【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#19「熱」

 

 

「クソが……」

 

 清楚も何もない悪態を、誰にともなく吐き捨てる。

 おめでたい元旦に初っ端から風邪を引くとは思わなかった。お陰で実家に帰らない名目ができたのは良かったが、シンプルにしんどい。

 

 咳は出ないが喉の痛みにぼんやりとする頭、結構な熱が出ているに違いない。しまったな、正月だから病院も開いてないだろうし。

 

 昨日は……大晦日だから氷織と年越し蕎麦を食べて、部屋に帰した後は珍しく一人酒と洒落込んで。最近氷織が彼女のイメージする大人っぽい物にやたら興味を示すから、目の前で飲む訳にもいかなかった。

 この間なんか「煙草ってどんな味がするんですか?」とか聞いてくるし。10年早えわって話だ。

 ……とりあえず紙から加熱式に変えるか、まだそっちの方が害なさそうだし。

 

 兎にも角にも、そのままこたつで寝たのが不味かったか。

 翌朝目覚めた時には、この有様。誰かのせいにしたいが、どう考えても自分のせいでしかない。

 

 寝汗をかき過ぎて気持ち悪い。布団から何とか身体を起こすと、洗面所まで這うようにして進む。

 掛かっていたタオルを取ると、やっとの思いで上の寝間着を脱いで汗を拭く。

 身体を覆う気怠さに溜息を吐いていると、チャイムが鳴らされた。

 

「朔さん?あけましておめでとうございます……あれ、開いてる」

 

 がちゃり、とドアの開く音がした後、誰かが入ってくる気配がある。

 のこのことやってきた氷織が、ちょうど上裸で身体を拭いている俺と出くわした。

 そもそも開いてるからといって入ってくるのはどうなんだ、と声を大にして言いたいがそんな気力はない。

 俺の身体をたっぷり10秒は眺め回した後、氷織はやっと状況を理解したのか口をわなわなとさせた。

 

「うおあああああ!?見てない、何も見てないです!」

 

 およそ清楚とは言い難い叫び声を上げながら、氷織が俺の部屋を出ていく。

 

「な、なんで鍵閉めてないんですか!不用心ですよ!」

 

 扉越しにそう非難される。まあそれは俺が悪いけど。

 

「お前も勝手に入ってくるなよ……」

 

 いつもより掠れた声を、何とか振り絞るようにしてそう言い返す。

 

「……なんか声、変ですね?」

 

「いや、完璧に風邪引いたわ……まあ体調不良で弱るのもちょっと清楚な感じがするよな……」

 

「何を訳の分からない事言ってるんですか、入りますよ」

 

 そんな事を言いながらまたドアを開けようとするもんだから、喉の痛みにも構わず怒鳴る。

 

「バカ、移るからどっか行ってろ!」

 

「魔法少女は風邪を引きません!」

 

 そんな押し問答の末、普通に負けた。そもそも言い合う気力もそんなにない。魔法少女とバカは同義語なのかもしれない。

 

 

 

 

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 本当に魔法少女が風邪を引かないかどうかはともかく、とりあえずマスクを着けさせて部屋に入れた。

 実際一人で部屋に篭って治すには中々キツいレベルの気怠さで、誰かいてくれた方が安心できる。

 

「普段だったら夜家に色々買ってきてもらったりするんだけどな、流石に正月だからあいつも帰省してるし」

 

「そういえば朔さんは帰らないんですか?」

 

 実家の事を考えるとどうにも憂鬱で仕方ない。

 

「俺さあ、親と折り合い悪いんだよね」

 

 地元で虐げられていた、という訳ではない。寧ろ今以上にちやほやされていたと言ってもいい。ただどうにも居心地が悪かった。

 

「俺の住んでた所ってまあ良くも悪くも田舎でさ、なんて言うの?『男は女を立てろ』みたいなね、空気が辺りに漂ってる訳よ」

 

 そんなに広くもない町で、何とも言えない雰囲気が息苦しかった。

 幼い頃から大してよくも知らない近所のおばさん達から「将来は良いお婿さんになるね」と言われ続けるのは薄気味悪い。

 

「ずっと昔に町を魔法少女に救ってもらった事があるとかなんとかで、地域挙げて熱烈な女尊男卑だよ。つっても別に粗末に扱われる訳じゃない、どう言ったもんかな……大袈裟に言えば、丁重に扱われるけど人間としてではないな」

 

 勉強も運動も趣味すらも、男としての価値を上げるためのものでしかなかった。つまり女性の添え物。刺身のツマみたいなもん。

 

「それこそ本当に蝶よ花よって育てられてきたけど、俺個人をどうこうじゃなくて。愛玩動物とか、トロフィーって認識の方が正しいか」

 

 この社会全体がそういう構造になっているとはいえ、封建的な田舎だったり魔法少女に救ってもらった逸話がある地域では特に顕著だ。

 俺の生まれた町は運の悪い事にどちらも満たしてしまっている。

 

「俺もあいつ(夜家)もこんな性格だから、そりゃそんな地元と相性良くないよな。誰かの顔色伺って、なんてのは清楚じゃないし。夜家に至っては貞淑であれ、だぜ?無理だろ、あの異常性欲者に」

