【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#2「魔法少女の見た夢」

 

 

 動画やニュースでは何度か見た事があるけど、肉眼で見るのは初めてだった。

 普通の人間ではどうしようもない妄獣という異形を、華麗な魔法で打ち払う。

 

 確かにこれはファンが付くのも頷ける。強く、気高く、凛々しい。

 悔しいが、清楚だと認めざるを得ない。

 

 限界まで走ったからか、疲労に耐えかねてその場に座り込む。まあとりあえず助かった、ひとまずあの子にお礼を言わないと。そう視線を向けた瞬間。

 

 

 どさりと音を立てて、魔法少女は地面に落ちた。

 

 

 彼女は妄獣の血に塗れたまま、倒れて動かない。

 

「……え?ちょ、ちょちょちょ」

 

 およそ清楚とは言い難い声を上げながら、急いで彼女の元に走る。疲れているとかそんなしょうもない事を言ってる場合じゃない。

 そこまで高さはなかったはずだから、怪我はしてないだろうけど。

 

「君、大丈夫!?えっと救急車……!」

 

 圧倒してたように見えたけれど、どこかで傷を負わされたんだろうか。

 わたわたしながらスマホを取り出そうとする俺に、億劫そうにしながらも彼女は呟いた。

 

「あの、大丈夫です……少し休めば、良くなります、から。それより、その、服が汚れちゃいます」

 

 とりあえず意識はあるようで安心した。けど、まだこの熱帯夜の季節とはいえ血でべったりと濡れた状態で置いていけばきっと風邪を引いてしまう。

 

 本人が良いって言ってるんだから、置いてさっさと帰るべきだろう。

 明日も大学あるし、それにとにかく一刻も早く日常へ戻りたかった。

 この子がいなければ、俺が妄獣に追い付かれるのがあと少し早ければ。そんな一歩間違えていたら、で死んでいたかもしれない事を思うと今になって身体が震えてくる。

 

 ただ、しかし。

 

「え、えぇ!?」

 

 座り込んでいた少女を担ぎ上げ、おんぶの要領で背負う。

 幸いな事に彼女の身体は羽のように軽かった。これなら家くらいまで運べそうだ。

 

「少し休めば良くなるんなら、どこで休んでも変わらないでしょ」

 

 助けてもらったのに放っておくのは、清楚じゃないだろう。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 幼い頃から蝶よ花よと育てられ、大学進学を機にやっと両親の制止を振り切って家を出られた。

「せめてオートロック完備のマンションにしてくれ」とか言われたけど嫌だね、息が詰まる。

 

 家賃と利便性のバランス、そして大学の人間が居着きそうもない事を加味して選んだ古ぼけたアパートの一室が俺の寝床だった。

 

 まああんまり物々しいと、清楚なお姉さんというよりは深窓の令嬢とかそっちの方が近くなっちゃうし。

 清楚なお姉さんってのはさ、少々の庶民感もあった方がいいワケ。

 

 玄関先に少女を降ろして、大きく息を吐く。やっと自分の日常に戻って来られた気がして一気に力が抜ける。

 べったりと彼女の顔に付いていた血は、タオルで拭ってやると殆ど取れた。

 

「一部始終見てたけど、やっぱ全部返り血なんだ。良かった」

 

「……はい、ちょっと魔力切れで動けなくなっちゃっただけなので」

 

 どうやら怪我をした訳ではないらしい、ほっと胸を撫で下ろす。魔力切れというのはよく分からないが、まあ魔法少女にも色々あるんだろ。

 今までイメージは湧かなかったが、こうして身を挺してまで街を守ってくれる所を見て放っておく訳にはいかない。

 

「というかさっき会った子だよね。もしかしてあの時もあいつ(妄獣)を探してた?ごめんね、邪魔しちゃってたみたいで」

 

 きらびやかな衣装に気を取られて気付かなかったけど、バイト前に路地裏でジュースをあげたあの子だ。

 魔法少女は妄獣の発生を何となく察知できるとか聞いた事がある。

 

「え、いや、あの、その、気にしないでください」

 

 会話が途切れる。

 最初に会った時から薄々思ってたけど、この子……男性に対しての免疫云々よりコミュニケーション能力が貧弱過ぎる!

