【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#13「私の一番欲しい物」

 

 

 さて。

 勢いで話をしよう、なんて言ったもののマジでノープランなんだよな。

 というか、そもそも。

 

「夜家、なんでお前まだいるんだよ」

 

「僕は氷織ちゃんを保護した、言うなれば功労者だよ?顛末を見届ける義務と権利があると思うなあ」

 

 抜け抜けとそれらしい事を言っているが、こいつの性格上ただ単に面白い物が見られると思って残っているだけだ。

 つかず離れずの位置でにやけ面を見せやがって、非常に腹が立つ。

 

「何が保護だ、不審者だと思われてボコボコにされてただろうが」

 

 そんな事を言われても全く何も感じていないのか、あっけらかんとした顔をしているので相手にするのも馬鹿らしくなっている。

 正直に言うと、不審な男がこいつでめちゃくちゃ安心しているけど絶対調子に乗るので意地でもそう言ってやらない。

 

「ちっ。氷織が良いなら俺は別に構わないけど」

 

 そう言って目の前の氷織に向き直る。今はこっちの方が優先だ。

 

「……大丈夫です。誰かいてくれた方が、もし私が何かしそうになっても安心ですし」

 

 こりゃ重症だな。

 相当気に病んでるぞ、これ。

 

「まあ、じゃああのアパートに帰らないとして。何が嫌なのか教えてくれよ」

 

「私、朔さんに酷い事したから。もう一緒にいちゃ駄目だと思います」

 

 案の定の返答ではあった。そんな事をした、しそうになった自分にショックを受けていたのは分かっている。

 

「そうだな……いいか氷織、よく聞け。俺は色々考えたが、結局の所なにをどう伝えるべきか分からなかった」

 

 腕を組んで、目をつぶる。果たしてこれで正解なのかどうかは分からないが、少なくとも真理の一つではある。

 

「ガキはスケベで当たり前!!!」

 

「……!?!?げほっ、ごほっ、ひっ、あはっ、あっはっはっはっは!!ヤバい、デリカシーなさすぎ、ひ──っ」

 

 夜家が地面でのたうち回りながら爆笑しているが、今は気にしても仕方ない。

 それはそれとして後で絶対に殺す。

 

「っ、し、死にます……!もうやだ……!」

 

 しかし氷織が顔を真っ赤にしてそんな事を口走るもんだから、やはり間違っていたのは俺らしい。なんなら泣きそうになってるんだけど、俺も泣きてえよ。

 バッドコミュニケーション過ぎる、もう誰か助けてくれ。

 

「違う違う、間違った、ごめん!あの、言い方だな!」

 

 焦りながら何とかそれっぽい事を言おうとするけど、どうにもしどろもどろにしかならない。

 

「誰もが抱えているそれは、えーと、あの、決して恥じるものではなく、クソッ上手いこと言えねえ!」

 

 そもそもの話、俺だって人様に説教できるほど出来た人間でもないんだ。

 でも誰かがこいつに本気で向き合ってやらなきゃいけなかった。

 今、氷織にとってこれは多分初めての"喧嘩"だ。口先だけで丸め込もうとするのはやめろ、本音だけぶつけろ。

 

「……俺の事を傷付けたんじゃないかって、怖かったんだろ。でも残念だったな」

 

 本当にお前のやった事なんて、全然大した事じゃないんだと。そう鼻で笑ってやる。

 

「お前に傷付けられる程、俺はヤワじゃない。自惚れんなよ」

 

 とにかく俺が伝えてやりたいのは、その一点だった。

 

「だから氷織がそれを気にして戻らない、って言うならそれは考えなくていい」

 

 氷織も少しだけ落ち着いたみたいだ、このままの調子で行けばもうちょっとお互い冷静に話ができる。

 今、目の前の少女は初めての感情ってのに振り回されている。それ自体は決して悪い事じゃない。

 でもそれに囚われて、何も見えなくなっている。失った後悔から学べって言うには、まだ酷な年頃だろ。

 

「それに氷織も若気の至りっていうか、気の迷いっていうかさ。後から考えてみりゃこんなの笑い……話……に……」

 

