【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#31「柊木朔は清楚でなくていい」

 

 

 晩夏、と呼ぶにはまだ暑すぎるような一日だった。

 

 

 重傷者こそ出たものの、件の妄獣騒ぎで奇跡的に死者は出ていなかった。

 まあ、そうは言っても残された傷跡は大きい。暴れ回った妄獣の影響でしばらくインフラは死んでたし、魔法少女も疲労困憊の満身創痍。

 唯一の救いはあの人間みたいな顔付きが氷織に倒されている姿が生放送された事で、齎された安心感やら何やらが残った妄獣へのデバフになった事だろう。

 今も妄獣は湧くが、とりあえず顔付きはいないし、発生頻度も強さもかなり平均を下回っているらしい。

 それなりのボスを倒したご褒美みたいなものだろうか。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 氷織も暫くはマスコミやら何やらに引っ張りだこだったし、俺も色々事情を聞かれた。

 なんか逆見さんがクビにされかけてたから氷織と連絡取り合いながら阻止したり、マジで色々あって忙し過ぎたんだよな。

 

 

 あいつの「1日デートしてください」ってお願いはそんなこんなでずっと延期になってたが。

 そんな日々を乗り越え、氷織の"お願い"を叶えてやれる日がようやく来た訳だ。

 

 

 指定された駅前で待っていると、やっぱりあちこちから視線を感じる。

 夜家なんかと待ち合わせていた時は、よくナンパされてたんだよな。あいつ平気で遅れてくるし。

 そう、今みたいに俺をガン見してるお姉さんとかから。

 ちょっと耳に掛かった髪なんかかき上げてみちゃったりして……おっ、辛抱たまらんって顔で歩いてくる。

 

「ねえねえそこのお兄さん、ちょっと暇なら……あっ、あの魔法少女の!?し、失礼しました!」

 

 俺を誰か認識した瞬間、焦りを見せて女性は走り去っていく。

 あれからこんなんばっかりだよ、本当に。

 ああ俺の高嶺の花、そして清楚なお兄さんとしての日々よ、さようなら。

 

 

 心の中でそうしくしく泣いていると、後ろから声をかけられた。

 

「お待たせしちゃいましたか?」

 

 白いワンピースに麦わら帽子を被り、どこか遠くの方にいたのかキャリーバッグを携えた氷織が立っていた。

 下手すりゃ浮きかねないくらいこってこてな格好だが、まあ……なんというか、その。

 

「今来た所だよ……おお、似合ってるじゃん」

 

 そう褒めると、なんだか氷織は不満そうな顔を見せた。

 

「前は可愛いって言ってくれましたよね」

 

 本当に癪だ。

 認めたくはないが、柄にもなく俺は照れている。

 惚れたが負け、という言葉を思い出す。

 

「ああ、可愛いよ」

 

「えへへ。今日は私に1日付き合ってもらいますからね」

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 氷織に連れてこられたのは、ひまわり畑の近くにある喫茶店だった。

 電車に揺られてそこまでやって来た時にはちょうどお昼時で、名物だというオムライスを二人して頼んだ。

 固焼きの昔ながらのそれは、普段店長の所で出される油!!肉!!デカ盛り!!という感じと違って優しい味がする。

 

「たまにはこういうレトロっていうか、お洒落なオムライスも良いですね」

 

「店長のは枕みたいな大きさしてるもんな。ちょっと無骨過ぎるんだよ、美味いけど」

 

 オムライスといえばですね、と言いながら氷織ががさごそと鞄を探っている。

 

「じゃじゃーん。ずっとお財布に入れてたんですよ、お守り代わりに」

 

 俺の醜態の集大成とも言えるチェキを財布から取り出して見せびらかすもんだから、なりふり構わず奪い取ろうとするが魔法少女の俊敏さには敵わない。

 

「今すぐ捨てろよ、そんなもん。そうしたらもっと過激なの撮ってやるよ」

 

「嫌です〜、絶対嘘じゃないですか。嘘吐きは清楚じゃないですよ」

 

 悔し紛れに吐いたデタラメも完璧に看破されている。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 食事を終えると、遅咲きのひまわり畑でのんびりと散歩する。

 背の高い向日葵が陽の光を透かして、氷織の頬を薄黄色に染めた。それが俺には、何よりも綺麗に思えて。

 隣を歩きながら取り留めもない事を話す彼女に、一つだけ頼んでみた。

 

