【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#21「おわりのはじまり」

 

 

 

 夜家章にとって、柊木朔は数少ない友人だった。

 高校1年生の頃にボコボコに殴られて以来の付き合いだったが、その事を話に出すと「あれはお前が120%悪い」の一点張りでいつも押し切られる。

 

「じゃ、かんぱーい」

 

「二人だけで乾杯もクソもあるかよ」

 

 悪態を吐きながらもグラスを合わせる友人は、いつものようにハイボールを頼んでいた。がやがやと騒がしい安居酒屋は、同じ年頃の大学生やOLでごった返している。

 彼から飲みの誘いがある時は、いつも大学や彼の生活圏内から離れた店だった。

 なんでも「酒が入ると清楚を維持できなくなる可能性がある」という事らしい。

 本当に訳が分からなくて面白いなあ、と夜家はビールを一気に煽った。

 

「この間は悪かったな、お気に入りの車グシャグシャにしちゃって。ここはお詫び兼ねて俺が出すからさ」

 

「でも朔くん、金ないじゃん。無銭飲食は良くないよ」

 

「お前あんまり人の事バカにしてたらいつか痛い目見るからな、このクソボンボンが」

 

 口が悪い彼と素行が悪い自分では変な所で馬が合うのか、だらだらとこの関係は続いている。

 

「それで?そんな殊勝な理由だけで誘ってくれた訳じゃないでしょ」

 

「まあ……相談というか、第三者の意見を聞きたい事があって」

 

 酒の肴になるくらいには面白い話であってくれよ、と思いながらお通しの漬物に箸を伸ばす。

 

「最近な、その、なんと言うか」

 

 言い辛いのか、吹っ切るように朔はハイボールの入ったグラスを一気に空にした。

 

「……氷織の事を、可愛いと思い始めて」

 

 後ろめたく思っているのか、目を伏せてそうぼそりと呟いた。

 おちょくるには絶好の機会だが、女の子絡みの事では真摯に接すると夜家は己に課していた。

 何故なら、女の子が可哀想だから。

 

「それは何、異性として?」

 

「まあ、そう……なる」

 

 歯切れの悪い友人の様子は傑作だった。いつもは傲慢とも思えるほど尊大な態度を取っているのに、ここまで弱るとは。

 

「じゃあさっさと誘って、既成事実作っちゃいなよ。氷織ちゃんは見るからに朔くんの事『好き好き大好き♡』って感じじゃん、魔法少女なんてそうそう捕まえらんないよ」

 

「バカ言うな、あいつはまだ16だぞ」

 

 好き好き大好きと思われている事は否定しないんだな、と夜家は目を細めた。

 歳の差なんてあってないようなものなのに、何を気にしているのかと思う。これからは政府主導で少子化対策に本腰を入れていくようになるのだから、自分よりも若い女性を妻にする事は寧ろ奨励されていくだろうに。

 やっぱり、変な所で価値観がズレている。

 

「俺も焼きが回った、って感じだわ。やっぱ毎日顔合わせてると情が湧いてくるんだよな。こういうのなんて言うんだっけ、単純接触効果か?」

 

 ぶつぶつと呟いている友人にまどろっこしさを感じた。

 

「やだなあ朔くん、恋や愛は理屈じゃないんだよ」

 

 白身魚の煮付けに箸を付けながらそう嘯く夜家に、蔑んだような視線をぶつけながら朔はポテトサラダを自分の皿に盛り付けた。

 

「だろうな、お前の恋や愛はちんこ優先だもんな」

 

 先程から自分達の会話に聞き耳を立てていると思しき隣のテーブルから、飲み物を噴き出すような音が聞こえた。

 

「朔くん、ちんこはやめなよ。大人なんだからさ、陰茎とか」

 

 今度は気管に入ったのか、派手に噎せたような咳が聞こえてくる。

 

「気になっちゃいますよねぇ、良い男が二人してこんな話してたら。お姉さん達も一緒に飲みません?」

 

