【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#17「幸せって甘い毒のようで」

 

 

 

 魔法少女の中には、妄獣を討伐する様子を配信する者もいる。

 さながら古代の闘技場(コロセウム)のようにそれ自体がエンターテインメントであり。

 人々を脅かす妄獣を魔法少女が可憐な魔法で打ち倒す様は、彼女達の権威を底上げする事に繋がっているため黙認、寧ろ推奨されている。

 

 

 ただ、"顔付き"に関してはそれが許可されていない。

 その理由は至ってシンプルだ。

 

 魔法少女は敗北してはならない。

 

 正確に言えば、敗北する所を晒してはならない。

 彼女達は人類の剣であり、平穏の象徴である。

 

 それが斃れるという事で世間に対して与えてしまう不安感、齎されるパニックは計り知れない。

 その影響は下手をすれば、魔法少女自身の人命や建造物が失われる事よりも遥かに深刻だ。

 故に妄獣討伐の際に発生した魔法少女の犠牲者は、事故死や病死として処理される。妄獣が人の情念から生み出される事を考えても、無用なリスクは避けるべきだろう。

 

 

 そして過去、魔法少女が討伐に失敗して死亡したケースはすべて"顔付き"である。

 

 

 "顔付き"には最低3人で討伐に当たるのがセオリーで、2人は緊急時、1人で挑むのは自殺志願のようなものとされている。

 通常の妄獣と違い"顔付き"にはそれぞれ固有の能力があり、再生力や単純な膂力も通常の物より大きく強化されている事が多い。

 

 ただ、通常の妄獣が下位の魔法少女1人でも十分倒せる事。

 個体数が少ないが故に、その危険度を正しく認識できている魔法少女が少ない事。

 そして何よりも年頃の魔法少女によく見られる根拠のない自信や全能感から、そのセオリーが守られる事は思っている以上に少ない。

 

 "顔付き"の中でも稀に鼻と目など2つ以上のパーツが同時に付いている個体が存在するが、揃えば揃うほどその危険度も比例して増す。

 顔に付くパーツに法則性はないが、その中でも特に警戒しなければならないのは”目"と"口"だとされている。

 諸説あるが、その2つが人間の悪意を最も顕著に映すからではと言われている。

 

 

 特に"口"が付いた妄獣の中には人語を話す個体が存在し、対応した魔法少女への悪影響も否めない。

 一部を除いて公開されていないが、魔法少女と"顔付き"が会話している音声記録も残っている。

 

 

 ────貴方達は、何なんですか? 普通の妄獣と何が違うって言うんですか? 答えてよ……! 

 

 ────お前達から生まれたんだ。それ(人間)に近付けば近付くほど強くなるのは当然だろう? 

 

 

 この音声記録は当該魔法少女が音声上の"顔付き"に殺害されたため、他の魔法少女の精神的な負担を考慮して非公開となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 誰もいない住宅街で暴れ回る妄獣を、私と舞ちゃんは建物の上から見下ろしていた。

 

「そろそろやろっか。ひーちゃんは準備出来てる?」

 

「うん……でも"口"が付いてるから。あと1人か2人、来るまで待ちたいなあって」

 

 巨大な蛙のような妄獣には、頬の辺りまで大きく裂けたような"口"が付いていた。最近多いなあ、顔付き。

 

 "口"が付いた妄獣と戦って、かぐや先輩……"輝剣"の魔法少女ヴルムロンドは右腕を食べられちゃったらしい。私達は遠距離から攻撃できるから、ちゃんと用心していればそんな事にはならないと思うけれど。

 

「けどこれ以上待ってたら、この辺更地になっちゃうよ」

 

 舞ちゃんの言う通りではあった。

 その巨体と長く伸びた舌を活かして、住宅地に現れたその妄獣は民家を破壊して回っている。

 

「大丈夫だよ、私達って魔法少女の中でも上の方なんだから。ひーちゃんも順位かなり上がったんでしょ?」

 

「うん、35位……でも舞ちゃんの方が序列(ランキング)高いよ」

 

「私は配信とかドラマとか、色々出てるし。討伐だけ、しかもこの短期間でここまで順位を上げるのは本当に凄い事なんだってうちの担当も言ってたよ」

 

