【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ…… 作:しゅないだー
とりあえず足が要る。
そんなに遠くないとはいえ、流石に走って行ける距離じゃない。少し迷った後、夜家に電話を掛ける事にした。どの面という感じではあるが、あいつには散々煮え湯を飲まされてきた訳だからこれくらい許せ。
『あ、朔くん!?久しぶり……ってか今どこ?近くにテレビがあるなら……その……まあスマホでもいいけど』
こいつも多分あの生放送を見てるんだろう。どんな時でもへらへらとしている夜家も、流石に声色に不安が混じっていた。
「バイト先の中華料理屋。頼む夜家、色々すっぽかしたのは悪かったからさ。取りに行くから今すぐ車貸してくれ」
『え、やだよ。朔くんに車貸したら壊されるもん。ちなみになんで?』
「あの時は悪かったって、結局補填で新しいの買い直したろ。ちょっと氷織の所に行こうと思ってさ」
『いや氷織ちゃんって、今……ふーん、なるほどね』
ぷつり、と通話が切れた。
あの野郎、人としてのマナーがなってねえのか。
「クソが、二度と親友面すんなよ!いや、俺が悪いか……」
あいつに大して事情を説明する訳でもなしにシカトこいてたのは俺だ。そもそも車壊した事に関しては何も言えないし。
悪態をつきながらも次の一手を考える。氷織がいる場所までタクシーで行くのも手だが、そもそもそんな所まで行ってくれる訳がない。
チャリ……チャリで行くか?
「店長、ちょっと出前用のチャリ貸してもらえません?」
「……出前の注文は入ってないぞ」
「見てくださいよ、この氷織の顔。ラーメン食いたそうな顔してるじゃないですか」
「バカを言うな。そもそも映像でも分かるだろ、あの顔付き以外にも妄獣が辺りをうろうろしているんだ。自殺行為だ」
駄目か。そもそもこの人は俺を行かせたくないみたいだし。
ここで足踏みしている時間の1秒が惜しい、とりあえず走りながら考えるか。
お疲れ様でしたー、と店を出ようとしたその時。
「……そこまで言うなら、一回死んでみるか。それなら私もそれ以上止めない」
そう引き止められた。
「いや、死にませんけど」
ものの例えだ、と店長は言った。
「トラウマをそんな昔の家電を直すようなやり方でどうにかできる訳がないだろうが。今のお前のそれは空元気、アドレナリンやら何やらで脳を誤魔化しているだけに過ぎない」
「いやいや、こんなに元気なんですよ」
「"記憶"を舐めるなよ。結局無理を押して行って、氷織ちゃんを傷付けていたら世話はないだろう」
まあ、それはそう。少なくともこの話は聞くべきだろう。
「今、お前の記憶はお前を痛め付けた奴の事を氷織ちゃんだと思い込んでいる訳だ」
「はい」
あの時はショックの方が大きかったから大して聞いてなかったが、幻覚作用のある煙がどうたらこうたらって話だったな。
「だがお前のその目やその耳は、正しい"記憶"を知っている。それを無理やり掘り起こして修正すれば、上書きする事もできるだろう」
「氷織に対しての忌避感を、どうにかできるって事ですか」
理屈の上ではな、と店長は加熱式煙草にスティックを差し込んだ。忙しなく指を動かす様子は、それを言ってもいいのか迷っているようだった。
「ただ、お前の記憶がぼんやりとしているのは身体の防衛反応だ。そうしなければお前の心は壊れる、と身体が言っている訳だ」
確かに言われた通り、詳細はよく覚えていない。思い出そうとすると酷く頭が痛む。
「私が今言った話では、お前が抱えているダメージが癒える訳じゃない。寧ろもう一度同じ体験をさせるんだ、より鮮明にな」
あの数日を、もう一度。考えただけで寒気がするようだった。
ただ、それでも。
「じゃ、すぐ始めてください」
「……氷織ちゃんに関してのトラウマが払拭できても、そもそもお前の心が持たない可能性の方が遥かに高い。全て忘れる方が確実で安全だ。それでもやるのか?」