 

 まあリンチまでされたのは100%あいつの自業自得だが。

 

「今も仕送りかなり絞られてるし、さっさと音を上げて泣き付いてこいとか思ってんだろうな。ムカつくから意地でも泣きは入れないし、極力帰らないようにしてるんだわ。帰るとな……」

 

「帰ると?」

 

「お見合いさせられるんだよな」

 

「え、お見合い!?」

 

「いや、そこまで仰々しくはないけど。帰省する度に女の子を紹介されるんだよ。家柄良し器量良し経済力良し、みたいな地元の良い子ってやつ。断るのも面倒臭いよ」

 

 ただ。

 

「……苦手ではあるんだけど、親の事も嫌いにはなれなくてさ。めちゃくちゃ歪んでるとはいえ、一応は俺の幸せを願ってそういう事をしてる訳だし」

 

 何なら、心の奥底では少し申し訳無さを感じているくらいだった。

 俺がこの世界において一般的な感性の持ち主であれば、寧ろそんな地元はさぞ生きやすかっただろう。なんせにこにこしてれば全部お膳立てしてもらえるんだから。

 こんな突然変異みたいなのを産んでしまった両親は本当に気の毒だ。

 

「まあ、何だかんだ俺も親に逆らってるガキって事だよ。氷織が思ってるほど大人でも何でもない。お前も本当に俺でいいのか、ってたまに思うくらいな」

 

 好かれている事に悪い気はしない。

 ただ今の俺と氷織は本当にたまたまこうなっているだけだ。色々教えたり、相談に乗ったりはするがそれが正しいかどうかも分からない。

 俺が一緒にいる事で氷織の可能性を狭めているんじゃないか、という気すらしてくる。俺よりももっとお似合いの男がどっかにいるだろうし。

 どうも身体が弱るとなんだか考えまでおかしくなってくるな。

 

 本当の所を言うと、俺は自分の事をそんなに大した人間だとは思えない。

 ありのままの自分を愛せるなら、そんな清楚だの何だの演じる必要もないし求める必要もない。

 なんで氷織が素でしか接してない俺にこんなに懐いてるのかもよく分からない。雑だし、乱暴な物言いしかしないし。

 迷ってばかりで口も上手くない。

 

「……少し喋り過ぎたな、疲れた。氷織はなんか最近変わった事ないの?」

 

 要らない事を話してしまう前に、大人しく聞き手に回る事にする。

 

「ええと、そうですね……私、今の序列(ランキング)が35位なんですけど」

 

 確か最初に会った時は70位台だったはずだが、何がきっかけでそんなに上がったんだろうな。

 

「"13位"にならないか、って言われてて」

 

「そりゃまた一気に飛ぶな。あれって上がると良い事あるの?」

 

「正直に言うとあまりないですね。一桁(シングル)になると他の魔法少女へ干渉する事もできるらしいですけど」

 

 まあ直接はないのかもしれないが、順位が上だと他の様々な所でのアピールポイントになるのかもしれない。

 確かに俺も氷織が来る前から序列(ランキング)1位、2位くらいの名前は聞いた事があった。

 そういう知名度があればモデルや女優としての仕事、テレビ出演なんかも打診されやすくなるんだろう。

 

「逆見さんが言うには『複数人の現場での指揮系統の可視化、モチベーション維持』がどうのこうのらしいです。私にはよく分かりませんでした」

 

 なるほどね、という感じではある。

 魔法少女が共同で妄獣を狩る時、船頭多くして何とやらにならないように序列(ランキング)で指揮を執る人間を決める訳だ。

 そしてそれ以上に、このくらいのガキって順位とかそんなの好きだもんなあ。

 

「それで"13位"の話に戻るんですけど。元魔法少女が普通の人に暴力やその、酷い事をしたりする事もあるんです。まあほとんどの人はちゃんと真っ当に暮らしてますよ、もちろん」

 

 逆見さんも確かそんな感じの事を言っていた覚えがある。

 

「でも中には魔法少女だった頃みたいな贅沢が忘れられなかったり、色んな理由で悪い事をする人達もいて。20歳を越えてもまだ魔法を使える人もいますから、そういう人達は警察とかじゃ対処が難しい事もあって」

 

 妄獣と戦うには心許ないが、人を傷付けるには十分か。

 

「"13位"は、そんな人達への抑止力というか……魔法少女は当然ながら人に魔法を使っちゃいけないんですけど。"13位"だけは特例で、そういう悪い事をした人達を魔法で制圧してもいい事になってて」

 

 悪い事をすると"13位"が来るぞ、って所なんだろう。

 

「だから素行とか、そもそも悪い事をした人達をちゃんと抑えられるかというのもチェックされるんです。前の13位さんが引退しちゃったんで、次を探してるんですって」

 

 ちなみになぜ13位なのか聞くと「最初にそういう役割を任された人が13位だから」らしい。慣例とかいうか験担ぎみたいなものなのかもしれない。

 

「つまり私の素行や実力が評価されたって事ですね。これ、清楚じゃないですか?」

 

