【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#12「魔法少女は夜に背を押されて」

 

 

 

 歩いて、歩いて、歩いて。

 いつの間にか私がいたのは、この辺りでも有数の繁華街だった。

 ネオンライトが目に眩しくて、お前の居場所はここにはないと言われているような気がした。

 どうしてこんな所に来てるんだろう。人が沢山いる所に来たら、気も紛れると思ったのかな。

 

 不思議と誰もいない小道を一人で歩いている時よりも、周りに大勢人がいる今の方が何故だかずっと寂しい。

 お腹も空いたし喉も乾いた。

 でもスマホもお財布も置いてきちゃって、私の事を魔法少女だって証明する物もない。

 そういえば、今お巡りさんに見つかったらどうしよう。普段はあそこの制服を着た白髪の女子高生は魔法少女だ、みたいな通達を回してもらってるらしいけど、この服装じゃ普通の子みたいに補導されちゃう。

 

 ……普通の子。

 

 魔法少女じゃなければ。

 お父さんお母さんがいたら。

 

 私はもう少し普通になれてたのかな。

 

 普通の女の子だったら、こんな思いをせずに済んだのかな。

 

 

 繁華街を歩いているのは男女のグループが多かった。1人、または数人の男性を囲むようにして派手な格好をした女性が取り巻いている。

 

 女の人達は皆目をギラギラとさせて、一緒にいる男の人にそれとなく視線を向けている。どうにか周りを出し抜いて自分の物にしてやろう、そんな眼差し。

 

 嫌だな。私もあんな目をしてたんだろうな。

 

 

 

 

 なんだかいたたまれなくなって俯きながら歩いていると、少し先から人の悲鳴が聞こえた。それと同時に、近くに妄獣がいるという感覚に襲われてぞわぞわとする。

 

 急いで悲鳴の元に向かうと、確かにそこには妄獣がいた。まだ生まれたてだけど、こういう場所で発生した妄獣は早めに手を打たなきゃいけない。

 

 魔力を全身に込めて、着ていた服をコスチュームに変身させる。青と銀を基調としたそれを着ると、否が応でも身体が戦闘態勢に入る。

 逃げ惑う人々の波を割るように、前に出た。

 

「下がってください」

 

 地面をのたくっていた妄獣は、蛇のようにその鎌首をもたげた。

 顔の部分にぽっかりと穴が空いたそれは、蛇というより蚯蚓の方がそれらしいかもしれない。身体から垂らしている体液は酸のような成分が含まれているのか、地面を少しずつ溶かしている。

 

 近くの盛り場から情欲を得て強化されているそれは、普通の魔法少女なら一人での討伐は厳しい。

 そして私は普通の魔法少女、のはずだったのに。とどめを刺す前に魔力切れしてもおかしくない、そんなレベルのはずだったのに。

 

 

 ああ、私。こんなに最悪の気分なのに、どうして。

 今までの私より、ずっと強い。

 

 

 指先一つで詠唱せずとも、基本的な魔力操作だけで妄獣が氷漬けになった。指を鳴らすと同時に、それが粉微塵に砕け散る。

 季節外れの粉雪みたいに散ったそれが、ネオンライトを乱反射した。

 

「終わりました。お騒がせしました」

 

 そう言って周りで固唾を飲んで見守っていた人達に、ぺこりと頭を下げる。

 そして歓声を上げる人々の輪から抜け出して、静かに暗い方へ歩いていく。

 

 私はやっぱり魔法少女なんだな、なんて思いながら。

 なんだか涙が出そうになるのを堪えて、急いで誰もいない所へ行こうとしたその時。ぽんと肩を叩かれた。

 

「ねえねえ、そこの可愛い君。こんな遅くに一人で夜歩きとは見込みがあるねえ」

 

「えっと……夜家さん、でしたっけ」

 

 振り返ると、柔らかな金髪の隙間から人懐っこそうな瞳がこちらを覗いていた。

 自称朔さんの大親友で、何度か会った事はあるけど改まって話した事はない。

 男の人なのに"女遊び"が大好きって変わった人だ。普通の男性ってもう少し慎ましやかというか、少なくともそういう事は公言しない。

 男なのにはしたない、節操がない。そんな事を言われてしまうから。

 

 でも夜家さんは全く気にしていないらしい。朔さんとはまた違った方向におかしい人だ。

 類は友を呼ぶ、という事なのかも。

 

「さっきの見てたけど、氷織ちゃんって魔法少女だったんだ。なんか意外」

 

「……魔法少女だったら、何なんですか」

 

 今だけは魔法少女がどうだとか言われたくなかった。私は普通の女の子で良かったのに。普通の女の子が、良かったのに。

 

