【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#10「守名氷織はたった一つが欲しかった」

 

 

 

 

 

 

 

 あれは私が魔法少女になったばかりの頃だった。

 

 "氷雨"の魔法を使いこなせるようにもなって、中学校に行く事も許されて。

 それを喜んでくれたのは逆見さんと舞ちゃんの二人だけだったけど。

 

 舞ちゃん、魔法少女グレンフレア。

 彼女とは出力する方向が逆なだけで、"花火"と"氷雨"の魔法は性質が似ているらしく私達は訓練でよく一緒になった。

 

 私より二つ歳上で、妹みたいに可愛がってくれて。私も彼女の事をお姉ちゃんみたいに思ってて。

 だから行く中学校を選べるようになった時、中学三年生になる舞ちゃんがいる所に入れてもらった。

 

 

 中学校も初めは楽しかった。

 私は魔法少女だから皆がちやほやしてくれた。勉強は苦手だったけど、施設で教わってた分と逆見さんや舞ちゃんが教えてくれて何とか授業にはついていけた。

 

 

 男の子の友達もできた。

 施設には当然同年代は女の子しかいなかったし、職員さんもほとんどが女性だったから喋るだけで舞い上がっちゃったな。

 今となってみれば、友達だと思っていたのは私だけだったんだろうけど。

 

 流行りのドラマも遊びも知らなかったから、あんまりクラスの女の子達と話が合わなくて一人でぽつんとしている事が多くなった私に彼はよく話しかけてくれた。

 

 一緒に下校している時、色んな話を聞いた。

 家計が苦しくて、弟達にクラスで流行ってるゲームをさせてやれないのが兄として不甲斐ないんだと悲しそうな顔をしていて。

 

 だから私はよくその子が言っているゲームを買ってプレゼントした。お金だけはいくらでもあったから。

 その子も、本当に喜んでくれてたし。

 

 

 そんなある日、中学校のグラウンドに妄獣(カースド)が現れた。

 巨大な蟷螂に鎧を着せたようなその妄獣は、確かに強かった。

 

界凍(アールノース)』。

 

 周囲一帯を指向性の冷気で覆って、指定した対象の動きを鈍らせたり凍らせて攻撃する私の最初の魔法。

 大抵"妄獣"を指定する事で動きを鈍らせて、その隙に近くにいる人達へ避難してもらうようお願いする。

 これを起点にして他の魔法に繋げる事も多々ある。

 

 その性質上、メインで凍らせる相手以外にもある程度影響が出る。

 今はもう肌寒さを感じるくらいで抑えられるけど、あの頃は私もまだ新米だったからどのくらいで調整すればいいのか自信がなかった。

 施設の訓練場とは違う、普通の人達も沢山いる環境で使うのも初めてだったから。

 

 それで凍結が甘かったんだと思う。

 妄獣の頭部を氷塊で打ち砕くのと同時に、振り抜かれた鎌が私のお腹を切り裂いた。

 魔力で作ったコスチュームがなければ、私の上半身と下半身は別れていたかもしれない。

 痛みに気を失いかけて、地面に音を立てて落ちる。

 

「うぁ……痛い、痛いよぉ……」 

 

 痛いを通り越して、斬られた箇所が燃えるように熱い。でも泣かなかった。

 溢れそうになる内臓と流れ出す血液を手で押さえて、傷を凍らせる。

 普通だったら死んでるんだろうけど、私は魔法少女だから。

 

 駄目だ、心配させちゃ駄目だ。

 魔法少女は負けないし、泣かないし、いつも皆を守るんだから。

 

 

 だから大丈夫なんだよ、私は平気なんだよって教えるために。

 

 校舎の中に避難して教室の窓からこっちを見てる彼に、冷や汗を拭って笑ってみせた。

 

 彼は、悍ましい物でも見るような目をして視線を反らした。

 

 

 

 

 

 

 痕は残ったけど、傷が癒えた頃。

 人があまり通らない、旧校舎に用事があった。そこの階段を上って踊り場に差し掛かった時、誰かの話し声が聞こえた。

 

「お前、守名と付き合ってるの?」

 

 クラスの男の子と、私とよく喋ってくれる彼が私の話をしていた。

 別に付き合っているつもりはなかったけど、その子と話すのは楽しかったから。

 

 何故か、それ以上聞いてはいけない気がした。

 気付いてはいけない事がこの世には沢山あるって、何となく分かっていたのに。

 

「────いやいや、冗談キツいって」

 

 胸にずきりと何かが刺さったような感じがして。蟷螂の妄獣にお腹を裂かれた時よりもずっと痛い。

 