 何故か氷織は俺を睨んでいる。

 そして辺りが急に凍り付きそうほど寒くなり始めている事に気が付いた。明らかに季節の範疇を越えている。

 これは……間違えたかもしれない。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 ああ、朔さんは優しいなあ。

 私が突然押しかけても、文句は言ったけど受け入れてくれて。 

 今日もあんなに酷い事をしようとしてた私をそうやって簡単に許しちゃうんだ。

 悔しいなあ。私はどこまでいっても、子供扱いなんだ。私のこの苦しみは、子供の悪戯と一緒なんだ。

 

「バカに、しないで」

 

「ちょ……っと、待て!お前が何をそんなに怒ってるのか分からん!」

 

 腹が立って仕方ない。クソボケ、と言っていた夜家さんの意図が今ならよく分かる。

 

「気の迷いなんかじゃないもん!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、朔さんは鈍器で殴られたような表情を見せた。

 抑えなきゃ、と思っても周囲の気温がどんどん下がっていく。

 

「朔さんと、そ、そういう事したかったのは本当です。ちゅ、ちゅーだとか、触ったりだとか」

 

 朔さんは何とも言えない目で私を見ていた。夜家さんはにやにやしている。

 うう、二人ともはしたない女だって絶対思ってる。

 

「……でも、朔さんは!私のこと、ガキだって、女として見てくれないもん!」

 

 

 本当はずっと嫌だった。

 バイト終わりの朔さんを迎えに行った時、常連客だっていうOLさんにべたべたされている所を見るのが。

 

 大学の課題だとかで、私の知らない女の人と楽しげに電話しながらキーボードを叩く音が壁越しに聞こえてくるのが。

 

 私の知らない誰かに、朔さんが私の知らない顔を見せるのが嫌だった。

 

 

「嫌だよぉ……朔さんが、他の女の人と仲良くしたりするのやだぁ……」

 

 私の中に隠れていた欲望は、あまりにも醜くて自分勝手だ。

 恥ずかしいのに止められなくて、子供みたいに泣いてしまう。

 

「でも、こんな気持ちになる自分が一番嫌で、隠したかったのに」

 

 夜、朔さんの事を考える度に毒のようにその気持ちは溜まっていって。

 今回こうなったのはたまたまで、いずれ私は絶対どこかで今日のような事を起こしていた。

 

「また自分を抑えられなくなって、朔さんに酷い事して、嫌われるくらいなら……私はもう、何もなくていいんです」

 

 この何ヶ月かは本当に楽しかった。知らない事にも沢山出会えた。お魚も少しは綺麗に食べられるようになったし、中華料理屋のオムライスが美味しい事も知った。

 だから、それを思い出にこれからは頑張れる。

 今までみたいに施設で過ごして、魔法少女として人の役に立つ。私がやる事は何も変わらない。

 

 

 

 

「……ごめんな。今のは俺が悪かった」

 

 数分考え込んだ後、朔さんはそう口を開いた。謝らなきゃいけないのは、私なのに。

 

「分かった、俺もはっきり言おう。氷織は俺の恋愛対象ではない。何故なら俺は清楚なお姉さんがタイプだからで、酒も飲めないガキであるお前をそういう風には見られません」

 

 朔さんがきっぱりと放つ一言一言が耳に入るたび、引き裂かれそうな程に胸が痛い。

 でも、これでいいんだ。

 

「しかし、まあ言われてみれば。スタートラインにも立たせないってのは清楚(フェア)じゃないよな」

 

「……へ?」

 

「だから、氷織が大人になるまでは待っててやるから。その時までにお前の気が変わってなかったら、まあ俺も考えてやってもいいよ」

 

 何を言っているのか、耳を通っているのは日本語のはずなのに意味がよく理解できない。

 

「でも俺の理想は厳しいぞ、なんたって清楚なお姉さんだからな。今の氷織じゃ100%無理だ」

 

「……な、なにバカな事言ってるんですか!?5年、いや4年と少しですけど、その間恋人作らないって事ですよね!?それで、朔さん、モ、モテモテなのに、そんな棒に振って、こ、後悔しますよ!」

 

 駄目、駄目、絶対に駄目。やっと、やっと心を決めたのに。もうこの人と一緒にいちゃいけないんだ、って泣きそうになりながら決めたのに。

 

