【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#15「デートと呼ぶには拙くとも」

 

 

 

 どうにも目が冴えて眠れなかった。

 楽しみな事があると寝付けなくなる、という事を初めて知った。

 ベッドの中で何度も寝返りを打ちながら明日について考えていると何だかどきどきして、そわそわする。

 

 

 舞ちゃんは「ひーちゃんは可愛いんだしちゃんと"女の子"って所を見せれば、あのクソ眼鏡だってイチコロなんだから」なんて言ってたけど。

 褒めてくれるのは嬉しいけど、あんまり参考にならない上に勧めてくれた服はちょっと……露出が多いから、その、まあ……朔さん好みではないかな。

 

 

 逆見さんに関しては「まあ私は職務に忠実であるからして、あまりそういった異性との経験といった公務のノイズになる事は謹んできた身だ……つまり、私以外の人に聞きなさいという事だ」というような事を早口で言われちゃったし。

 

 

 色々考えた結果、夜家さんに聞いてみる事にした。

 あの人は私と朔さんの事を面白がってるから、協力的ではあるし。朔さんとも付き合いが長いらしいから、私よりどんな感じが好みなのかよく知ってると思って。

 

「朔くんはねぇ、本当にコッテコテなくらい清楚って感じが良いと思うよ。なんかこう……夏のひまわり畑に白のワンピース、麦わら帽子みたいな?」

 

「え、でも今は冬……ですよね」

 

「そこはこう……気合と魔法で何とか、ね?」

 

 何とか、ね?じゃないんだけどな。魔法少女の事をなんだと思ってるんだろう。別に私が寒くなくても朔さんが心配しちゃうし。

 でも服の相談にはちゃんと乗ってくれたし、一番アドバイスが役に立ったのはこの人だと思うとなんだか複雑だ。

 そんな事を延々と考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 いつもより早いアラームで起きると、急いで身支度を整える。

 普段はしないけど、舞ちゃんに教えてもらったナチュラルメイクも頑張った。こんな機会滅多にないから、できるおめかしは全部やらなきゃ。

 

 

 アパートから歩いて十数分、駅前の広場のベンチに腰掛けて朔さんを待つ。

 約束の時間より三十分も早く着いちゃったけど、遅れるよりは清楚だと思う。というか前に漫画で読んだ「待った?」「ううん、今来た所だから」というのをやってみたかっただけではあるんだけど。

 

 今回は「待ち合わせというのをしてみたいです」とまで言って、集合場所を最寄り駅にしてもらった。

 隣に住んでるのに変な事を言うもんだなあ、という顔をされちゃったけど最近気付いた事がある。

 朔さんは、割と私のお願いを聞いてくれるという事だ。子供のワガママと思われてるのかもしれないけど、使える物は何でも使わなきゃ。

 

 どうせ朔さんは「ガキの引率か〜」くらいにしか考えてないだろうけど、せめて一矢報いたい。

 来たる何年後かに向けて、少しでもこう……意識させなくちゃ。

 

 朔さんは大人になるまで待っててやるなんて言ったけど、本当にそんな保証がある訳じゃない。

 朔さんの前にある日、それこそ歳上で清楚な感じがする可愛い女の人が現れたら私の事なんて視界から消えちゃうかもしれないから。

 

 今日は白のニットワンピースにベージュのロングカーディガンを羽織って、バッグやローファーはアクセントとして黒で締めた。

 夜家さんは「きれいめで良い感じだねぇ」って言ってたけれど、朔さんはどう思うかな。か、可愛いって思ってくれるかな。

 

 そうぼんやりしていたからか、いつの間にか朔さんが来ていた事にも気付かなかった。

 

「早いな、感心感心」

 

「おっ…………はよう、ございます……」

 

 一瞬誰か分からなくって、言葉に詰まってしまった。

 

「大学の人間と鉢合わせても面倒だからさ、いちいちお決まりの『親戚の子なんだよ』って言うのもそろそろ飽きてたし。端から俺だってバレなきゃいい訳だから、こっちの方が楽だよな」

 

 普段は下ろしている前髪をかき上げるようにして、横に流していた。くせっ毛にアイロンを当ててパーマみたいにしているからか、いつもより爽やかな感じがする。

 普段掛けている伊達眼鏡を外している事もあって顔の印象が違う、というかぱっと見別人だ。それに耳には銀色のリングのような物が付いている、今までそんなの見た事ないのに。

 

「み、耳、それ」

 

「ん?ああ、これピアスじゃなくてイヤーカフ。挟んでるだけだから穴は空けてないよ」

 

 黒のタートルネックセーターの上にグレーのチェスターコートを合わせていて、なんだかいつものゆるふわという感じの服装よりもかっちりしていてどきどきする。

 

「服の系統なら俺はこういう方が好みなんだけどさ。清楚じゃないじゃん?」

 

 その言葉にちょっとだけほっとした。いつもと感じが違うから、なんだか落ち着かないけど中身はやっぱり変わらないみたいだ。

 別に清楚じゃない、という事はないと思う。

 

 普段の制服姿じゃない事に違和感を覚えているのか、朔さんは顎に手を当てて私の事をじっと見ていた。

 

「似合ってるじゃん。可愛いよ」

 

「……っ、あ、ありがとう、ございます」

 

 そんな事言われると思わなかったから、声が裏返ってしまってとても恥ずかしい。ああ、絶対今顔真っ赤だ。戻って、早く戻って……!