「だからやるって言ってるじゃないですか、しつこいですよ」
「……」
この人が俺の事を心配してくれてるのは分かる。
そりゃ俺は魔法少女の皆様みたいに派手に戦ったりみたいな大立ち回りはできない。
「ガキに気使われて、綺麗さっぱり忘れてのうのうと生きろって?そんなのが清楚かって話なんですよ、なんかだんだん腹立ってきたな。そもそもそんな方法があるんなら先に言ってくださいよ」
「いや、これはお前に負担がだな……」
悲劇のヒロインじゃねえんだぞ、こちとら。
あ、ヤバい。キレそう。
「そもそもの話するならさあ!あんたも!逆見さんも!あのクソガキも!氷織も!全員俺の気持ちやら考えやら、一回も聞こうとしてねえから!男だからって舐めてんだろうが、どう考えても!腫れ物扱いしやがって、ちやほやするなら徹底的にしろ!なに遠巻きにしてコソコソやってんだ、童貞かお前らは!違うわ、処女か!」
「さ、朔……?」
俺の剣幕にたじたじになっている店長の前にどかりと腰を下ろす。
「まあ、優しさなんてのはどれも独りよがりなんでしょうけどね。俺もそうだったんだろうし」
あいつは戦っている。
結局の所、あいつがそれを選ぶなら俺は信じてやるしかできなかったのに。やれ「戦わないでくれ」だの「お前が大事なんだ」だの、女々しい……こっちだと男々しいになるのか?
そんな事をぐだぐだぐだぐだ、鬱陶しい。
あいつが負けない、死なないって言うならそれを信じてやればいいだけの話だったんだ。
「全員まとめて
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元"記憶"の魔法少女は困惑していた。
アルバイトとして雇っていた青年がどことなく世間一般の男性とはズレている事は、端から理解している。
言葉を選ばず言えば、変な奴だと。
雇った理由も、その他の男とは違った乾いた気性が一緒にいて苦ではなかったという所にある。後、自分は興味を引かれなかったが、顔が良いらしいので女性が店に集まってきてくれる所。
ただ、それでも常軌を逸している。
何故男なのにそこまで身体を張ろうとするのか、彼女には理解し難かった。何の保証もなく、全てが無駄になるかもしれないのに。
「分かった、やろう。もう止めない。ただ、最後に理由を聞かせてくれないか。何故お前はそこまでする。そこまで……できる?」
「なんでって、好きな女の為に身体張るのが男でしょうよ。しかも死ぬ訳じゃないしこんなの身体張る内に入らないですよ」
「……お前はつくづく、変な奴だ」
諦めたように彼女はそう笑った。
「ところで聞きそびれましたけど。店長って、結局何の人なんですか」
「魔法少女の成れの果て、だ。これを噛んでおけ、下手すれば舌を噛み千切る」
「まーた魔法少女ですか、本当にどいつもこいつもバリエーション豊かな事で。やっぱ魔法少女ってひと括りにしてるこの世の中の方がおかしいんですよ」
そうつまらなさそうに言った後、彼は渡されたタオルを噛み締めて目を閉じた。
それにかかる時間は僅か数秒。
彼女は朔の額に手を当てると、一言唱えた。
「────『
本来であればその魔法は、妄獣との戦闘中に強いショックを受け心を閉ざした魔法少女から何があったのか強引に情報を引き出す為の魔法だった。
それによって討伐に漕ぎ着けた顔付きもいるが、同胞を傷付けるこの魔法を彼女は忌み嫌っていた。
朔の目が見開かれる。
絶叫を噛み殺し、何度も踏み鳴らすように震える足がその苛烈さを物語る。
彼の脳内では、無意識にフィルターを掛けていたあの数日の記憶を克明に再現している。普通に考えれば、正気の沙汰ではない。
だが。
「俺、指、指、付いてる……?良かった、付いてるわ……う、ぷ」
自分の手を震えながら確かめた直後、倒れ込みながら朔が激しく嘔吐く。
