【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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私の特別で、なんでもない一日

 

 

 卒業式は、どうという事もなかった。

 卒業生代表の挨拶だとか、校長先生のお話だとか、何だったら少し眠かったくらい。

 

 私の高校生としての最後の1日は、そんな風に特にこれといったドラマも事件もなく、ただ穏やかに流れていった。

 妄獣が乱入するような事もなく、魔法少女ではない一人の高校生として。

 

 クラスメイト越しに見える窓の外の景色は、淡い桜で彩られていた。

 真ん中の列の、後ろから2番目。そこが私の席だった。

 本当に良いお天気で、日向ぼっこでもしたら気持ち良いんだろうなあ。そんな事をぼんやりと考える。

 ホームルームもこれで最後かと思うとなんだか感慨深い。

 

「守名。最後によそ見とは良い度胸をしているね?」

 

「はっ、はい! すみません!」

 

 あらぬ方向を見ていた私を窘めた後、先生はやれやれと柔らかく微笑んだ。

 

 高校生活もあっという間だった気がする。

 実際、2年しか通っていなかったから他の人よりは短いけれど。

 1年生を丸々サボってしまったようなものなのに卒業できちゃうのは、否が応でも私達がどれほど優遇されているのかよく分かってしまう。

 

 本当に、皆と一緒に笑いながら卒業を喜ぶ資格が自分にあるのだろうかと。

 そんな罪悪感が、ちくりと胸を刺した。

 私が、そんな"普通"を享受していいのかと。

 

「怒られちゃったね」

 

 そんな私を、隣の席に座る友達がくすくすと笑いながらつついてくる。

 

 あの"完全な顔付き"に対して切った啖呵は、皆が私達(魔法少女)に向ける視線を少しだけ変えた。

 私からしてみれば生き恥を全国に大公開という感じだったから、ニュースや動画サイトでその映像が流れる度にベッドの上でじたばたと暴れていたけれど。

 

 魔法少女も私達と変わらないただの人間なんだ、と分かってもらえたらしい。

 恋をして、好きな人と……そういう事をしたいなと思ってて。痛い物は痛くて、傷付けられれば赤い血が流れて。

 超人なんかじゃなくて、どうにもならない事も沢山あって、弱音を吐きたくなるような日もあって。

 魔法少女もそんな普通の人間なんだ、と。

 

 それからは遠巻きにするでもなく、かといって擦り寄る訳でもなく。

 よそ見をしていたら怒ってくれるし、それを茶化してくれるようになった。

 ある意味では、あのおかしな妄獣が私を普通の女子高生にしてくれたのかもしれない。そんな事、他の人には口が裂けても言えないけれど。

 

 

 

 もし私の人生がお話として書かれるとしたら、この高校で過ごした2年間は本当に他愛のない物で。

 魔法少女としての日々に比べれば、なんて事のなかった高校生としてのこの毎日にページを割く事はないのかもしれない。

 

 騒がれずに私の文化祭の出し物を見るために、朔さんが夜家さんに丸め込まれて女装してやってきたり。すぐバレてたけど。

 修学旅行の時に、私の初めての遠出だからって舞ちゃんが心配してこっそり後をつけてきてたり。すぐバレてたけど。

 

 初めて友達と買い食いをして帰った時、調子に乗っちゃって晩ご飯が入らなくなったから朔さんに怒られた事もあったなあ。

 部活も、私の身体能力で運動部に入るのは良くないから文化系で色々探したっけ。何かを作るという事に惹かれて美術部に入ったけど、最後まで全然上手くならなかった。でも、楽しかった。

 

 上手くいかなかった事も、悔しくて涙が出た事もあったけれど。

 

 本当に楽しかったなあ、全部。

 

 ずっと前に朔さんが言ってたっけ。人生には思い通りにならない事が少しあるくらいの方が面白い、って。

 そうかもしれない、と少しだけ思えるようになった。

 