 

 深く息を吸って吐く。

 そもそも可愛い、には2種類あると聞いた事がある。

 それこそ本当に異性として可愛いと思っているパターンと、子犬や子猫を見て「可愛い〜」と言うようなパターンだ。

 そしてこの軽い感じは恐らく後者……!

 

 この人はこう、そういう事を無意識にやる。本当にいい加減にしてほしい。

 溜息を吐きたくなるのを我慢して、朔さんの隣について歩き出した。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 お昼少し前の車内は人が疎らで、座る分には問題なかった。

 隣の席に座る朔さんが揶揄うように呟く。

 

「電車に乗るのも初めてって、どんな箱入り娘だって感じだな」

 

 大恥をかいてしまった。

 切符の買い方が分からなくてわたわたしていた私に気付かず、朔さんはスマホでピッとやって改札を通っちゃうし。

 泣きそうになりながら駅員さんに聞いて、やっとホームに入れたんだから。

 

「……だって、遠くに行く時はいつも車で逆見さんに送ってもらってたので」

 

「ごめんごめん、俺が悪かったから拗ねるなって」

 

 車窓からはマンションや家々が遠くに見える。普段私が守っている街がミニチュアみたいに小さく見えて、なんだか不思議だった。

 でも、そんなお家の一つ一つに家族がいるんだなあ。

 私達が頑張って妄獣を倒さないと、その人達が安心して暮らせない。襲われてお父さんお母さんが死んじゃったら、私みたいな子が増えちゃうかもしれない。

 まだまだ、頑張らなきゃ。

 

 そんな事を考えていると、肩をとんとんと叩かれた。

 

「昼飯はどうする?水族館にも一応併設のカフェみたいなのは付いてるんだけど、絶対混むんだよな」

 

「えっと、そう、ですね……私、店長さんのオムライスが食べたいなあって」

 

「今日は推しのライブだよ、あの人」

 

「……あ!そうでした」

 

 そのお陰で私はこうやって二人でお出かけできてるんだった。本当に感謝しなきゃいけない。たまに私をじっと見てる事があって怖いけど。

 朔さんはさっきの会話で思い出したのか「店長にも何か土産持っていかなきゃな」と呟いていた。

 

 お土産、かあ。

 あげた事も貰った事も、思い返してみれば無いかもしれない。

 

「お土産……私も逆見さんとか舞ちゃんに買ってもいいんですか?」

 

「ああ。絶対喜ぶからそうしてあげなよ」

 

 やっぱり私って普通の女の子にはなれないのかもしれない。

 15年も生きてきて、電車にも乗った事がなければお土産を買った事もない。

 でも、隣に座っているこの人は私の事をそうやって扱ってくれるから。

 私も少しずつで良いからそうなれるよう、努力してみる。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 朔さんは「地元の小規模のやつだからなあ」なんて言っていたけれど、休日という事もあってか水族館は親子連れやカップルで賑わっていた。

 私と朔さんは、周りの人からはどんな感じに見えてるんだろう。

 

「お、大人2枚で」

 

 緊張しながらだけど、なんとかチケットをちゃんと買えた。

 朔さんは私に初めての事をさせたがる。彼が言うには、そういう積み重ねが人間を作るんだって。

 でもチケットを買えただけで「やるじゃん」と褒めるのはやり過ぎだと思う。悪い気はしないけど。

 

 順路に沿って歩く分には、人もそこまで混んでいなかった。

 薄暗い館内を、魚達が泳ぎ回る水槽や解説に目を走らせながらゆっくりと歩く。こういう施設自体に来るのが初めてだったから楽しめるか不安だったけど、知らない事が沢山あってそれだけでとても楽しい。

 

「……蟹って食べる分には美味いけど、こう見ると中々グロいよな」

 

「そ、そうですね」

 

 朔さんって結構食べる事ばかり考えてる気がするなあ、なんて思いながらちらりと彼の方を見ると何故か目が合った。

 ドキッとしてすぐ反らしてしまったけど、なんで私を見てたんだろう?

