【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#18「大嫌いを大好きに」

 

 

 好きな物も嫌いな物も大してない人生だったけど、クリスマスが近付くこの時期だけは苦手だった。

……少し嘘を吐いちゃった。

 

 苦手、というよりは大嫌いだった。

 

 街を歩くと親子連れだったりカップルだったり、皆誰かと一緒にいるから。

 魔法の影響で私は寒く感じるはずがないのに、それを見ているとなんだか心が底冷えしたように寒くなるから。

 

 

 

「このクリスマス前の時期ってどうにも憂鬱でさ」

 

 だからその数日前に朔さんがみかんの皮を剥きながらそんな事を言った時、少しドキッとした。

 

「そ、そうなんですか」

 

「もう毎年だけど、クリスマス前はず……っと玉砕覚悟みたいな顔した女の子達に四六時中付け回されるからな。断る方も気が重いんだよ」

 

 クリスマスに男の人とデート、というのは女の子にとって最上のステータスだった。

 

 私だって女の子なんだから、ぼんやりとそれに憧れがあった事もある。

 世の中には大金を積んでまで男の人をクリスマスに買う? 人もいるらしい。買うって言ったって、物じゃないのにそんな事してどうするのかな。

 

「……あの、朔さんってなんで恋人を作らなかったんですか?」

 

 こたつの上に広げていたテキストを片付けて、みかんを1つ分けてもらう。ちょっと酸っぱい。

 眠たそうにあくびをしながら朔さんはにやりと笑った。最近夜遅くまで何かしているみたいだけど、そんな事してるから寝不足なんじゃないかなと思う。

 

「そりゃどっかの魔法少女が焼きもち焼いて面倒臭いからな」

 

「う……違います、私が来る前から彼女さんいなかったですよね。作ろうと思えばいつでも作れたのに」

 

 そもそも朔さんにそういう人がいれば、私も最初からこんなにもやもやせずに済んだのに。すんなり諦められたのに。

 

「清楚なお兄さんってのはな、高嶺の花な訳よ。でも彼女がいたら皆『そっか……』ってなっちゃうじゃん、俺はちやほやされたいだけだし。だから一人の女の子に入れ込まないようにしてんの」

 

「……ふーん」

 

 でも、私はいいんだ? 

 特別扱いされていると考えているか、それともそもそも女としてカウントされていないのか。

 

 腹が立つから特別扱いされている、という事にしておいた。

 

 

 

 私にサンタさんは来ない。

 クリスマスイブの日に私は捨てられていたらしい。

 だから私の誕生日は便宜上その日という事になっている。

 

 逆見さんや舞ちゃん達はおめでとうと言ってくれるけど、私はその日が好きじゃない。

 口では「魔法少女で良かった」なんて強がっても、私は『いらない子』だったんだって嫌でも思い出してしまうから。

 

 でも皆はクリスマスプレゼントを、サンタさんを、イルミネーションを、大切な人と過ごす特別な時間を心待ちにしている。

 

 それに水を差すのは嫌だ。だから毎年、愛想笑いでやり過ごす。

 

 そんなお祝いの日なんだもの、朔さんだって夜家さんみたいな友達と遊んだりバイトで荒稼ぎしたりするんだと思う。

 この時期になるとよくサンタさんのコスプレをした男の人が街で呼び込みをしたり客引きをしたりしてるけど、とてもいいお金になるとか。

 朔さんは男の人なのに何故か毎月お財布がかつかつらしいから、その可能性も十分ある。

 

 それか、その……日頃のお礼とかそんな事にかこつけて大学の人に誘われて、ご飯とか行っちゃうのかもしれない。

 私みたいな子供じゃ想像もできないお洒落なお店で、綺麗なお酒なんか飲んだりして良い雰囲気でお話したりするのかもしれない。

 

 嫌だなあ。

 何がって、それを嫌だと思う自分が一番嫌だ。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 予想に反して、朔さんはクリスマスイブにも関わらず一日中家にいたらしい。

 なんでもレポートの〆切がヤバい、だとかなんとか。ますます毎晩一体何をしているのかと思ってしまう。

 期限に余裕を持って終わらせるのが清楚なんだよな、とかいつも言ってるのに。

 