「別に魔法少女は関係ないよ。もう何十年も前の創作物だと僕みたいなのが女の子に声掛ける時はこう言うんだってさ」

 

 どこか芝居がかった調子で、夜家さんは私にウインクした。

 

「どしたん、話聞こか?」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

「とりあえずこれ履いてね。寒くない?上着いる?」

 

 コンビニから出てきた夜家さんは、売っていたサンダルを差し出してきた。正直足が少し痛みつつあったから、ありがたく頂く事にした。

 代金はまたお返ししないとだけど。

 

「……ありがとうございます。寒くないので大丈夫です」

 

 そのまま彼は近くの河川敷へ歩いていく。その後ろを何となくついていった。別に話す事なんか何もなかったけど、サンダルを買ってもらった手前少しくらいは付き合うべきなんだと思う。

 土手に座ると、夜家さんはさっきコンビニで一緒に買った2つの缶を私に見せた。

 

「コーヒーとココア、どっちがいい?」

 

「いや、あの……大丈夫です、ありがとうございます」

 

「じゃあ僕コーヒーね、はいココア。かんぱーい」

 

 断ったのに……!

 無理やり缶に入ったココアを押し付けられて、それどころか乾杯まで……!

 

「それにしても中々の不良少女だねえ、家族が心配してるんじゃないの?」

 

「……そういうのは、いません」

 

「そうなの?あちゃー、なんかごめんね」

 

 本当に悪いと思っているのか問い質したくなるほど軽い口調で謝罪するから、なんだか私まで落ち込んでいるのが馬鹿らしくなってくる。

 

「じゃあ一人暮らしか。なるほどね、朔くんって世話焼きだもんね。けどそれこそ朔くんに見つかったら『深夜徘徊なんて清楚じゃないぞ』とか言われちゃうよ?」

 

 本当に言いそうだな、と思ってくすりと笑いそうになる。

 けど朔さんの顔を思い出して、私にそんな事は許されないんだと気分がまた重くなった。

 

「でも私、朔さんに酷い事しちゃったから。もう帰れないです」

 

 何とも言えない沈黙が流れる。引いて当然だよね。

 

「……えっ、ヤッちゃったの!?」

 

「ヤッ……ヤッ!?」

 

 ぶんぶん首を横に振る私を見て、夜家さんはつまらなさそうに「なーんだ」と呟いた。人の事を何だと思ってるんだろう。

 

「まずはその乱れた服装でしょ。自己嫌悪なのかな、思い詰めた表情してるし。何かの拍子でつい手が滑って、みたいなのだったら面白いのになーって」

 

 初めに会った時から薄々分かっていたけど、この人は私と朔さんの事を面白がっている。

 こっちは真面目に傷付いてるのに……!

 

「酷い事って何したの?」

 

「押し倒して……耳元で名前呼んだり……」

 

 答えてしまった後に、別に何も言う必要はなかった事に気が付いた。やっぱり私って芯がないなあ、すぐ流される。

 

「え、それって何かした内に入るの?」

 

「夜家さんの基準で判断しないでください!」

 

 今回はたまたまそれで済んだけど、それよりもっと……先へ進んでしまう可能性もあった。

 

「私が近くにいたら、また朔さんを傷付けちゃうかもしれないから。だから戻りたくないです」

 

 話している内に、覚悟ができた。"施設"に戻ろう。

 こんな事をしちゃった以上、私は朔さんの近くにいちゃいけないから。

 なのに。

 

「氷織ちゃんはそれで良いの?」

 

 そんな事を聞いてくるから、私はもっと辛くなる。

 

「良くない!……良くないけど、朔さんに嫌われちゃうよりずっと良いから」

 

 嫌われちゃう、ってなんだろう。

 もうとっくに嫌われてるはずなのに。

 

 黙り込んでしまった私を見て、夜家さんは薄く笑いながらいきなり昔話を始めた。

 

「朔くんって変だよねぇ、彼とは高校からの付き合いなんだけど」

 

 心は沈んでいるのに、朔さんの昔の話だと思うとどうしても耳を澄ませてしまう。

 

「僕は如何せんこういう性格だから敵が多くてね。面白い事、楽しい事、気持ちいい事だけあればいいのにと思ってるから」

 

 つくづく男性らしくないなあ。慎みも何もない台詞は、普通の男の人には決して言えない。

 

「氷織ちゃんは知らないかもしれないけど、男の嫌がらせってのは陰湿でねぇ」

 

「そ、そうなんですか」

 

 まあその話は面白くないから置いといて、と夜家さんは横に置く仕草をした。

 