「おお、かなり清楚じゃん」

 

 氷織が評価される事は嬉しい。こいつがよく頑張っている事は、本当に一番近くでよく見ているから。

 

「……でも、氷織はさ。妄獣じゃない人間相手に魔法使ってドンパチやりたいの?」

 

「うーん、正直に言うとやりたくはないです」

 

 その答えにほっとした。

 

「それならさ、やらなくていいよ。そんな事」

 

「朔さんがそう言うなら、そうしましょうか」

 

 名誉や評価なんかよりも、綺麗なままでいて欲しいというのは俺のエゴだろうか。

 

 

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 うとうとしていたが、空腹で目が覚める。まあ食欲が無いよりはマシか。

 コンビニで買ってきてもらった物が入ったビニール袋へ手を伸ばす。

 昼飯はゼリーとかで済ますか、と考えていた時。

 何とも言えない良い香りが漂ってきた。俺が起きた音を聞き付けたのか、エプロン姿の氷織がキッチンから顔を覗かせる。

 

「あ、朔さん起きました?ご飯食べられます?」

 

「多分食えるけど……」

 

「喉が痛いって聞いたので、柔らかい雑炊を作りました」

 

 そう言いながら鍋を机の上に置く。思ったより本格的なんだけど。

 

「え、氷織が作ったの?」

 

「ふふん、私だって朔さんがいないお昼や晩はお料理の練習をしてますからね」

 

 お椀によそうと、何故か氷織はそれを自分の手で持ったままふーふーと冷まし始めた。

 

「あ、あーん」

 

 顔を赤らめながら木でできたスプーンを俺の口に近付けてくる。

 また漫画か何かで読んだんだろう。

 

「意外と俗っぽい所あるよな。あと照れるくらいならやるなよ、やるならきっちりやれ」

 

「べ、別に照れてないですけど。私はただ朔さんが自分で食べるのもしんどいかな〜って思っただけで、別にそんなやましい事とかないですし、さ、朔さんの方が自意識過剰なんじゃないですか!?」

 

 そんな事をごにょごにょ言っているのを聞くのも面倒なので、大人しく付き合ってやる事にする。

 

「ん、良いじゃん。美味いよ、もう一口くれ」

 

 最初に会った頃は火を使わせる事すら怖かったが、まさか手料理を振る舞ってもらえるようになるとは夢にも思わなかった。成長するもんだなあ。

 

「なんか、実際やってみると前行った水族館の餌やり体験みたいであんまりどきどきしないですね」

 

「お前さあ、もうちょっとマシな例えを引っ張り出せよ」

 

 

 

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 やっぱり喋り過ぎたらしい。

 疲れたのか、熱は下がるどころかどんどん上がっているような気すらしてくる。

 

「悪い氷織、なんか氷タオルで巻くとかちょっと冷やせる物持ってきてくれないか」

 

「冷やせる物……えい」

 

 氷織が俺の額に手を置いた。

 魔法の影響なのかひんやりと冷えた手が氷嚢のように巣食うような頭の熱を下げてくれる。

 

「気持ち良いですか?」

 

「ああ、だいぶ楽だわ」

 

「そうですか。良かった」

 

 朔さんが苦しいのは嫌ですから、なんて健気な事を言っている。俺だって氷織が苦しかったり痛い思いをするのは嫌なんだけどな。

 でも俺が『危ない事をやめてくれ』と言った所で、叶う事はないだろう。だってそれが氷織のアイデンティティなんだから。

 

「ねえ、朔さん。私、持って生まれた魔法が"氷雨"で良かったなあって初めて思いました。夏は涼しくていいですけど、冬は近くの人を凍えさせちゃう事もあるので」

 

 そう言いながら氷織は俺の額を撫でる。

 

「私の魔法って、こういう時の為にあったのかな……なんて」

 

 そうであってほしかった。

 人の手に負えない化け物と終わりの見えない殺し合いなんて事にじゃなく、誰かをほんの少し楽にするような。そんな些細な魔法であれば良かったのに。

 

「先、洗い物してきますね。ちゃんと寝てなきゃ駄目ですよ」

 

 そんな氷織の後ろ姿が、なんと言うか……清楚に見えたのは。

 熱に浮かされたからか、はたまた俺に焼きが回ったか。

 

 ひんやりとした感覚が消える前に、見えた眠りの糸を手繰り寄せるようにして微睡みの中に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 何かが顔をくすぐる感覚に目が覚める。

 氷織が俺の顔を覗き込んでいた。くすぐったく感じたのは、かかるように垂れ落ちた髪の毛だった。

 

 少し迷っているような、そんな数瞬の後。

 唇に、柔らかい何かが触れた。黄桃のような甘い香りがする。

 

「……私は、朔さんが良いってずっと言ってるのにな」

 

 仕方ないから、そのまま寝たふりをしていた。

 顔が心なしか熱い気がするのは、多分熱のせいだ。

 

 

 

 




私は最初バケモンみたいな精神性してた奴が、いつの間にか人間に堕とされてるのが好きで好きでですねえ!
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