方法なんていくらでもあるわよ」
「ところで、その少女を連れている理由は?」
「うちにはバカしかいなくてね。この子は優秀なくせに気が弱いから、跡取り気取りのアホな兄がちょっかい仕掛けてくんの。シャレにならない奴をね。で、親は放任主義のくせに握り潰すことは得意だから」
「……妹を守るためか」
「姉よ」
「君が妹なのか……」
なるほど。
彼女なりの理由があるようだ。
正しさとは、一体何なんだろうな。
「で?わざわざ助けて何?匿ってくれるとでも?」
「そのつもりだが?」
「……あんた、長生き出来ないわよ」
「だろうな、知っている」
私は匿うことに決めた。
このような子どもを守るのが警察や国の仕事だというのに。
それが叶わないのならば、仕事なんぞクソくらえだ。
「子供を守るのが大人の仕事だ。法が守ってくれないなら、せめて私が守ろう」
「……あんたみたいなのが世に蔓延ってくれればどれだけ良かったことか」
「誉め言葉として受け取っておく」
この問答で、私は彼女の信頼を勝ち取ったのか、少しだけ無防備になった。
まあ、女同士だ。
万が一も無かろう。
必要なものと、服のサイズを聞いて、私は再び出かけた。
目覚めたばかりの肉体が憎らしい。
前世のままに力を振るえれば、私は今頃ソラを安全な場所まで連れて行っていたというのに。
病院から直行で移された収容施設から脱出して、案の定虐められていたソラを助けて、道半ばで体力が尽きた。
鍛えないと。
何も出来やしない。
負荷トレーニングを増やしておこう。
あと人間やめよう。
それはそれとして、私とソラは、ひとりの警官の家で匿われていた。
縄張 ミサオというらしいその女性は、疲れ切ったような顔をしながら、しかし強い意志で嘘偽りなく、私達を匿うと言い放った。
迷いながら、それでも人としての正しさを探して突き進む、強い人の目だった。
「ヒジリちゃん……こんなことしたら、お父さんに怒られちゃうよ……」
「ソラ、もうこの際だから言うけどね、もうあんなのには絶縁状を叩き付けた方が良い。あのバカ兄貴を止めようとしない時点で親失格」
「でも、ヒジリちゃんが悪者にされちゃうよ……」
「良いのよ、私なんか。ソラの方がよっぽど大事」
「ヒジリちゃんはもっと自分を大事にしてっ」
だから、ソラの安全確保のためにも、少しだけ、言葉に甘えることにした。
「任せてよ。今の私は強いんだから。今なら全部殴り飛ばしてやるわ」
「暴力はダメだよっ!!」
ソラを守るためなら。
私は、私は、何だってできる。
この世界で、何よりも大事なのは。
ソラだから。
「ムギュ……ハグじゃ騙されないよっ、お姉ちゃんの言うこと聞いてよぉ!!」
「ダメ。お姉ちゃんは気が弱すぎるから」
「それは、そうだけどぉ……!!」
さて。
これから世話になるのだ。
家事の手伝いくらいはしよう。
「学校もサボっちゃおう。ね?」
「うぅ……ヒジリちゃんが不良になっちゃった……」
「ソラも一緒になるんだよ」
「そんな~~……」
「あの子も、目覚めてしまったのね」
「どういたしますか、
「刺激しないようにしてね」
「ですが、既に公安などに目を付けられてしまっています。こちらからの干渉も十全とは……それに、
「……そんなわけないでしょ。また《新世》をされては堪らないもの」
「と、言いつつ、一番の爆弾を置いているのは天理さまでは?」
「……」
「何か仰ってください」
「下がってちょうだい。何とかするわ」
「本当にお願いしますよ?極東連邦が滅ぶだけで済むならマシですからね?」
「分かっているわ」
作者の他の作品と舞台が繋がっていますが、特に他の作品は読まなくても大丈夫です。