【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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愛しき魔法少女に乾杯を

 

 

 

 シャンパングラスを傾けながら、高層ビルからの景色を窓越しに眺めていた。

 眼下に広がる夜景の一つ一つに、人の営みがある。

 それを守るのが魔法少女だとするならば。目の前で落ち着かない様子の彼女は、やっとその灯りの一つに混ざれるようになったのだろう。

 

「な、なんか苦い……」

 

 逆見さんと同じ物を飲みたいんです、と言い張って食前酒にシャンパンを頼んだ氷織は早くもその選択を後悔しているようだった。

 こういった店にそもそも慣れていないのか、張った肩肘には緊張が透けて見える。

 

「……一緒に飲むのが私で良かったのか? 柊木君や、花城君ではなく」

 

「はい。お酒を飲めるようになったら、最初はまず逆見さんと一緒にって決めてたから」

 

 氷織の言葉に何とも言えないこそばゆさを覚えたが、顔に出さないよう努めた。

 顔に差す紅色を酔いのせいだと言えるほど、まだ飲んでいない。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 氷織にとって20歳の誕生日。

 それは魔法少女アイシスリリィとしての幕を降ろす日でもある。

 

 仰々しいセレモニー(引退式)には多くの人が集まり、氷織の功績を賛えた。

 "完全な顔付き"の討伐、13位としての元魔法少女の取り締まり、そして現行の魔法少女制度への問題提起。

 

 15歳になる前の氷織を知る者からすれば、本当に見違えるほど強くたくましくなった。

 皆が彼女の引退を惜しむ様を、私は舞台裏から見守っていた。

 両親からの愛すら貰えず、ただ自分の存在証明の為に妄獣を狩っていた氷織が多くの人々に愛される姿を。

 

 

 

 氷織の魔法少女としての最後の一日は、あまりにも呆気なかった。

「"顔付き"が出たら、セレモニー中でも私行きますからね」と意気込んでいた彼女を祝福するように、通常の妄獣すらこの近辺には発生しなかったのは僥倖だろう。

 何事もなく、和やかな雰囲気の中で式典は終わりを迎えた。

 

「良かったです、皆が普通の一日を過ごせて。今日はイブですからね、ヒーローは魔法少女じゃなくてサンタさんじゃないと」

 

 最後に見せ場を貰えなかった事に不平を漏らすでもなく、氷織は安心したようにそう笑っていた。

 

 

 

 世間はクリスマスイブで、氷織も柊木君と夜を過ごすのだろう。

 このセレモニーが終われば、私と氷織の関係も終わるのは分かっていたのに。

 多くの言葉を準備していた。けれどいざその時が来ると、彼女に何を言えばいいか分からなかった。

 

「……元気でな。風邪を引かないように、柊木君と仲良くするんだぞ」

 

 結局、そんな当たり障りのない事しか言えない自分に嫌気が差す。

 まあ、変な事を口走るよりは余程良い。そう踵を返そうとした時。

 

「あの、最後だから。一緒にご飯を食べませんか?」

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

「運転してない逆見さんが隣に座ってるのって、なんだか不思議ですね」

 

「魔法少女付きは小回りが利かないとやってられないからな、自分で運転した方が手っ取り早い。なんだ、暇ならしりとりでもするか?」

 

「ふふ、じゃありんごで」

 

 ハイヤーの中で、そんな下らない会話に花を咲かせる。

 

 

 

 

 

「私が引退って事は、逆見さんにとっては1つ肩の荷が下りた事になりますよね。2人でお疲れ様会、したいなあって」

 

 そう言って氷織に連れて来られたのは、高層ビルに入っているレストランだった。

「自分で電話して予約したんですよ」と誇らしげに語っていた彼女は店の雰囲気に呑まれたのか、席についた時には小さく縮こまっていた。

 

「朔さんと一緒にネットで色々調べてきたんですけど、えっと、ナプキンは二つに折って膝の上に乗せて……」

 