「じゃあ俺を後悔させないように頑張れよ。言っとくけど俺はこの流れでも5年後に平気で振るからな、俺の清楚基準値に達してなければ」

 

 清楚基準値ってなんなの、意味分かんない。

 やっぱりこの人おかしいよ。

 なのに、私は。

 

「ここまで譲歩してやるんだから、次は俺のお願いを聞いてもらおうかな」

 

「お願い……?」

 

 なのに、私はその言葉に耳を傾けてしまった。

 

「氷織が苦にしないなら、もう少し俺のお隣さんでいてくれよ」

 

 少し照れたように、そっぽを向きながら投げやりにそんな事を言うから。

 

「俺もさ、何だかんだ楽しいんだ。今の暮らしが」

 

 そんな事を言われたら、私だって楽しかった。

 温かいご飯を誰かと一緒に食べて、色んな事を教えてもらって、本当に家族みたいで。

 

「その、なんだ……俺に酷い事をしようとした氷織が本当だとして。だからって俺の帰りが遅くなったら心配になる氷織が、嘘って訳でもないだろ」

 

 こくんと頷く。朔さんには傷付いてほしくないし、怖い目に遭ってほしくない。だから、私は離れようとしたのに。

 

「間違えたら叱ってやるから。嫌な事は嫌って言っていい。それで氷織の事を嫌いになったりなんてしないから」

 

「……本当に?」

 

「ああ、俺がお前を清楚なお姉さんにしてやるよ。氷織はどうしたい?」

 

 そう言って、手を差し伸べてくる。

 ずるいなあ。朔さんは、いつも私が一番欲しいものをくれる。

 

「……朔さんと一緒にいたい」

 

 涙を拭って、その手を取った。

 やっぱり朔さんの手は大きくて、温かった。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 ぱちぱちと手を叩きながら夜家さんが近付いてくる。ずっと今のやり取りを聞かれていたのかと思うと、顔から火が出そうだった。

 

「いやあ、話もまとまったみたいだね。楽しい時間、ご馳走様でした」

 

「死ね。それはそれとして、まあ氷織といたのがお前で良かったよ。じゃあくたばれ。今度学食奢ってやるよ。カスが」

 

 朔さんが清楚さの欠片もない悪口と感謝を交互に投げ付けている。

 どういう感情なんだろう。

 

「あともう一人、お前と話したい奴がいるんだってさ」

 

 スマホのメッセージアプリを触った後、返事を見る事もなく朔さんはそれをポケットに突っ込んだ。

 

「じゃ、ちょっと向こう行ってるから。話が終わったら呼べよ、殴り合いはすんなよ」

 

「し、しませんよ」

 

 朔さんと夜家さんがその場を離れてから数分後。

 遠くで待ってるように指示されたんだろうその人は、少しずつ私の方へ近付いてきた。

 

「あの……ひーちゃん、私」

 

 なんて言えばいいのか分からない、という感じの舞ちゃんだった。

 ただ何か言わなきゃ、と思っているのか忙しなく指を組み合わせている。

 

「舞ちゃん、私ね。今まで舞ちゃんに押し付けてたんだと思う。誰かに怒るとか、嫌な事を嫌ってちゃんと言うのを」

 

 お腹の傷の事で傷付いた時も、私は自分でそれに向き合えない卑怯者だった。だから舞ちゃんに嫌な思いをさせて、今日も私の為にって酷い事をさせちゃった。

 

「大嫌いなんかじゃないよ、ごめんね。ずっと大好きだから、これまでも……これからも」

 

 ぽろぽろと泣きながら「ごめんね」と繰り返す舞ちゃんを抱きしめて、その背中を撫でる。

 私にとってはお姉ちゃんみたいなものだけど。舞ちゃんだって魔法少女だ。魔法少女(私たち)は足りない物だらけで、自分の気持ち一つすら制御できない。

 だから、少しずつ。私達は今日、本当の意味で謝る事ができた。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

「やっぱり私、もうちょっとあのアパートにいます」って言うと逆見さんは本当に嬉しそうに「そうか」とだけ言った。

 私が施設に戻った方が管理はしやすいはずなのに、変なの。

 