 明らかに動揺している隣のOL集団にそう声を掛ける夜家の頭を、朔が勢い良く叩いた。

 

「やめろよ、困ってるだろうが。すんませんね、気にしないでください」

 

「ああ……」だか「へぁ……」だかそんな鳴き声を上げながら、彼女達は名残惜しそうに飲み直し始めた。

 

「はあ、俺ってこんな歳下趣味だったのかよ……清楚なお姉さん……」

 

 そう頭を抱え込む友人の事がやっぱり理解できない。

 歳下の何が悪いんだろうか。愛があればいいと思うけどなあ。

 

「大丈夫だよ。僕は頑張れば下は13、上は60くらいまでイケるから」

 

「お前みたいな異常性欲者と一緒にすんな」

 

 

 

 

 

 

 ハイボールから始めて、料理に合わせて日本酒を舐めるように飲むのが朔のお決まりのルーティーンだった。彼はそんなに酒が強くない。決して認めようとしないけど。

 その頃にはだいぶ出来上がっており、朔の顔には赤みが差し、瞳は眠たげに揺れている。

 夜家が頼んだお冷やを飲みながら「そう言えば」と再び朔が口を開く。

 

「あとさ、なんか最近また大学で見られてる気がするんだよな。お前はそういう事ある?」

 

「常日頃から注目の的だから分かんないや。また……って前もあったの?」

 

「一時期な、それこそ本当にストーカー紛いみたいなのがいたんだ。氷織が追っ払ってからは無くなってたんだけど。近頃またなんだよ」

 

 一回犯人見つけたらガツンと言ってやろうかな、と呟く彼を窘める。

 

「朔くん、気持ちだけはイケイケなんだからあんまり無理しない方がいいよ」

 

「気持ちだけは、ってなんだよ。こっちだって鍛えてんだよ」

 

 酔うといつもそうだが、どうも彼は時折女性よりも男性の方がフィジカル的に優れていると勘違いしているのではないかと思う事がある。それは危険だろう。

 

 夜家章は、自分の思考がこの世界では異端だという事を理解している。

 後ろ指を指され、男としてどうなのかと陰口を叩かれてきた。

 

 自分はただ、楽しく、面白く、気持ち良く生きていたいだけなのに。

 生まれてくる世界を間違えたんじゃないか、と思う事すらあった。

 まあ結局、何も気にしないようになったが。面倒だと言いながらも、自分の事を「お前は間違っている」と突き付けてくれる友人もできた。

 

 この世界では、恋人よりもそんな友人の方がずっと得難い。

 

 そして目の前で顔を赤くしながらちびちびと日本酒を舐めている彼の思考も、また別のベクトルでこの世界に馴染んでいない事をなんとなく分かっている。

 

 彼の「魔法少女もただのガキ」という考え方は見上げた物だが、魔法少女に依存しているこの社会では些か辛いだろう。

 

 

 面白いからおちょくりはするが、それはそれとして困っていたら力になるつもりではある。

 落ち込んでいる彼より、笑っていたり怒っていたりする彼をからかう方がずっと面白いから。

 

「そろそろ出よっか。締めにラーメン食べてかない?」

 

「あー……奢ってくれるなら付き合うわ」

 

 財布とにらめっこしながらそう真剣に言う朔に「仕方ないなぁ」と笑いかけた。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 客一人すらいない中華料理屋で、氷織は巨大なオムライスに舌鼓を打っていた。食欲も増したのか、以前は息絶え絶えになりながら完食したそれをぺろりと平らげている。

 

「昼はともかく、夜に氷織ちゃんが来るのは珍しいな」

 

「今日は朔さん、お友達と飲むらしいので。たまには店長さんのオムライスが食べたいなと思って来ちゃいました」

 

「嬉しい事を言ってくれるな、朔なんかやめて私と付き合わないか?」

 

 朔には見せる事のない満面の笑みを湛えてそう言う店長の顔を、氷織は曖昧に笑って見つめた。

 