 そのまま順路を進むと、色んなクラゲを集めた部屋に行き着いた。

 

「うわ……」

 

「どうかした?」

 

「クラゲ型の妄獣、とても強かったなあ……って思い出しちゃって」

 

 魔法少女にもやっぱり得意な妄獣、そうでない妄獣がいる。

 私の場合は水に棲む生き物がベースの妄獣が苦手だ。そういう妄獣は低温にも割と強い事が多いから、私の魔法と相性が悪い。

 逆にそれ以外の物がベースなら割と五分以上には渡り合える。

 

 そんな会話をしながら、のんびりと水族館を満喫する。たまに朔さんの方を見るといつも目が合うのだけ気になるけど。私、何か変な所があるのかな。

 

 

 二人でカワウソやアザラシの水槽を眺めていると、後ろから視線を感じた。

 朔さんの方を見ながら聞こえないようなひそひそ声で話しているけど、魔法少女の私には聞こえる。

 

「あそこの彼、格好良くない?声掛けてみようよ」

「いや、でも隣に誰かいるっぽいよ」

「あ〜……妹とかじゃないの、彼女じゃないって。行き得行き得、なんかSNSとか聞けたらラッキーだし」

 

 朔さんと同年代くらいの女性二人が、どうやらナンパの相談をしているみたいだった。

 それはそうだよね。

 私が多少背伸びしたって、朔さんと釣り合わない事なんか自分が一番良く分かってる。でも、それでも。

 

 隣でラッコの水槽を眺めている朔さんの両手は、ポケットの中に突っ込まれている。

 しばらく迷った後、思い切って抱きつくように腕を組んだ。

 そのまま振り返って、こそこそ話をしていた二人にじっと視線を向ける。

 それに気付いたのか、気不味そうに彼女達は去っていった。

 

 朔さんは、私のなんだから。

 

「わ、なになに!?いきなりどうしたんだよ」

 

 驚いたように朔さんが私の方に顔を向ける。

 もう声を掛けられる事はないだろうから、別に離してもいい……んだけど。

 

「嫌……ですか?」

 

 上目遣いでそう聞くと、朔さんは困ったように笑った。

 

「お前、それは狡い聞き方だな……」

 

 私はワガママを言えるようになった。それと一緒に、ちょっとしたズルも覚えちゃった。

 勇気を出したついでに、もう一つ聞いちゃおうかな。

 

「さっきから気になってたんですけど、私の顔に何か付いてますか……?よく目が合うので」

 

「あ、いや……ちゃんと氷織が楽しめてるか、不安でさ」

 

 その少し迷っているような表情で、気付いた。

 そっか。私がちゃんと楽しんでるか不安だから、ずっと私の方を気にしてたんだ。

 朔さんが考えてるのはやっぱり私の事なんだ。

 そう思うとどうしても顔がにやけてしまって、バレたくないから俯く。

 けど、それより私が言わなくちゃいけない事は。

 

「楽しいですよ、私。今、世界の誰よりも!」

 

「それはまた、随分大きく出たな」

 

 安心したように、そう笑ってくれた。

 私はやっぱり、この人の笑ってる顔が好きなんだなあ。

 

 その内もっと色んな生き物が見られる大きな水族館に連れてってやるよ、って朔さんはそれから言ったけど。

 私は別にどこだって良かった。隣にいてくれるならそれで満足できる、と思っていた。

 

 でも。

 

 もし色々な事が上手くいかなくってお別れする事になったとしても、朔さんがどこかで笑ってくれてるならそれも良いなって。

 心の底からそう思えて、なんだか少し大人に近付けたような気がした。

 

 

 

 

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 ■月■日、午後■時■■分。 

 ■県■■市にて"顔付き(右目)"の発生を確認。

『星見』『解体』『呪墜』の魔法少女ら3名にて討伐。

 

 

 ■■月■日、午前■■時■■分。 

 ■県■■町にて"顔付き(口)"の発生を確認。

『遠雷』『輝剣』の魔法少女ら2名にて撃退、後に一桁(シングル)『笑顔』の魔法少女が討伐。

 特記事項:『輝剣』の魔法少女が上記戦闘により右腕部を欠損する重傷。生命に支障無し。

 

 

 ■■月■■日、午後■■時■■分。 

 ■県■■市にて"顔付き(両耳)"の発生を確認。

『氷雨』『解体』『花火』『泡沫』の魔法少女ら4名にて討伐。

 

 

 

 本来であれば数年に1度か2度の発生が関の山である"顔付き"が、この僅か数ヶ月で3度。

 たまたまこの程度(一人の四肢欠損)で済んでいるだけであって、妄獣と魔法少女の噛み合い方によっては死者が出てもおかしくない。それが"顔付き"だった。

 

 基本的に妄獣は人の情念から生まれる事から、その殆どが人口の多い都市部に発生する。

 ただし、それは人口の少ない地域に発生しないという事でもない。

 

 よって現在108人いる魔法少女の多くを都市部へ派遣し、実力のある序列(ランキング)が高い魔法少女を少人数で地方の守護に当たらせている。

 

 四国に至っては序列(ランキング)2位、"瞬光"の魔法少女たった1人によってその全域を守護されていた。

 

 この方法は、確かに最適解だった。

 魔法少女が、妄獣に負ける事はないという原則の下であれば。

 

 しかし"顔付き"がもし今後もその数を増やすようならば、いつか魔法少女にまた死人が出る。それもそう遠くない内に。

 逆見はそう考えていた。

 

「……本当に発生頻度が異常過ぎる」

 

 自身のデスクで資料に目を通していた逆見は、険しい表情のままそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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