「だってバケモノじゃん。普通あんな内臓とか出て平気な訳ないだろ、気持ち悪い」

 

「まあな、しかもお前見て笑ってたくね?ドMってレベルじゃねえよな」

 

 嘲るような笑いが、耳を塞いでも隙間から入り込んでくる。

 魔法少女の優れた五感が、聞きたくもない言葉を私に突き付けてくる。

 

「じゃあなんで守名と仲良くしてんの?女子からもちょっと浮いてるし」

 

「いや、魔法少女って金とか使い放題じゃん?あいつ、あれが欲しいこれが欲しいって言ったらすぐ買ってくるんだぜ」  

 

「お前それであの品薄のゲーム持ってたの!?やっべー、罪な男じゃん」

 

 薄々気付いてた。

 私なんて、見られてない事に。

 

 皆、守名氷織じゃなくて。魔法少女アイシスリリィの事しか見てないのを。

 

「でも魔法少女ってもっと高嶺の花って感じかと思ってたのにな」

 

「まあまあ、逆にあれくらいおどおどしてくれてた方が扱いやすいし」

 

 

 

 

 

 

 逆見さんには言えなかった。

 言ったら彼らがどんな目に遭うか、想像もつかなかった。

 でも、私は何の為に。誰の為に。

 

 その日の事は、それ以降覚えていない。ただ、下校の時刻になって舞ちゃんのクラスに行った。一つだけ、聞いてみたい事があった。

 

「あれ、ひーちゃんどうしたの?たまには一緒に帰る……どうしたの!?」

 

 私の目は真っ赤に泣き腫らしていたらしい。

 

「……ねえ、舞ちゃん。私達って、バケモノなのかなぁ」

 

 何も言わないのが正解だったんだろうけど、無理だった。

 その言葉を聞くと舞ちゃんは何かを察知したかのように息を飲んで、私の肩を掴んだ。

 

「誰に、何を言われたの。ねえ教えて、ねえってば!」

 

 それは流石に言えなかった。でも子供みたいに泣きじゃくる私を、舞ちゃんは黙って抱きしめてくれた。

 

 数日後、その男の子達はどこかへ"転校"していった。

 私が何も言わなくても、魔法少女の特権を使えば私を悲しませた人を探すのは容易い事だったんだろう。

 

 今となって考えてみれば、私はそうなる事を心のどこかで望んでいたのかもしれない。

 だとすれば私は、とんでもない卑怯者だ。

 

 私は学校に行きづらくなって、一年もしない内に全く登校しなくなった。施設に篭って、妄獣を狩っての繰り返し。

 

 でも魔法少女が在籍している事自体が、学校にとっては名誉らしい。

 出席日数が足りなくても私は卒業できた。

 卒業式には出なかった。友達もいないし、誰も見に来てくれないし。

 

 だから高校も、籍はあるけど行ってない。

 魔法少女が在籍しているだけで高校側も満足らしい。

 

 今の高校を選んだのは、制服が可愛かったから。

 制服を着て歩いていれば、私も普通の女の子に見えるから。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 私達は普通の人とは違う。

 だから気持ち悪いって思われても仕方ない。仕方ないけど、好きな人には見られたくなかった。

 夕食ができたと呼びに来た朔さんに気付かず、着替えている所を見られてしまった事が一度ある。

 

「うおっ悪い、ノックしたんだけど……ちょっと待て、それどうした」

 

 恥ずかしかった。醜くて、汚い傷を朔さんには見られたくなかった。

 

「ご、ごご、ごめんなさい、気持ち悪いもの見せて」

 

 咄嗟にお腹を隠す。

 

「いや、胸を隠せって……というか気持ち悪いって何……ああ、悪い。服着てくれ」

 

 後ろを向く朔さんに、そこまで気を遣わなくてもいいのにと思いながら急いでシャツを羽織る。

 

「あの、お腹の傷……気持ち悪いですよね。それはそうですよ、普通死んじゃいますもんね、こんな事になったら、えへ、えへへ」

 

 なんで笑ってるんだろう、私。

 ああ、そうか。辛い記憶をごまかすために笑ってるんだ。

 それに気付いたのかは分からない。でも朔さんはそれについて詳しく聞く事もせずに、一つだけ尋ねてきた。

 

「なあ。魔法少女っつったって、痛くない訳じゃないんだろ?」

 

 おずおずと頷くと、朔さんは溜息を吐いた。

 

「……そっか。凄いな、氷織は」

 

 朔さんはお父さんみたいで、お母さんみたいで、お兄さんみたいだ。

 私にはいた事がないから、本当にこんな感じなのかは分からないけれど。

 