もはや胃液すら出ず、乱れた呼吸だけが静かな店内に響いた。
「全ッ然痛え……けど、く、くくく……」
とうとう気が狂ったか、いや元から狂っているようなものだったかもしれないが。
いきなり笑い出した朔を見て、そう彼女は身構えた。
「いや、やっぱりそうだったなって」
「な、何がだ」
「あの女よりも、氷織の方が100倍可愛いですよ」
足が震えて上手く立てもしないのに、床に転がったままそんな減らず口を叩いている。
呆れとも安心ともつかない溜息を吐きながら、彼女は口角を歪めた。
「……バカもここまでいけば勲章物だな」
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「お取り込み中の所、こんにちは〜」
床にぶちまけられた吐瀉物をいそいそと掃除していた朔が、その声に顔を上げた。
「……夜家?なんだ、やっぱ車貸してくれんの?」
「いや、車は貸さないよ?壊されたくないからさ、だからね」
夜家、と呼ばれた朔の友人と思しき青年は芝居がかった調子で胸に手を当てた。
「連れてってあげるよ、仕方ないから。大親友だもんね」
「お前の事初めて友達だと思ったわ〜!」
その言葉に不満そうに口を尖らせている友人の肩をばんばん叩きながら「じゃ、そういう事で」と朔が店を出て行こうとする。
「……なあ、朔。やっぱりやめておけ、死ぬぞ。あそこは氷織ちゃんが鈍らせているとはいえ、妄獣で溢れている」
「店長、もう止めないって言ったじゃないですか。じゃあ一つ教えてあげますよ」
至極真面目な表情で、朔はきっぱりと言い切った。
「清楚なお兄さんは死なない。何故なら清楚だから。以上です」
「清楚なお兄さんは床にゲロを撒き散らさないだろう」
「清楚なお兄さんだからちゃんと自分で掃除したじゃないですか」
こいつと会話していると頭がおかしくなってくる。
彼女はそう話を切り上げた。
その様子を、朔の友人らしき青年が腹を抱えて笑っている。
「らしくなってきたねぇ、朔くん。やっぱり面白いなあ」
そう軽口を叩く友人を無視しながら、朔は何の気無しにこう言った。
「そもそも氷織が俺を殺させる訳ないでしょ、あいつ強いんですよ」
それが当然の事実であるかのように。なぜそこまで信頼できるのか。
「でも夜家、お前は帰れ。あ、車だけは置いてけよ」
「はあ?そうやって面白そうな事独り占めしようとするんだから、大体朔くんの運転ってうんちじゃん」
「うんちはやめろよ、飲食店なんだから。排泄物とかさ」
二人が店を出ていって、彼女は一人残された。
「なんで私はあんなバカを雇ってしまったんだ……ガキにも程があるだろう」
急に静かになった店内で、長く煙を吐き出す。そもそも辿り着ける訳がない。ここから件の場所までの最短ルートには大きな橋があり、こういった状況で素通しする事はまずない。
必ず「家族がまだ残されている」といったような理由でそこへ行こうとする人間は現れる。必要の無い犠牲者を出さない為、そしてもしそこから妄獣が溢れ出した時の為に検問が設置されているはずだ。
まず辿り着けない。
もし辿り着けたとして、配信の様子を見るにそこは妄獣の楽園だろう。
氷織ちゃんもそいつらの対処とあの揃った顔付きを同時に相手取れる訳がない。
終わりだ、終わり。
ただ。
朔は、戦った。自分のトラウマを捻じ伏せた。
それだけでも並大抵の男には耐えられないのに、まだ立って最良を掴もうとしている。
最悪な事が立て続けに起こるのなら。少しくらい良い事もなければ、不公平じゃないか。
「……ガキの引率をしてやるのも、大人の仕事か」
バイクの鍵を手に取った。
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「逆見さん……民間人の乗っている車が『向こうに行かせろ』と騒いでいてですね」