 そんな日々を思い返していると、後ろめたさはいつの間にか消えていて。

 私は確かに、魔法少女である前に一人の女子高生だった。

 それも今日でおしまいなのは寂しいけれど、悪くない気分。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 呆気なくホームルームが終わると、皆集まって写真を撮り始めた。

 私もその勢いに流されるようにして、誘われるまま何枚もの写真に写る。別れを惜しむような、どこかお祭りにも似た浮ついた空気が嫌いではなかった。

 

 めでたく私は志望校、朔さんが通っていた大学に合格できた。

 あの人は留年する事もなく就職もあっさり決めちゃったから、一緒に通う事は残念ながら出来ないけど。

 私からしてみれば朔さんは歳上でとても頼りになる大人だったけど、他の人から見ればまだ学生でしかなかった事に今更ながら気付く。

 もし私が初めて出会った時の朔さんと同じ歳になっても、彼みたいになれる気はしない。

 

 今日の卒業式に朔さんと舞ちゃんが来てくれるのは聞いていて、多分校内のどこかで私を待っている。

 逆見さんは新しい魔法少女候補の事で色々あるらしく、昼は来られないかもしれないって言ってたっけ。少し……寂しいな。

 

「ひおりんは夜までどうするの?」

 

 人でごった返している廊下で、友達にそう尋ねられた。

 夜はクラスの皆でご飯を食べに行く事になっている。朔さん達はせっかく集まったんだから、と三人で飲みに行くらしい。

 大人の時間、という物にまだ混ざれない自分が少し歯痒い。

 

「とりあえずはちょっと……人探しかな」

 

「あ、噂の朔さんでしょ? 私も見たいな〜、愛しの朔さん」

 

「もう、見るだけだからね?」

 

 そう言いながら当てもなく歩き出したけれど、二人がいる場所は大体見当がついている。

 若い男性はただでさえ珍しいから目を引くのに、朔さんは顔が良いし。舞ちゃんは魔法少女を引退した今でもファンが多いから。

 校内で人だかりのある場所を探せばそこに二人がいるはず、という私の考えは当たっていた。

 

 中庭のベンチに腰掛けて座っている朔さんは、紺色のスーツ姿がよく似合っていた。

 卒業生や在校生だけならまだしも、生徒の母親達にまで遠巻きにされながらも、熱視線をぶつけられている。肝心の本人はそれを意にも介さないまま、隣の舞ちゃんと何か話しているけど。

 

「逆見さんは夜には来られるんだっけ。今日は死ぬほど飲んじゃうか、氷織のめでたい日だしな」

 

「あんたお酒弱いんだから調子乗らないでよ、この前みたいにひーちゃんに迷惑掛けたら許さないから。それより喉枯れてるけど、大丈夫なの?」

 

「弱くねえよ、お前の肝臓がイカれてんだよ。まあ……ちょっと風邪気味でさ」

 

「ふーん」

 

「クソガキ〜、お前本当に可愛気ねえな。『お大事に』くらい言ってみろ」

 

「だってあんたのそれ、風邪じゃないでしょ。声の出し過ぎ……カラオケとか? あとバカは風邪を引かないって言うじゃない」

 

「あぁ!?」

 

「飲み過ぎでひーちゃんにおんぶされて帰る奴はどう考えてもバカでしょ」

 

 遠くからでも耳に入ってくるそんな会話に、聞こえない振りをしながら二人の所に歩いていく。

 

 少し前に舞ちゃんの成人祝いで、私と朔さんと舞ちゃんの三人で食事に行った事があって。

 舞ちゃんが朔さんを煽って、朔さんもやめておけばいいのに「こんなクソガキに負けてられるか」って言いながら飲み比べなんかしちゃったから。

 解毒だってできちゃう魔法少女に勝てる訳ないのに。

 でも酔い潰れた朔さんはふにゃふにゃして可愛かったから、私も飲めるようになったら潰しちゃおうかな。

 