 皆と別れて、朔さんと二人だけの帰り道。なんだか気まずくて、何か喋った方が良いのかなあとちらちら彼の方を見る。

 ただ横をぼんやりと歩きながら、彼は星を眺めていた。

 

 なあ氷織、と朔さんが口を開く。

 

「お前、玉ねぎ嫌いだろ。こっそりよけてるの知ってるぞ」

 

「な、いや、そんな事ない……ですけど?」

 

「でもお前が美味しい美味しいと言ってばくばく食べているハンバーグにはな、実は俺が死ぬほど玉ねぎをすりおろして入れている」

 

「え!?ちょっと、ズルくないですか!?」

 

 何がズルいんだよ、と朔さんは吹き出した。隣で笑っててくれると、何だか嬉しい。

 

「玉ねぎが嫌いって言ったって、別にいいんだ。俺はそうやってどうにかしてお前に食わすからな。つまり、俺が何を言いたいかと言うとだな」

 

 嫌いな食べ物を知らない内に大量に食べさせられていた事実にショックを受けている私の頭を、朔さんはぽんぽんと撫でた。

 

「お前はワガママを言ってもいい。俺はそれを聞いても、聞かなくてもいい」

 

 そうだったんだ。私はワガママなんて迷惑だから言っちゃ駄目だって、ずっと思ってた。

 

「人と人って、そんなもんだよ」

 

 それきり朔さんはまた喋らなくなった。しばらく無言でそのまま歩いた後、少し足が痛い事に気付く。多分サンダルで靴擦れになっちゃってるんだろう。

 

「じゃあ、ワガママ言ってもいいですか」

 

「聞くかどうかは知らないけどな」

 

「……おんぶして欲しい、です。足が痛いから」

 

 朔さんは少し考えた後、「仕方ねえな」と言いながらしゃがみこんだ。自分から言ったくせに、ちょっと躊躇しながらその背中に飛び付く。

 背負われるのは2度目だったけど、今度は自分から言っちゃった。

 

 さっき朔さんを押し倒した時と同じくらいくっついてるのに、不思議とそういう気持ちにはならなかった。

 首元から漂う石鹸の匂いと、心地良い揺れでうとうととしている内にいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 翌朝。

 

 ひとまずアパートには戻ったけど、あんな事があった翌日に何食わぬ顔でいられるほど私はずぶとくなかった。

 朔さんの「朝飯ドアノブに掛けとくぞー」という声を寝たふりでやり過ごす。

 そのままお昼頃までだらだらベッドの上で転がって、そろそろ何か食べなきゃなあなんて考えていると突然チャイムが鳴らされる。

 びっくりして転がり落ちながらも、ドアを開けるとそこには普段着ないようなオーバーサイズのカジュアルなシャツを着た朔さんが立っていた。

 

「ど、どうしたんですか、平日なのに。大学あるんじゃないんですか?」

 

「サボった。普通に手が痛すぎて集中できないから、今日は休清楚日だ」

 

 休清楚日、ってなに?

 

「という訳でサボった上に出前を取るとかいう清楚からかけ離れた事をする。たまに清楚から離れる事で、遠くから見つめ直せる事もある。今回は寿司、氷織も昼まだなら食べるだろ?」

 

 お腹は確かに空いている、でも私は生魚が苦手だった。

 その時、「これだ!」といい事を思い付く。

 

「私、お寿司よりピザが食べたいです。チーズが沢山乗ったやつ」

 

「……ふふっ。いいじゃん、じゃあピザにしよう」

 

 何故か嬉しそうに朔さんは笑ってスマホを取り出した。多分アプリで注文するんだろう。

 

「じゃあまたちょっとしたら呼びに来るから、着替えときなよ」

 

 出前なのになんで着替える必要があるんだろう、と思っていると朔さんはそれを見抜いたようににやりと笑った。

 

「取りに行く方が安くなるからな、無駄金使うのは清楚じゃないだろ」

 

 私のお隣さんは変な人だ。

 

「良いですけど、休清楚日じゃなかったんですか?」

 

 でも私は、そんなお隣さんの事が好きだ。

 デートとも呼べない十数分のお出かけに心を弾ませながら、私は服を選び始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

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