 まあ私もいつもと変わらずお昼は勉強して、妄獣が出たらそれを討伐して。"顔付き"でさえなければ、終わらせるのにそんなに時間は掛からないし怪我もしない。

 どちらかと言えば、今はそれよりも英単語が全然覚えられなくて困っている。数学も全然分かんないし「こんなの本当に社会に出て必要なんですか!?」と不満を言ったら「子供かよ」って朔さんにげらげら笑われたし。

 

 朔さんは季節のイベントに合わせた料理をよく作る。

 十五夜にはお団子を作ったり、ハロウィンの時にはかぼちゃのパイを焼いてくれたり。

 だからクリスマスもきっとケーキなんか焼いてるんじゃないかな、と少し楽しみにしながら夜に朔さんの部屋を訪ねた。

 

 彼はいつもと変わらない調子で小説を読んでいて、視線だけ私に向けた。

 

「お疲れ。今日はどんな感じだった?」

 

「妄獣を2頭倒しました。あと因数分解ってなんで分解しなきゃいけないんですか、足し算とか掛け算は実生活で使いますけど因数分解ってどこで使うんですか!」

 

 私の言葉にけらけらと笑いながら、朔さんはまた小説に目を落とした。

 

「天下の魔法少女様にかかれば妄獣も因数分解以下か」

 

 私だって子供じゃないんだから、こんなのただの屁理屈だと分かってる。分かってはいるけど、自分の思う通りに上手くいかないのは何とも悔しい。

 そこまで考えた後、朔さんが最初の頃に言っていた「人生には思い通りにならない事が少しあるくらいの方が面白い」って言葉を思い出す。

 実際直面して思ったけど、全っ然面白くない。

 

 面白くないけど、朔さんが頭の良い方が清楚だって思うなら私は頑張るしかないのだ。

 顔はかっこいいし性格も優しいけど、なんでこんな変な人好きになっちゃったんだろうなあ。

 

 栞を挟んで本を閉じると、朔さんは徐に立ち上がって伸びをした。どんなご馳走が出てくるのかな、と座ってわくわくしていると朔さんはキッチンではなくクローゼットを開けて何かを取り出す。

 

「じゃ、飯の前にこれやるよ」

 

 そうラッピングされた包みを渡された。中からは布が擦れるような音がして、持ってみると軽い。

 

「……?」

 

「逆見さんに聞いたんだ。誕生日、今日なんだろ? おめでとう」

 

「……え、えっと、ありがとうございます」

 

 なんだか頭がぼーっとして、上手く飲み込めない。

 プレゼント。誕生日。朔さんから。

 

「あ、開けてみていいですか?」

 

「どうぞ、お気に召すかは分からないけどな」

 

 中に入っていたのはマフラーだった。

 私はあんまり寒いと感じる事がないからこの季節でも薄着な事が多いけど、それを寒そうだと思ったのかな。ブランドを書いたタグも何も付いてないけど、どこの品物なんだろう。

 

「手編みのマフラーって重いを通り越してキモい気はしたんだけどな。魔法少女に金で買える物あげても仕方ないと思ってさ、ここんとこずっと夜なべだよ」

 

 まあいらなきゃ使わなくていいと言って苦笑いしながら、朔さんはまたあくびをした。

 そっか、だから最近ずっと眠そうだったんだ。

 毎日毎晩、私のために時間を使って。

 

 急いで首にそれを巻こうとする。そうでもしないと、もしこれが夢だったりしたら困るから。1回も着けずに終わるなんて、そんなの。

 でもマフラーなんて今まで着けた事がないから、どうすればいいか分からなくて焦ってぐるぐる巻きにしてしまった。

 

「部屋の中で巻いてどうするんだよ……ああもう貸せ。こうして、こうだよ」

 

 朔さんはそう言いながらしゃがみ込んで、軽く巻いてくれた。寒くなんかなかったのにとても暖かい。

 

「鏡、鏡ありますか」

 

 洗面所を借りて鏡を見る。

 グレーとパステルブルーの2色で編まれたそれは、確かに私だけの物だった。誰でもない、私のための、私だけの。

 すぐに部屋に戻って朔さんの前でくるりと回ってみせる。

 

「えへへ、似合ってますか? ……あれ」

 

 何故か自分でも分からないまま涙がこぼれていた。嫌だな、全然そんな事ないのに悲しんでると思われちゃう。

 

「ちょ、なんで泣くんだよ!? いや違うんだよ、金はないけど本当にケチった訳じゃなくてさあ」

 

「ちが、私も違うんです、嬉しいのに、あれ、変なの」

 

