【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#4「たった一つの冴えたやり方」

 

 

 

 

 

「一つ聞いてみるけどさ。ある日突然、魔法少女が隣に引っ越してきたなんて事があったらどう思う?」

 

 学食で唐揚げ定食に箸を付けながら、隣に座っている友人に何食わぬ顔でそんな事を聞いてみる。

 

「なんだよ、その男の妄想みたいな夢。とりあえずサイン貰いに行ってあわよくばお近付きになりたいよな、上手く行けばマジで玉の輿じゃんね」

 

 そう、玉の輿。

 あれから魔法少女について詳しく調べた所、任期を終えた彼女達にも毎月死ぬまで生活に困らないような額が振り込まれるらしい。

 まあ魔法とやらがどんな仕様になっているのか知らないが、20歳になった瞬間いきなり使えなくなるという事もあるまい。あくまで俺の予想ではあるが、そこをピークとして後は緩やかに消えていくのではないか。

 思春期特有の剥き出しな欲望ってやつが、彼女達の言うところの魔力になるんだろう。

 

 となると戦力として見るには心許ないが、一般人には想像もつかない異能を持った人間を「任期終了、はいさよなら」で放り出すのもリスクが高過ぎる。一度飼い始めたらちゃんと責任持って最後まで面倒を見ましょう、という事だろう。

 

 それが男からしてみれば地位も名声もあり、食いっぱぐれる事もない理想の妻になって頂ける訳だ。あまりに都合が良すぎる。

 

 

 

 

 

「そういえば今、課題で魔法少女が現代社会において与える影響について調べてるんですけど。例えば気になってる男の子がいるとするじゃないですか、その子が魔法少女と仲良くしてたらどう思います?」

 

 講義のグループワークを終えた後、一緒に組んでいた女性の知り合いにそう尋ねてみた。

 

「え、そう……だね……それはもう諦めるしかないよね……本当に諦めるしかなくて……」

 

 何かのトラウマを刺激してしまったのか、遠い目でどこかあらぬ所を見つめ始めた彼女をそっと置いて大講義室を出る。

 そりゃそんな特権持ちに、普通の女性達が抗おうなんて気がまず起きるはずもない。

 

 非常に不味い。

 今まで興味無かったからリサーチ不足だったが、俺が思っている以上に魔法少女というものは圧倒的に世間の尊敬を集めているらしい。

 となると、魔法少女が目を付けた物を欲しがるなんて世の女性達には考えも付かない。

 

 つまり俺の部屋の隣に住み始めたのが魔法少女で、尚且つ割と好感を抱かれているなんて知られた日には。

 

 今までやっとの思いで積み上げてきた女性からの「柊木くんって良いよね……礼儀正しくてなんか良い匂いして、ちょっと抜けた所もあって、でも私がチャレンジするには気後れしちゃうなぁ……」というような評判も崩れ去り。

 男連中からは「なんだよ朔の奴、清楚ぶってた癖に結局魔法少女に媚び売ってんじゃん」とか思われるに決まっている。

 

 

 

「どう転んでも、やっぱり俺のちやほや高嶺の花清楚なお兄さんライフが終わるじゃねえかよ……!」

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 守名氷織、15歳。

 またの名を魔法少女アイシスリリィとか言うらしい。

 魔法少女にはその異能を冠した二つ名が付くらしく、"氷雨"の魔法少女とも呼ばれている。

 

 今のところ現役で登録されている魔法少女は108人、知った時には煩悩と一緒じゃねえかと思わずツッコんだ。

 彼女はその序列(ランキング)で79位、お世辞にも高いとは言えない。まあ何を基準にしてるかも分からないし、それだけで何かを判断するには早計だろう。

 魔法少女にしては珍しくメディア等への露出を好まず、ネットに落ちてる情報もそんな所で落ち着いている。

 

 

 ここからは俺の所感。

 何かの縛りなのか、それとも単に無頓着なだけなのか知らないがいつも同じ高校の制服を着回している。

 魔法の影響なのか雪を思わせる白い肌に髪、目鼻立ちも整っていて人目を引く美少女と言って差し支えない。

 ただ本人は目立ちたくないのか、それとも気付いていないのか知らないが、あまり自分の容姿に好感を抱いてはいないようだけど。

 それがあの自信の無さに繋がっているのかもしれないが、別に俺の知ったこっちゃない。

 