 がっついてくる女の子のあしらい方なら手慣れたものなんだけど、こういう場合はどうしたものか。

 少し作戦を練ろうとした時。ぐう、とどこからか腹の虫が鳴く音がする。

 

「もうやだ……」

 

 音の主である少女は、泣きそうな声を上げながら顔を手で覆う。

 その隙間から、陶器のような白い肌が羞恥で赤く染まるのが見えた。

 飯も食わずに俺がバイトしてる間も探してたんならそりゃ腹も減るよな。

 気まずい〜、絶対何言っても傷付けちゃうじゃん。仕方ないから精一杯素知らぬ顔を取り繕う。

 

「よく分からないけど、何か食べたらいいのかな?カップ麺くらいしかないけど」

 

「いえ、そこまでお世話になる訳には、いや、お腹も別に減ってなくって、えっと」

 

 そう手を振って断ろうとする彼女がどうにもまどろっこしくて、家の中を指差す。

 

「いいから先シャワー浴びてきなよ、流石にそのままじゃ部屋に上げられないから」

 

「え!?!?」

 

「僕の部屋を汚されても困るからね、シャンプーやら何やら中にあるものは好きに使っていいから」

 

 あわあわ言ってる彼女を強引に立ち上がらせて、バスルームに突っ込む。

 別に部屋が汚れようが掃除すればいいから構わないんだけど、血で濡れたまま身体を冷やすのは良くないだろう。

 

「あー、ちょっと待って。サイズ大きいかもしれないけど替えの服出すから」

 

「服は!服は大丈夫です!あります!はい!」

 

「そうなの?なら良いけど」

 

 さてと。

 部屋の中に戻って買い置きのカップ麺を取り出す、と言っても食べ盛りにこれだけなのも可哀想か。

 冷蔵庫の中を漁ってみれば、多少古くなった野菜といった食材は残っていた。ちゃちゃっとなんか1品作ろう。

 手早く野菜炒めを仕上げて待つ。店長に料理はそれなりに仕込まれてるから、出来は悪くないだろう。

 よく考えてみれば、部屋に女性を上げるのも料理を作るのも初めてだ。

 特定の異性を依怙贔屓するのはあんまり清楚じゃない気がするし、かと言って出会う女性皆にそうするのはもっと清楚じゃない気がするし。

 

「あ、ありがとうございました…………」

 

 少女が汚れていない制服を着て出てきたのを見て、目を丸くする。一体どこに隠してたんだろうか、と考えているのに気付いたのか彼女が口を開いた。

 

「変身解除したら、服は前の物に戻るんです」

 

「へ〜、合理的。それじゃご飯用意したから、どうぞ召し上がれ」

 

 遠慮がちに椅子に座った少女は何度も俺を見た後、根負けしたように「いただきます……」と呟いた。

 しかし身体は正直らしい。一度箸を付け始めると、勢いが止まらなくなった。

 

「美味しい?」

 

「むぐ、美味しいです」

 

 そんな凝った物を作った訳でもないが、お世辞ではなさそうだった。空を思わせる薄青色の目の奥が輝いていたから。

 魔法少女なら普段もっと良い物食べてるだろうに、けれど悪い気分はしなかった。

 しかし今まで機会に恵まれなかったが、手料理を振る舞うというのはかなり清楚なお兄さんポイントが高いんじゃないだろうか。

 

「初めて見たけど、やっぱり魔法少女って大変なんだね」

 

「い、いえ、仕事ですから。そんな、恐れ多いです」

 

 話しかける度にいちいち恥ずかしそうに目を伏せるから、何だかこっちが悪い事をしてるような気分になる。

 

「貴方は……ここに一人で住んでるんですか?」

 

「ん?そうだけど」

 

 珍しく少女の方から口を開いた。そう答えると、意を決したように彼女は続ける。

 

「わ、私が言うのもなんですけど。危ないと思います、若い男の人が見ず知らずの女を部屋に上げるなんて」

 

 責める、というよりは本当に心の底から俺の身を案じてのようだった。実際今のこの状況を知れば両親は卒倒する事だろう。

 

「まあ、そうなんだけどさ。あそこで君を放って行くのは清楚じゃないから」

 

「せ、清楚……?」

 

「何でもないよ」

 

 まあ正直言うと清楚とは何かについて考え続けた結果、自分でもよく分からなくなってる気はする。が、別にそんな事はどうだっていい。

 

「良い人……なんですね」

 

「どうだろ、結局回り回って自分の為だからね」

 

 よく分からなさそうに、彼女は目をぱちくりとさせた。

 清楚とは心に宿る。

 目指せ、なんかすれ違ったら良い匂いのしそうな清楚なお兄さん。

 

「あの……お、お願いが1つあるんですけど」

 

「お願い?僕にできる事ならいいよ、命の恩人だし」

 

 何も考えずにそう安請け合いした直後、しまったと思った。

 それこそ「えっちな事をさせてください……!」なんて言われたら面倒この上ない。普通の人間だったらまず間違いなくそんな馬鹿な事は言わないだろうが、"今世"の女子高生なんて"前世"の男子高校生と一緒だ。

 つまり失礼だが、身も蓋もない言い方をすれば猿である。常識のある猿かそうでない猿か、という話でしかない。

 それに『魔法少女』ってのが、どんな物か俺は全然よく知らない。

 