 

 

 

 

 

 

 何とか泣き止むと、朔さんは安心したようにほっと息を吐いている。

 また困らせちゃったな。

 

 そろそろご飯なんだろうけどマフラーを外したくないな、と座る訳でもなく立っていると何を思ったのか、彼は私の頭の近くに測るように手を置いた。

 

「どうかしました?」

 

「いや、最初会った時より背が伸びたと思ってさ。飯も気使ってるからな、良かった良かった」

 

 身体測定した訳じゃないけど、確かに少し朔さんを見上げる角度が緩やかになったかもしれない。

 16歳。20歳の朔さんにちょっとだけ近付いた。

 また何ヶ月後かには同じ分だけ離されちゃうけど、今はもう少しだけ背伸びしてみる。

 

「あの、せっかくこんな良い物貰ったので。どこかにお出かけとか、したいな……なんて」

 

 語尾がか細過ぎてちゃんと聞こえてたかどうか分からない。流石にがっつき過ぎたかな。ノット清楚って言われたらどうしよう。

 

「お前、本当にさ……仕方ないな。着替えるから部屋でちょっと待ってろ」

 

 オッケー清楚だったらしい。

 この人はおかしいのでちょくちょく私の言う事に対して「いや、それはノット清楚だろ」「うーん、まあオッケー清楚だな」とか訳の分からない判定をしてくれる。

 

「え、その服じゃ駄目なんですか?」

 

「流石にイブの夜に連れ回して『親戚の子です』は通用しないだろ。水族館の時みたいにガラッと変えてくるからさ」

 

 それはまあ、そう。

 もし仮に朔さんが誰かと付き合ったら、いや付き合ってるって噂を立てられた時点でその人が袋叩きにされかねないくらい聖域になっているらしい。

 なんとも恐ろしい話だと思う。実態は皆さんが思うよりもずっとトンチキな人なのに。

 

「最近家事に勉強に、清楚を頑張ってるからな。ご褒美にデートくらいしてやるよ」

 

 清楚を頑張ってる、ってなに? 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 夜も遅くなるから行っても電車で数駅な、と指定されて私が選んだのはイルミネーションでライトアップされた遊歩道だった。

 どうせからかわれるんなら、もうこってこてにカップルみたいな所を選んでやるもん。

 案の定、朔さんはネオンでできたトナカイに目を細めながらにやにやとしていた。

 

「しかし『イルミネーションを見に行きたいです』とはね。俺と二人でそんなもん見に行くの、普通だったら札束積んでも無理だからな」

 

「は、払えますよ」

 

 まあ朔さんは本当に何百万の札束見せられても「いや、清楚じゃないんで」って断りそうだけど。

 やっぱり周りにはカップルが沢山いて、何となくロマンチックな雰囲気を醸し出している。こんな所まで来てからかわれているのはきっと私だけだろう。

 そう少ししょげていると。

 

「……前にお前は『大事な人にはなれなかったけど』って言ってたけどさ。俺はあのマフラーを編むのにそれなりの時間を掛けた。危うくレポートやり損ねて単位落としかけるくらいな、でも別にいい」

 

 朔さんはいつになく優しい眼差しを私に向けた。

 

「それくらい俺は氷織が大事だよ。だからあんな寂しくなる事、もう言わないでいい」

 

 そう言った彼の顔はイルミネーションの光で陰になって、どんな表情をしているのかよく見えなかった。

 

「わ、分かりましたけど単位落とすのは駄目ですよ!」

 

 落とさねえよ清楚なんだから、とか何とか訳の分からない事を言いながらイルミネーションロードを抜けた先で朔さんは笑ってこう言った。

 

「メリークリスマス。この1年が氷織にとって実りある年である事を願ってるよ」

 

 そのどことなく芝居がかった口調にくすりと笑ってしまう。

 

「お腹空きました、今日のご飯って何ですか?」

 

「そりゃお前、クリスマスって言ったら鶏だろ。ケーキもあるぞ」

 

 隣を歩く彼の手を、自分から握ってみる勇気はまだ私にはない。でも来年、再来年はできるかも。いや、寧ろ朔さんから握らせてやるんだ。

 だって、私は。

 

「ねえ、朔さん。クリスマスって楽しいんですね」

 

 私は朔さんの大事な人なんだから。

 来年のこの日が、今からもう待ち遠しい。

 

 

 

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