 隣に越してきてから10日余りは経つが、高校に行ってる様子はなさそうだ。鞄を持っていく訳でもないし、平日の朝でも部屋から出てこない事もある。

 出かける事はそれなりにあるが、帰る時間はまちまちだし。

 

 たまに顔に傷を作って帰ってくる事もあるから、多分妄獣を探してはそいつらを倒してるんだろう。ちょうど、あの夜みたいに。

 たまに会った時にそれとなく聞いてみても「そ、それが仕事ですから……」としか言わないし。マジで楽しみとかあんのか、人生に。

 

 

 調べれば調べるほど、魔法少女としては異質だ。

 様々な特権を与えられているにも関わらず、それを大して行使しようともせず、ひたすら魔法少女の義務とも言える妄獣討伐に勤しんでいる。

 

 動画サイトなんかで討伐の様子をエンタメとして配信している魔法少女もいれば、その地位と名声を活用してモデル業なんかを満喫している子もいるくらいなのに、そんな華やかさの欠片もない。

 

 

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 夕方過ぎに大学から帰り、そろそろ夕飯でも考えようかと思い立った時。

 そう言えば、醤油を切らしていた事を思い出してしまった。

 まあちょうど良い、ついでにスーパーに買い出しに行こうと部屋を出ると、たまたま帰ってきた彼女と鉢合わせした。

 

「おう、おかえり」

 

「あぇ!?え、えーとその、ただいま、です……?」

 

「なんで疑問形なのさ」

 

 別にご近所さんと会った時にそれくらいの挨拶はするだろう。まあここまでざっくばらんにはしないけど。

 

「さ、朔さんは今からどこかへお出かけですか」

 

「ああ、醤油切らしちゃっててさ。夕飯の買い出しついでにちょっとそこのスーパーまで」

 

 そう答えて歩き去ろうとするが、背中に刺すような視線を感じる。

 

「なんか用?」

 

「あ、いや、他意はなくて、その、この辺の事まだそんなに知らないから、スーパーってどこにあるのかなって、えへ、えへへ……何でもないです……」

 

 下手くそか。

 まあ、ガキなりの精一杯な距離の詰め方なんだろう。今日の所は不問としてやる。

 

「そうなんだ。じゃ付いてくれば?」

 

 

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 見るからにウキウキといった表情を浮かべて隣を歩く氷織は年齢よりもずっと幼く見える。

 ガキ、という評価もあながち間違いではないだろう。

 若干呆れながらもスーパーの中を買い物かご片手に歩いていると、後ろから突然声をかけられた。

 

「あら、朔ちゃん。可愛い子連れてどうしたのよ……まさか彼女!?やあねえ、隅に置けないんだから」

 

「か、彼女!?えっと、私、その」

 

「朔ちゃんってこういう子がタイプだったのねえ」

 

 けらけらと笑う近所のおば様だが、その瞳に微かな落胆の色が映るのを俺の清楚アイは見逃さない。

 ぽんぽんと隣にいる氷織の頭を叩き、苦笑交じりにこう言い放った。

 

「親戚の子なんですよ、通学の関係で近くに引っ越してきたんで面倒見てるんです。それに仮に彼女だとして、僕じゃこの子に釣り合いませんよ」

 

 速やかに、にこやかな清楚スマイルを取って対応する。

 謙遜よし、爽やかよし、今日も完璧な清楚だ。

 

 

 安心したように去っていったおば様を見送り、そのまま鮮魚コーナーをぶらぶらと冷やかす。

 季節だし秋刀魚でも焼いちゃうか、でもちょっと高えんだよな。別に買えなくはないんだけど。

 

「あの、私出します!お、お金ならいっぱいあるので……あいた!?」

 

 俺が迷っているのを早合点したのか、ごそごそと財布を取り出そうとした彼女の脳天にチョップを入れ、秋刀魚を買い物かごに放り込む。

 勿論近くに人がいない事はリサーチ済である。

 

 

 

 買い物を終えて帰る途中、見るからに肩を落として歩く氷織が少し哀れに思えた。まあ少しくらいフォローしてやるか。

 

「金がそんなにないってのは不自由かもしれない。でも俺はこの不自由を愛してる訳でさ。俺は見ての通り顔も性格も良く、非の打ち所がない人間じゃん」

 