 序列(ランキング)がどのようにして決められているかは、実を言うと公開されている訳じゃなくて。

 強い妄獣や沢山の数を倒したり、客観的な実力の評価、世間からの認知度なんかも影響してるって言われている。

 

 そんな中でも一桁(シングル)の人達は別格だ。

 四国を1人で守っている2位の”瞬光"さんや、妄獣を倒す事に特化した7位の”笑顔"さんみたいな他の魔法少女とは一線を画している子じゃないと一桁(シングル)には入れない。

 

 でも。

 

 そうでもない二桁の私達にとって順位はあまり関係ない。逆見さんも「別に序列(ランキング)が低くとも、氷織みたいに表に出る事を好まないだけの実力者はいるしな。逆もまた……然りだ」なんて言ってたし。

 私も舞ちゃんも、弱い訳じゃないけど少し不安だな。

 

「早く終わらせて、ちょっとお茶して帰ろう……ね!」

 

 そう言いながら舞ちゃんが妄獣目掛けて飛び降りる。

 

「──『牡丹(ダリヤ)』!」

 

 彼女の手から打ち出された丸い光弾が妄獣の背中に命中した瞬間、それは大輪の花のように弾けた。

 

 苦悶の声を上げながら、妄獣が舞ちゃんを視認する。ヘドロを焼いたような、何とも言えない嫌な臭いが辺りに立ち込めた。

 

「──『凍磔(カルラ)』」

 

 雨のように降り注ぐ氷でできた槍が、その身体を磔にした。

 今まではそんな贅沢な使い方をしていたらすぐ魔力切れになっちゃっていたけど、最近の私は物量で押せるくらい魔力に満ちている。

 

「完封〜、じゃ最後は火力で吹っ飛ばしておしまいだね」

 

 左手に魔力を込めながら、舞ちゃんがゆっくりと妄獣へと近付いてゆく。

 

 蛙のような妄獣は、最後の抵抗と言わんばかりにその口から痰とも唾とも言えないような分泌物を吐き出した。

 当然舞ちゃんもさっと避けたけど。

 

「うわっ、汚なっ!? ムカつく、一発で頭吹き飛ばしちゃうから」

 

 舞ちゃんには当たらなかったけど、近くに落ちたその塊から流れた汁が彼女の影に触れた瞬間。

 

「……あれ? う、動けないんだけど」

 

 舞ちゃんが、まるで足を釘付けにされたみたいにその場から離れられなくなった。"顔付き"は固有の能力を持つ。

 

 

 この妄獣の分泌物に影でも触れてしまうと……動きを制限される? 

 

 

 その瞬間、死に体だと思っていた妄獣が突然大きく跳躍した。氷槍に自分の身が引き裂かれるのも構わず大口を開けて、立ち尽くしたままの舞ちゃんへ向かって。

 

「え、嘘、やだ、やだ……やだやだやだ! 動いて、動いてよ!」

 

 顔を引き攣らせながら、舞ちゃんが必死に逃げようと藻掻く。このままだと右腕どころか全身食べられちゃう。

 不味いけど、空中で斬り飛ばせば十分間に合う。

 

「──『氷華の剣(グレイシオ)』」

 

 地面に刺さったままの何本もの氷槍を再構成して、一振りの巨大な剣を作り出して振り抜く。タイミングもジャスト、完璧だった。

 

 

 けれど、妄獣の胴を両断するはずだったその刃は。

 

 その身体から多量に分泌された粘液でぬるりと滑った。

 

 

「─────っ!」

 

 瞬時に靴裏を凍らせ、スケートの要領で加速する。

 

 氷で作った手甲とブーツ状のアーマーを纏い、自身の身体をつっかえ棒のようにする事で閉じられるのを間一髪で防いだ。

 けれどみしみしと背骨が音を立てている、気を一瞬でも抜けば多分潰される。

 そうなれば私と舞ちゃんはまとめて噛み千切られて、おしまいだ。治す前に飲み込まれるか、そもそも出血で死ぬ……! 