「……なあ。写真撮っていい?」

 

 こくんと頷く氷織を、ひまわり畑を背景にして1枚だけスマホのカメラで撮った。

 あいつだって普段俺のチェキを持ち歩いてるんだから、これくらいしたって許されるだろ。

 氷織は何故かにやにやとしていた。

 

「夜家さんに教えてもらったんです。朔さんはひまわり畑に白いワンピース、麦わら帽子みたいなのが好きだって。やっぱりでしたね」

 

 あいつ、余計な事言いやがって。

 俺がまんまとしてやられたみたいになってるだろうが、事実ではあるが。

 

 氷織の多忙さで集合が遅れた事もあって、もう日は段々と傾き始めていた。電車の時間を考えると、そろそろ帰り支度を始めなきゃいけない。

 

「夕飯どうする?どっかで適当に食べて解散しようか」

 

 そう提案すると、珍しく氷織は首を振って拒絶の意を示した。

 

「……朔さんのお家に行きたいです。私達で何か作ってもいいですし、出前頼んでもいいですし。あの……それにおうちデートって響き、清楚じゃないですか?」

 

「清楚か?」

 

 前だったら氷織を家に上げる事に何の抵抗もなかったのに、何故か今は後ろめたく感じている事に少し驚く。

 なんでだろうか、と首を傾げて気付いた。

 

 俺は今、あいつの事を異性として見てるのか。思わず苦笑いする。

 

 

 

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 俺にとっては住み慣れた我が家だが、氷織は懐かしそうに目を細めていた。

 鍵を開けて入った狭苦しいワンルームの中で、彼女はまるで実家に帰省でもしたかのような顔をしている。

 

「そういえば隣には誰も引っ越してきてないんですね……あ、電気つけっぱなしですよ。勿体無いです」

 

「……ああ、しまったな」

 

 心配を掛けたくなくて、うっかりを装ってみる。

 実際の所は、ただ暗闇が怖いだけだ。氷織に関してのトラウマは払拭されたけど、俺の中のあの数日が消えた訳じゃない。

 目隠しを連想させるような暗闇は苦手で、たまに悪い夢を見る事もある。

 

 俺はソファに腰掛けて、氷織は床に置いてあるクッションに座る。

 お隣さんだった頃の、お互いの定位置だ。BGM代わりにテレビのニュースを流して、大きく伸びをした。

 

「そういえば一応2年生の夏だろ。そろそろ進路とか考え始めるんじゃないの?」

 

 なんだか改まって喋る事も見つからなくて、そんな思春期への父親みたいな話題の振り方をしてしまう。

 

「そうですね……とりあえず大学には行ってみたいです。それで私、大学を卒業したら普通のお仕事もしたいですけど。それもやりながら、"施設"でこれから魔法少女になる子達に色々教えてあげたいんです」

 

 頬杖をつきながら、そんな氷織の話を黙って聞いていた。

 

「やっぱり魔法って凄い力じゃないですか。魔法自体もそうですけど、それ以上にこの社会で魔法が使えるってそれだけで甘やかされて、煽てられて、否定されずに育って。恐ろしい事ですよね」

 

 魔法少女だからこそ、その怖さが身に沁みて分かるんだろう。自分を全て肯定される事の恐ろしさ。歯止めが効かなくなっていく、自分の欲望を。

 

「だから、良くない使い方をしようとしたら私が叱ってあげます。駄目な事は駄目だって、ちゃんと教えてあげます。それで全部が解決する訳じゃないって分かってますけど、まずは自分にできる事を一つ一つやっていこうかなって」

 

 この世界は、どうしようもない。

 次々と生まれてくる妄獣は人を襲うし、それに対抗する魔法少女を取り巻くシステムは終わっている。

 でも、案外。氷織の踏み出す一歩が、それを少しずつ変えていくのかもしれない。

 

「これって清楚ですよね?」

 

「ビビるくらい清楚なお姉さんだな」

 

 やった、と氷織は小さくガッツポーズをする。

 それから彼女は少し迷ったように視線を泳がせた後、何かを決意したのか「あの」と口を開いた。

 

「朔さん、暗いお家に帰るのを怖いと思ってますよね」

 

 やっぱりバレてたか。こんなガキに気を使わせるとは、清楚なお兄さん失格と言えよう。

 

「だとしたら、どうする?」

 