「なんでこんな子供が、こんな……」

 

 誰にかは分からないけど、朔さんは怒っていた。その後、少し泣いていた。

 あの人が泣くのを見たのは、あの時だけだった。

 

 

 

 

 

 朔さんとする他愛ない話が好きだった。

 夕食を食べた後、二人で何をするでもなくテレビを眺めていると宝くじのCMが流れた。

 

「500兆円当たらねえかな、まあそもそも買ってないけどさ」

 

 あくび混じりにそんな事を言うから、朔さんもやっぱりお金は欲しいんだなあと思った。

 秋刀魚の時も「お金なんかいらないよ」みたいな事を言っていたけど、言ってくれたらいくらでもあげるのに。

 

「朔さんって何か欲しいものがあるんですか?」

 

「ん?欲しいもの、そうだな……ロボット掃除機とかかな。実際効果あるのか気になるよな、あれ」

 

 だから次の日、朔さんが大学に行ってる間にお店に行って一番良い物を買ってきた。喜んでもらえるかな、と思って夜に朔さんの部屋へ行く時が楽しみだった。

 夕食を食べ終わって、箱に入ったそれを「これ、あげます!」と差し出す。どんな反応が返ってくるのか、わくわくしながら待つ。

 

 でも。

 

 朔さんは驚いた後、しばらく苦しそうな顔をしてからきっぱりと私に言い放った。

 

「氷織。気持ちは嬉しいけど、こういう事は二度とするな」

 

 なんで。私、何を間違えたんだろう。

 朔さんの険しい顔を見ていると、申し訳なくなって仕方がなかった。嫌わないでほしかった。

 

「これから先……氷織は本当に沢山の人と出会う事になると思うんだよ」

 

 朔さんは話している途中によく考え込む。

 以前どうしてなのか聞いてみると「俺はバカだから考えがなかなかまとまんなくてさ」と言っていた。

 でも私は、そのくらい悩みながら私に対して話そうとしてくれている事が嬉しかった。

 

「だからお前も人との関わり方を覚えなきゃいけない。確かに物や金は人の心を掴むのに楽かもしれないけど、それはお前自身を見てない」

 

 中学校の頃の嫌な記憶がフラッシュバックして、お腹の傷がじわりと痛む。

 

「そして氷織のそのやり方も、人の目を曇らせる。普通の人でもな。金って本当に怖いんだ」

 

 俺は清楚なお兄さんだから常に曇りなき眼だが、と付け足して。

 でも私にはそれしかなかったのに。それしか知らなかったのに。

 

「分かってる、魔法少女だもんな。それが一番効率良かったのも分かる。けどさ」

 

 俯く私の心を読んだように、朔さんはそう言った。

 

「お前は確かに魔法少女かもしれないけど、その前に"守名氷織"なんだから」

 

 そう言って、珍しく朔さんは頭を撫でてくれた。

 温かくて大きい手が、私はこの人に大事にされてるんだって思えて、涙が出そうになって。

 

 朔さんの手が好きだった。

 夜にどうしようもなくなると、撫でてもらったり手を握ってもらったりした時の事を思い出して自分を慰めた。

 その度に自分が少しずつ嫌いになる。

 

 

 

 これは氷織が使いなよ、とロボット掃除機を朔さんに渡された。

 

「前見たけど、お前の部屋酷い有様だったからな。床に物を置くなよ、ロボット掃除機様の邪魔にならないように」

 

「は、はい……」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 スマホに朔さんから位置情報の通知だけ来て、心配になって急いで飛び出して。

 二人を見つけた時、舞ちゃんが朔さんに言い寄ってるように見えて。

 舞ちゃんがそんな事する訳ないのにその光景が目に入った瞬間、本当に視界が真っ白になった。

 

 頭の中が「取られた」って言葉で埋め尽くされて。

 私のなのに。私の朔さんなのに、って。

 

 私、最低なの。

 朔さんは痛がってたのに、それを見て安心してた。

 ああ、良かった。取られた訳じゃないんだって。

 

 本当に怖かった。

 舞ちゃんは私よりも歳上で、背も高くて、可愛くて、明るくて。

 そして私と同じ魔法少女だから。

 

 朔さんが私に構ってくれるのは、きっと私が可哀想な"魔法少女"だからだ。その条件が同じなら、朔さんが私なんかを選んでくれる訳がない。

 

 舞ちゃんにも酷い事を言っちゃった。私の事、嫌いになっちゃったかな。

 仲直りできるならしたいけど、許してくれないだろうな。

 

 

 私の中の暗くて、汚くて、恥ずかしい部分が囁く。

 

 