「色々あって、僕が男子生徒のボス格みたいな奴の彼女に手を出しちゃってね。もう本当にそいつは怒り狂ってさあ、盗撮された裸の写真なんかばら撒かれちゃって。まあ僕は別にそんなのどうでもいいんだけど」

 

 本当に心の底から気にしてないようで、やっぱりこの人も大概おかしい。

 

「騙されて人気のない所に呼び出されて、何人かにリンチされたのは流石に効いたよね。シンプルな暴力だよ?まあ僕もいよいよこれまでか、と思ったんだけど」

 

 なんでこの人はそんな嫌な記憶を事も無げに話せるんだろう、と疑問に思った。でも何となく分かる気もする。

 夜家さんは、多分自分自身の事があまり好きじゃない。

 

「たまたま通りがかった朔くんが『お前らさあ、よってたかって一人をぼこぼことか清楚じゃねえんだよ』とか何とか言いながら、全員ぼこぼこにぶん殴っちゃってさあ」

 

 無茶苦茶な光景だけど、朔さんならやりそうだなという気がした。

 

「面白いのがさ、僕の噂を聞いてたんだろうね。その後、僕も『お前も人の女に手出すなよ、清楚じゃねえんだよ』って殴られたんだよ。その時点で僕、めちゃくちゃ顔も腫れてたのに」

 

「ええ……」

 

 僕も流石に人生で一二を争うくらいびっくりしたよね、と夜家さんは笑った。

 

「……初めてだったなあ、誰かに叱られるの」

 

 どこか懐かしむように彼はそう呟いた。

 

「魔法少女ほどじゃないにせよ、男もそれなりにレア物だからね。特に僕なんかは実家も太いしで、甘やかされ放題」

 

 なんだか私と似ている、と感じた所である事に気が付いた。

 私がこの人を少し苦手なのは、多分同じだからだ。

 甘やかされて、叱られずに育って、中身が空っぽだから。

 

「女の子は僕の顔と身体と金しか見てないし、男連中は僕の事を『女に媚びるクズ』って陰口叩くし。でも朔くんは真正面から僕に説教してきてさ」

 

 中身が空っぽだから、芯のある朔さんに惹かれるんだ。

 

「凄いよね。朔くんは他人の為に怒れるんだよ。見捨てればいいのに。放っておけば疲れなくて済むのに」

 

 確かにそうだった。朔さんが怒っている所は何度か見た事があるけど、それは私や他の魔法少女の為だった。

 

「だから氷織ちゃんも何したか知らないけどさ、大丈夫だよ。彼はちゃんと叱ってくれるから」

 

 うん。多分、朔さんは私を責めない。それが何よりも辛い。

 

「そもそも朔くんって女の子にはいつも猫被ってるからね。初めて君を見た時、内心凄くびっくりしたんだぁ」

 

 そう言われて、どうしても口元が緩んでしまう。そんな資格、私にはないのに。

 

「心配しなくても、氷織ちゃんは朔くんの特別だよ。仲良くしてあげてね」

 

 その言葉がとても嬉しかった。

 

 ……なら、やっぱり。私は朔さんの特別のまま、終わりたいなあ。

 

 

 

 甘いココアに口を付けていると、ささくれ立った心が少しだけ解れたような気がした。

 とりあえずこれからどうしようかな、なんて考えていると名前を呼ばれた……名前を呼ばれた!?

 

「そこ、氷織、氷織だな!?お前こんな所で何をして……隣の男は……誰だ?」

 

 スーツ姿の逆見さんが焦ったような表情でこっちに走ってくる。

 

「さ、逆見さん!?えっ、え、えっと、あの、夜家さんで、あの、しょ、処女喰いで」

 

 まさかこんな所で顔を合わせるなんて思わなくって、パニックで言葉が上手く出なかった。

 

「いや、氷織ちゃん!?」

 

 隣にいる夜家さんも流石に焦った顔をしていた。本当にごめんなさい、と思った時には既に遅くて。

 

「処女喰い!?おい、その男を取り押さえろ!氷織の教育に良くない!」

 

 そこから駆け付けた逆見さんの部下に夜家さんが引き倒されるまで時間はかからなかった。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 私の隣に立って、不安そうにこちらを見ている逆見さんに視線を合わせる事のないまま希望を伝えた。

 

「逆見さん。私、あのアパートから"施設"に戻ります」

 

「……本当に良いのか?」

 

 こくんと頷く。

 

「そうか。柊木君には……」

 

「私が自分で言います」

 

 それだけは自分で言わないと駄目な気がする。

 

「あ、朔くん!助けて〜」

 

 地面に押さえ付けられている夜家さんの情けない声で彼が来た事を察知する。

 

