【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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ただただ柊木朔とかいう奴の尊厳を破壊するだけの回です。ちょっと最近男前が過ぎるよな、と思ってバランスを取るためにやりました。趣味です。


#16「うお……貞操逆転世界だからって成人男性女装メイドカフェはちょっとキツすぎ……」

 

 

 人生において、ここまで追い詰められた事があっただろうか。

 いや、そりゃ妄獣に追い掛けられたとかそういうのは除くとして。

 

「じゃ、朔くんよろしくね」

 

 軽い口調でそう言いながら講義室から出ていこうとする夜家を無理やり引き止める。

 

「ふっ……ざけんな、マジで殺すぞテメー……!」

 

「殺すは清楚じゃないんじゃなーい? ちゃんと着てから隣の部屋に移ってね、うちのサークルの子達がメイクしてくれるから。ただメイド服着ただけのそのままの朔くんとか見たくないし」

 

 清楚じゃない。その言葉に思わず手が止まった瞬間、夜家は悠々と歩き去っていく。

 無駄に手の込んだメイド服を手に持ったまま、俺は誰もいない講義室で立ち尽くしていた。

 

 ああ、本当にどうしてこうなった。

 

 

 

 

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「大学祭、ですか?」

 

 そう氷織が小首を傾げる様子は小動物のようだった。その割にはよく食べるから、成長期ってのはやっぱ凄いもんだ。

 

「ああ、今度の土日にな。俺はちょっと夜家に手伝いで呼ばれてるから一緒に回ってやれないけど、暇なら来てみたら?」

 

 氷織が包んだ少し不格好な餃子を口の中に放り込みながら、そんな事を提案してみる。

 

「は、はい……でも知らない人が沢山いる所ってなんか落ち着かなくて。朔さんもいないんですよね」

 

「別に俺とじゃなくたっていいだろ。逆見さんとか……そうだ、あのクソガキ誘ってもいいんじゃないか」

 

 たまには俺じゃなくて他の人とも休日を過ごしてみるべきだろう。あんまりべったりでも、それはそれでよろしくない。

 

「お手伝いって、何をされるんですか?」

 

「俺も詳しく聞いてないけどあいつのサークルがなんか、お嬢様を接待? とかそんな感じのコンセプトのカフェをやるんだってさ。まあ大方、この清楚な俺を執事的なキャストとして使うつもりなんだろうけど」

 

 なんか簡単な仕事でちゃんとバイト代も出してくれるらしいし、学生生活をエンジョイするのもたまには大事だ。特に俺はサークルとか入ってないし、そういうイベントがないから渡りに船だった。

 

「執事姿かぁ……じゃあ、見に行きますね!」

 

「まあ俺は出された料理とか飲み物を客のテーブルまで運ぶだけらしいから、そんな面白い事もないだろうけどな。写真くらいは撮ってやってもいいよ」

 

 

 風俗文化研究会、とかいうやたら厳つい名前のサークルが夜家の所属しているそれだった。

 現代までの風俗、まあいわゆる衣食住の習わしとかそんなもんを研究するという建前ではあるが。

 その実態は夜家を頂点として築き上げたヤリサーである。さしずめあいつはオタサーの姫ならぬ、ヤリサーの王子様といった所か。

 

 まあ流石に大学祭でそんな大乱交パーティーみたいな真似はしないだろう。今回のカフェも上に対して「ちゃんと活動してますよ〜」というポーズ程度の物に違いない。

 

 そう、高をくくっていた。

 

 

 

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 そんな感じの氷織との会話を経て、大学祭当日。

 

 

 

 更衣室代わりの空き講義室に通された俺が、夜家から渡されたのはふりふりのメイド服であった。

 

 なんで? 