 そんなに誰かに取られるのが嫌なら。先に自分の物にしちゃえばいいじゃん、って。

 でも、駄目だよ。そんな事したら朔さんに嫌われちゃう。

 

 

 そうやって私は我慢してたのに。

 朔さんが、舞ちゃんの事を許しちゃうから。

 私はずっといい子にしてたのに、ずっと我慢してたのに。

 

 舞ちゃんが付けた痕だけが朔さんに残ってるなんて、ずるいもん。

 そう思った瞬間、どうしようもなく心臓の鼓動が早くなって朔さんを押し倒していた。

 何が起こったか分からない、きょとんとした顔が可愛かった。

 でも朔さんが悪いんだよ。本当に、ずっと私は我慢してたのに。

 

 

 キッチンに立っている貴方が口ずさむ私の知らない歌も。

 

 煙草を吸ってる時の気怠げな横顔も。

 

 ぼんやりと本を読んでいる時の少し緩んだ口元も。

 

 あざといから、って皆には隠してる甘い物が好きな所も。

 

 耳元で囁いた時、漏れ出した小さな喘ぎ声も。

 

 今、私の下で苦しそうにしているこの表情も。

 

 全部全部、私の、私だけの。

 

 

 

 私、今まで色んな事をずっとずっと我慢してきた。我慢していた事を、自分ですら気付かないほどに。

 それでも文句も言わずに、ずっと皆の為に頑張ってきた。痛くても、悲しくても。

 

 だから、良いよね。一つくらい、私だけの物にしても。

 

 

 

 逆らえる訳ないのに、懸命に振りほどこうとしている姿が愛おしかった。

 抑えつけている手から、必死に抵抗しているのが伝わってくる。

 

 どこを触ったら、どんな顔をしてくれるんだろう。首元に顔をうずめると、石鹸みたいな甘い香りがしてくらくらする。

 ああ、もっと知りたいな。朔さんの事、全部知りたいな。

 

「だーいすきっ♡」

 

「……っ」

 

 耳元でそう囁くと、組み伏せた身体がびくんと震えた。

 ふふ、声は我慢できたんだ。偉いね。

 

 頭の中に薄い桃色の膜がかかったようで、ぼーっとする。

 朔さんが何か言ってるけど、水の中にいるみたいでよく聞こえない。外は真っ暗で、夜はまだまだ明けない。そもそも、別に明けたって関係ない。

 お腹の奥が甘く疼いて、もどかしい。

 

 

 

 欲しい物を自分の物にする初めての感覚に恍惚としていると突然、さっきまでもがいていた朔さんからくたりと力が抜けた。

 

「え?」

 

 気を失った?病気?

 慌てて朔さんの顔を見た、その時。

 

 目が合った。合ってしまった。

 

 そこにあったのは怒りでも、呆れでもなく。軽蔑でも、憎悪でもなく。失望でも、恐怖でもなく。

 

 

「……氷織」

 

 

 なんで、そんな憐れんだような目で見るの。

 

 頭から冷水をかけられたような気分になった。

 ぼんやりとした視界が急にクリアになって、自分がしている事に気付く。

 私、何をしてた?何を言った?これから、何をしようとした?

 

「私、なんで、違う……違う!」

 

 ずっと掴んでいた朔さんの手を離して、後ずさる。

 朔さんは身体を起こすと、痛そうに手首を回していた。私が、私がやったんだ。私が朔さんを傷付けた。

 呼吸が浅く、早くなる。

 

「なあ、大丈夫だから。一回落ち着こう」

 

 疲れ切った顔で、それでも私を気遣ってるのか穏やかな声色で朔さんがそう言う。それがどうしようもなく痛かった。

 

「やだ、やだ……こんなの、違うの!」

 

 違う、こんなのは私じゃない。汚い、汚い、汚い!

 自分がしたいからって、人に無理やり嫌な事を押し付けて。

 これじゃ私、朔さんが一番嫌ってる……そんな人間だ。

 

 何も考えたくなかった。靴も履かずに部屋を飛び出す。

 

 どこでも良かった。とにかく、どこか遠くへ行きたかった。

 

 疲れて倒れるまで走り続ければ、次起きた時は全部夢で。

 またベランダ越しに、朔さんに「おはようございます」って挨拶するんだ。

 

 

 

 





キャラクターにイメージソングを設定しながら執筆するタイプの人間なんですが氷織を書く時はなるみやさんの『乙女的ストーキング』を流しながら書いてます、よかったら聞いてみてね

「だーいすき」に♡入れるかどうかめちゃくちゃ迷ったんですが、入れた方がえっちだったので入れました
後悔はありません
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