銀翼の暗殺者【ログホラ二次創作】   作:おべ

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2話 シルバーソード

森を抜ける風が冷たかった。

戦いの匂いが、まだ地面に残っている。

モンスターの残骸が弾け、夜の草に吸い込まれて消えていった。

 

アカツキ——憑依者である“私”は、ひとり立っていた。

野良として参加した高難度クエストの最中、仲間は全滅。

最後に立っていたのは自分だけだった。

敵を斬り伏せるたび、静かな虚しさが胸に沈んでいく。

 

「……この世界は、戦えば戦うほど、空っぽになる。」

 

そう呟いた瞬間、遠くから甲高い笑い声が響いた。

 

「はっはっは! やるじゃねぇか、お嬢ちゃん!」

 

振り向くと、派手な鎧を着た大柄な男が立っていた。

金髪を乱暴に結び、手には大きな弓。

彼の背後には、十数人の冒険者たちがいる。

皆、どこか獣のような笑みを浮かべていた。

 

「ウィリアム=マサチューセッツ。」

 

名前を口にした瞬間、記憶が脳裏を走った。

〈シルバーソード〉のギルドマスター。

原作で、最前線に立ち続けた戦士。

そして——アカツキにとって、ある意味で“もう一つの答え”を持つ男。

 

ウィリアムが大股でこちらに近づいてくる。

「お前、野良か? この数の敵を一人で片付けたのか?」

「……依頼を受けただけです。」

「依頼、ねぇ。へぇ、依頼でここまでやる奴は珍しい。」

ウィリアムは笑い、肩をすくめた。

「名前は?」

「アカツキ。」

「覚えとくぜ。——おい、みんな! こいつ、すげぇぞ!」

 

彼の仲間たちがどっと笑い声を上げた。

陽気で、粗野で、けれどその奥に確かな信頼の温度があった。

その空気は、かつての“放蕩者の茶会”とはまるで違う。

理知ではなく、熱。戦略ではなく、衝動。

 

それでも、懐かしいと思った。

人が本気で生きている瞬間には、似た輝きが宿る。

 

ウィリアムたちは、崩れた神殿跡で休息を取った。

焚き火の周りで酒を飲み、肉を焼き、笑い合う。

アカツキは少し離れて、その様子を見ていた。

 

「あの連中、頭は悪いが腕は確かだろ?」

 

隣に座ったのは、長身のエルフの守護戦士——ディンクロン。

軽い口調だが、目の奥は鋭い。

「ウィリアムさんが声をかける相手は、だいたい“戦える奴”だ。」

「……そう見えます。」

「で、あんたはどうだ? 仲間がいないのか?」

「ええ。今は……独りで動いています。」

「そりゃ寂しいな。だが、悪くない選択だ。」

ディンクロンは、そう言って小さく笑った。

「ウィリアムはきっと、お前を放っておかねぇよ。」

 

案の定、焚き火の向こうから大声が響いた。

「アカツキ! 明日、俺たちは北のレイドダンジョンに行く! 一緒に来るか?」

「……誘う理由は?」

「強ぇ奴を見たら誘う。それだけだ!」

 

単純で、清々しい理屈だった。

シロエなら、この言葉を笑って受け流しただろう。

けれど今の自分は、その真っ直ぐさに救われる気がした。

 

「……わかりました。」

アカツキが答えると、ウィリアムは満足げに笑った。

「いい返事だ! お前みたいなのが増えると、戦場も楽しくなる!」

 

その夜、星空の下でアカツキは思った。

この男は、戦いの中でしか自分を確かめられない。

けれど、その不器用さが羨ましくもあった。

彼の世界には“疑い”がない。

自分が何者かを問う前に、ただ剣を振るう。

それが彼の真実。

 

翌日、彼らは北の山岳地帯に向かった。

雪を踏みしめ、魔物の群れを斬り払いながら進む。

雪の山脈を渡る風は、刃のように鋭かった。

昼でも陽が射さぬ氷谷〈グランデス渓谷〉。

そこに現れたのは、十数名の冒険者たち——。

鎧の音、矢筒の擦れる音、呪文詠唱の囁き。

その中に、アカツキはいた。

 

先頭に立つ男の背は高く、金の髪を束ねていた。

ウィリアム=マサチューセッツ。エルフの狩人であり、誰よりも速く、誰よりも無茶をする男。

その瞳は常に遠くを見ていた。勝利でも、栄光でもなく——戦いの“瞬間”そのものを。

 

「全員、位置につけ! ディンクロン、盾を前に。浮世、障壁重ねろ。プロメシュース、詠唱三段目で止めとけ。」

 