 

 何回見ても、執事でも何でもないフリルのついたふわふわのメイド服であった。多様性の世の中ではあるが、一般的には男性より女性が着る方が適しているであろう。

 

「大して話も聞かずに安請け合いした俺も悪いけど、これは無理だわ。ごめんな、じゃあな」

 

 そう言ってそそくさと立ち去ろうとした時、夜家に肩を掴まれる。

 

「朔くんさぁ、この前サシで飲んだ時に『借りは絶対返す』って言ってたよね。だから今、返してもらおうと思ってね」

 

 確かに酒の席で酔っ払ってそんな事を口にした覚えが、まあうっすらある。

 前にあった氷織家出事件もそうだし、なんか要所要所で氷織の相談に乗ってくれてるらしいし。

 いや……言ったわ。

 

「俺、なんだかんだ氷織が何考えてるかよく分かんない時あってさ……そういう時にお前があいつの相談乗ってくれたりしてるの本当に感謝しててさ……借りは絶対返すからな……」とか言ってたわ。

 酒が入るとどうも口が軽くなりがちなんだけど、そんなくっさい台詞を吐いてしまった事をやっと思い出した。

 

「ふざけんなお前、俺はもっとシリアスな場面を想定してたんだ!」

 

「シリアスな場面って何さ、僕らただの大学生なんだから。また僕が女の子絡みでボコボコにされてたら助けてくれるの?」

 

「ああ、そりゃ勿論助けてやるよ。周りの奴ら全員ボコボコにした後でお前も念入りにボコボコにしてやる。この世の諸悪の根源はお前に決まってるからな」

 

 俺の憎悪に満ちた言葉に全く怯む様子もなく、夜家は飄々としている。

 こいつ、詳細を知られたら断られると思って色々ぼやかしてやがったな。

 

「あーあ、朔くんのそれは口先だけだったんだ。悲しいなあ、裏切られたなあ、そんなんで清楚も何もあるのかなあ。朔くんを当てにしてたから、キャストがいないと僕らのお店が回らなくなっちゃうなあ」

 

 こいつが悲しもうが裏切られたと感じようがどうでもいいが、他のサークルメンバーさん方が汗水垂らして準備したそれが破綻するのは忍びない。

 

「ぐ……」

 

 勝ち誇ったような顔で夜家は「じゃ、朔くんよろしくね」と呟いて、今に至る。

 

 

 

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 仕方無しに渡されたメイド服に着替える。

 生地の仕立ては良い、この時期でも凍えるという事はなさそうだ。恐らくそれなりの金がかかっている、あのクソボンボンが。

 ただ。

 

「スカートもこ、こんな短い……こんなのやってられるか……!」

 

 太ももが露わになるミニスカートに、これみよがしなオーバーニーソックス。なるほど夜家らしい、絶対領域で童貞というか処女狙い撃ちがコンセプトなんだろう。

 マジで2,3発殴らせてほしい、せめてタイツやストッキングならまだマシだったのに。

 

 下がすーすーして落ち着かないが、とりあえず言われた通り隣の部屋に移った。今のままだとすっぴんでミニスカメイド服を着ているだけの異常成人男性でしかない。

 

 そこにいたのは、まさしく獣の群れだった。羞恥と恥辱で否が応でも顔が火照っている俺をにやにやしながら椅子に座らせて、顔をぺたぺた触り始める。

 

 

 

「柊木くんが本当に来てくれるとは思わなかったな……」

「顔は可愛いけど肩幅とか身体はしっかり男って感じなのがこう……エロいよね」

「細いけどふくらはぎの辺りとか締まってるの良いよね……」

「良い……」

「打ち上げ誘ったらワンチャンないかな?」

 

 

 

 俺の顔を弄りながら好き放題言いやがって。全部聞こえてんだよ、クソがよ。

 夜家の取り巻き、つまりこいつらは前世で言うところのヤリサーの有象無象の男共って感じだ。

 故にこう、いつも以上にねっとりとした視線に耐えながらひたすら待つ。

 

 そのまま1時間近くに渡るメイクを終えて鏡で仕上がりを見せられた時、思わず「ええ……」と声に出してしまった。

 

 な、なかなか可愛いじゃん。

 明るい茶髪のショートボブのウィッグとたぬき顔メイクが、ちょっとキツめになりがちな俺の顔の印象を柔らかくしている。いやあ、清楚じゃん。

 

「章くん待ってるからさっきの部屋に戻ってね〜」

 

 ヤバい、これ変な扉開きそう。

 そんなアホみたいな考えをぶんぶん振り払って、夜家の待つ講義室へ足を踏み入れる。もう十分恥はかいた、詫び入れてこれ以上は勘弁してもらおう。

 