 周囲に他の客はいない。きっと落ち着いて食事をする為に氷織がわざわざ貸し切ったのだろう。

 

「貸切なんだろう? 私だけなら気にしなくていいが……」

 

 そこまで言って、口を噤む。自分が氷織に掛けてやるべき言葉は、それではない。

 

「カトラリーは外側から使うんだぞ」

 

「カ、カト……?」

 

「ナイフやフォークだ」

 

 おっかなびっくり手に取って確かめてみる様子はまだまだ子供だ。

 もう何かを教えてやれる機会なんてないと思うと、ついそんな事を口走ってしまう。

 店に任せたワインがグラスに注がれる様を、氷織はきらきらとした目で眺めていた。

 

「こういう時って、乾杯するんですよね。なんて言うんですっけ……『○○に乾杯』みたいな感じですか?」

 

 映画の見過ぎじゃないか、と少し心配になるが付き合ってやれるのも今日だけだ。

 

「それなら、私は魔法少女アイシスリリィに」

 

「えーとえーと、それじゃ私は一番の功労者の逆見さんに。乾杯!」

 

 軽くグラスを掲げてワインに口を付けた後、一言訂正しておく。

 

「気持ちは有り難いが、功労者は柊木君だろう」

 

「渋い……」と言いながら顔を顰める氷織が首を振る。

 

「いやいや、そもそも今の私達があるのって逆見さんがいたからですよ」

 

 そうだろうか、と思わず首を傾げる。

 

「だって当の朔さんが『あの時逆見さんがしつこく食い下がってこなかったら、多分今の俺達はないよな』って言ってるんですから」

 

 氷織に付き添って、彼の説得に向かった時の事を思い出す。まあ、確かにそう言われればそうかもしれない。あれから随分時間が経った。

 高校生だった氷織は成人し、まだ少しあどけなさの残る青年だった柊木君は社会人として働いている。

 

「それは私の、唯一誇れる仕事だな」

 

 自分でそう呟いた後、違和感を覚える。そんな事、言うつもりはなかった。

 

「唯一って、そんな事ないですよ」

 

「……分からないよ」

 

「分からないって、何がですか」

 

 余計な事を言うな、と理性が叫んでいる。

 今日が最後なんだ。恙無く一日を終えればいいだけだ。

 

「私が氷織の担当で、本当に良かったのか分からない。もっと経験を積んだベテランや、何事にも動じない優秀な人間がお前に付いていたなら……」

 

 普段あまり嗜む事のない酒に口が滑ったのか。

 

「自分が氷織の10年間を預かるに足る人間だったか、分からないんだ」

 

 その言葉を聞いて、氷織は怪訝そうな顔をした。それを見て、今口に出してしまった事を後悔する。

 

「すまない、忘れてくれ。祝いの席なのに下らない事を言った」

 

 多分、不安なのだと自身を嗤った。

 慣れ親しんだ氷織と別れて、また新たな魔法少女と一から関係を築いていく。

 1回目(氷織の時)はただがむしゃらに突っ走ってきた。けれど、それが正解なのかどうか最後まで分からなかった。

 

 なら、2回目は? 

 氷織が魔法少女として大成したのは自分の力ではない。次の魔法少女を、彼女のように強く育ててやれるだろうか。

 そもそもそんな事を考えてしまう事自体が、氷織にとってあまりにも失礼だろう。魔法少女付きどころか、人間として未熟だ。

 

「うん、美味い。良い店を選んだな」

 

 忘れよう。今日をもって、自分と氷織は赤の他人となる。

 運ばれてくる料理に口を付けながら、彼女の魔法少女付きとしての最後の夜をただ楽しむ事に決めた。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 魔法少女付きは20代前半の女性がその大半を占めている。

 育成期間も含めれば10年以上同じ魔法少女に付き添う事を考えると、年を取った者よりは適しているというのが理由の1つだ。

 男性を魔法少女付きとして運用した事もあったが、極めて強い依存や任期中の妊娠といったデメリットの方が大きい。

 