 それになんか金持ちよりはちょっと足りないくらいが清貧な感じがしていいよな。清楚と1文字違いで。

 彼女は黙って言葉の続きを待っている。

 俺としてはツッコんでくれないとダダ滑りしたみたいでシンプルにしんどいんだけど。

 

「人生には思い通りにならない事が少しあるくらいの方が面白いの。全部自分の望みのままになるってさ、それはそれで退屈でしょ」

 

 てっきり俺は、またいつもの調子で「そ、そうですね!」とか返されると思っていたものだから。

 

「……そんなの、私は無理だもん」

 

 そう拗ねた調子で呟いた氷織に、少し驚いた。

 まあすぐに、慌てたように手をぶんぶん振り始めたが。

 

「あ、いや、こんな言い方するつもりじゃなくて、その」

 

「いいじゃん。言いたい事ははっきり言える方が『清楚』だ、人の顔色見てビクつくのは『卑屈』だろ」

 

 褒めたつもりだったんだけど、彼女はしょげたように黙ってしまった。

 なんか少し悪い事でもしたような気分になったから、仕方無しに無難な話を振る。

 

「んな事より帰りが遅い時もあるけどさ、ちゃんと飯食ってんの?」

 

「は、はい!カップラーメンとか、コンビニで買ったお弁当とか。今日はさっきのスーパーで買った菓子パンを食べよっかなって。これです」

 

 そうがさごそとレジ袋からメロンパンなんかを取り出すもんだから。

 

「は?毎日?もしかしてここに来てからずっとそんな感じ?」

 

「え、あ、だ、だって……」

 

「悪い、言い方キツくなった。別に怒ってる訳じゃないから」

 

「は、はい。わ、私料理とかできないし……今までは施設の人達が用意してくれてた、から……」

 

 施設。

 魔法少女を訓練し、衣食住まで保証する寮のようなものだとか。

 ただ一人前になった魔法少女は大抵の場合、一目散に施設を飛び出して男漁りに自由な生活を楽しむらしいが。彼女の場合はそれすら別に望まなかったのかもしれない。

 しかし大の大人がよってたかってこんなガキを甘やかしやがって、何もできないまま育つだろうが。

 

「……はあ、ちょっと待ってろ」

 

 さっきのスーパーに戻ってもう一尾秋刀魚を買い足す。

 今月は別にそこまで厳しくない、まあそれはそれとして店長にシフトを増やしてもらおう。

 

 そのままアパートに帰ると強引に彼女を部屋の中に招き入れ、秋刀魚の塩焼きに味噌汁、温かいご飯といった日本人の心みたいな食事を2膳用意した。

 

「あの、駄目です、2回もご馳走になるわけには」

 

「今の話聞かされた後で体調でも崩されたら、俺が責任感じるんだっての。それにもう作ったから無駄にされても困る訳よ」

 

「は、はい……いただきます……」

 

 秋刀魚に恐る恐る箸を付けているが、何だか覚束ない。

 身のほぐし方も下手だし、骨も綺麗に取れていない。身も蓋もない事を言ってしまえばぐちゃぐちゃだ。

 前に野菜炒めを振る舞った時にも少し感じていたが、箸の持ち方も何だか変だった。

 

「君さ、家族は?逆見さんの話だと魔法少女って訓練の為に家族と引き離されるけど、別に一人前になったらそんな制限もないんでしょ。親御さんはこの生活、心配とかしないの?」

 

「あ……えっと、私捨てられてたらしくて。施設、あ、魔法少女の施設とはまた違う、親のいない子の施設にいたんです。それで7歳くらいまでいたんですけど、その頃に魔法が使えるようになって、今の施設に送られて」

 

「……そっか。悪い事聞いたわ」

 

「い、いえ、気にしないでください」

 

 女性の出生率が急速に高まり、男児が貴重と呼べるようになってしまった弊害とも言えるかもしれない。

 貧しい若い夫婦が生まれた女の子を捨てる、といった事がたまにある。

 魔法少女とはまた違うが男もそれなりにレアな今、学費や様々な面で女性より優遇されている場面もある。

 その恩恵を受けられれば子供を育てられるが、女の子なら無理。

 でも子供が欲しいから一か八か。ああ外れちゃった、女の子だ。

 

 クズ共め、清楚のせの字もない。

 

 彼女もそういった子の一人で、預けられた施設が粗悪だったんだろう。

 綺麗とは言えない箸使いも、自信のない態度も蔑むつもりはない。

 