鋭く響く声に、仲間たちが即座に動く。

エルフの守護戦士ディンクロンが重い盾を掲げ、氷の巨人の咆哮を受け止めた。

衝撃で地面が割れ、雪が舞い上がる。

後方では浮世の詠唱が光の環を描き、仲間全員に防御の結界を張る。

彼女のメイド服の裾が風に揺れ、その瞳は冷静そのもの。

 

プロメシュースが低く呟く。

「〈フレア・カスケード〉……放つぞ。」

その声とともに、赤い魔力の渦が地を焼いた。

炎が氷を溶かし、視界が一瞬白に染まる。

 

その隙を突き、アカツキが飛び込んだ。

短刀二本。

右の刃は〈月影の小太刀〉、左の刃は〈断罪の刃〉。

二つの光が交差し、敵の脚腱を切り裂く。

影の中から、風のように現れ、音もなく消える。

 

背後からハイランドスカイが戦斧を振り抜いた。

「よっしゃあ! 繋ぐぜ、アカツキ!」

「了解。」

クナイを投げ、爆裂符で追撃。

氷の巨人がよろめく。

 

戦線の中央では、フェデリコとヴォイネンが息を合わせて斬り込み、えんかーたんと軟体系@アキバが大太鼓と笛でリズムを刻んでいた。

それはまるで戦場の楽隊。

音の波が、仲間たちの動きを一つにまとめる。

 

東湖が唱える符術が、青白い光となって障壁を補強する。

「ディンクロン、十秒もてばいい!」

「上等だ!」

エルフの盾役が再び巨体を押し返す。

その背後で、細雪とポロロッカが補助魔法を重ね、プロメシュースの詠唱が再び高まる。

 

——そして、ウィリアムの声が響いた。

 

「今だ、総攻撃!」

 

弓弦が鳴る。

無数の矢が炎をまとって空を裂き、巨人の頭部を貫いた。

氷が砕け、轟音が渓谷に響く。

 

敵が崩れ落ちた瞬間、全員の息が一斉に抜けた。

雪煙の中、アカツキは静かに剣を納めた。

 

「……これが、彼らの戦い方。」

 

理屈ではない。

指示と衝動の境界が溶け合い、仲間たちの呼吸が自然に重なる。

それは放蕩者の茶会の“整然とした協調”とは真逆の、混沌の中の統一だった。

だが、不思議と心地よかった。

 

ウィリアムが笑いながら手を差し出した。

「お前、すげぇな! 動きが完璧だったぞ!」

「……あなたたちが強いからです。」

「謙遜すんな。戦場じゃ、強い奴ほど静かになるんだよ。」

 

その笑顔には、迷いがなかった。

彼は“勝つため”ではなく、“生きるため”に戦っている。

その単純さが、眩しかった。

 

夜、キャンプ地で焚き火を囲む。

えんかーたんとが太鼓を軽く叩き、軟体系@アキバが古い吟遊詩を歌う。

浮世が温かいスープを配り、ヴォイネンが豪快に笑いながら肉を焼く。

フェデリコが静かに調理を整え、東湖が眼鏡を直して記録を取っていた。

どこか騒がしく、そしてあたたかい。

 

ウィリアムが立ち上がる。

「いいか、今日の戦いを見て確信した。

 俺たちは、もっと遠くへ行ける。

 名前を決める。〈シルバーソード〉——銀の剣の名のもとに、前線を駆けるギルドを作る!」

 

歓声が上がる。

ディンクロンが盾を掲げ、浮世が笑い、プロメシュースが「悪くない名だ」と呟く。

東湖は小さく頷き、ハイランドスカイが「やっと本気で戦える場所ができた」と笑った。

 

アカツキはその光景を見つめていた。

どの顔も、眩しくて、真っ直ぐで、無防備だ。

彼らはこの世界を“戦場”としてではなく、“生きる場所”として受け入れている。

 

「戦うことは、生きること。生きることは、誰かと繋がること。」

 

茶会の解散夜に抱いた孤独が、ゆっくりと溶けていく。

今度こそ、私は“参加者”として生きている。

 

ウィリアムが焚き火越しにこちらを見た。

「アカツキ、お前も来るよな。」

少しの間を置き、アカツキは頷いた。

「……ええ。私も、その刃のひとつにして。」

 

焚き火がぱちりと弾ける。

炎が空に昇り、星のように消えた。

 

その夜、〈シルバーソード〉は生まれた。

そして、アカツキは再び“居場所”を得た。

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