「こうして見てると普通なのに、店を出ると店長さんの顔を思い出せないんです。何なら名前すら」

 

 スプーンを置くと、氷織は店長の顔をじっと見つめた。

 

「……魔法少女ですよね?」

 

 その問い掛けに彼女は何も答えず、ゆっくりと立ち上がる。

 店外に掛けてある札を『閉店』にひっくり返し、カウンター席に腰掛けると加熱式タバコを取り出した。

 

「少女を名乗るにはもう厳しい歳だ」

 

 蒸気を吐きながら、店長はそう笑った。

 

「別に隠しているつもりはないんだが。序列(ランキング)最高は5位だったかな、元"記憶"の魔法少女だ」

 

「5位!?え、えっと握手してもらっても……」

 

 おずおずと伸ばされた氷織の手を一瞬握ると「そんなに大したものでもないよ」とすぐに離した。

 

「ただ、元魔法少女として扱われるのに嫌気が差してね。この店に魔法を掛けてある。もう出涸らしみたいな物だが、それでも大抵の人間は私の事はぼんやりとしか認識できない。魔法少女には効きが悪いのかもしれないな」

 

 その言葉には、彼女がこれまで歩んできた人生の重みがあった。それを根掘り葉掘り聞くほど、氷織は図々しい人間でもなかった。

 まだ蒸気の立ち昇る加熱式タバコを氷織の方に向けると、店長は不敵に笑う。

 

「それで氷織ちゃんは私が元魔法少女だと知って、どうするつもりかな?」

 

「あ、いえ、どうという訳じゃなくて……先輩だったらちゃんと挨拶しないと、と思ってただけで……」

 

「氷織ちゃんは本当に良い子だな」

 

 拍子抜けしたように彼女はそう微笑む。

 

「昔はよく、他の魔法少女に頼られたよ。『辛い記憶を消してほしい』とね、"記憶"の魔法とはそういう物だ」

 

 魔法少女は、決して世間で思われているほど万能でも何でもない。

 治りはすれど、怪我もする。死にはせずとも、痛みはある。

 普通になりたくても、そうなる事を誰も許してはくれない。

 

「氷織ちゃんも何か辛い事があるなら、私が消してあげてもいい。私が一桁(シングル)だったのは戦闘よりも、そういう他の魔法少女のメンタルケアや情報操作という特異性を買われての事だ」

 

 やろうと思えば画面越しに人の記憶を弄る事も、何なら電子機器等のデータにすら干渉できる。広義に照らせば、それもまた"記憶"だからだ。

 

 そう事も無げに言う彼女に、一桁(シングル)はやっぱり格が違うんだと氷織は尊敬の念を抱いた。

 そして彼女の言う、辛い事を考える。中学1年生の頃、都合良く扱われたあの日々。思い出す度、胸がずきんと痛い。ただ、それでも。

 

「辛い事もありましたけど、それも含めて全部私ですから。多分、どれが欠けても私は朔さんに出会えなかったので」

 

 その答えに、店長は満足そうに頷いた。

 

「記憶という物は複雑でな。嫌な記憶を消せば、それに紐付いた楽しい思い出も失われてしまう」

 

 そう話す声色にはどこか後悔が混じっているようにも、氷織には聞こえた。

 

「なら楽しい記憶の方を聞こうか。氷織ちゃんは、朔のどこが好きなんだ?」

 

 急な質問に戸惑ったのか「えーとえーと、まずは顔がかっこよくて……」と氷織は指折り数え始める。

 

「初めはそうですね……優しくしてもらったから。でも今はそれだけじゃなくて、ちゃんと叱ってくれる所とか。結構見栄っ張りな所も可愛いですよね、でも一番は」

 

 少し照れ臭そうに氷織がはにかむ。

 

「私の前では、"大人"でいてくれようとする所ですね」

 

 店長は吸い終わったカートリッジをゴミ箱に放り込むと、新しい物を差し込んだ。

 