 ただ現実的には、もっと切実な問題がある。

 任期を終えた魔法少女付きのほとんどが、新しい魔法少女を迎える事を良しとしない事だ。

 

 365日24時間。

 いつでも魔法少女の要請があれば駆け付けて、その要望を叶えてやらなければならないという激務。

 不安定な年頃である彼女達を宥めすかしながら、危険な妄獣と戦わせる事で削られていく倫理観。

 

 世間からの尊敬を受け、一般人とは一線を画すような報酬を得られたとしても割に合わないと感じる者がほとんどだった。

 

 

 私は妄獣によって幼い頃に両親を亡くしている。

 それで自身が魔法少女である事を強く願ったが、それは叶わなかった。

 故に血の滲むような努力の果てに、魔法少女付きとしての地位を手に入れた。

 

 

 私は使命に燃えていた。

 国家の剣である魔法少女を徹底的に管理し、憎き妄獣を殲滅し、自分と同じような境遇の子を一人でも減らすのだと。

 

 

 まだ幼い氷織と出会うまでは。

 

 

 

 養護施設で自分が今後担当する事になる魔法少女と初めて出会った時、私が持っていた憎しみにも似た使命感は音も無くへし折れた。

 

「かみな、ひおりです」

 

 その声はあまりにか細く、手足は華奢で。

 こんな子供に、大人がなすすべ無く嬲り殺される妄獣と戦わせるのか。

 

 そう思ってしまった。

 私は魔法少女付きとして、あまりにも才能がなかった。

 

 

 

 犬にすらなれなかった、というのが自分に下した評価だった。

 本音を言うなら、氷織に戦ってほしくはなかった。いくら彼女の魔法が優れていたとしても、それを引き出す欲望があまりにも希薄過ぎたから。

 そんな有様で他の魔法少女と同じように妄獣と戦っていれば、いつか取り返しのつかない傷を負う。

 

 けれど、氷織が魔法少女である事を自身の存在価値としているのも分かっていた。

 戦うな、とは口が裂けても言えない。そもそも氷織がその義務を放棄すれば、私が責めを負う。それを優しい彼女は良しとしないだろう。

 

 

 

 魔法少女は自身が望む物のほとんどを際限なく手に入れられる。

 命を懸けて戦う彼女達にできる、私達のせめてもの労い。

 

 それとは別に魔法少女付きが彼女達に必要だと思った物を購入する際には、不正を防ぐ為に申請が義務付けられている。

 本来であるならばまだ小学生である氷織に、させてやりたい事は山のようにあった。

 

 

 まだ氷織と出会ってそんなに日も経たない頃、彼女が上手く箸を持てない事に気が付いた。かなり遅いかもしれないが、まだ間に合わない事はないだろう。少なくともやらないよりマシだ、と急いで申請した。

 

「箸の矯正セット、これは?」

 

「氷織……アイシスリリィがまだ上手く使えないようなので。今後学生生活を送る事も視野に入れるなら、必要かと」

 

 上司は呆れたような表情を見せながら、申請書を突き返してきた。

 

「やめておけ。魔法少女のプライドを下手に刺激するな、別に日常生活に支障はないだろう」

 

「いや、ですが……」

 

「子供はすぐへそを曲げるからな。君もこうはなりたくないだろう」

 

 上司はそう言って、自らの顔を指差した。

 右半分が爛れたようになっているその傷は、彼女が魔法少女付きの時に付けられた物だと聞いている。

 

「箸の使い方が変だと魔法少女を嘲笑う者がいるなら、そいつに落とし前をつけさせろ。私達がババを引く事はない」

 

 彼女のスタンスが間違っているとは、思わなかった。

 魔法少女の機嫌を損ねた魔法少女付きは、碌な結末を迎えられない。

 

「魔法少女に教養も愛嬌もいらない。彼女達は、ただ在るだけで愛される」

 

 でも。

 