 

「舞ちゃん……! 一番強い魔法で吹っ飛ばして、早く……!」

 

「や、無理、駄目駄目駄目、ひーちゃん巻き込んじゃう!」

 

 パニックからか涙声でそう叫びながら首を振る舞ちゃんに、

 

「良いから早く、私は大丈夫! それより、もう持たない……から!」

 

 魔法少女は自分の魔法の影響を受けない。

 私が寒さで凍えないのと同じように、舞ちゃんも自分が起こした爆発で傷付く事はない。

 

 ただそれはあくまで自分の魔法だからであって、他者の魔法はまた別。

 つまり、舞ちゃんが魔法を使えば私もそれに巻き込まれる。でもこのままじゃ二人とも死ぬ。

 手甲が音を立てて割れ始めた。

 

「早く!!」

 

「あ、ひーちゃん、ゆ、許して──『大団円(スターマイン)』!」

 

 瞬間的に数千もの色彩に満ちた爆発が、妄獣の口内で炸裂した。

 それに合わせて自分の身体を何重もの氷で形成した殻で覆い、頭を両手で庇う。

 

 

 

 目の眩むような閃光と巨大な破裂音。

 

 

 

 次の瞬間には強烈な勢いで地面に投げ出されていた。

 四散した妄獣の肉片が頬にべちゃりと張り付く。数瞬置いて、全身を痛みが襲い始める。霞んでよく見えないけど、頭を庇った両腕は多分折れていた。

 

 熱や直接の爆風はある程度防げても、音と衝撃までは止められない。

 

 酷い耳鳴りだけが頭の中を満たして、思わず吐いてしまう。

 鼓膜が破れてるのかな。

 

 舞ちゃんが何か言いながら近寄ってくるけど、全然聞こえないや。

 痛みと吐き気に耐え切れず、ふっと意識を手放した。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 目が覚めたのは、魔法少女御用達の病院のベッドの上だった。

 身体を起こすと、すぐ横で逆見さんがこっくりこっくりと船を漕いでいた。ちょんちょんと肩に触れると、びっくりしたように飛び起きる。

 

「えっと、おはようございます」

 

「ん、氷織……? 起きたか、良かった……!」

 

 両方の鼓膜が破裂してたとか、頭をぶつけた時に脳にダメージがあったとか言われたけど難しくてよく分からなかった。

 

「医者が言うには、魔法少女でもここまでの回復速度は驚異的だそうだ。一般的な魔法少女なら数週間は治癒に時間がかかるらしい。魔力量の多さに救われたね、だそうだ」

 

 それは……まあ毎日、指折り数えて早く大人になりたいって思ってるし。

 朔さんと……まあ、こう、色々と……したいとも思ってるし。我慢してるけど。

 

 でも、そんな邪な考えがなくたって。毎日楽しいし、学校にも行ってみようかなと思えたし。空っぽの私にあの人は色々な物を注いでくれる。

 

 だから朔さんに助けてもらったようなものなのかな、と思うとちょっとだけ嬉しい。

 

「あ、逆見さん。どれくらい私眠ってました?」

 

「2日だ」

 

 思わず飲んでいた水を吹き出してしまう。

 

「2日も!? 急いで帰らなきゃ」

 

「待て待て待て、もう少し経過観察を……はあ、分かった。帰ってもいいから、グレンフレアのケアをしてやってくれ。相当気に病んでいるからな」

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な廊下を進んで、談話室の扉をノックして入る。中には泣き腫らしたのか、目を真っ赤にした舞ちゃんがぼんやりと宙を見つめていた。

 

「舞ちゃん、怪我はない?」

 

 そう声を掛けると、私の方を見て彼女はまた泣き出してしまった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……私がちゃんと待たずに『やろう』って言ったから……」

 

「大丈夫、私は20歳まで絶対死なないもん。舞ちゃんの事、守れてよかった」

 

 酷な事をさせてしまったと思う。私だって逆の立場だったら死ぬほど辛い。死ぬかもしれないのに、舞ちゃんを巻き込んで魔法なんか使いたくない。

 世間の皆さんが思ってるほど、魔法少女も楽じゃないのだ。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 お医者さんは「経過を見る為にもう数日」と言っていたけど、無理を言って退院させてもらった。とにかく、早く朔さんに会いたかったから。