「良いんじゃない、可愛いよ? 本当に綺麗だよ、大丈夫大丈夫。素材が良いんだろうね」

 

 なんでこいつは俺を口説いてるんだ、この脳みそとちんこ直結野郎が。

 

「そりゃ清楚なお兄さんなら当然、じゃなくて……なあ、駄目か? 本当にこれじゃないと駄目か?」

 

 本当に怖いのは、恐らくこいつがずっと前から今回の事を計画していた事だ。

 だって俺それなりにガタイ良い方なのに合わせたかのような寸法なんだわ、誰かの代役とか急遽仕方なくのクオリティじゃねえし。

 高校の頃からの腐れ縁だけど、本当にこいつは俺をおちょくる事にかけては余念がない。嫌いだ。

 

「駄目だね。僕はねぇ、面白い事の為なら手間も金も惜しまないんだ」

 

 そう腕を組む夜家は仕上がっていた。

 どこかクラシカルな雰囲気を感じるロングスカートのメイド服にいつもの金髪とは違う黒髪ロングのウィッグを着け、お屋敷の清楚なメイドさんといった感じだ。

 俺のイメプでしか使わなさそうな実用性の終わっているメイド服と違って、ちゃんと紅茶とか入れてくれそう。

 

「俺もそっちがいい! 交換しろ! 大体なんでお前そんな仕上げてんだよ、絶対常習犯だろ!」

 

「女の子の格好してヤるとさ、相手もなんか興奮するし倒錯的で僕もつい盛り上がっちゃってさあ」

 

「誰がお前の拗らせた性事情を語れっつったんだよ」

 

 まあまあ、と夜家が宥めるように俺の肩を叩く。

 気安く触るな、アホが。

 

「僕は普段奔放って思われて、朔くんは清楚だと周りには思われてるでしょ? ギャップだよギャップ、それが需要を生むんだから。だから僕が今日は清楚で、朔くんにはこう、ちょっと……煽情的な? そんな感じでよろしく」

 

 何が煽情的だ、露骨なエロ売りをそれっぽく言っただけだろうが。

 怒りで何も言えなくなっている俺を見て、満足そうに頷きながら夜家は続けた。

 

「終わったらホテルで打ち上げでやるんだけど、朔くんもどう? 僕が前人未踏の11Pに挑む所を特等席で見られるよ」

 

「行く訳ねえだろ、氷織が気絶するわ。しかもなんで俺は見るだけなんだよ、せめて混ぜろよ」

 

「え、やだよ。男の裸なんて見たくないし」

 

「俺だって見たくねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

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 内装はまあ、小規模の教室をそれっぽく飾り付けただけでチープと言えばチープ。テーブルも4,5つほどしかないから、どんどん後ろに順番待ちさせるらしい。

 夜家は「行列をあえて作る事で、更に物珍しさでやってくる客を呼ぶんだよね」なんて事を言っていた。普通に大迷惑だろ。

 

 メニューはシンプルに2つ。

 

 

 萌え萌えオムライス。冷凍食品のそれに、俺と夜家がケチャップで文字を書いて萌え萌えだのなんだの言うやつ。2000円。

 

 あとメイドさんとのツーショットチェキ付きブルーソーダ。1500円。

 ぼったくり過ぎだろ、どう考えても。しかも手抜きだし。

 

 

 運営側も流石に苦言を呈したろ、と聞いたら「実行委員ちゃんとか偉い人とも寝たから」との事だった。

 この世界に誇りとか倫理というものは存在しない。

 

 しかし男には腹を括らなければならない時がある。

 まさかそれがミニスカメイド女装で接客しなければならない時だとは思わなかったが。

 

「お、おかえりなさいませお嬢様……!」

 

「朔くん顔が引き攣ってるよー」

 

 目を獣のように光らせている麗しき女性の皆様方との、戦いとも呼べる1日の始まりだった。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 数時間が経つ頃には、無の境地だった。

 

 今の俺は全自動萌え萌えオムライスマシーンであり、チェキの被写体に過ぎない。

 なんか一人でチェキを10枚撮ってソーダをガブ飲みしていたストーカーじみたヤバい客やら、性欲を抑え切れなくなったのかいきなり抱きついて舌をねじ込もうとしてきた頭おかしい客が警備員にしょっぴかれていくやらで、俺の心はヤスリがけされていた。