 努めて平気そうな顔をして、そう答えた。

 

「その……私が朔さんの帰りを待ってるというのはどうでしょうか。暗くても怖くないように、一緒にいちゃ駄目ですか?」

 

「それ、言葉だけで見れば『一緒に住みましょう!』って事だぞ。同棲のお誘いとはなかなか大胆じゃん?」

 

 そう揶揄うように告げる。どうせ、また顔を真っ赤にしながら「いや、あの、そういう意味じゃなくて」とか言って慌てるんだろうな。

 涼しい顔をしながらそれを待った。

 

 待っていたのに。

 

 氷織は焦った様子もなく「はい」と一言だけ返した。

 

 

 はい。

 

 

 はい!?!?!?

 

 

 

 何とか平静を保ってはいるが、内心はなんかもう鈍器で頭をぶん殴られたような感じだった。

 何これ、どうすりゃいいんだ俺は。

 

「というか、ずっともやもやしてたんです。私、あの生放送というか……事故でこう、今後の将来設計というか、あの、喋った事自体は全部本当の気持ちだったんですけど、あれでなあなあにしたくないっていうか、その……とにかく、改めて言わせて下さい」

 

 氷織は本当に焦ると口数がべらべらと多くなる。いつも一生懸命なのが裏目に出てるんだろうな。

 まあ、でも。今の俺は、それすら愛おしく思っている。

 

「ちゃんと聞いてるよ」

 

 そう言ってやると、安心したように彼女はゆっくりと深呼吸をした。そのまま、氷織は俺の手を握る。

 

 

 

「他の誰でもない、私が朔さんを幸せにしますから。朔さんも、ちゃんと私に幸せにされて下さい」

 

 

 

 随分とまあ、勇ましい決意表明(プロポーズ)だと笑いそうになる。

 清楚なお兄さんとしては、そんな一世一代の告白を無下にする訳にもいかないか。頬に手を当て、特に意味もなく考え込むふりをする。

 焦らすようにたっぷり時間を取ってから、おもむろに口を開いた。

 

「じゃ、まずは物件探しからだな。このボロアパートともやっとおさらばだ」

 

 花が開くように、氷織の顔が綻んだ。緊張していたのか、大きく息を吐き出している。

 

「えー、私はこのお部屋でもいいですけど。思い出沢山あるじゃないですか」

 

「狭いだろ、布団も1セットしかないし。そもそもワンルームだし、プライバシーも何もないじゃん」

 

 その言葉を聞いて、氷織は深く考え込んでいた。勉強してる時よりもなんか表情に真剣さが滲み出ているが、何考えてんだこいつ。

 

「……良いんじゃないですか?」

 

 瞳に邪な光が宿っている。こいつ、本当に。

 

「会ったばかりの頃の方が慎ましやかだったぞ、お前」

 

 呆れた調子でそう窘める俺に「朔さんのせいですよ」と氷織は悪戯っぽく微笑んだ。

 

「私は皆の為に頑張る、無欲で清楚な魔法少女だったのに。朔さんに出会ってから、ワガママで欲張りな子になっちゃいました」

 

 そう開き直ったように言うもんだから。

 

「そんな事言ったら俺だってお前みたいなガキ、鼻で笑い飛ばしてたのにさ。今じゃこの有様だよ」

 

 その言葉を聞いて、嬉しそうに隣に座ると甘えるように腕を組んできた。上目遣いが毒のように俺の理性を溶かしていく。いかんいかん、清楚清楚。

 

「私も責任取りますから。朔さんもちゃんと責任、取ってくださいね?」

 

 氷織は多分、客観的に見れば俺が思い描いていた清楚なお姉さんには程遠い。

 案外むっつりスケベで、結構抜けた所があって、そもそも歳下だ。

 まあそんな事を言ったら俺だって清楚なお兄さんとは言い難いか。

 

 けどそれでも良いか、と思えてしまうのは。

 

 夜家がいつか言っていた「恋や愛は理屈じゃないんだよ」という台詞を思い出す。

 

「柊木朔は清楚でなくていい、か」

 

 変な話だが、そう口に出すとなんだか少し肩の荷が下りたような気がした。

 ずっと俺の指針ではあったし、挫けそうになる度に「清楚であれ」と奮い立たせてくれたが。ある意味、俺を意固地にし続けたものでもあった。

 呪いとまでは言わないが、こんな俺にはちょっと重過ぎた荷物だったのかもしれない。

 