 でもアパートに帰った時にはもう日付を跨いでいて。

 

 流石に朔さんももう寝ちゃってるだろうし、こんな事なら言う事聞いてもう1日くらいは病院で休んだ方が良かったかな。

 そんな事を考えながら扉に鍵を差し込む。油をちゃんと差していないからか、いつも軋んだうるさい音がする。

 

 次の瞬間、隣の部屋の扉が勢い良く開いた。

 

「わっ!?」

 

「お前、2日もどうしてたんだ!? 逆見さんに聞いても『仕事だ』しか言わないし、心配したんだから連絡くらいくれよ……」

 

 あ、忘れてた。病院からでも電話すれば良かったんだ。

 朔さんは大きな溜息を1つ吐いた後、安心したように微笑んだ。

 

「……なんか食べるか? 晩の残りしかないけど」

 

「えっと、はい」

 

 いつものように朔さんの部屋にお邪魔して、定位置になっているクッションに腰を下ろす。

 何を食べたんだろう、と思ったら茹でたうどんに葱を散らしただけだった。普段はおかずも沢山作るのに、忙しかったのかな。

 私がそう思っている事に気付いたのか、朔さんは困ったように頭を掻いた。

 

「氷織がいないと、どうも手を抜いちゃってさ。腹もなんか減らないし」

 

「ちゃんと食べないと駄目ですよ」

 

「お前も飯いらない時は連絡くらいしろよ、昨日も勿体無いから夜家呼んで食わせてやる羽目になったんだから」

 

 うどんの入ったお椀を取ろうとした時、手が滑ってこぼしてしまった。汁が床に落ちる前に急いで布巾を探す。

 

「あ、わわ! ごめんなさい」

 

「大丈夫かよ、火傷してないか……なあ、それ」

 

 なんだろう、と朔さんが指差すまま布巾を持った自分の手を見たら。

 

 がくがくと震えていた。

 

 ああ、私。今、とても怖いんだ。

 

 中学生の頃にお腹を斬られた時も、死んでもおかしくなかったのに。

 どうして今はこんなにあの時より怖いんだろう。

 

 朔さんは私の前に座り込むと、ゆっくりと諭すように話し始めた。

 

「なあ、氷織。お前が何も言いたくないなら聞かない。でも俺はお前が……辛いなら辞めたっていいんじゃないかと思う」

 

 何とは言ってないけど、きっと魔法少女の事なんだろうな。

 言えないなあ。

 戦いたくない、戦えないってなっちゃった子は……やめよう。

 

「ううん、私はやれる事をやります。私が逃げて、他の誰かがそれで死んじゃうのも嫌だから。こう見えても、魔法少女の中じゃそれなりに強くなったんですよ?」

 

 毎日朔さんのご飯を食べてるからかなあ、なんて言いながら力こぶを作ってみせる。

 それでも朔さんは不満そうに黙り込んでしまったままだから。

 

「私は、私を産んでくれたお母さんお父さんの大事な人にはなれなかったけど。でも魔法少女になれたから、誰かの大事な人を守れます。それはとても嬉しい事です」

 

 それは清楚だな、なんて言ってもらえると思ったのに。

 

「……そんな寂しい事、言うなよ」

 

 朔さんは、絞り出すようにそう呟いた。

 

「震えが止まるまででいいので、手を握っててくれませんか。明日にはまた、強い魔法少女の私に戻ってますから」

 

 何か言いたげな顔をしながらも、手を差し出してくれた。

 朔さんの手は温かくて、大きくて、ごつごつとしていて、生きているって感じがする。

 

 この手も、私の手も冷たくなる事がないように。

 

 私はあと4年と少し、魔法少女として生きなければいけない。

 

 

 

 痛いのも、苦しいのも、嫌だけどちっとも怖くない。

 でも朔さんと二度とご飯が食べられなくなるのかも、と思うと怖くてたまらなくなった。

 

 知らなければこんな気持ちにならなかったのかな。

 幸せって、なんだか甘い毒みたいだ。そんな事をぼんやりと考えた。

 

 

 

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