 

 

 1つ気に食わない事があるとすれば、奥の方に"予約席"と札の置かれたテーブルがある事だ。

 ただでさえ俺達をじろじろと舐め回すように見て全然食べも飲みもしない女性達ばかりで回転率が終わっているというのに、席を遊ばせておくな。

 予約がなんだ、並ばせておけ。

 

 そんな若干経営者目線で見始めるくらいには慣れてきた、その矢先の事だった。

 さっきまでテーブルに座る女の子達ときゃっきゃしながらチェキを撮っていた夜家が、のこのこと近付いてくる。

 

「朔くん、そういえばなんだけど。良いお知らせがあるよ」

 

「な、何かな?」

 

 もう正直こいつの顔も見たくないし喋りたくもないが、もしかしたら早抜けでもさせてくれるのかもしれない。良いお知らせって言ってるし。

 

「どうしようか迷ってたんだけどね、氷織ちゃんに『朔くん頑張ってるから絶対来てね♡』って連絡入れちゃった。てへ」

 

「……は? は、はあ!? ちょっとお前、それはマジでライン越え……ゔゔん! 君、それは本当に駄目、え、本当に? 冗談だよね? ねえ?」

 

 マジで周囲に人がいなければ顔面が陥没するまで殴っていた。

 深呼吸して「ちょっと3分だけ休憩入ります〜」と言いながら夜家を誰もいない裏の方へ引きずっていく。

 

「なあ、俺さあ。氷織には頑張って格好良い感じでやってるんだよ、そこを汲んでくれないかな。あいつの教育にもよろしくないし」

 

 キレたらこいつの思う壺だ、冷静に、冷静に。

 

「多分氷織ちゃんは朔くんの事、かっこいいとは思ってるけどそれ以上に『変な人』って思ってるだろうから大丈夫だよ」

 

「テメー何が大丈夫なんだよ、何も大丈夫じゃねえよ。え、俺って変な奴だと思われてんの?」

 

 色んな意味でかなりショックがでかいが、まだ巻き返せる。

 大体今このメイドカフェは順番待ちで長蛇の列だし、のこのこと氷織が来た所で座れる事はまずない。

 ざまあみろ、一応飲食の癖にこんな終わった回転率してるからだ。

 

 

 さて、萌え萌えしに行くかとまた混み合っている店内に戻った時。

 順番待ちの列の後方から、ざわざわとしたどよめきが聞こえる。

 

「あれ……グレンフレアちゃんじゃない!?」

「え、あの魔法少女の!? あたしファンなんだけど! じゃ隣の子も魔法少女なのかな!?」

 

 聞き覚えのある名前に、どっと冷や汗が出てくる。

 いや、今から最後尾なら終わりまで入れないはず……! 

 

「ええと、あれが章くんが言ってた白髪と赤っぽい髪の女の子二人かな……御予約のお客様入りまーす!」

 

 ……は? 

 めちゃくちゃ既視感のある様相の二人組が「予約なんかしてたっけ?」「ううん」なんてやり取りと共に"予約席"の札が置いてあるテーブルに通された。

 満面の笑みと悪意を浮かべた夜家が、俺の耳元で囁く。

 

「朔くん、あの席はね。僕が一番面白がる為に、僕が僕の為に予約した席なんだぁ」

 

「夜家お前……お前……!」

 

 きょろきょろと辺りを見回していた氷織と目が合った。

 理解が追い付かないといったような表情で、口をぽっかり開けている。

 

 誰か俺を殺してくれ。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 俺の威厳は地に落ちた。

 朝に爽やかな笑みを浮かべて出かけていった清楚なお兄さんは、今となっては変態女装癖メイドくらいに思われている事だろう。

 

「……っ、く、ふ、私、こ、この……『萌え萌えオムライス』1つね。ちゃんと萌え萌え言うのやりなさいよ」

 

 今にも爆笑しそうなのを噛み殺しながら、そんなオーダーをしてくるのは今をときめく"花火"の魔法少女様だった。

 クソガキが、マジで泣かすぞ、クソガキが。

 心の中で一句詠まなければ本当に暴れ出す所だった。

 

「えっと、私も同じ物と……この『メイドさんとのツーショットチェキ付きブルーソーダ』を1つください」

 

 氷織さん? 