 柊木君が氷織に箸の正しい持ち方を根気強く教えていたのを見た時、後悔した。あの時、保身に走るのではなく自分がそうしてやるべきだったのに。

 

 

 

 

 私はいつだってそうだ。

 

 氷織が中学校に行けなくなった時も。

 花城君に嫉妬して、柊木君を傷付けそうになった時も。

 元魔法少女によって二人が引き裂かれた時も。

 

 氷織が本当に苦しんでいる時に、私は何もしてやれなかった。

 そんな私が、また次の魔法少女を育ててやれるだろうか。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 食後のコーヒーを飲み終え、もう店に残る必要もない。

 ただ何となく名残惜しくて、席を立つ気にはなれなかった。

 氷織も同じ気持ちなのだろうか、と視線を向けた時に目が合った。その瞬間、勢い良く彼女が立ち上がる。

 

「やっぱりさっきの納得行かないです。なんであんな事言うんですか」

 

 その目に燃えていたのは……憤怒だった。

 

「勿論、朔さんがいたから今の私がありますけど。でも私のそれまでを支えてくれたのは、逆見さんなのに」

 

「いや、私がしてやれた事なんて本当に大した───」

 

 話している途中の私を、氷織が手で遮る。

 

「逆見さんを悪く言う人は、誰だろうと許しません。それが逆見さん自身でも、です」

 

 氷織が怒りを露わにしている所を見るのは、初めてではない。

 柊木君が元魔法少女に傷付けられた時もそうだった。

 そして今回もそうだ。いつだって氷織は、自分ではない誰かの為に怒る。

 不機嫌そうに腕を組んだまま、彼女が私に向かって言い放つ。

 

「私ね。生まれ変わって、また魔法少女になったとしても。逆見さんに付いてもらいたいな」

 

 その言葉に、ぽかんと口を開けた。

 

「私もこんな事言うつもりなかったんです、だって仕方ないでしょ。でも逆見さんがそんな事言っちゃうから、私だって遠慮しません。今からワガママを言います」

 

 初めての事にパニックになりかける。

 氷織がワガママなんてそんな、したい事も今まで碌に言わなかったのに。

 

「私が魔法少女じゃなくなったら……逆見さんは私の知らない誰かに、私にしてくれたように、同じように優しくするでしょう? そうですよね、仕事ですから」

 

 氷織は大きく息を吸い込み、店中に響き渡るような大声で叫んだ。

 

「やだ!!」

 

 氷織がそんな稚拙な癇癪を起こす所を、初めて見た。

 

「や、やだ……?」

 

 呆気に取られる私を見て、彼女が目を潤ませる。

 

「嫌だなあ……こんな事を思っちゃう自分も本当に嫌なのに。お酒が飲めるようになったって、私……ちっとも大人になれた気がしない」

 

 ぽろぽろと子供のように涙を溢しながら、席を立って私の肩へ縋り付くように顔を埋めた。

 

「……ずっと私の側にいてよ」

 

 自分の中に渦巻く感情が、やっと何か分かった気がする。それは断じて不安などではなかった。

 

 

 私も氷織も、寂しいのだ。

 

 

「……氷織。私は所詮、ただの魔法少女付きだよ。それもお前が苦しんでいる時に何もできなかった、出来の悪い魔法少女付きだ」

 

「でも、誕生日は一緒にいてくれたじゃないですか。仕事に関係ないのにドライブにも連れてってくれたし」

 

「そんな、そんな事……当然だろう」

 

 両親から祝福されなくとも、一人くらいはただ氷織を祝ってやるべきだと思っていたから。

 氷織の誕生日には必ず仕事に休みを入れて、ただ一緒にいた。気が滅入るだろうから、外にドライブに連れ出してもみた。

 あまり楽しそうではなく、寧ろ寂しそうに街を歩く家族連れを眺めてはいたが。

 

「中学校の授業参観だって、来てくれたもん。嬉しかった」

 

 1度だけだがカメラを持って行った事を覚えている。

 そんなに気合の入った人間は私しかいなくて驚いたが。氷織もどことなく居心地悪そうにしていたし。

 