「朔は良い男だよ。しかし大学生なんて、私達から見ればそれこそ朔の言うガキと変わりないがね」

 

「だから良いんですよ。守られてるって感じがして」

 

 朔さんは、私が危ない目に遭っていたらきっと助けに来てくれる。

 でも、朔さんはか弱い男の人だから。彼に心配を掛けないように、私はもっと強くならなくちゃいけない。

 

 そう思えば思うほど私はきっと、もっと強くなれる。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 以下は昨年から今年にかけて19件発生した"顔付き"との戦闘の中で、特記事項が記されている4件についてまとめた物である。

 

 

 

 ■■月■日、午後■時■■分。 

 ■県■■市にて"顔付き(口)"の発生を確認。

『氷雨』『花火』の魔法少女ら2名にて討伐。

 特記事項:討伐の際『花火』の魔法を受け、『氷雨』の魔法少女が両鼓膜穿孔、中等度火傷、脳挫傷を負う意識不明の重傷。2日後には完治し、後遺症もないため今後の戦闘に支障無し。

 

 

 ■月■日、午前■■時■分。

 ■県■市にて"顔付き(口、右目、右耳)"の発生を確認。

『隷属』『壊唱』『剛拳』『宵闇』『焼閃』『解体』の魔法少女ら6名にて捕縛。

 特記事項:『隷属』の魔法少女により、当該妄獣の捕縛に成功。尋問に移り、直近の"顔付き"異常発生の要因について調査を進めている。

 また上記戦闘の負傷により『剛拳』『宵闇』の魔法少女2名は今後の戦闘が不可とされる。

 

 

 ■月■日、午後■時■分。 

 ■県■■町にて"顔付き(左目)"の発生を確認。

『氷雨』の魔法少女1名にて討伐。

 特記事項:『氷雨』の魔法少女が同戦闘で"概念凍結"を発現。実力で言えば一桁(シングル)に限りなく近く、今後"顔付き"出現の際には優先的に出撃を要請する。

 

 

 

 ■月■■日、午後■■時■分。 

 ■県■■市にて通常の妄獣の発生を確認。

 現場に駆け付けた『雲海』の魔法少女が対処に当たる。現地市民の避難と同時に配信を開始。

 

 同日、午後■■時■■分。

 同所で戦闘中、妄獣の頭部に右目が発現。

 固有の能力を以て『雲海』の魔法少女を殺害。後に一桁(シングル)『笑顔』の魔法少女が討伐。

 特記事項:『雲海』の魔法少女が殺害される瞬間が配信されており、拡散。現時点でもはや隠蔽は不可能であり、各所への影響が懸念される。

『雲海』の魔法少女は序列(ランキング)15位とその実力が認められていたため、特に魔法少女へ与える影響は計り知れない。

 また今まで通常の妄獣が"顔付き"へ変化する事例は確認されておらず、そちらに関しても調査を進める。

 

 

 

 

 ────じゃあ、今まで通り一人で普通の妄獣を討伐しててもいきなり"顔付き"になるかもしれないって事?

 

 ────無理だよ、ふわり(雲海)ちゃんが殺されちゃったのに僕らが一人でやれるわけないじゃん!

 

 ────でも、やらないとママやパパが……やだ……死にたくないよ……

 

 

 

 

 

 妄獣の発生数が最も多くなるのは、冬だというデータがある。

 下がる気温に枯れ果てる植物、無音が降り積もるような雪の夜が人々の不安を煽るからではないか、とされている。

 

 しかしながら、妄獣が最もその力を増すのは春だと魔法少女達は言う。

 データとしてではないが、常日頃から妄獣と渡り合っている彼女達の言葉には一定の信憑性がある。

 

 華やかで生命が息吹く、そんな出会いの季節。

 なぜ妄獣がその折に力を増すのか、明らかにはなっていない。

 

 しかし。

 

 春はまた、別れの季節でもある。

 

 

 

 

 そして冬が終わり、春が来る。

 

 

 

 




どうか、最後までのお付き合いを。
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