「いちいち私の指示を仰がなくてもマニュアル通りに対処すればいいだろう」
自分の担当している魔法少女が時間稼ぎの捨て石として用いられている事に、逆見は深い絶望を覚えていた。
貧乏くじを引いてしまっただけではある。だが、何もあの子でなくとも。
魔法少女付きの務めとして、せめて最後まで一番近い検問で彼女はそれを見届けるつもりだった。
「それがその……『氷織に会わなきゃいけないんですよ』と」
「……なんだと?」
それを聞いた瞬間、彼女はその車を止めているという検問に駆け出していた。
「柊木君……?」
「あっ御無沙汰です、逆見さん。ちょっと通してもらえませんか」
助手席には、以前と全く変わらない飄々とした表情の朔が座っていた。
回復したのか、もう何ともないのか。聞きたい事は山ほどあったが、それを飲み込み公人に徹する。
「駄目だ、許可できない。君に何かあれば、氷織に顔向けできない」
「俺は忘れませんでしたよ。逆見さん言いましたよね、『君が隣にいてくれるなら、氷織はずっと強くいられる』って」
何故、彼はまだ私達の為に立とうとするのだろうか。
元とはいえ魔法少女にあれだけ傷付けられて、嫌気が差しただろう。魔法少女にも、それを管理する私達にも、全てを取り巻くそのシステムにも。
ただでさえ魔法少女に対する信頼感は『雲海』の魔法少女の一件や、最近の顔付きの被害で下がりつつある。
故に彼が受けた仕打ちも上が揉み消して、公にする事はなかった。これ以上、魔法少女に対するネガティブな感情を世間に与える訳にはいかない。
私達もそれ以上、干渉する訳にはいかなかった。
憎んだって、当然だ。見捨てたって、当然だ。
なのに、何故。
「……氷織はこのビルを中心に戦闘している。このルートで向かうといい、妄獣と接触する可能性が一番低い」
車のナビを弄り、検問を管理している部下に合図する。
「……通せ」
「いや、流石にそれは……」
「通せ、と言った。全ての責任は私が取る」
サンキュー逆見さん、と言い残して猛スピードで走り去っていく車を見送った。
「どうするんですか、民間人を通して彼らに被害が出たら。責任を取る云々の問題じゃないですよ」
「腹を切る」
「へ?」
「文字通り腹を切る。私がそんな事をしても何の解決にもならないだろうがな。氷織を死なせて彼らも死なせて、私だけがのうのうと生きていられる訳がないだろう」
明らかに引いている部下を意に介さず、氷織がいる商業施設に目を向けた。
「はあ……負ければ死、勝ってもクビだな」
憂鬱そうな口調でそう言いながら、祈るように目を閉じた。
自分はどうなろうとも構わない。氷織が幸せになれるのなら、僅かな可能性でもそれに賭けたかった。
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「なんかヤバそうな検問サクッと通れたのは良いけどさ〜、やっぱりこうなるよね」
後ろからなんか牛みたいな妄獣に死ぬほど追い立てられていた。
夜家がハンドルを切る度にがくんと車内が派手に揺れ、しこたま頭をぶつけてしまう。
「テメー運転下手くそなんだよ、代われ!」
「やだね、朔くんが運転してたらもう5回は死んでるよ!」
癪だが、否定はできない。多分10回は死んでる。
「これ氷織ちゃんにリムジンでも買ってもらわないと割に合わないなあ!」
「おうおう買ってもらえ、ベンツでもロールスロイスでも好きにしろよ!」
次の瞬間、今にも追い付きそうだった妄獣が突如氷漬けになった。配信の様子だとだいぶヤバそうだったが、何とか持ち直したらしい。
「でかしたぞ氷織ー!」
窓から身を乗り出す。あのビルの上にいるらしいが、遠すぎて全然見えない。でも、もしあいつから俺が見えているのなら。
指を指す。
今から行くからな、と宣言するかのように。
一旦助手席に座り直すと、気になっていた事を夜家に尋ねた。妄獣も凍り付いててまだ余裕があるし。