 ただ、無性に腹が立つ。

 だからこれは別に同情でも何でもない。

 

「起きられるなら朝、うちに寄ってから行きなよ。自分のついでで味噌汁なり何なり、簡単な物くらいささっと出すし。夜も俺がいる時に来るなら、適当な物作るから」

 

「……?……え、あ、あの、なんで!?なんでですか!?良いんですか、じゃなくて、無理、私そんなの耐えられ、おこがまし、あの、あの」

 

「世間の平和を守る魔法少女様に栄養の偏りでぶっ倒れられたら、一般市民である俺達が困るからだよ」

 

 それでもキャパオーバーなのかぶつぶつ言いながらあちこちに視線を泳がす様に鬱陶しさを覚える。ええい、まどろっこしい。

 

「じゃあ俺の言う事聞いたら、ご褒美になんか一つ君の言う事も聞いてやるよ。はい、3、2、1、どうぞ」

 

 どうせそんな思い切った事も言えないだろ、と舐め腐っての提案である。

 ちなみに同じ15歳の時、課題を見せてもらっただか何だかでクラスメイトに「なんかお礼しなきゃね、僕にできる事なら何でも言ってよ」とか言った事がある。

 

 彼女も相当己の欲を持て余していたんだろう、かなり逡巡した挙句に半泣きになりながら土下座して「パンツをください……!」と言われた。

 もちろんその頃からして俺は清楚を目指していたので、恥を忍んで土下座までした彼女をいたずらに傷付ける事はしなかった。

 

 少し待たせた後、コンビニで新品のそれを買い、サービス精神で携帯カイロで温めておいてから差し上げると自己嫌悪か喜びなのか知らないけどめちゃくちゃ泣いていた。そんな思い出がふと蘇る。

 目の前の相手がそんな感じの事を要求してきたら、同じ事をしてやるつもりでいた。

 

「え、そんないきなり、えっと、えっと、じゃあ、あの、これから君とかじゃなくて、名前で呼んでもらえたら……」

 

 だからまたも飛んできたのがそんな子供じみたお願いだったから、思わず拍子抜けしてしまう。

 

「守名さん、って呼べばいいの?」

 

 そう聞くと、彼女は一瞬頷きかけたが意を決したように首を振った。

 

「氷織、でお願いします……!呼び捨てで……!」

 

 ほう、言うじゃん。

 

「じゃ、氷織。俺は言う事ちゃんと聞いたんだから、そっちも言う事聞いてもらう。また明日の朝ね」

 

 なんか熱に浮かされたようにぼーっとしながらもこくんと頷く氷織を見て、あまりのちょろさに達成感を通り越して心配になってくる。

 こんなのほぼ言いなりみたいなもんじゃん。

 

 その時、俺に電撃が走った。

 

 元々俺は清楚なお姉さんを狂おしいほど求めていて、それがなんかこうどうにもならなくて「じゃあ俺が清楚なお兄さんをやったるわ!!」とか言いながら走り続けた結果がこれである。

 

 という事は、清楚なお姉さんがこの世界に現れれば俺はこんな二重人格みたいな事をしなくて済む。

 そして清楚なお姉さんがいないのならば、それは俺が育て上げればいいのではないか。

 それに何より事故みたいなものとはいえ、彼女は俺の本性を知っている。

 つまり遠慮なく、びしばしスパルタで清楚を叩き込めるじゃないか。

 

 名前で呼ぶくらい、もう全くもって問題ない。こんな感じの餌で釣って、少しずつ氷織をどこに出しても恥ずかしくない淑女に、清楚なお姉さんに仕立てあげればもう皆ハッピーじゃん。

 

 魔法少女で清楚なお姉さん(歳下)、なんかもう属性が盛り盛り過ぎて胃もたれしてきたが悪くない。悪くないぞ、これ。

 そこまで考えて、ある事に気付く。

 

「じゃあ今まで家事とか一つもしてこなかった訳だよね。一人暮らしも初めてとなると、ちゃんと掃除とかしてんの?」

 

「……」

 

 答える代わりに氷織は無言で目を逸らした。

 

 恐らく、俺が思っているよりも先はずっと長そうだ。

 

 

 

 

 





そろそろお気付きの方もいるかもしれませんが、こいつは決して清楚なお兄さんではなく、清楚を履き違えた雨に打たれている子犬を見捨てられないタイプのヤンキーみたいなクソボケです
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