「来たか。彼は柊木君の友人を名乗っているんだが、如何せん一緒にいた氷織もパニックでな。一応状況が状況だから確認だけ取らせてもらっている」

 

「はい、あの、すみません……それは僕のツレ……じゃなくて友達なんで、放してやってください。悪い奴じゃないんで」

 

 逆見さんの合図で解放されると、夜家さんはすぐに逆見さんの部下達に「酷い事するよねえ、君達も。悪いと思ってるならちょっと一緒に遊んでくれないかなあ」なんて口説いていた。

 

 対して朔さんは私を見つけると最初に本当に心の底からほっとしたような顔をして、すぐに顔を顰めながらずんずんと大股でこっちに歩いてくる。

 

「手は痛えし勝手にふらふらするし、このバカ!」

 

 ごちん、と頭の中に音が響く。目の前がチカチカとして、それで拳骨を落とされたのだと気付いた。

 周りにいる逆見さんの部下達が「魔法少女に暴力を……!」「問題では……?」と囁くのを、逆見さんが手で制している。

 

「ぐおおお……」

 

 肝心の朔さんは拳を押さえて唸りながら蹲っていた。

「大丈夫ですか!?」と駆け寄ると、本当に痛かったのか目尻に涙を浮かべている。その姿すら可愛いと思えてしまって、私はもう駄目だ。

 

「この寒い季節にそんな薄着でいたら風邪引くだろうが、財布もスマホも投げっぱなしで何もできないだろ」

 

 そんな事を言いながら朔さんは羽織っていたダウンを脱いで、私に着せてくれた。

 温かいなあ。朔さんはいつも私に欲しい物をくれる。

 

「……はあ。あんまり心配させんなよ」

 

 周りに人がいるのに朔さんはぶっきらぼうな態度を隠そうともしなかった。

 

「いや、あの、朔さん素がバレちゃう……」

 

「今どうでもいいだろ、そんな事。怪我とかしてないか?調子は悪くないか?」

 

 黙って首を横に振る私を見て、朔さんは安心したように大きく息を吐いた。

 

「じゃ、帰ろうぜ」

 

 何でもないように、そう言うから。私が言わなきゃ。私が自分で言わなきゃ駄目なんだ。

 

「……私、もうあのアパートには戻りません。"施設"に帰ります」

 

「はあ?なんでだよ」

 

「なんでもです!」

 

 初めて朔さんに言い返しちゃった。

 私も思ったより大きな声が出てびっくりしちゃったし、朔さんも私の反応を予想してなかったのか珍しく驚いたというか、たじろいだ顔をしている。

 何なんだろう、この空間。

 

 何かを考えているのか少しの沈黙の後、朔さんは逆見さん達の方へ向き直る。

 

「すみません、本当助かりました。それで重ね重ね本当に申し訳ないんですけど」

 

 そう言って朔さんは逆見さん達に深々と頭を下げた。

 私が全部悪いのに、朔さんが謝っている所を見ると胸が苦しくなる。

 

「俺はちょっと氷織と話があるんで、皆さん外してもらっていいですか」

 

 逆見さんは何か言いたそうにしていたけど、部下の人達を皆どこかへやってしまった。

 

「何かあったら呼んでくれ」

 

 そう言い残して、河川敷を去っていく。

 私と、朔さんと、何故か夜家さんだけが残っていた。

 

「戻らないって言うなら、それもいいよ。そもそもお前が勝手に押しかけてきたんだからな、そこの所忘れんなよ」

 

「そ、それは……!そうですけど……!」

 

 何も言い返せなかった。最初は、隣でたまに顔を見られたらそれだけで良かった。でも今は、もうそれじゃ満足できない。

 

「氷織は喋らなさ過ぎなんだよ、何考えてるか全然分かんねえ。たまに何か言い出すかと思ったら全部俺に関わる事だ。俺はお前の本音が知りたいのに」

 

 朔さんは何も分かってない。

 私の本音なんて、言える訳ないのに。そんなの口に出してしまえば、絶対に嫌われちゃうのに。

 

「そして俺はお前の話を聞かなさ過ぎ、だ。そんなつもりはなかったけど、心のどこかで舐めてたのかもしれない。所詮ガキってな」

 

 ガキ。

 子供として扱われる事を喜ぶ自分と、悔しいと感じる自分。どちらも確かに私だった。

 

「俺達には多分こういうのが足りなかったんだ。なあ、氷織」

 

 朔さんは服が汚れるのも構わず、地面に腰を下ろす。そのまま私にも「座りなよ」と上目遣いで笑った。

 

「最後だって言うなら本音で話をしよう。悔いの残らないくらいな」

 

 

 

 

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