「……正直助かってるけどさ。なんでお前、こんな所まで付き合ってくれんの?」
今更だが、夜家には何の関係もメリットもない。金も名誉も得られる訳でもない、氷織に手を出したら俺がぶん殴るし。
タダ働きな上に、命まで懸けている。
「僕はね、退屈が嫌いなんだ。楽しい事、面白い事、気持ち良い事が大好き。知ってるでしょ?」
こいつはそういう奴だって事は重々承知している、俺みたいに前世の価値観が残ってる訳でもないのに。
「最近の朔くんってさあ、薄幸の美青年みたいな顔してたじゃん」
「え、マジで?響きめっちゃ清楚じゃん」
「あれ……本っ当に見ててつまんなかったんだよね!」
吐き捨てるように夜家はそう言った。
「やっぱ朔くんはさ、ぎゃーぎゃー言ってないと。清楚清楚ってアホみたいな事してないと駄目なんだよ。僕は面白い事の為なら命賭けたっていいんだから」
なんだこいつ、怖。
「ところで氷織ちゃんの所に行ってさ、なんかプランあるの?」
「魔法少女って欲望やら何やらで強くなるらしいんだよ。俺がこれだけ会いたかったんだから、氷織だって相当溜まってんだろ」
「なるほどね、つまり当たって砕けろノープランって事?」
「まあ、それもまた清楚だろ」
「ノリで付いてきた僕も悪いけど、全部終わったら2,3発殴らせてもらうね……うわわっ」
交差点に差し掛かった時、突如左方から獅子を象った妄獣が飛び出してくる。間一髪でそれを避けこそしたが。
「やべえ、目が付いてる……!」
「付いてたら不味いの?」
「他の奴らとレベルが違うんだよ、いざとなったら車捨ててお前だけでも逃げろ」
「何バカな事言ってんの」
やっと氷織がいるビルの近くまで来たのに。
明らかにさっきまでの妄獣とは違う速度でぐんぐん距離を詰めてくる。
その時。
サイドミラーに映ったのは、猛スピードで走ってくる一台のバイクだった。
「────『
次の瞬間、妄獣がこちらを認識できなくなったように立ち止まって首を傾げた。
その隙を逃さず、夜家はアクセルをベタ踏みにして一気に引き離す。
謎のライダーは俺達の車に並走すると、バイクを乗り捨てて今運転中のこの車の屋根に飛び移った。猿かよ。
「朔。ドアを開けてシートベルトを外せ」
そう上から聞こえてきた声にはどこか聞き覚えがあった。
「その声、店長ですか!?何やってんですか、こんな所で」
「いいから早くしろ」
苛立ったような声に急いで言われた通りにした瞬間、上から伸びてきた手に胸倉を掴まれて屋根まで引き上げられた。
普通に後ろからはさっきの顔付きが追ってきてるし、なんだかもうめちゃくちゃだ。
「ちょ、え、なんで俺をここに!?」
その質問に答えることもなく、店長は開いていたドアをもぎ取ると後方から追い掛けてきていた顔付きにぶん投げた。
ガァン、と良い音でそれは顔面にクリーンヒットし、体勢を崩した顔付きが派手に転倒する。いや、魔法少女とはいえ元なのに腕っ節がヤバ過ぎるだろ。
「うおおおお僕の車──ッ?!」
「運転している君、そのまま車を走らせ続けろ」
「ねえ、弁償してくれるんですよね!?ドア引っペがされましたけど!?」
夜家の切実な嘆きを黙殺して、俺を車の屋根の上に引き上げた店長はヘルメットを脱いだ。
速度はそれなりに出ているが、店長が掴んでくれているからか落ちる事はなさそうだった。
「お前は訳が分からん奴だと思っていたが、ここまでとは思わなかった。はあ……清楚なお兄さんは死なないんだな?」
「え、はい。多分」
「氷織ちゃんがむざむざお前を殺させる事はないんだな?」
「当たり前じゃないですか」
その答えを聞くと、店長はビルの頂上へ目を向けた。きっと氷織はあそこにいる。
「よし。じゃあ、行け」
「え」
俺の胸倉を掴んだまま店長は、振り被って。
空に向かって、俺をぶん投げた。
「マジでえぇぇぇ!?!?」