 私に気が付いたのか、朔さんは軽く片手を上げた。

 

「お疲れ、世話になった先生にもちゃんとお礼言いに行ったか?」

 

 やっぱり朔さんはお母さんみたいだなあ、なんてくだらない事を考えちゃう。

 

「まだなので、この後行こうかなって。あの……友達を紹介してもいいですか」

 

「ああ、よくお前の話に出てくる子か」

 

 若い男の人と話す機会もあまりないからか、隣に立つ友達はどぎまぎとしている。

 朔さんはそれを見て少し考えた後、よそ行きの爽やかな笑みを浮かべた。

 

「初めまして、柊木朔です。氷織がいつもお世話になってます」

 

「あっ、今日は清楚禁止って言ったじゃないですか!」

 

「お前の友達に失礼な態度取れないだろ」

 

 あれだけ朝に散々「勘違いさせちゃうから、今日は誰に対しても清楚禁止ですよ」って言ったのに。

 

 案の定「爽やかでいいね……でも清楚って何?」と耳打ちしてくる友達に焦りながら、朔さんを「あっちの人がいない方に行っててください!」と追いやる。

 彼が面倒臭そうに歩き出すのを見送ると、改めて念を押す。

 

「だ、駄目だからね! 朔さんは私のなんだから!」

 

「取れる訳ないじゃん、あんな公開告白するくらい熱々なのに」

 

「その話はやーめーて! もう1年以上前の事でしょ!」

 

 それを聞いて舞ちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 やっぱり舞ちゃんは朔さんの事が気に入らないらしいけど、その割には結構仲が良さそうに見える。

 朔さんも「あれくらいきゃんきゃん噛み付いてくる女も中々いないよな」って面白そうにしてるし。

 

 

 舞ちゃんは去年、めでたく魔法少女を五体満足で無事に卒業する事ができた。今は私よりも一足早く大学生をやっている。

 お酒も飲んだりしてるし、大人のお姉さんって感じがして私も早く追い付きたいな。

 

「あいつは気に入らないけど、かと言ってひーちゃんにあいつ以外の男がくっつく方がもっと気に入らないしね。もし浮気なんかされたらすぐに言ってよね、半殺しにしてあげるから」

 

「大丈夫だよ、朔さんは私の事大好きだもん」

 

「……それもそうね。あーあ、ここまでひーちゃんに自信つけさせるなんてね」

 

 朔さんが他の女の子にいくら熱い視線をぶつけられてても、まあいいもん。結局、朔さんは私の事が一番大事だから。

 

「それにしてもひーちゃんが高校卒業って、月日が経つのは早いね」

 

 自分も2歳しか変わらないのに、遠い目でそう懐かしんでいた。

 

「私が今のひーちゃんくらいの時は……」

 

 そう言いかけて、舞ちゃんは口を噤んでしまった。

 朔さんに嫉妬して、酷い事をしようとして、私に拒絶されて。そんな事もあったっけ。

 

 でも。

 

「私は舞ちゃんのこと大好きだよ。だって初めての友達で、それで……」

 

 いつもなら、こそばゆくてこんな事言えないけれど。

 朔さんと出会う前も。朔さんと離れ離れになった時も。

 逆見さんと舞ちゃんだけは、何があっても側にいてくれた。

 

 後から聞いたけど、私が"完全な顔付き"に追い込まれていたのを見て多くの魔法少女は戦意を折られかけていたらしい。

 けど舞ちゃんだけは「ひーちゃんが負ける訳ない」って私を信じて、他の子を励ましながらずっと戦い続けてくれたって。

 人間だから、良い所も悪い所も勿論ある。それを全部踏まえた上で、私にとって舞ちゃんは。

 

「その、大好きなお姉ちゃんだから」

 

 そう言った途端、彼女は固まってしまって。

 