 

 マジで勘弁してくれ、こんなもん写真で残された日には本当に腹を切るしかない。

 

「……そちら、売り切れでして」

 

 嘘を吐くのは清楚なお兄さんのする事ではないが、背に腹は代えられない。

「そうですか……」と残念そうに氷織が呟くが、全く良心の呵責が湧かない。もう最悪萌え萌えは俺の酒癖の悪さを戒めるものとして受け入れよう。

 逃げ切れる、そう思った矢先の事だった。

 

 そんなやり取りを後ろで聞いていたのか、近付いてきた夜家(バカ)が「チェキもめちゃくちゃやってまーす」とにこやかに伝えて、去っていった。

 あいつはもう一族郎党皆殺しにするとして。

 クソガキに至ってはもう耐えられなくなったのか、机に突っ伏して小刻みに痙攣している。

 

「嘘つき」

 

 じっとりとした目を向ける氷織に、他の客に聞こえないような小声で懇願した。

 

「写真くらいならいつでも撮ってやるから、な? 氷織は良い子だよな?」

 

 もうほぼほぼ命乞いだったが、形振り構ってられない。

 

「でも、その服を着た朔さんと写真が撮れるのは今日だけですよね」

 

 なんて澄んだ目をしているんだ。清らかな川の流れを思わせるそれに、俺は押し黙るしかなかった。

 

 

 そこからの記憶は俺にはない。

 ただ萌え萌えと、チェキと、どう考えても見合っていない報酬の現金だけがあった。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「えっと……可愛かったですよ?」

 

「何のフォローにもなってねえよ……」

 

 大学祭1日目を終えて屍のようになりながらようやく帰り着いた俺は、夕飯を食った後でワークを進めている氷織に林檎を剥いていた。

 さぞ大学祭をエンジョイした事だろう、遊んだならちゃんと勉強もしてもらう。

 

「その、実は今日撮ってもらった写真の事で悩んでて」

 

 そりゃそうだ。衝動的に撮ったはいいものの、あんなの処分にも置き場にも困るだろうし。

 

「そうか、まあどうするか困るよな。いらなきゃ俺がちゃんと処分──」

 

 何故か氷織は正座すると、緊張しているのかように咳払いをした。

 

「私達、最初の方に『朔さんのお願いを聞いたら、私のお願いも聞いてくれる』って話をしましたよね」

 

 俺の所で飯を食う代わりに、名前で呼んでほしいとかいう今考えたら俺に全くメリットのない取引の事だろう。

 あれから随分経ったように思える。あの頃に比べたら、氷織は本当にはっきりと喋るようになったし表情もいきいきとしていた。

 俺のやってきた事は、無駄ではなかったんだろう。珍しく、そんな感慨深い気持ちになる。

 

「それと同じっていうか……ちゅ、ちゅーしてくれるなら、これ朔さんにあげてもいいですよ?」

 

 そう言いながら今日撮ったチェキを突き出している。

 本当に、こいつは。

 

「……はあ、分かった。目を閉じろ」

 

「え、嘘、え、本当に……? は、はい!」

 

 へったくそなキス待ち顔の氷織の頬に、撫でるように手を添える。

 そして渾身のデコピンを叩き込んだ。

 

「──っ、いったあ!?」

 

「お前なあ、ワンチャン狙うにしてもそういうのはもっとさらっと言わないと『なーんちゃって、冗談です〜』にも持っていけないし地獄だぞ。あーあ、いつの間にかこんなエロガキになっちゃって」

 

 顔と額を真っ赤にして俯きながらぷるぷると震えていた氷織は顔を上げると、きっと俺を睨んだ。

 

「もういいです! この写真は引き伸ばしてお部屋の壁に貼ります!」

 

「おい! 流石に嫌がらせが過ぎるだろ!」

 

 

 そんな経緯で、氷織の部屋には俺の生き恥(メイドチェキ)が飾ってある。

 流石に引き伸ばすのは勘弁してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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