「……本当は高校の授業参観にも行きたかったんだぞ」

 

「嫌ですよ、恥ずかしいから」

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 落ち着きを取り戻した氷織は、少し恥ずかしそうになりながら席に戻った。

 

「私、逆見さんにいい子だって思われたかったから。心配掛けたくなかったから、色々黙ってた事もあったけど」

 

 本当に氷織は優し過ぎる。この子を歳相応の子供として過ごさせてやれなかった事に、つくづく後悔が募る。

 

「でも本当は、全部言った方が良かったのかな。今更遅いなあ……」

 

「お前は何も悪くないよ。気付けなかった私の問題だ」

 

 俯く氷織を見て、以前花城君に言われた事を思い出した。

 

 

────ひーちゃんって、逆見ちゃんにそっくりだよね。親子なんじゃない? って思うくらいに。

 

 

 どこがそっくりなのか、と問うと彼女はにやりと笑った。

 

 

────動揺し過ぎだって。うーん……不器用な所? 

 

 

 今ならそうかもしれない、と胸を張って言える。

 

「悪いが、お前の最後のワガママは聞いてやれない」

 

「はい。ワガママは言っても言わなくてもいいし、聞いても聞かなくてもいいですから」

 

 諭すようにそう言うと、晴れやかな顔で氷織は涙を拭った。

 柊木君の言いそうな事だな、と笑いながら彼女の頭を慈しむように撫でる。

 

「大学の入学式も一緒に写真を撮ったな。卒業式の時も呼んでくれ、時間を作って必ず行く」

 

 柊木君と出会う前は、誕生日に二人で一緒にケーキを食べた。甘い物はあまり得意じゃなかったが、そうすると氷織が喜んでくれるから。

 

「お祝い事や嬉しい事があれば連絡してくれ、一緒に喜びたいから」

 

 中学校の入学式で撮った写真を、お守りのように財布に入れている。本当に、随分背が伸びた。

 

「別に何もなくたって、悲しい事があったり寂しくなった時に電話してくれて構わない。私には全然苦ではない」

 

 氷織がおどおどしながらも「"施設"を出て引っ越したい」と言った時、本当に嬉しかったんだ。

 恥ずかしそうに顔を赤くしながら「気になる人がいる」と打ち明けてくれた事が、自分の人生の中で何よりも。

 

「お前に子供ができても、おばあちゃんになっても、たとえ私が死んだとしても。それでも氷織の事をずっと大切に思っている」

 

 私達には言葉が足りなかった。

 言っても仕方ない、と。相手に負担をかけてしまう、と。

 だから、今言うべきだ。言わなければならない事は、全て言うべきだ。

 

「成人おめでとう、氷織。生きていてくれてありがとう」

 

 もっともっと、沢山色んな事を教えてやるべきだった。叱ってやるべきだった。

 それでも氷織が、また私を選んでくれると言うのなら。きっと私の辿ってきた道は正しいとは言えなくても、間違ってなどいなかった。

 

「魔法少女でいてくれて。そして魔法少女をやめてくれて、ありがとう」

 

 ああ、私は確かに彼女を愛していたのだ。

 子供が大人になるほどの年月を経て、やっとそんな簡単な事に気付けた。

 

 やはり自分は犬にはなれない。

 でも、それでいい。そんな自分を、少しだけ誇らしく思えた。

 

「泣いてもいいよ、氷織。お前はこれからもずっと、私の愛しい魔法少女だから」

 

 娘などと口にする資格があるはずがない。

 それでも確かに愛しているのだと伝わるように、席を立って氷織を強く抱きしめた。

 

「私達は、ここから始まるんだ」

 

 ぎゅっと抱き返してくる腕は、ひんやりとしているのに温かい。

 

「ええ。また飲みに行きましょう」

 

 大人ぶってそう言う氷織の澄ました笑顔が、私の魔法少女付きとしての報酬だ。

 

 

 

 

 

 

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