 ただ彼女は「やった……!」と小さく呟いて、本当に嬉しそうに顔を綻ばせただけだった。

 そしてそれきり、その"お願い"が何なのか口に出す事もなく。俺の方も、強いて聞く理由はなかった。

 

 

 けれどなんか、俺をちらちらと見てくる彼女の視線はどこか熱っぽい。嫌な感じだ。

 まあ今の状況って男に置き換えてみたら、歳上お清楚お姉さんの家に上がり込んでお風呂お食事まで振る舞ってもらってるってシチュエーションだもんな。

 前世の俺が同じ状況だったら、シャワー浴びながらめちゃくちゃちんちん洗ってたと思う。

 

 ふと気付く。

 

 これお願いはともかくとして、そもそも懐かれたらめちゃくちゃ面倒臭い事になるんじゃね?

 魔法少女はその数の少なさと有用性から確か政府が管理してるって話だ。

 見た目は高校生だけど、顔が可愛いだけで中身は男子中学生みたいなもんって考えたらマジで見境ないだろうし。

 そのくらいのガキって、なんなら隣の子に消しゴム拾ってもらっただけで好きになっちゃうような年頃だろ。

 ただでさえ特定の異性とべたべた懇意にするだけでもNot清楚なのに、しかもまだ酒も飲めないようなガキに捕まるのは清楚なお兄さんとして非常に不味い。

 

「……それはそれで面倒臭いな」

 

 どうしたものかとしばらく逡巡した後、窓を開けてベランダに出る。

 買い置きしてあった煙草に100円ライターで火を付け、深く吸い込んだ。肺に落とした煙から巡るニコチンが、妄獣やら魔法少女に掻き乱された心をゆっくりと鎮めてくれる。

 軽く煙を吐いて、彼女の方に目を向けた。

 間違っても他人に見せる事はない、素の俺。清楚なイメージが崩れちゃうから外じゃ間違っても吸えないが、こればかりはやめられない。

 

 イメージと全く違ったのか、目を丸くして口をぱくぱくとさせている様は少し可愛らしい。

 指を指すように、彼女へ煙草の先を向ける。

 

「勘違いさせてたら悪いから、先に言っとくけど。俺はね、ガキに興味無いから。その辺で野垂れ死にされても後味悪かっただけだし。それ食ったら帰れよ」

 

 そう言って、口元だけで笑う。目線は彼女から離さず、努めて冷酷に。豚かなんかでも見るように。少し可哀想だけど仕方ない。

 

 流石にショックを受けたのか「あ、ああ……」とか言ってるし。

 くくく、勝った。

 清楚な歳上お兄さんなんてものは幻想だと知れ、絶望しろ。

 

「悪いけど俺、明日も大学あるから。迎えに来てくれる人がいるならスマホ貸してあげるから、呼びなよ」

 

「はい……」

 

 どうせ二度と会うこともないだろうし、お互い変な夢でも見た事にすればいい。

 

 彼女は魔法少女へ、俺は再び高嶺の花へ。

 

 

 

 でも本当に彼女がスーツを着た女性に連れられて大人しく帰っていったのには少し驚いたけど。ヤらせろ、くらい言われてもおかしくなかったし。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 魔法少女と妄獣、2つの非日常に出くわしてから数日。

 講義やバイトに没頭して、ようやく身も心もいつものコンディションに戻ってきた感じがする。

 

 そしてやっと迎えた休日の朝、前日からもう死んだように眠る事に決めていた。

 なんだかんだ毎日清楚なお兄さんを演じている身としては、やっぱり休息の時間がないと身体が持たない。

 

 朝から惰眠を貪り、昼にはカップ焼きそばでも食って寝ちまえばもう言う事なしの休日である。

 ジム通いとかバイトとか、生産的な事は平日に済ませるのが無理のない清楚なお兄さん生活の秘訣だと言えよう。

 そもそも俺、根はどちらかと言えばそんなにガラ良くないし。清楚なお兄さんも本当は向いてないのかもしれない。

 でも人間ってのは、自分とは程遠いものに憧れちゃうからさあ。

 

 そんな事をぼんやりと考えていると、朝っぱらからチャイムが鳴らされる。居留守を使っても良かったが、それは清楚ではない。

 仕方無しに額に青筋浮かべながら布団から這い出す羽目になった。

 いかんいかん、清楚清楚。

 

 無理矢理柔らかい表情を作り、寝ぼけ眼を擦りながらドアを開ける。

 まず視界に入ったのは、どこかで見た覚えのある高校の制服だった。嫌な予感がする。

 そのまま視線を上げると、合わない目に上擦った声。肩まで伸びた白髪が風に吹かれて広がった。

 

「あの……隣に越してきました、守名(かみな)と申し──」

 

「おい」

 

 どっからどう見ても先日の魔法少女だった。

 

 

 

 

 

 

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