 よく考えてみれば「清楚なお兄さんは女性に靡かない」なんてのも無意識の内の方便だったのかもしれないし。

 そう言ってれば、少なくとも田舎のしがらみや、俺をトロフィーや愛玩動物として見る女性達の視線から目を背ける事ができる。

 清楚を演じていれば、不躾で悪趣味で傲慢な好意に本当の俺は晒されずに済む。

 

「何か言いました?」

 

「なんでもないよ」

 

 けれど、気付いた。

 どれだけ取り繕おうとも結局俺は俺だし、氷織は氷織で。

 俺が、氷織を清楚なお姉さんとは思えなくても好きになってしまったのと同じように。

 氷織が俺の事を好きでいてくれたのは多分上辺だけの清楚だとかそんなんじゃなく、もっと根っこの方の何かだから。

 

 目指す事が悪い訳ではない。

 でも、俺は俺のままでもいいんだ。

 ぶっきらぼうで、口が悪く、色んな事を迷って、よく間違える。

 そんな俺でも多分、氷織は構わないんだ。

 

 

 

 

「あ、そうだ。ご飯食べたあとお風呂、先頂いてもいいですか?朔さんの後ってなんか緊張しちゃいそうなので」

 

 そんな事をしれっと言うもんだから思わず怪訝な顔をする。

 

「いや、飯食ったら帰るんだろ?」

 

 その言葉に、氷織はきょとんと首を傾げた。

 

「何のためにあんなキャリーバッグ持って歩いてたと思ってるんですか。お泊まりセットですよ、これ」

 

 そう言いながら玄関に置いていたキャリーバッグを開ける。確かにパジャマやら何やらが一式入っていた。なるほど、なるほどね。

 クソデカい溜息を吐く。

 

「二度と自分の事を清楚って言うなよ、エロガキ。布団一つしかないっつってんだろ」

 

「あ……いや、べ、別にそんなつもりじゃないですけど!?まあ、その、吝かでもないですけど……」

 

 自分が言っている事に気が付いたのか、顔を真っ赤にしながらぶんぶんと手を振る。

 未成年に手を出すのはこう、俺の倫理観が許さない。16歳だぞ、16歳。

 と言いつつも最近はその強固な決意もぐらつきつつある。変化ってのは、本当に良くも悪くもだ。

 20歳……いや妥協して18歳……脳内で「戦国時代だったら16歳とか普通普通!」「据膳食わぬは男の恥!」と悪魔が騒ぐ。

 バカが。ここは戦国時代じゃないし、そういう価値観でもない。

 

「大体お前、あの時『朝から晩まで』っつったろ。夕飯食ったらタクシー呼ぶからな」

 

「じゃあやっぱり朝から翌朝にしてください!大体これから一緒に住もうね、って話をしたのにお泊まりは駄目って酷いじゃないですか!ずっと我慢してたのに、やだやだやだ!朝まで一緒に映画見たりしたいの!」

 

 本当にとんだワガママ娘だ。出会った頃のおどおどとした魔法少女はどこへ行ったのやら。

 

「それとこれとは話が別なんだよ、飯食ったら今日は解散!」

 

 床でもいいですからと駄々をこねていた氷織は、意を決したように拳を握り締めて真っ直ぐ俺の目を見つめた。一体何を言い出す気なんだ、と身構える。

 

 

 

 

 

「……わ、私!世界を救った魔法少女なんですよ!?」

 

「それで?……おい、逆見さん呼ぼうとするな!あの人も困るだろうが!」

 

 

 

 

 どうしようもない世界に、そんな下らない一日を積み重ねながら。

 それでも日々は続いてゆく。

 

 

 

 





という訳で完結&匿名解除〜
僕が好きな小説の一節に「成就した恋ほど語るに値しないものはない」ってのがあるんですが、それはそれとしてここまでぶんぶん振り回してきた読者の皆様方に何のお礼もないのは些か失礼だと思いますのでこの後を掌編でいくつか投げたいなあとは考えています。

ぐだぐだとした後書きは活動報告にて、悪魔によりアンケートが開かれているので良かったらメイクユアチョイスしてくれよな!
最後だし感想も全部返そうと思うので、ばしばし感想評価お気に入り推薦送ってくれよながはは

ここまでのお付き合い、ありがとうございました!



R18後日談いる?

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