「あれ……舞ちゃん……?」

 

 ぽろぽろ泣きながら「ひーちゃん〜」と抱きついてくるから、慌ててそれを抱きとめる。その様子はまるで子供みたいで。

 お酒が飲めるようになっても、煙草が吸えるようになっても。

 きっと、皆大人のふりをした子供なんだと分かると少し気が楽になる。朔さんは大人のふりがとても上手だったんだなあ、と愛おしく思った。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 なんとなくまだ解散するのも惜しくて、友達と他愛もない話を続けていると。

 

「すまない氷織、遅くなった。卒業おめでとう」

 

 ずっと私を走って探していたのか、逆見さんが肩で息をしながら額の汗を拭っている。

 

「ありがとうございます……無理しなくても良かったのに」

 

 本当は嬉しくて仕方ないのに、なんだか照れ臭くて、恥ずかしくて。

 逆見さんに対して思ってもいない事が、つい口を出てしまう。

 最近よくそんな事があって、朔さんに相談したら「遅めの反抗期じゃないか」って言われてしまった。

 

 私が魔法少女を卒業したら、逆見さんはまた別の子を担当する事になる。それはそうなんだけど、その事を考えるとなんだかもやもやとした気持ちが抑えられない。

 ずっと側にいてくれた逆見さんが、他の子のお世話をする事への……寂しさというか、嫉妬というか。

 こんな私が舞ちゃんにやいのやいの言う資格なんてやっぱりないや、と苦笑いしてしまう。

 

 本当は次の魔法少女なんて関係なしに私を優先してほしかった。そしてそれ以上に、遅くなっても来てくれた事がとても嬉しかった。

 でもそんな事言ったら困らせちゃうから、胸にそっと秘めておく。

 

 私がもやもやとしたこの気持ちを抱えているのは、きっと逆見さんが大好きだから。だから、この気持ちもちゃんと大切にしてあげたい。

 

 ワガママは言ってもいいけれど、言わなくても勿論いい。

 私のこの気持ちは、私だけのものだから。笑って飲み下せるようになるまで、大事に取っておこう。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 校門では卒業式の立看板を背景に、生徒が入れ替わり立ち替わり家族で集合写真を撮っていた。

 

 それを見て「羨ましいなあ」と思ってしまった。

 あれだけは私が何をどう頑張ったって、撮る事ができないから。

 私が魔法少女でいる事で守れたその光景に、寂しさにも似た安堵と少しの羨望を覚えた。

 その眼差しに気付いたのか、隣にいる友達がとんとん、と私の肩を叩く。

 

「ねえ、ひおりん。撮ってあげるからさ、呼んできなよ」

 

 彼女が今日の店をどこにするか相談している三人を指し示して、私にウインクする。

 そうだった。私には、お父さんやお母さんはいないけれど。

 

「うん。ありがとう、お願いするね」

 

 小走りで駆け寄りながら、三人に声を掛ける。

 

「私達も写真撮りましょう、ほら早く早く」

 

「ひ、氷織!? 私が写っていいのか?」

 

 何故か躊躇っているような逆見さんの手を握ると、ちょうど撮影場所が空いた。

 

「ほら、逆見さんは早く氷織の隣に立ってくださいよ。さっさと済まさないと後つかえてるんで」

 

「クソ眼鏡、あんた背は高いんだから後ろに行きなさいよ」

 

 くすくす笑っている友達にスマホを渡して、やいのやいの言っている3人を引っ張っていく。

 

 寂しい事なんて、もう何もない。

 私にも家族と同じくらい、大切な人達がいるから。

 

 

 

 

 

 




豪華二本立てにしてたらすっかり遅くなってしまいました(すっとぼけ)
朔の声がなぜ枯れているのかについてや氷織が合格した時の話を読みたい方は、皆さんR18検索で[貞操逆転世界 魔法少女]と調べておられますね(カスの三店方式)
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